第11話 お試し高校生
妹が反抗期……まさかとは思うけど……。
でも……そう言えば……高校に入ってから、少し帰りが遅い気がする……。
いつもなら家にいる俺に早く会いたいと、一目散に帰って来てたのに……ううう、だとしたら、お兄ちゃんは少し悲しいぞ……。
いつも通り二人で少し遅い夕御飯を済ませ、俺は食後のお茶を飲みつつ、片付けをしている妹の後ろ姿を見つめていた。
その妹の後ろ姿を眺めていると、ここまで育ってくれて……と、嬉しい気分になるが、同時に昔の事が、まだ赤ちゃんだった頃、一番大変だった頃の事が頭に浮かんで来る。
妹は他で聞く程は手のかからない赤ん坊だった。
ただ、時々夜泣きならぬ夕泣きをする事があった。
夕方暗くなってくると、妹は時々泣き出す。そして一度泣くと中々泣き止まなかった。
赤ん坊の泣く理由として、まず第一はオムツ、次はミルク、でもオムツを見ても汚れていなかったし、ミルクも飲んだばかりで、飲まなかった。
「泣く理由をネットで調べると、は? と思う理由があった。
でも……いつも夕方暗くなって来ると泣く為に俺は試しに妹を連れ外に出ると……見事に泣き止んだんだよねえ」
「その理由は……暇だから……って、ははは」
「暇だから泣いてる? まさかとは思うけど、でも妹を公園に抱いて連れていくと、いつも泣き止んだんだよねえ……」
「それから俺は、ちょくちょく夕方に公園に行く事になった」
「でも……それが引きこもりを脱した要因の一つだった……」
「ふーーん、それで?」
「……え?」
「お兄ちゃん、私が目の前にいるのに、気付かないで、ずっと独り言言ってるから、大丈夫かな? って」
「え? 俺……声出してた」
「うん」
「マジか……」
「それで、それが私の事をじっと見ていた事と何か関係があるの?」
俺の目の前に座り、頬杖をつき、いつも通りの可愛い笑顔で俺を見つめる妹……誰だよ、こんな可愛い俺の雪が反抗期だなんて言った奴は!
……って言うか、なんで見てた事知ってるの? 後ろに目でも付いてるの?
「えええ?」
「……お兄ちゃん知ってる? 男の人の視線ってわかりやすいんだよ?」
「わかりやすい?」
「そうだよ、相手のどこを見てるとか、デート中他の女の子見てるとか、直ぐにわかるんだから!」
「……いいい、今デートって、ゆゆゆ、雪! お、お前、まさか!」
今なんて言った、なんて言った! 彼氏なんてまだまだ早い! お兄ちゃんは許しません!
「え? ああ、私の話じゃないよ~~」
「…………そうか」
──雪は嘘を言う子じゃない……俺はホッと胸を撫で下ろした……。
「それで? 私が夜泣きして公園でどうしたの?」
「あ、ああ、いや……たいした事じゃないんだけどね、その時その公園で、ちょくちょく高校生のカップルを見掛けてさ……ベンチやブランコに座って、その……色々と、なんか……羨ましいなって……あ、いや、カップルがーーとかじゃなくて、なんかそんな青春みたいな事って……俺は今後出来ないなあって……中学生の時に、引きこもっていた時……そう思ってね」
「…………お兄ちゃん……それって……私のせいだよね?」
妹は笑顔から一転少し悲しい顔に変わる。
「え? いや、まあ、その時はまだ親父は生きてたし、俺が弱くて不登校だったせいなだけで……」
「でも実際……普通高校に行けなかったんだよね、私のせいで……」
「──ああ、まあ、そうだけど、一応通信制で行ってた事にはなるんだけどね、まあ、仕方ないよどっちにしろ多分普通には通えなかっただろうし、むしろ雪がいたお陰で行こうって、ちゃんと卒業してちゃんと大学に行こうって思ったしね」
「…………でも」
「だから……お前が責任を感じる事はないんだよ、全部俺の意思でやった事だし、むしろ俺は感謝してるくらいだから」
雪のサラサラの髪を、頭を撫でながら俺は笑ってそう言った。
雪がいたから生きようって、雪がいたからちゃんとしようって、そう思ったのだから、感謝こそすれ恨む事なんて全くない。
「……お、お兄ちゃん! そうだ、そうだよ! 今から私と高校生やろう!」
俺に頭を撫でられ、うつ向いていた妹は突然名案を思い付いたという様な顔をして、俺を見てそう言った…………はい?
何を言ってるのか意味がわからず、俺はどこかの相棒の様にそう聞き返す。
「だーーかーーら、私と高校生みたいな事、お兄ちゃんがしたかった青春を今からやろうぜ!」
目を爛々と輝かせ妹は、そう言った。
「お兄ちゃんの部屋にまだ制服あったよね? 今からそれを着て公園に行こう、私も着替えて来るね!」
「は? いや、ちょっと待て、おい!」
自分の部屋に駆け上がっていく妹を俺は呆然と見送る……えっと……本気? 俺も……着るの?
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