第三章 2

 翌日も晴れで、残暑が厳しい一日となった。朝、ソファーで目覚めた悟は体の痛みと戦いながら大きく伸びをした。


「あ~ぁ。ソファーで寝ちゃったな。体、痛い。」


 思わず、独り言を漏らして壁の時計を見ると既に9時を回っていた。

 悟は起き出すと、午後のRuriの訪問に備えて部屋を片づけ始めた。


 痛む体をだましだまし、少し散らかった部屋を整頓していく。床に散らばった雑誌、机の上に広げられた仕事関係の書類。一つ一つ確認をしながら整理しているうちに汗が噴き出してきた。


「あっ。起きてからシャワー浴びてないな。なんか気持ち悪いと思った。」


 整理が一通り終わり汗だくになった体を冷水で冷やした悟は少し早いが昼食を採ることにした。

 Ruriがやってくるのが2時なので、冷蔵庫にあるもので軽めに・・・。


 食事を終え、時計を確認すると12時少し前。まだ、少し時間がある。


「Ruriをどう説得しよう。一晩考えて納得してくれたかな。」

「もう、Ruriのいない世界は僕にとって何の意味もない。人生をあきらめてしまった自分に生きている意味を与えてくれた。・・・ような気がする。」


 悟は、独り言をぶつぶつ言いながらRuriの曲を流し始めた。ファーストアルバムの「夢」が流れた。

 悟はソファに座ってRuriの歌声に聴き入った。


「夢」が終わり「明日」に変わり、「明日」も終わりの曲に差し掛かろうとする時にエントランスのチャイムが鳴った。

 インターフォンから聞こえてきたのはRuriの声だ。


「いらっしゃい。今開けるから。エレベーターで上がってきて。」


「はい、分かりました。」


「明日」が終わる頃、玄関のチャイムが鳴った。Ruriがやってきた。


「分かりやすかった?まあ、どうぞお上がりください。」


「うん。駅から近いんだね。すぐ分かったよ。これ、食べよう。」


 そう言って、Ruriは紙袋を差し出した。有名パティスリーの名前の入った袋にはクッキーの詰め合わせが入っていた。


「そこのクッキーおいしいの。一緒に食べようと思って。」


「あぁ。有名だね。家の近くにお店あったっけ?」


「テンゲンの本店に寄ってきたのよ。なんか持って来なきゃって思ったんで。」


「気を使わなくてもよかったのに。じゃあ、紅茶が良いかな?」


「うん、そうだね。何でも良いけど、紅茶が合うかな。」


 悟はクッキーを菓子器に開けると台所に立った。

 紅茶を入れて戻ってきた悟は、カップを並べながらRuriに話しかけた。


「どう、考えてみた?昨日のこと。」


 紅茶を一口含んでのどを潤すと、Ruriが口を開いた。

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