第二章 2

 タカマシティへ帰ってから、悟はRuriの曲を聴いた。

 アルバムのタイトルは「希望」。タイトル通りに明るい希望を歌った曲が並んでいる。Ruriの携帯電話にかけたときに流れた曲がCDの最後に入っていた。曲のタイトルもアルバムと同じ「希望」。

 このアルバム全体に流れるテーマは現状はどのような状態であれ、それをありのままに受け入れることによって未来への希望が見つけられる。という感じだ。

 このアルバムがRuriにとって3枚目となるフルアルバムのようだ。1枚目のタイトルは「夢」、2枚目は「明日」そして「希望」・・・。

 タイトルだけ見るとこれでもかって言うくらい前向きな感じがする。悟は「希望」を聴き終えると「夢」「明日」も聴いてみたくなった。


 すぐに部屋を飛び出し、近所のミュージックショップへ・・・。ネットでダウンロードすればすぐに聴けることが分かったが、どうしてもパッケージで手に入れたくなったのだ。ジャケットのRuriは今にも消え入りそうな佇まいを見せつつも凛とした様子が美しかった。


 実際に何度か会って話をしたというのに、そのときには感じなかった美しさだった。

 他のアルバムのジャケットも実際の写真で確認したくなってミュージックショップでRuriのアルバムを探した。3件目の巨大ミュージックショップチェーン店でようやく購入した悟は、すぐ帰宅し「夢」から聴き始めた。


 この2枚のアルバムも「希望」と同じように無条件の現状肯定のうえに「夢」「明日」を積み上げていくという感じだった。

 Ruriの3枚のアルバムを聴き、先日のRuriとの電話の内容が信じられない想いがこみ上げてきた。


 こんなに徹底的に現状肯定~明るい未来を歌いあげているRuriが生きることを諦めるなんてことがあるのか?


 電話以来Ruriのことが頭から離れず、仕事も手につかない状態に陥ってしまっている。

 先日もリーダーとして任されている重要な回路設計の単純な設計ミスを見逃すところであった。幸いにして次のステップに進んだところで担当者が気がついて修正をかけてくれたので事なきを得たが、そうでなければとんでもない欠陥商品を創り出してしまうところであった。

 こんなことはここ数年なかったことだ。このようなことでは仕事へ支障がでる可能性が高いので、Ruriと会って話をする事に決めた。先日の電話でも会って話をしようということになっていたので問題はないだろうと考えた悟はRuriへ再び電話をかけた。


「はい。  下河原さん?」

「そうです。先日の話ではよく分からないので会ってお話しませんか?」

「そうですね。その方が私の考えていることが伝わるかもしれませんね。そんなに複雑なことじゃないんだけど。」

「ありがとう。いつがいいかな?。」

「私はいつでも大丈夫。下河原さんの予定に合わせます。」

「じゃあ、今度の土曜日。14:00にテンゲンではどうだろう。テンゲンならどこから出てくるにしても来やすいんじゃないか?」

「そうですね。それでいいです。」

「アルバム全部聴いたよ。それで、やっぱり先日の話が良く分からないので、その辺を聞かせて欲しい。じゃ、南口駅前のロータリーで。」

「はい。いろいろお話したいことがありますので聞いていただけるとうれしいです。それじゃ。また。」

 電話を切った後、悟は金曜日が勤労省の定期診断だということを思い出した。

 大丈夫かな?悟の脳裏にふっと不安がよぎった。


 いや 大丈夫さ。 悟は不安を振り払うように立ち上がると夕食の用意に取り掛かった。

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