第32話 人のふり見て
翌日の放課後一度家に帰り着替えてから再び出掛けた。
あまり気合を入れない様に、でも変な恰好は出来ないと、私は買ったばかりのストライプのワンピース着た。勿論スカート丈はロングだ。
髪もセットする暇が無かったので、後ろで束ねた。
化粧も少しして……あれ? なんか私気合入れてる?
いつもお兄ちゃんと出掛ける時はここまでしていない。
まあ、お兄ちゃんの前では常に可愛くいようとは思っているけど……。
やはり他人の男の人と会うのは緊張する。
桜ちゃんがいるので、なんとか平静を保っていられるけど。
試験期間中なので桜ちゃんも幼馴染の悟さんも、部活は休みなのでこのタイミングになった。
そんな気はないけど、もし仲良くなっても、放課後中々会えないのだろうか?
気晴らしと言ったら相手に失礼なのかも知れない。
でも……ずっと息苦しさが続いていた。 ずっと心の痛みに耐えていた。
だから、いい機会なのかも知れない、混沌とした自分の状況に、停滞しているお兄ちゃんとの関係に何か新しい風を入れたい、ってこれで何か変化が起きるかもって……そう思っていた。
だから、ほんの少しだけ、私はワクワクしていた。
勿論お兄ちゃんを好きな気持ちは変わらない。 たとえどんな人であっても変わらない自信はある。
だから、なにも問題ない。
私の気持ちは一つだから。
時間通りに駅近くの喫茶店に到着する。
とりあえず外から店の中を覗いてみるが、桜ちゃんは見当たらない。
私はドキドキする気持ちを隠して、店の扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
店員さんのその声で、奥にいた桜ちゃんがこっちを見て手を振る。
170cm以上あると思われる身長はやはり目立つ。
奥に座っているのだろうか? 幼なじみの悟さんはここからは見えない。
どんな人だろう、怖い人なら直ぐに逃げようなんて思いながら、私は恐る恐る席に近寄ると、桜ちゃんの隣に座っていた、短髪黒髪の少しあどけない顔をした男の子が私を見るなり立ち上がった。
「あ、ああ、は、初めまして、さ、
「……あ、はい、こんにちは……ぷ、ぷぷ……」
笑いを堪えるのに必死だった……顔は確かにイケメンだけど、思ってたよりも子供っぽい顔で、そしてその慌てる姿が面白くて……。
「落ち着け悟!」
隣で唖然としながら見ていた桜ちゃんが、見かねたのか悟君の袖を引っ張り座るように促した。
「あ、あああ」
私が笑ったのを見て悟君は頭を抱えて再び桜ちゃんの隣に座る。
「ごめんね、この子こういうのに慣れて無くて」
「ふーーん、モテそうなのに」
笑いを堪えつつ、私は二人の反対側に座った。
サッカー部でイケメン、メッセージに送られて来た写真を見たら少しチャラい感じがしていたが、写真と違ってかなりの短髪だった為か、今の姿は素朴って感じがする。
「ち、違うんです! 1年は短くしろって言われて……これでもだいぶ伸びたんです」
「あ、ごめんね、そうじゃなくて、言い方が面白くて、髪は短い方が似合ってますよ」
「ほ、本当ですか!」
「うん、私チャラチャラしてる人は苦手なので」
「ま、マジっすか、やった」
私の言葉で一喜一憂するその姿を見て、思わず可愛いって思ってしまう。
お兄ちゃんではあり得ないシチュエーションになんだか楽しくなってくる。
「ほら調子に乗るんじゃない」
「へーーい」
幼なじみの二人の微笑ましいやり取りを見て、この二人がどこか姉弟のように感じてくる。
そして二人を見ていると、なんか凄くデジャブを感じる……。
そこで私はピンと来た。
ひょっとしてこの二人って……。
中学の時は恋愛マスターとして名を馳せた、私の勘がピンと来た……の恋愛経験ゼロだけど……ぴえん。
でも、そうよね、そうだよね、幼なじみってそうなるよね……。
そしてこの感じ、桜ちゃんは気付いていない……いや、お互いに気付いていないのだろう。
「どうしたの? ニコニコして」
「え?」
「悟の事気に入った?」
「え! ま、マジっすか!」
「うーーん、まあ良いと思うよ」
「「えええええ!」」
二人で同時に雄叫びを上げた。
「なぜ二人がそこで?」
「まままま、マジっすか、だって桜は絶対に脈はないって、ほらああ」
「ゆっきーどうしたの? いつも男の子に興味ないみたいな事言って、こんな芋っぽいのが趣味だったの?」
「あはははは、面白い~~」
なんかいいね、息ぴったりの関係って、幼なじみとか兄妹とか、長年一緒にいる夫婦のような関係って最高。
ドキドキする恋愛も良いかもだけど、やっぱり私はこういう関係が好き。
わかったよ、桜ちゃん……私が貴女のキューピットになってあげる。
仲の良い二人、そしてお互いにそれに気付いていない二人を見て、私はその二人を、二人の関係を自分に重ねていた。
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