第54話 早まる雪と焦る俺
「は、早まるな」
突如俺の背中に密着してくる妹、一体どうしたのだろうか?
「あはは、なにそれ……」
俺の背中に密着する雪……大きくなったな本当に……いや、そんな現実逃避してる場合じゃない。
「──お兄ちゃん……好き」
そして、暫しの沈黙の後、雪は俺の背中に身体を密着させたまま、唐突にそう呟いた……はっきりと……。
出しっぱなしのシャワーから湯気が浴室に立ち込める。
正面の鏡は湯気で曇り雪の表情は見えない。
一体どういうつもりで……いや、雪の気持ちは知っている……でも……。
「そ、そうか……ありがとう」
俺はその言葉を、雪の告白を肯定した。ここは肯定しておくのが吉、そう……好きには色々あるのだ。
ラブコメ定番の人として好き、とか友達として好き、とか身内として好きとか……今のは兄妹としての好き、身内として好きの好きって事に……。
すると妹はさらに俺の背中に自分の……を強く押し当て、綺麗な発音で言った。
「I love you」
「……あ、ありが……」
これは……いや、まだだ……まだ……。
しかし妹はさらに叩き込んで来る。
「I want you to go out with me.」
「く……」
「I want to be with you」
「うぐ、英語……わからない」
「──私と付き合って……下さい……お兄ちゃん」
俺の首に抱き付き、背中から妹はそう囁いた。
遂にはっきりと言われてしまった……もう誤魔化しようがない……この足では逃げる事も出来ない。
「……」
「……愛してる」
「……」
俺は何も言えなかった……。
「ごめんね……でも……これだけは……はっきりしておきたかったから……」
妹はゆっくりと俺から離れる。その瞬間俺の背中に喪失感が襲う。
俺はどうすれば良いのだろうか?
もう誤魔化す事は出来ない……そしてこれ以上雪を苦しめる事も……。
かといって、俺が雪と付き合うとか出来るわけがない。
そんな簡単な話ではないんだ。
「とりあえず、後でゆっくりと話そう……」
今面と向かって話し合いは出来ない……いや、だってお互い裸だし……。
さすがに今の雪の裸を見てなんとも思わないわけがない。
いくら娘同然とはいえ、ここまで成長したら……さすがに……。
俺の……そんな状態を見せるわけにはいかないんだあああああ!
お父さんが娘の裸を見て……そうなったら最悪だろ?
背中密着されてる時だってヤバかったのに……。
「じゃ、じゃあ流すね」
雪は足元にあったシャワーを手に取ると、俺の身体を荒い流す。
シャワーから出たお湯が目の前の鏡にかかり一瞬雪の顔が写し出された。
雪は……真っ赤な顔で、そして少し満足そうに俺の身体を見つめていた。
さすがに湯船に浸かるのは止めて置いた。
とりあえず説得して雪には新しいバスタオルを巻いて貰う……。
そして再び雪に支えて貰い浴室から出ると、丸椅子に座って身体を拭いた。
その間雪は怪我をした足を保護していたビニールを取り始める。
チラチラとバスタオルから覗く胸元や太ももから目を反らし自分の身体を素早く拭いた。
そして、俺の足を保護していたビニール袋を雪がゴミ箱に捨てている隙を突いて、俺は雪が用意していた下着を急いで履いた。
「あ、ぶうううう」
口を尖らせ怒った様な表情を浮かべる雪。
「な、なんだよ見たいのかよ!」
「全部やるって言ってるのに!」
「全部って……わーーった、とりあえずパジャマを着せてくれ」
「はーーい」
無邪気に笑う妹、さっきの告白と合わせて俺の心臓の鼓動が高まる。
そしてそれを気付かれない様に、俺はとりあえず脱衣場で寝間着に着替えるとそのまま雪に支えて貰いリビングまで連れて行って貰う。
とりあえず雪には改めて風呂に入って貰い、それから話をしようって事にした。
「じゃ、じゃあ……入ってくるね」
「あ、ああ、ありがと、ゆっくり温まって」
「う、うん……」
雪は気恥ずかしさ満載の顔で俺を見つめる……それを見て俺の心臓の鼓動はもうこれ以上ないってくらい高まってしまう。
この後話し合うとは言ったものの……何をどう話せば良いのか……俺はわからないでいた。
妹……娘……でも血は繋がっていない。
雪の好意を俺はどう受け止めれば良いのだろうか……。
俺達の関係は一体どうなるのか?
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