第三章 3
「その事なんだけど…。いろいろ考えたんだけど、やっぱり下河原さんに私の病気を移すなんて…。」
「Ruri。その事だったら気にしなくて良い。何度も言うように、僕はRuriがいなくなってしまうことが耐えられないんだ。病気に勝つ可能性は僕の方が高いんだから、その可能性に賭けてみないか?」
悟はソファのRuriの横に座り、Ruriの方を向いて諭すような口調で語りかけた。
「でも、賭けに負けたら下河原さんが死んでしまうんだよ。それは、私が耐えられない。」
「・・・。」
「私はもう運命だと受け入れているの。ちょっと苦しいけど、もうすぐそれも終わるわ。」
少し俯き、悟から視線を外したRuriは諦めの表情を浮かべた。
「受け入れる?それなら、何で自殺しようなんて考えたんだ?受け入れたのなら最後まで生を全うするんじゃないか?」
「・・・。」
「僕たちは知り合って間もないけど、君のことを愛してしまったんだ。ここのところ君のことしか考えられなくなってる。以前、君が言ったように魂が近いっていうこと。本当みたいだ。」
「私だって…。…、だから余計にお願いできないんじゃない。下河原さんに…いいえ、悟さんに病気を押しつけるなんて…。」
Ruriは顔を上げ、まっすぐ悟を見つめている。
「僕も、自殺を考えたけれど今は君がいるので、死にたくない。僕の方が体力があるし、骨髄移植も受けられる可能性が高い。僕はきっと生き残るよ。」
「悟さん…。でも…。」
「君のためなら、どんな苦労でも耐えられる。どんな苦痛でも辛抱できる。だから、挑戦してみよう。」
悟の言葉に、Ruriの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「Ruri。君には生きて欲しい。僕も君とできるだけ長く一緒にいられるようがんばる。これが一番いい方法だ。」
「・・・。」
黙り込むRuriを悟は優しく抱き寄せた。
「Ruri。後で住吉先生に連絡をとろう。その後、君のお母さんに話をしなきゃね。」
「いいの?本当に。」
悟の腕の中で、小刻みに震えながらRuriは涙声で言った。
「あぁ。僕の心はもうとっくに決まってるんだ。お母さんにも僕から話をするよ。いい?」
少しの沈黙の後、Ruriが小さく頷いた。
「大丈夫。きっと上手く行く。君はもっと生きられるよ。僕が死なせない。」
「悟さん。ありがとう…。私、本当は怖かった。
ズズッ。
病気でだんだん動けなくなって、少しずつ死に向かっていくと考えることが怖くて、
ズッ
いっそ自分で命を終わらせようと思っていたの。
ヒッ
そんな時にあなたに会って、こんなに急に治療法が見つかるなんて、
ズズッ
本当に運命的な出会いだったのね。」
鼻を啜りながら、Ruriが想いを吐き出し始めた。
「悟さん。ありがとう。私。あなたに出会えて、本当に良かった。」
「Ruri…。僕こそありがとう。君に出会えた事で、先の見えなかった僕の未来がひらけてきたように感じるよ。少なくとも僕は君の役に立つことができる。誰かの役に立つと思えることがこんなにも素晴らしいことだとは思ってもみなかった。」
「悟さん…。」
Ruriは潤んだ瞳で悟を見上げ、静かに目を閉じた。
悟はゆっくりとRuriの唇に自分の唇を重ねるとRuriを抱く腕に力を込めた。
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