第26話 全てを捧げたい


「要するに、雪ちゃんはまだ子供なのよ」

 昔からこうだった。

 私がお兄ちゃんの事が好きって言うと必ずそう言われる。

 女の子同士でのお喋りは、主に服や小物、化粧品、食べ物やお菓子の話題等が前菜、そして……メインディッシュは好きな男の子の話……。

 クラスの男子、部活の先輩、役者にアイドル……時々アニメのキャラクター、皆それぞれそういった好きな人を、名前をあげていく。

 

 そして私の番……私はいつもはっきりと言う。


「好きな人はお兄ちゃん」


「へーー」

 そう言って誰も取り合ってくれない、誰も本気にしてくれない。


 そして、私に、○○君が雪ちゃんを好きらしいとか、格好いい人を紹介してあげるなんて言われる。正直お兄ちゃん以外に興味はない。


 いくら言っても、私がどんなにお兄ちゃんを好きか説明しても、誰も信じてくれない。


「興味ないなら無いって言ってくれれば良いのに」

「雪ちゃんはまだお子ちゃまなんだね」

 ──なんて言われる……。


 誰も私の気持ちなんてわかってくれない……お兄ちゃんでさえも。

 

 顔は普通で、身長も高くない、学歴も一応大卒だけど、中学高校には殆んど通っていない。

 少しオタクで、元引きこもりで、そして人嫌い、コミュ障……。


 お兄ちゃんの事を詳しく聞かれるとそんな事が頭に浮かぶ……。

 だから言えない……だからわかって貰えない。


 でも……そんな私の気持ちを唯一わかってくれる人がいる。


 恵さんだ。


 恵さんとお兄ちゃんの事を話す……お兄ちゃんのどこが好きか、なんで好きか……。

 答えは簡単だった。


 お兄ちゃんは……全身全霊で、自分の全てをかけて、人生全てを投げ捨てて、私の事を愛してくれている……自分の事をここまでかって言うくらい好きでいてくれる。

 それは妹として、子供として……なのかも知れない。

 勿論実の子供、実の妹ならば、そんな気持ちの人もいるかも知れない。

 でもお兄ちゃんは知っている、私は知っている。


 私とお兄ちゃんの間に血の繋がりが無い事を……。


 それでも……お兄ちゃんは私を愛してくれる。

 自分の命よりも私を大切に思ってくれている。


 そんな人の事を……そこまで思ってくれる人を、好きにならないわけがない。


 恵さんも一緒だ……いつも優しく接してくれるお兄ちゃんに、あの優しい瞳に心を奪われたって……そう言っていた。

 

 お兄ちゃんは私を幸せにしてくれる……全身全霊で、全てをかけて……だから私も返したくなる……恩を、ううん、恩じゃない……好きって気持ちを……愛する気持ちを……お兄ちゃんに返したい。

 幸せにしてくれたから、幸せにしてくれるから、私も……お兄ちゃんを幸せにしたい。



 好き……好き……好き……好き……。


 愛しくて愛しくて……そして苦しくて……辛い……お兄ちゃんが好き過ぎて辛い。

 でも……告白して……断られたら……怖い……凄く怖い……。

 もし私がそう言って、お兄ちゃんを困らせてしまったら……本末転倒だ。


 だから言えない……だから苦しい……。

 

 私はお兄ちゃんに育てられた……私が今ここに居るのはお兄ちゃんのおかげ……。

 私の全てはお兄ちゃんの物、私の人生をお兄ちゃんに捧げたい……私を……私自身を……お兄ちゃんに……。


 お兄ちゃん目の前で寝ている、寝息をたてて寝ている。

 今なら言える……自分の気持ちを……。


「好き……お兄ちゃん好きだよ……もう……耐えられないよ」

 涙が出る……お兄ちゃんの事を思うと……涙が溢れる……気持ちが溢れる。

 私はそっとお兄ちゃんの背中を掴んだ……起こさない様に、そっと……お兄ちゃんの体温が手のひらに伝わる……。

 今はこれで……我慢する……。我慢しなければ……。

 

 私は、お兄ちゃんが好き……ずっとずっと好きだった。

 子供の頃から……ずっと……その気持ちは今でも変わらない……そしてこれからも……ずっとずっと……変わらないで居続ける……ずっと……一生……好きで居続ける、居続けられる。




【あとがき】

 第二章終わりです。

 そしてあまりに読んでいる人が少ないので、ここで暫く更新をお休みします。(´・ω・`)ゴメンネ

再開は未定です。

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