第31話 仕返し? それとも……


 お兄ちゃんが出掛けた日の夜、2つのメッセージが届いた。

 このメッセージを見る順番が逆だったら……多分私は行かなかっただろう。


 一つは恵さんからのメッセージ、そしてもう一つは桜さんからのメッセージだった。

 私は勉強しながら何気なく恵さんのメッセージを開いてしまう。


 その内容は、一人で平気かと私を気遣う言葉……そして、仕事とはいえ、よく行かせたよね、と言うよくわからない言葉だった。

 いや、仕事だし、そもそもその命令をしたのは社長でもある、貴女のお母さんだし……と、疑問に思いどういう事? と返信してみると……。


『え! まさか知らないの? 賢兄ちゃん星空さんと二人で出張行ったんだよ? 私さっき偶然お母さんの電話聞いちゃって知ったんだけど』


 そう返信が来た……え? どういう事? お兄ちゃん一人で行ったんだよね? え? さっきも普通に電話して来たし。


 黙っていた?……嘘をついた? 何で? 突然の事に頭が一杯になる……。

 ひょっとして……まさかお兄ちゃん星空さんと……一泊旅行? やましい気持ちがあるから私に言わなかった? そんな思いがぐるぐると頭の中を渦巻く。


 とりあえず恵さんには、お兄ちゃんがなんかそんな事を言ってたかも……と誤魔化した。


 多分恵さんも、それは嘘だとわかったのだろうか……それ以上突っ込んでは来なかった。

 

 どういう事……私は勉強が手につかなくなる。

 

 そして現実逃避とばかりに、桜のメッセージ開いてしまった。

 そこには……佐々本悟ささもとさとるという、桜お薦めの男子に関する数々の自慢……もとい、写メと華麗なプロフィールが書かれていた。

 身長170cmのイケメン、写真で見ても確かに格好いい、有名なサッカー部で1年からレギュラーだそうだ、よくわからないけど、18歳以下の代表候補とかなんとか、そして自分が受けた数々の優しさを綴っていた。


「自分で付き合えよ……」

 その文章を読むとさらにそんな考えが頭に浮かぶ。

 でも、彼女も私と一緒なんだろう……子供の頃からの知り合いだから……相手にされない、女の子として見て貰えない……のかも。


 でも……だからこそ、その人の、好きな人の幸せを考えてしまう。

 応援してしまう。

 私はそこまでの境地には達してないけど……。


 まだ出会ったばかりなのに、大事な人をここまで推してくる彼女。

 私にならって思っているのだろうか?

 そこまで私を信用してくれているのだろうか?


 そんな思いを無下に断る事は出来なかった。

 ううん、多分お兄ちゃんへの当て付け、せめてもの仕返し……。

 仕返しにもならないだろうけど……。



 こういうずっと断っていたけど……桜が言うなら会って見るのも良いかも知れない。

 これで心が揺らぐなら……私にとって(?)お兄ちゃんはそれだけの人……。

 なーーんて、絶対にそんな事は起きないってわかってるけど。


 だからこそ、会って見よう、話してみよう……。


『わかったわかった、一度会ってみるよ』

 そう返信をすると、その数分後に再度メッセージが届く。


『気が変わらないようにと明日放課後に、とりあえず私と3人で、よろぴく(*^▽^)/★*☆♪』

 明日? 放課後?

 確かに今は試験前の短縮授業だけど……良いのか?


「明日……か」

 お兄ちゃんがいない夜……一人でこの家にいるのは初めてだった。

 寂しい……とてつもなく寂しい……。

 人恋しさからだろうか? つい……行くって言ってしまった。

 そして……この事をお兄ちゃんには言っていない……言うつもりもない。

 今から電話をかける事も、メッセージを送る事も出来るのに……。

 当て付けなのか……ただ会うだけだから……それだけだから……。


 結局私もお兄ちゃんと一緒なんだろう……。

 特に言う必要がなかった。

 

 それだけ……それだけの事。


 

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