第10話 唯一の他人?
妹に「彼女でも作ったら」なんて言われてしまったが、29年間彼女が出来なかった俺……彼女なんてどうやって作っていいかなんて、わかる筈もなく……勿論何でも売っているamaz○nやド○キにも、ないって事は理解している。
じゃあどうすれば? と考えるも、合コンやナンパなんて事しか思い浮かばない。
そして、極度の人見知り、コミュ症、元引きこもりの俺に、そんな事出来る筈も無い……。
そうなると、自分の出来うる範囲で、現状の中で、生活圏内の中で……要するに俺が喋れる人の中で探すしかない……。
しかし、コンビニ店員さんに、「箸を下さい」さえも言えない俺、普通に話せる人なんて、子供の頃から知っている身内以外にいやしない。
まあ、そもそも身近にいる身内以外の人なんて……俺の行動範囲内には、一人しかいない。
その一人とは、会社の同僚、星空さん……フルネームは
俺の名前も大概昭和っぽいが、彼女の名前はまさに平成、所謂キラキラネームという奴だ。
その凄い名前の彼女は、社長、おばさんの遠い親戚だとか。
そして、そんな彼女は俺に負けず劣らずのコミュ症だ。
なのでもう知り合って数年経つのだが、プライベートの話をした事は今まで一度も無い。
確か3年程前、おじさんが亡くなるちょっと前に、地方から出てきた彼女は、おばさんのつてで、この会社に入った。
って事くらいしか知らない。
他に俺が知りうる彼女の事は、見た目だけ……赤い髪、小さな身体で、恐らく20才は越えている筈なんだけど、彼女は一見、妹よりも幼く見える。
そして彼女に関して特に特徴的なのは、その小さな身体に余りある大きな胸だ。
胸と身体のサイズが合っていない為に、いつも着ている服はブカブカ、さらに猫背で、パソコンに向かっている以外は常にうつ向いている。
まあ、それでも彼女と全く話さないわけでは無い。
俺はこの会社では10年近く勤務しているベテラン、彼女はようやく仕事を覚えてきたが、まだまだわからない事はいくつもある、だから……。
「……………………あの……せんぱい」
「うわわわわわわ!」
俺が彼女の事を考えていると、突然音もなく自分の机から移動してきて俺の背後に立つ……ほ、星空さん……怖いよ、マジで怖いよ……。
「……ごめ……ん……な……」
「あ、いや、こっちこそ……」
「あの……わからない……事が」
彼女はそう言うとまた猫背のまま音もなく自分の席に戻っていく。
俺はゆっくりと立ち上がり、ドキドキしながら(勿論恋とかではなく脅かされ)彼女の元へ向かった。
「ああ、これはこのショートカットで、こうすれば出来るよ」
「…………はい……あり……がと……」
小さな小さな声、しかも語尾が消え去る様に話す彼女……。
俺は今でも家で仕事をしている関係で、彼女は時々電話で質問をしてくる。
しかし何故か電話だと普通に話せるんだが、こうやって対面だと、殆んど何を言ってるのかわからない。
まあ、どっちにしても仕事の話だけ、それも彼女が一方的に聞いてくるだけなんだけど。
当然ながら、俺から話かける事なんて皆無、ご飯や飲み会に行く事もなく、プライベートな話さえもしたことはない。
まあ、そもそも俺に雑談話なんて高等技術ある筈もない、
まあ、つまりは俺が彼女と親しくなる事は今までもこれからもないだろう。
近くにいる同僚でさえこれだ……そんな俺が一から赤の他人と仲良くなるなんて、ましてや恋愛なんて、いやそもそも……誰かに恋なんてする筈もなく。
妹の「彼女でも作ったら?」という期待に応えられる事はないであろう……いじめか?
最近俺に口答えをしたり、兄離れ宣言をしたり……彼女を作れと俺に向かって無理難題をふっかけたり……ま、まさか!
「反抗期? 妹に? マジか?」
遂に妹に……反抗期が来た?
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