第21話 同じ穴の狢
彼女の瞳をはっきりと見たのは初めてだった……。
美しい漆黒の瞳……そしてそこから溢れる涙はまるで宝石のようだった。
「え、いや、えええ?」
なんて思っている場合ではない……20歳の……年下の同僚が俺の横で、突然俺を見てポロポロと涙を流し始めたのだから……。
「あぐ、ふ……あ、あん、うえっ、ふ、あふ……」
嗚咽と言うにはあまりに色っぽい声……周囲のお客はチラチラとこっちを見始める。
「ど、どどど、どうした?!」
思わずこんな奴実際にいるのか? って自分を疑ってしまう程に吃りながら俺は彼女にそう聞いた。
「あ、あん……あふ……しぇ、しゃんぱいいぃ……」
益々色っぽくなる星空さんの嗚咽、ヤバい、ヤバいって、なんかまるで俺が何かをしているような……そんな疑いの目が……。
「えええ! いや、えっと、だ、大丈夫か? 俺、何か変な事言った?」
俺はその場で両手を上げ、まるで痴漢は俺じゃない! と電車の中で周囲にアピールするかのようにしながら、彼女にそう訪ねる。
「う、うえ、うれ、嬉しくて……」
「嬉しい?」
嬉しくなるような事言ったっけ?
「しょ、しょんけい……してるしぇん、先輩から……おめでとうって……言われて……」
少しずつ落ち着きを見せ始める星空さん、いや、尊敬? そんな尊敬されるような事は……。
おじさんのコネで入った会社……どう考えてもお金に関する援助をして貰っているとしか思えない。誰の目から見てもそれは明らかだった筈。
幼い妹の面倒を見る為に殆んど会社にも行かず、リモートワークの毎日。
当時腑に落ちないと思っていた社員は多かっただろう。
誰にでも事情なんてある。 俺だけ特別扱い……おそらく俺の事をよく思っている人なんて一人もいなかっただろう。
今でも毎日は通っていない……だから彼女もその一人だって……ずっと思っていた。
「尊敬なんて……」
「そ、尊敬してます!」
突然今まで聞いた事の無い程の大きな声でそう言う星空さん。
「え?!」
「──私……おじさんに聞きましたし、しぇ、先輩は……一人で子供を妹さんを育てたって、そして育てながら働いているって、大学にいきながら、妹さんの面倒を見て、そして深夜まで仕事してたって……仕事も出来るって、技術も知識も凄いって……だからあいつを見習えって、何でも聞けって……」
電話ではそこそこ喋る星空さん、しかし面と向かってここまで饒舌に語る彼女を初めて見た。
「そんな事……そんな事無いよ」
……俺の今までの苦労を知ってくれて……そして褒めてくれる初めての他人に……俺は少し胸が熱くなった。 それと同時に……俺はそんなに凄く無い、勝手に美化している……そんな思いが渦巻く。
俺は……親父が死んだ時……死のうって思ったんだ……妹を手にかけて一緒に……。
まだ幼い妹を……殺そうとしたんだ……。
そんな俺を尊敬してるなんて……。
「あります!」
「そんな事無い!」
知らないから……俺の事……知らないで……尊敬なんて軽々しく言って欲しくない……。
そんな思いでつい怒鳴ってしまった。
それでも星空さんは俺から目を離さず真っ直ぐに俺を見つめる。
うるうるさせた瞳……お酒でほんのりと赤くなった頬……思わず綺麗だって思った。
俺は今日初めて……はっきりと星空さんの顔を見た気がする。
「私は……先輩と違って……最低なんです……」
「え?」
「……私……ここまで大きく育てて貰ったのに……お母さんを……叩いてしまって……」
「……叩く?」
大きくと言われ……思わず胸を見そうになるのをこらえ、俺はそう聞いた。
「……私……ずっと虐められていて……変な名前だって……ずっと……」
でも子供の世界は残酷だ……周囲に同じような名前がいなければ間違いなく目立つ、そして場合によっては標的にされる。
両親のいない妹も、何度か泣いて帰って来た事がある……「親無し」って、「みなしご」って言われたって……。
俺はそんな妹に何も言ってやれなかった……ただ抱き締めてあげる事しか出来なかった……。
「──そ、それで……叩いたんだ」
彼女はうんと小さく頷いた。
「……何でこんな名前にしたんだ……って……」
学校や人前ではおとなしい子供が、家では乱暴だとか、暴れている事があるそうだ。
内弁慶とも言われ、学校で受けたストレスを発散させる……反抗期の原因の一つだって聞いた事がある。
でもまだ暴れられる場所があるだけいい、学校でも家でも虐げられ発散出来ない子供は……ストレスが蓄積していき、最終的に取り返しの付かない事になるって……。
「──中学の終わりから……引きこもって……高校にも行かなくて……そしてお母さんに……いい加減にしろって言われて……」
星空さんはそう言った……俺にそう……。
俺は……星空さんには悪いけど……その言葉を聞いて、一瞬ホッとしてしまった。
俺と似たような境遇の人を初めて見たから、同じ穴の
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