第47話 俺の家に来る?


 悟君に話を聞いてもらった。

 勿論お兄ちゃんを貶める事はしない。

 星空さんの事も……二人が結婚の話をしていた、それを事聞いてしまったとだけ……。


「だから、飛び出してきちゃった……」

 私は悟君を見ずに前を向いて、出来るだけ明るく言った。


「それって……よくわからないけど……本当にそうなの?」


「え?」


「いや……何でもない……それでどうするの?」


「……うん」


「心配してるんじゃない? お兄さん」


「……うん」


「帰らないと」


「……いや! 今は……いや……」

 帰りたくない……お兄ちゃんなんて……すこしくらい心配すればいいんだ……。


「……でも……ずっとここにいるわけにも──じゃ、じゃあさ、とりあえず俺の家に来る?」


「……え?!」

 

「いや、桜も呼ぶよ! 勿論……」


「桜ちゃん?」


「ああ、うん、実はさ……その……来てくれるとありがたいんだ……」

 

「ありがたい?」


「あ、うん……じ、実はさ……俺……雪さんに言われてさ……桜の事……考えたんだ、でさ、俺……やっぱり桜の事好きなのかな? って」


「へ、へええええ、で? どうしたの?!」


「あはは、そんな興味深々な顔されても……で、まあ、そんな感じで言ってみたんだよね、好き……かもって」


「うんうん」


「したらさ、アホかって」


「えええええええ!?」


「あはははは、今さら感強いよなあ……それからなんか気まずくて」


「そっか……でもそれって桜ちゃんも意識してるって事なんじゃない?」


「そう……なのかなあ?」


「うん、そうに決まってるって、好きなら信じないと……」


「あ、ああ、うん……とりあえず桜に連絡してみる」


「あ、うん……」

 悟君はランニング用に腕に装着していたスマホを取り出すと、少し照れくさそうにスマホにメッセージを打ち込んでいる。

 お兄ちゃんを、好きな人を信じられない自分が何を言ってるんだか……って自嘲しながら、私はそれを見ていた。


「桜……来るって」 


「そか、良かったね」


「うん、なんかごめん……利用したみたいになって」


「ううん……そう言う事なら全然使ってくれて良いよ」

 私は駄目だったけど……二人には……幸せになって欲しい。


 

 そして……その公園から歩く事20分……閑静な住宅街にある悟君の家に到着。

 公園からここまで悟君はまるでナイトの様に私を守る様に……この間私が言った事を忠実に守ってくれていた。

 歩く歩幅を私に合わせ、道路側を歩き、車や自転車が近付くと身を呈して壁になってくれて……でもそんな行動がお兄ちゃんを連想させ、私は再び悲しい気持ちになった。


 信じたい……信じられない……。

 帰りたい、帰りたくない……。


 怖い……怖かった、真実を知るのが……お兄ちゃんから直接真実を聞くのが、私は……怖かった。


「とりあえず入って、雪さん」

 そんな私の気持ちを知るよしもない悟君は、にこやかにイケメンを振り撒きながら、私を家の中に誘う。


「ああ、遠慮しないで、両親は帰りが遅いから」

 初めて入る男の子の家、そして意味深な言葉……いつもの私なら絶対に入らないであろう……が、この悲しい気持ちがさっきみたいに少しでも晴れるならと、半ばやけくそで彼の家の中に入った。


 玄関で靴を揃えて家に上がる。

「こっちこっち」と、ニコニコと笑いながら悟君は恐らくは自分の部屋に私を誘う。

 

 もし……もしもここで私が……そうしたらお兄ちゃんは泣くかな? 悟君は責任取るのかな?

 てか、責任が結婚って……それって……ある意味告白してるのと一緒じゃない……。

 って言うか弱みにつけ込んでいるだけじゃない。


 今度は星空さんの行為に怒りが込み上げる。


 情緒不安定、考えが纏まらない……。

 いつでも冷静……それが自分自身への評価だったのに。

 でもお兄ちゃんの事だと、こうも冷静でいられない。


「一応綺麗にはしてるんだけど」

 為すがまま……言われるままに悟君の部屋に入った私……。

 初めてお兄ちゃん以外の男の子の部屋に入った。


 

「うん綺麗……ひ、ひいい!」

 青が基調の男の子っぽい部屋、サッカーで貰ったのか賞状やトロフィー、そしてサッカーのユニフォームを着た剥げたおじさんのポスター等が貼ってあった。

 これ誰? って聞こうと振り向くと……悟君は唐突に着ていたTシャツを脱ぎだし、細マッチョな上半身を露にって!


「……え? あ、そうか、ご、ごめん」

 そう言ったにも関わらず悟君はそのまま私の方に迫ってくる。


「い、嫌あああ!」

 襲われる?! 私は咄嗟に身体を庇いながら悲鳴を上げた。


「あ、ち、違う、服を! あ!」

 悟君は覆い被さる様に私を抱き締め……そしてそのまま身体を捻り私をベットに押し倒した。


「……い、いや……」

 悟君の顔が間近に……まさか……こんな事なるなんて……お、お兄ちゃん……。


「ち、違う、そうじゃなくて、躓いて」


『ぱーーーん』

 その時……鈍い音が部屋に響く。


「いってええええ」


「あんた何してんのおおおお?!」

 悟君はそのまま頭を抑え私から退くと、そこには同級生で悟君の幼なじみの新堀 桜ちゃんが……スリッパを片手に鬼の形相で立っていた。

 

 えっとえっと助かったけど、えっと……これって……修羅場? って奴?

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