第25話 恋愛と親愛、同情と恋


 普段見た事の無いフリルの付いた可愛らしいパジャマ姿で俺の部屋に入ってくる妹……。


「あ、ああ、うん……」

 今さら止めようとも言えず、俺はそう言って返事をした。

 妹はにっこりと笑いながら一目散に俺のベッドの脇に駆け寄る。

 俺は身体を左にずらして妹の寝るスペースを開けた。


「えへへへ、お邪魔しま~~す」

 妹は軽い感じで俺のベッドに潜り込んでくる。

 まあ、そりゃそうだ……三つ指ついて、宜しくなんて言われたら……どうしていいかわからなくなる。

 

「えっと……何年ぶりだ?」

 妹は枕をポンポンと軽く叩くと頭をゆっくり乗せ仰向けに寝転ぶ。

 俺はそっと自分にかけていたタオルケットを妹にかけた。

 一緒のベッドに寝て、一つのタオルケットにくるまる。

 妹からふわりとシャンプーの香りがする。同じシャンプーとは思えない匂いが俺の鼻腔を擽る。


「うーーん、小学生の時だから、4年ぶり?」


「そか……」


「うん」

 この間は一緒にお風呂に入ったのだから、別に一緒にベッドで寝るくらいなんて事はない。

 雪は俺の妹、俺の娘同然なのだから……やましい気持ちになんてなるわけがない。


「じゃ、じゃあ寝よか」


「えーーーーもう?」


「いや、だだ、だって な、何をする気だよ!」


「ん? お話とか?」


「とかって……そ、そうだよな……」


「ん? 何? お兄ちゃん、ひょっとして、エッチな事でも考えた?」

 妹は目をキラキラと輝かせて俺に顔を突き出しそう言った。


「考えてねーーよ!」

 なんで嬉しそうなんだよ!


「むうう、じゃあ、こうしても考えない?」

 妹はそう言いながら俺の腕に抱き付いてくる。


「うえ! お、おい!」

 妹は俺の腕に胸を強く押し付ける。くっ、いつの間にこんなに……あんなにペッタンコだったのに……お兄ちゃんは嬉し……悲しいぞ!


「ほらあ、これでも何も感じない? エッチな気分にならない?」


「な、なるわけねえだろ! ほら、いくら明日休みだからって、夜更かしは美容に良くないからもう寝ろよ!」

 この辺は本当に昔から変わってない、雪は俺が添い寝すると返って寝てくれない。

 勿論俺が妹の胸で興奮するわけもない……ないったらない! ピクリともしない!


「ぶううう、じゃあ寝るから……一つだけ聞いていい?」


「な、何を?」


「今日の飲み会楽しかった?」


「え?」


「だってさあ、おばさん若いし、同僚の星空さんだっけ? 女の子だよね、おばさん彼女の20歳の誕生日会も兼ねてるからって言ってたし……」

 俺の方を向いて妹は少し不安そうにそう聞いてくる。


「まあ、楽しかった……のかもね」


「ぶううう、ずるい……お兄ちゃん……私はご飯作って待ってたのに……」


「だからそれはごめんって」


「ふ~~んだ、じゃあさ、お詫びとして、明日どこかに連れて行ってよ」

 明日? 突然だな……でも、それで妹の機嫌が直るなら、今日は絶対服従って決めてたし。


「ああ、まあ……いいけど、でも雪、試験とか良いのか?」

 夏休みも近いし、そろそろ期末の時期なのでは?

 ちなみに明日は7月7日七夕……そうかそれで彼女の名前は星空キララなのか……。

 あれ? ひょっとして星空さんの誕生日は明日なのでは?

 社長……ひょっとして金曜日に飲み会やりたくて……。


「平気平気、私は普段からちゃんと勉強してるからねえ~~恵さんとは違うのよ~~」


「そうなのか?」


「恵さんは、今頃ヒーヒー言ってるんじゃない? ふふふ、今がチャンス」


「チャンス?」


「ううん、こっちの事」


「ふーーん、じゃあ、まあ、ちょろんと出掛けるか、七夕だしな」


「うん! やったね!」


「じゃあ、寝よう、おやすみ~~」


「うん……お兄ちゃん、おやすみ~~」

 そう言って目を瞑る。

 殆ど覚めたとはいえ、お酒を飲んだ後なので、隣に妹がいても俺が眠りに落ちる迄たいして時間はかからなかった。

 

 しかし、ちょっと飲み過ぎたせいか、トイレに行きたくなりおそらく1時間くらいで目が覚める……。

 俺は起き上がろうとするも……身体が動かない……。

 あれ? っと思いうっすらと目を開けると妹の姿はない。

 いつの間にが俺は寝返りをうって、横向きになっていた。

 おそらく妹は俺の背中側にいるのか……と思ったその時……妹のすすり泣く声が聞こえてくる。


「……お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 泣きながら、いや、実際見てはいないので、泣いているようだと言っておこう。

 妹はすすり泣くように小さな声でそう呟いている。


 一体どうしたのか? 振り向こうにも、妹は俺の背中にピッタリと張り付いているので身動きが取れない。

 声をかけて良いのか? でも心配だ。体調不良? お腹でも痛いのか? そうだとしたら、早く病院に、場合によっては救急車を呼ばなければと、そう思い起き上がろうとしたその時、妹は俺の背中にしがみつきながら言った。


「好き……好きだよ……お兄ちゃん……好き……ふうう、もう耐えられないよう……ひっく……ふえええん……」

 そう言った……確かにそう聞こえた……。

 好きって……妹は確かに言った。泣きながら、確かに。


 それは家族として、兄として? なんて事をここで思う程……俺は鈍感じゃない。

 身体が震えそうになるのを堪えた、物凄く嬉しい気持ち込みあげてくる。

 それと同時にそれを上回る程に、悲しい気持ちで一杯になる。


 俺は直ぐにわかった。 それは……勘違いなんだって……妹は勘違いしているって……。

 妹は俺と血が繋がっていない事を知っている。

 だから、俺に恩を感じているんだろう。そして……俺に同情しているのだろう。

 妹の面倒を見る為に、ずっと一人だったから、恋人も作らずにずっと……。

 

 その気持ちが好きって、そう思っているのだろう……。

 まだ子供だから、恋愛と親愛の区別がつかないのだろう。

 同情して……だから自分がって、そんな馬鹿な考えを持ってしまっているのだろう。

 

 でも、どうすればいいのか? それを妹にわからせるには……どうしたらいいのだろうか?

 俺は……この妹の気持ちを、考えを知ってしまった俺は……これから一体どうすればいいのだろうか?

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