第四章 3

 土曜日、テンゲン駅で待ち合わせた悟とRuriは待ち合わせの喫茶店へ向かって肩を並べて歩いていた。


 木曜日のカウンセリングは、悟が拍子抜けするほど簡単に済んでいた。


 思考パターンセンサーには特筆すべき変化は現れなかったようで、相変わらず微妙な自殺指向は見られるものの急激に実行に移すようなパターンの兆しは見られないと言うことだった。

 相変わらず事務的な対応で、自分の存在意義は労働力の提供だけなのかと考えさせられるが、今の状況は思考パターンセンサーでは補則出来ないようなので一安心をしたところだった。


 待ち合わせ時間の10分前についた二人は目印の雑誌をテーブルに置き、アイスコーヒーを注文した。


「どんな人が来るのかな。電話ではどんな感じだった?」


「ちょっとおじさん臭い話し方をする男の人だった。やっぱり、こういう話しだから厳しい面接でもあるのかな?」


 店内は先週と同様にそれほど客がいるわけでなく、特に奥の席に座らなくても問題はないようだった。


 カラン。入り口の扉が開き一組の男女が現れた。男は50代のサラリーマン風、女は20代のOL風。カップルにしてはちょっと怪しい雰囲気をもった二人だった。


 二人は店内を見回すと悟たちのテーブル上の雑誌に目を留め、それを目指すように歩を進めた。

 二人のテーブルの脇にたった男は軽く頭を下げて挨拶をした。


「下河原さんですか。高谷です。ご連絡をいただきありがとうございます。そちらがRuriさんですか?初めまして。」


 そう言った男は、後ろに立つ女の方を振り返った。


「こちらは、同じ研究室の坂巻です。今回の能力の持ち主です。」


 いきなり、該当する能力者を紹介され驚いた二人だったが、立っている高谷たちに前の椅子を勧めた。


「今日は面接という訳ではなかったんですか?能力者の方にいきなりお会いできるとは思っても見ませんでした。」


「ええ、私も一人でお会いするつもりでしたがあなた方のお話を伝えたところ彼女が直接話しを伺いたいというので同行させました。」


「そうですか。お引き受けいただけるかどうかはまだ決定していないんですね。」


「そうですね。私と彼女の話をまとめて、会議にかけて判断したいと思います。そんなにお待たせしないで済むと思いますが。」


 ウェイトレスにアイスコーヒーの追加を注文した悟は話しを切り出した。


「一応の事情は電話でご説明しましたが、何がお聞きになりたいんでしょうか?」


「まあ、直接お会いして話をお聞きした方が本当のこともわかりますし、いろいろと便利なんです。電話だとうそをつかれてもわからないですし。」


「あぁ、あなたも能力者の方ですか。テレパスかなんか。」


「普段はシールドで能力を使わないようにしておりますが、依頼の内容の真偽を判断するときは使っております。よろしいでしょうか?ご不満があるのならここでお話は終わりにさせていただきますが・・・」


「いえ、お使いいただいて結構です。隠していることなんてありませんから。」


「それでは、ご事情をはじめから伺えませんでしょうか。坂巻君は直接お聞きするのは初めてですので、詳しくお願いします。」


 悟はRuriとの出会いから、病気のこと、自分の心理状態のことなどを包み隠さず話した。時にRuriが補足を行い一通りの状況が説明された。


 ほとんど口を挟まず話を聞いていた高谷だったが、なぜRuriの病気を肩代わりすることに決めたのかについては、詳しい理由を聞きたがった。


「この部分が一番大事なところですので、本心を確認したいのです。一時の気の迷いで決めてしまっては後々後悔して関係がおかしくなってしまう場合も考えられるので、慎重に判断することになっています。」


 高谷の質問もひと段落したところで、それまでじっと話しを聞いていた坂巻がおずおずと口をひらいた。

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