第三章 5

 Ruriの手を引いたままベッド脇に進んだ悟はRuriに向き合うと優しく抱きしめた。さっきは感じなかったバラの香りが髪の毛からほのかに漂っている。


「うれしいわ。悟さん。私、あなたと会うのをずっと待っていたような気がするの。おかしいわよね、まだ知り合ってからそんなに経っていないのに。」


 悟の胸に顔を埋めたままRuriが喋り始めた。悟に抱きついているRuriの手に力が入った。やわらかなRuriの身体を再び感じ、悟の感情が高まってきた。


「Ruri。愛してる。こんなに誰かを愛おしいと思ったのは初めてだよ。それなりに経験は積んできたつもりなんだけどおかしいな。」


「悟さんも私のことをそんなに想ってくれてるなんて、うれしいな。幸せすぎてどうにかなっちゃいそう。」


 そう言うとRuriは悟に身体をさらに押し付けた。決して大きくはないルリの二つの膨らみが悟に押しつけられた感触は最後に残っていた悟の理性を吹き飛ばした。


 Ruriの身体を優しく離すと顔を上向きにして唇を近づけた。優しく舌を絡ませながらRuriの身体をベッドに横にさせそのまま覆い被さった。


 服の上からRuriの胸に優しく触れるとRuriの口から微かにため息が漏れた。


「やっぱり少し恥ずかしいね。まだ外は明るいのに。」


「君が誘ってきたんだよ。さっきはあんなに大胆だったのに、どうしたの?」


「こうなりたいと思って来たけど、いざとなるとやっぱり少し怖いな。」


「まさか。初めてじゃないよね。」


「まさか。未成年じゃないし、それなりの経験はあるわよ。そんなに多くはないけど。」


「そうだよね。君のように美しい人が今まで未経験なんて考えられないよね。」


「そんなことはどうでもいいでしょ。もう大丈夫。しよ。」


 Ruriは下から悟の首に抱きつき、キスをした。舌を絡ませお互いの服を脱がせ合い、高まる欲情の中で二人は抱き合っていた。

 充分にお互いを愛撫しあい準備が整ったところで、二人はひとつになった。


「あぁ。うれしい。悟さん。」


「Ruri。僕もうれしいよ。」


 二人はお互いの気持ちをしっかりと確かめ、愛の営みを続けた。お互いに絶頂を迎えた。ベッドの中で抱き合い余韻に浸りながら、Ruriは過去を語り始めた。


「私ね。小さい頃は体が弱かったって言ったでしょ。何かと熱を出して寝込んでしまう子供だったの。熱に浮かされながらよく夢を見ていたわ。その夢が少し変わっていてすっごくリアルなの。」


「リアルってどんなふうに?」


「それがね、その頃夢に出てくるのはお母さんや友達などの身近な人ばかりなの。お母さんに叱られるとか、友達と喧嘩するとか、日常を俯瞰して見ているの。不思議なのはその夢で見たことが熱が下がって数日後に本当に起きるの。」


「それって予知夢じゃないの?」


「予知夢?そうかもね。実は悟さんのことも夢に見ていたの。ケンダシティへ行ったのも夢に見たから。あんなところで気を失うとは思わなかったけど、その後にあなたと話をする夢は見たの。誰か知らない人と話をしていると思っていたら、私を助けてくれた人がその人だったなんて、驚いたわ。」


「そうか、それで君は僕との出会いが運命だと感じたんだね。」


「それもあるかな。予知夢がなくても感覚的にわかった気はするけど。」


「Ruriは不思議な力を持っているんだね。アーティストの人達ってみんなそうなのかな?」


「う〜ん。同じ階級って言ってもそんなに交流がある訳ではないので、よくわかんない。よく会う友達ともそういう話はしないからね。」


「やっぱり、Ruriは特別な人なんだね。僕とは違うな。」


「特別なのかな。自分ではよくわからないけど、そんなにみんなとちがうかな?」


「普通の人は予知夢なんて見ないよ。君には特別な能力が備わっているみたいだね。」


「こんな能力、今まで役に立ったことないよ。」


「それは、特別な能力だと分からなかったからじゃない?見た夢を意識して行動すれば、危険なことも回避できるかもしれないよ。」


「そんな危険なこと夢に見た事ないもん。」


「まあ、これから見た夢を書き留めて検証してみない?いろいろとわかることもあるかもしれないよ。」


「そうね。夢を覚えていることは少ないけど、できるだけ書き留めてみるわ。それを悟さんも見てくれる?」


「もちろん。一緒に夢を解き明かしてみよう。」


「うれしい。一緒にいられる時間が増えるのね。」


「あぁ、そうだね。でもその前に君の病気を直さなきゃね。これから君の家に行ってお母さんにお話をしよう。」


「それは、少し待って欲しいの。あなたってせっかちね。今日帰ったらわたしが事情を話しておくわ。いきなり悟さんに話を切り出されたら母もビックリしちゃうわよ。」


「早く君の病気をどうにかしなくちゃと焦りすぎかな?一刻も早く元気になって欲しいんだ。」


「そう思ってくれるのは嬉しいけど、これから一緖に家に行ったら母がビックリしちゃうわよ。その前に私が話をします。病気のことも、あなたとのことも。」


「僕のことはあまりハッキリと言わないでおいてくれるかな。治療法と一緒に僕から説明がしたいんだ。」


「あなたがそうしたいんなら、私は病気のことと、治療についてあなたが話をしに来ると説明するわ。」


「ありがとう。そろそろお腹が空いてない?何か作ろうか?」


「少し空いたかも。悟さん料理できるの?」


「これでも一人暮らしが長いんで、家事は一通りできるよ。何か食べたいものある?」


「う〜ん。軽いものがいいな。サンドイッチとかできる?」


「パンあったかな?確認してみるよ。具はなんでもいい?」


「うん。何でもいいよ。何だかお腹空いてきちゃった。」


「わかった。ちょっと待っててくれる?」


 そう言うと悟はベッドから離れると服をつけ、ベッドルームを出て行った。

 一人ベッドに残されたRuriは今の状況を振り返っていた。


 こんな展開になるなんて…。考えていなかったわけじゃないけど、我ながら早すぎるかな。でも、悟さんの告白を聞いちゃったら何だか

 すごく嬉しくなっちゃって…。やっぱり運命の出会いだったのかな?会って間もないのにこんなに私のことを考えてくれるなんて、幸せ。

 都合のいいことばっかりだけど悟さんに甘えちゃってもいいよね?


 台所から食事の支度をする音が聞こえてくる。


 なんか包丁の音も聞こえてる。悟さんって料理上手そうね。私が料理をしなくても生活には困らなそうだわ。


 台所から悟が声をかけてきた。


「Ruri。サンドイッチの用意ができたよ。こっちに来る?」


「あっ。はい。少し待って。今行くわ。」


 Ruriは大急ぎでベッドを出て、服をつけるとベッドルームをでた。

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