第4章

第44話 最低なプロポーズ


 恵ちゃんと別れ帰宅する……。

 色々考えすぎて……頭がパニックに……。


 恐らく雪は全部知っている……今日の事も全部。

 俺は家の前に着くものの、玄関の扉を開くのを躊躇ってしまう。


「一体……どうすりゃいいんだよ……」

 顔を合わせづらい……と言っても合わせないわけにはいかない。

 なんか……嫌だな……そんなの……。

 妹と気まずくなるなんて、そんなの嫌だ……。

 

 あああ、もういい! とりあえず保留だ!逃げでもキープでも何でもいい、とりあえず全部保留で!

 そう考えをまとめ、俺は扉を開け中に入った。


「ん?」

 家の中に入ると玄関には見慣れない靴が揃えられ置かれている。

 これが男物だったら、慌てる所だけど……幸いな事に女物の靴。


「友達?」

 でも……と俺は疑問に思った。

 妹は俺とは違いコミュ障では無い、でも俺に気を使ってか滅多に友達を家の連れてくる事は無い……無いが今まで全く無いわけではない……でも大抵そういう時は予め俺に言ってくる……今までは。

 何かのセールス? 勧誘? いくら女性でも気軽に家になんてと、俺は少し心配になり、早足でリビングに向かった。

 そして……リビングの扉を開こうとしたその時、ちょうど中から妹が廊下に出てきた。


「おわ!」


「ふえ! あ、お兄ちゃん! ああよかった」


「よかった?」


「お客さん……えっと……星空さんが来てるの」


「は? 何で?」

 星空さんが家に? 何で? 


「それは……知らない……けど、お兄ちゃんは出掛けてるって言ったら出直すって言ったんだけど、そのタイミングで恵さんからメッセージが来たから、入って待って貰った……何か思い詰めた表情で来たから……」


「思い詰めた?」


「とりあえずお兄ちゃんの分のお茶入れて来るから」


「あ、ああ、ごめん、あとさ、恵ちゃんから聞いた……あの……」


「あ、ううん、気にしないで、後でゆっくり話そ……」

 妹は一瞬で顔を赤らめ……それを隠す様に急いでキッチンに向かった。


 後でゆっくりって……何を話せば……。

 その可愛らしい仕草に……俺は思わずドキドキしてしまう……いかんいかん今は保留……今は気にしない……俺はその溢れる感情を隠し、まず星空さんが先だと頭を振った。


 リビングに入ると、妹と俺が外で話をしていたので帰宅した事に気付いていたのか、星空さんはソファーから立って俺を待っていた。

 星空さんは今まで見た事の無い純白のワンピース姿だった……俺は一瞬ウエディングドレスかと見間違い少し驚いてしまう。

 そしてその服の白さが際立つ程に真っ赤な顔、さらには思い詰めた様な表情……何かただならぬ気配を彼女から感じた。


 今まで休みの日に電話が掛かってくる事はあったが、家に迄来る事はなかった……いや、そもそも俺の家を知っていたのかと少し驚く。


 まあ、うちの会社は小さい……だからってどうかと思うが、緊急時の連絡先何かその辺に普通に置いてあったりするので、俺も彼女の家を知ろうと思えば出来なくは無いが……。


 社長から訪問について特に言われていないので、恐らく彼女はそうやって、それを見てここに来たと思われる。


 つまりは……社長にも内緒の相談事か……俺はそう思った瞬間一つの事が頭に浮かんだ。

 ひょっとしたら……結婚? その白いワンピースをウエディングドレスと勘違いしたせいか俺はそう決めつけてしまう。


 結婚……つまりは寿退社って奴か……。


 うちは小さい会社……彼女に抜けられたらかなりの痛手……だからまず俺に相談しに来たのでは? 

 この間から様子がおかしかったのは、あ! そうか……彼氏が出張先に来ていたのか!

 だから最終日の別行動……ひょっとしたらそこで! プロポーズ? そうかそうかそういう事か。

 全てを悟った俺は……彼女に聞いてみた。


「ひょっとして、結婚?」


「!」

 俺がそう言うと、彼女は驚愕の表情に変わった。

 図星か、このリア充め! 女子高生二人に言い寄られている事を忘れ俺は彼女にそう思いつつも、祝福しようってそう思い笑顔で言った。


「結婚かあ、うんうん、まあ俺から社長には言っておくよ」

 寿退社か……きついけど、彼女の幸せを社長なら祝福してくれるだろう……勿論俺も……祝福したい。


「……本当に?」


「え? ああ、だって言いにくいよねえ」


「…………まあ……それはそうですけど……」

 何か気に障ったのか? 彼女の表情が落ち込んでいる様に感じられる。

 

「えっと……」


「……まず……私に謝って……それからそう言う話になるって……でも……ちゃんと責任を取ってくれるなら……」


「ん?」

 涙声で怒りを堪える様に彼女は俯きながらそう言った……その様子に俺は何か間違えたか? と言う思いに変わる。

 ひょっとしたら……彼女は結婚を止めて欲しかった? ひょっとしたら彼女は俺の事を!? 何だ? 最近こんな事が続く……でもそんな……いきなり結婚を止めるなんてそんな事……。


「いや、流石に結婚は……」


「ええええ! ど、どっちなんですか?!」

 

「いや……そんな事言われても……」

 嫌いではない、可愛いし素直だし、でもただの同僚で流石にそこまでは……。


「……私……ここの所ずっと悩んでて……一体先輩は……私の事が……って……でも……先輩ならって……責任さえ……ちゃんと取ってくれたならって……だから……」


「……ん? いや、あの……さっきから責任責任って」

 責任者? まあ一応会社内では課長兼主任みたいになってるけど……。

 ちなみに社長は社長兼部長ね。


「先輩! 私……先輩なら許せます……」


「……許す?」


「……出張先でした事……先輩だったらって、でも……だから……」


「出張?」

 全く意味がわからない……彼女は一体俺に何の責任を取れって言っているのか?


「先輩が……出張先で……私に……ホテルで……だから……その……」


「ん?」

 そして彼女は俺に向かって人生最大とも思える程の、今まで彼女から聞いた事のない悲鳴の様な大音量で俺に向かって言った、いい放った。


「私に、ホテルでした事の……せ、責任を取って! 私と、結婚してください!」


「…………はい?」

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