第23話 にいたん一緒に寝てくれる?
片時も忘れた事は無かった……。
常に妹が一番だった。
「ああああ、俺は……」
妹が高校に入って安心してしまったのだろうか? 高校生といってもまだまだ子供……しかも女の子は大きくなればなったで、また別の危険が生まれる。
直ぐに帰りたかった。でも……恩人でもある社長に誘われ、喧嘩みたいになったとはいえ後輩の二十歳の誕生日の祝いも兼ねた初めての飲み会。
俺だけ席を立つわけにはいかなかった……。
よくドラマでお父さんが付き合いだからしょうがないだろ? というシーンがある。
「なに言ってやがんだ……アホか」
そんな時、俺はテレビに向かっていつもそう呟いていた。
死んだ親父の常套句……「仕事だからしょうがない……」そう言って全部俺にぶん投げた。
俺は絶対にそうならない……親父みたいにはならない……そうやって妹の面倒を後回しにしない、常に優先順位は妹が一番だって……そう決めた……筈なのに。
電車から一番に飛び降り駅の階段を駆け降りる。
そしてそのまま駅から駆け足で家に向かった。
「雪……怒ってる……だろうなあ……」
最近俺に反抗気味な妹……連絡もせず飲んで帰ってきたなんて……マジでヤバいかも。
あっという間に家に到着する。
言い訳を考える暇は無かった。
俺は一度家の前で深呼吸をする。
妹に何を言われても謝るだけだ……今日は妹に完全服従で行こう……ってそう決めた。
俺は玄関をそっと開けると……。
「お帰りお兄ちゃん!」
玄関で俺の帰りを待っていたのか? 妹は元気にそう言った。
丁度お風呂から上がったのか? 着ている服はいつもの部屋着だったが、妹の髪は少し濡れ、顔はほんのりと、ほてっていた。
「あ、ああ、えっと……ただいま……後、ごめん」
「ん? ああそうだよ、ちゃんと連絡してくれないと、ねえお兄ちゃんお腹一杯?」
「え? あ、いや、あんまり食べなかったから」
「じゃあ、カレー温めるね、今日カレー作ったんだ」
妹はニコニコしながらキッチンに向かう……あれ? なんだ? 怒ってない?
いや……まだわからない……油断した時に……ガツンと……言われるのかも。
星空さんが……親に切れたように……俺も……。
しかし、いつまで経っても妹は怒らない……。
俺がカレーを食べている間、俺の前でニコニコしながらコーヒーを飲んでいる。
俺はこの状況にいたたまれず、妹に切り出した。
「──いや、あの……怒らないのか?」
「……は?」
「雪に連絡もしないで、飲んで帰って来たんだぞ?」
「……なに? お兄ちゃん怒って欲しいの?」
「欲しくはないけど、覚悟はして帰ってきた」
「はあ……私がそれぐらいで怒るわけ無いでしょ? そりゃ飲み会が女の人ばっかりってのはちょっと……ムニャだけど……」
「むにゃ?」
「ううん、だって会社の飲み会なんだから、仕方ないでしょ? 普通の事じゃん」
「いや、だって……」
……俺が大学生の時、保育園や、おじさんの家に迎えに行くのが遅れただけで……あんなに怒っていたのに……。
「お兄ちゃんはね、少し遊ぶくらいが丁度いいんだよ、真面目に毎日毎日ちゃんと帰ってきて、どこにも行かずに……真面目に……前にも言ったけど、私はもう高校生なんだから……」
妹に再びそう言われ、心の奥から……悲しい気持ちが込み上げてくる。
「……そか」
もう必要無い……そう言われているようで……俺はなんだか泣きそうになる。
「……あああ? お兄ちゃん寂しいんだあ」
「え?」
「そっかああ、へえええ、ふふふ」
「いや……そんな……」
……そう……言われて気が付いた……俺は寂しいんだ……寂しかったんだ……妹がどんより遠くへ行ってしまうような……俺の手から離れて行くような……そんな気持ちになっているんだ。
酔っているからだろうか? ……いつも隠している気持ちが、素直になれない気持ちが溢れ出してくる……。
「そっかそっか」
妹はそんな俺を見てクスクスと笑い出す。まるで子供の頃、俺にイタズラをした時のように……可愛らしい、愛らしい顔でクスクスと笑う。
「な、なんだよ……」
「じゃあねえ~~にいたん、罰として~~今日は一緒に寝てくれる?」
子供のような声色で、首を傾げて可愛くそう言った。
まるで本当に妹が幼くなったって錯覚してしまうくらい……今、俺の目には妹が10年前の頃に……あの一番可愛かった時、今でも可愛いけど……特に可愛かったあの頃の妹に……戻ったかのように、見えてしまった。
多分……急ぎ足で帰ってきたので、かなり酔いが回っていたのだろう……でも……本当にそう見えてしまったのだから、仕方ない。
「よし! 一緒に寝よっか!」
「え!…………お兄ちゃん……マジで?」
マジもマジ……大真面目だ!
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