第30話 おじさんと付き合ってるの?
「ゆっきーーちょっと話があるんだけど」
七夕祭りの翌々日学校に行くと、高校生になって最初の友達、クラスメイトの桜ちゃんに朝から怪訝な顔で話しかけられる。
髪はブリュネットのベリーショート、身長が高くて手足も長い、私よりも頭一つくらい大きい、モデルの様なスタイルで、彼女と並んで歩くと、どこかで見たさらわれた宇宙人の様な、そんな気がしてくる。
聞けばバスケ部にいたそうだ。
どこか狐っぽい顔立ちで、細く長い切れ長の目、その奥の瞳は時折人を見透かすような、そんな感じがする。
彼女は高校でもバスケ部に入った。名門とは程遠いうちのバスケ部だと即レギュラーだった為にか、放課後に一緒に遊ぶ事はなかった。でも、休み時間やお昼に一緒にご飯を食べたりしている。
席替えで離れてしまった今でも、それは変わらなかった。
「な、何?」
「……単刀直入に聞くね……ゆっきー……なんか変な事してる?」
真剣な顔で私を見つめる桜、その切れ長の目が更に細くなり私を見透かす。
彼女の前では嘘が付けない、そんな気になってしまう。
「……変な事?」
今日はお兄ちゃんが仕事だった為に早起きしてお弁当を作った為にいつもより早く登校していた。
桜は朝にミーティングがあるとかで、いつも早く教室にいる。
クラスにはまだ人が疎ら、私の周りには誰もいない。
桜は私から目線を外す事なく前の席にゆっくりと座った。
「……いわゆる……その……援助的な事」
「援助?」
「うーーーー、その……パパ活って奴……してるの?」
桜は何度か周りをキョロキョロした後に、小声で私にそう言った……パパ?…………な!
「し、してるわけ無いでしょ!!」
「シーーシーー」
私がそう大声を出すと、クラスメイトが一斉にこっちを見た。
でも、そんなのに構ってる場合ではない、友達になんて事を言うの?!
「シーーじゃない、してない!」
「いや、で、でも……私見ちゃって……ゆっきーがおじさんと手を繋いで歩いてる所」
「いつ?!」
「一昨日」
「どこで?!」
「七夕祭りで……」
そう聞いた瞬間、私はホッとした。そしてまた違う怒りが込み上げてくる。
「あれはお兄ちゃん! おじさんじゃない! まだ20代だよ!」
アラサーだけど、もうすぐ30歳だけど……。
「え? あ、あれお兄ちゃんか……そうか……よかった……って、てか紛らわしい、高校生になってお兄ちゃんと手を繋ぐ?!」
あーーやぶへびだったか……。
昔はお兄ちゃんが好きって友達に言っていたが、誰一人本気にしてくれなかった。だから今は誰に聞かれても、好きな人はいないと言っている、勿論桜にも……。
「い、いいでしょ? 何か悪い?」
「いや、悪くはないけど、なんか……不毛?」
「不毛って……」
「そんだけ可愛くて彼氏も作らずお祭りにお兄ちゃんと手を繋いで出かけるとか、ゆっきーって……ブラコン?」
「ほっといてよ」
「うーーん、あ、そうだ……あのさ、私の幼なじみがさ、この間祭りで一緒だったんだけど、ゆっきーの事気になってるって言ってさ、前からちょくちょく言ってたんだ、うちのクラスにめっちゃ可愛くて性格が良い子がいるって、で、祭りでゆっきー見かけて、ショックうけてたから、だからさ~~今度会って上げてくれない?」
「え?」
「悟って言うんだけど、頭良いし、運動出来るし、特にさ、スッゴい優しいんだよ」
「いや……私……そういうのは……」
だったら自分で付き合えと喉から出そうになるのを堪えた。男女の関係って色々と複雑だからね、特に幼馴染は……。
「ね? お願い、私の顔を立てると思って」
首をかしげながら手を合わせてお願いする桜……。
「うーーーー……ちょ、ちょっと考えさせて」
「うん! わかった、考えといてね」
桜は笑顔で立ち上がり、私に手を振りながら弾むように自分の席に戻って行った。
昔から、直接告白された場合はその場でお断りしている。勿論電話やメールは問題外、人づても……でも友達からの紹介は無下に断れない……後で何を言われるかわからない……だからいつも2、3日考えた振りをしてから断る事にしている。
私の為を思っての事だし、推薦してくるくらいだから、多分いい人なんだろうと思うし。
でも……私はこの後……桜の紹介して来た人と会う事になる。
お兄ちゃんが出張に言っている間に……だって私は知ってしまったから、恵さんからの連絡で知ってしまった。
会社の星空さんと二人で出張に行った事を……お兄ちゃんは星空さんと二人きりで、お泊まりする事を私に黙っていた……から……。
その当て付けに……ついこの誘いに……私は乗ってしまった。
そしてお兄ちゃん以外の男の人と……生まれて初めてデートをする事に……なって……しまった。
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