第8話 妹のお説教
「お兄ちゃん! なんなの?!」
「いや、なんなのって言われても……」
家に帰り、リビングに入るやいなや、妹は血相を変え俺にそう言って来た。
何を怒ってるんだ? お祝いはまた今度って事で納得してくれたんじゃないのか?
そもそも堀江さんの誘いを断るとか、義理人情に欠けるでしょ?
無理難題ならともかく、夕飯の誘いくらいは受けても、いや、受けなゃ絶対に駄目でしょ?
養子にしたいって迄言ってくれてる俺たちの恩人に対して、今日の雪の態度は良くない、寧ろ俺が怒ってるくらいだ。
いや! ここは親代わりとして、きっちり言わないと駄目だ。
「……いいか! 雪! 駄目だろ? 折角ご飯をご馳走になってて、ああいう態度じゃ!」
高校生になったと言ってもまだまだ子供だ。言うべき事は言わなければ、甘いだけじゃ駄目だ!
そう思い、俺は久しぶりに妹を怒った。
いままで殆んど怒った事はない。妹は賢い子だったから……でも、数える程だが怒った事はある。
大抵の事は一度言えばわかるんだが、妹は変に頑固な所があって何度言っても聞かない時が稀にあった。
そう……俺が一番怒ったのは、幼稚園に通ってる頃だ。妹はまだ小さいってのに、料理をしたいって言い始めた。
俺が何度も「まだ早い」って言っても聞かず、仕方なく料理を教えた。
でも、妹はそれから隠れて料理をし始めた。俺がいない時は駄目だっていくら言っても聞かず、いくら隠しても包丁を探しだし、使おうとして……最後には自分の指を切ってしまった。
血が吹き出し、泣きわめく妹に、俺は治療をしながらおもいっきり怒った。
でも……勿論今まで叩いた事は無い、そんな事はしたくない。
そこまでしなくても、妹は言えばわかる、ちゃんと怒ればわかってくれる。
だから、今回も……。
「……あのねお兄ちゃん……全く説得力が無いよ?」
「……え?」
あれ? あれれ? おかしい、おかしいぞ? 俺が怒れば妹はいつもは神妙な面持ちになるんだが……。
「私たちの恩人恩人ってさあ、恩人はおじさんでしょ? まあ、おばさんもそうだけど、恵ちゃ……恵さんは違うよね?」
えええ? く、く、口答え? 妹が俺に、俺が怒っているのに……口答えだなんて……。
「いや、恵ちゃんにも今まで色々面倒は見て貰っただろ? 今日だってご飯をを作って貰ったんだし」
「……あのね? そもそも今日は食べに行くって約束してたの忘れたの?」
「いや、だって」
「だって、じゃありません! じゃあもっと言わせて貰うけど、その大事な恩人さんの胸をあんないやらしい目で見ても良いの?」
「え……い、いやらしい目でなんて……見てな……」
「惚けても駄目だよ! さっき食べながらお兄ちゃん、エッチな本を見てる時と同じ目をしてたもん!」
「えええええ!」
ちょっと待て、エッチな本を見てる時って、えええ? いつ見た、いつ?
「あのね……恵さんは……まだいいよ……よくないけど……でも、いくら未亡人だからって、おばさんをあんな目で見るなんて……はっきり言って、引く」
「いや、え? そ、そんな……何で……」
なんだ、何で……全部バレてる? まさか! い、妹は……読心術でも使えるのか!?
「ああ、ほらまた……お兄ちゃんはいつも全部顔に出ちゃうからわかりやすいの!」
……顔に……ああ、言われた、今日おばさんにも言われた。
「いや、そんな……そんな事、そ、……ご、ごめん……なさい」
完敗だった……妹の言っている通りだ……今日の俺に……説得力は皆無だった。
「……まったく……おばさんに何を言われたか、なんとなく想像はつくけど……でもさ、そうじゃなくても、旅行の時から変だよ? どうしちゃったの?」
「……いや、えっと……」
ヤバい、また顔で、表情で心を、気持ちを読まれてしまう……まさか妹が成長したから寂しくなったなんて、高校生になって、大人になって……俺は俺の事をって、彼女とか作れって言われて、がっかりしたなんて……言えるわけがない。
そして……もし恵ちゃんや、おばさんと付き合ったらって……そんな事を想像してしまったなんて、マジで言えるわけがない。
だから俺は必死に顔を作った。表情を作った。気持ちを隠した。
「……もう……お兄ちゃん……あのね……ちゃんと足元を見てね……お兄ちゃんの事を一番大事に思ってる人の事を……ちゃんと考えてね?」
妹は少し泣きそうな顔で、でもどこか笑っている様な、そんな……なんとも言えない顔で俺を見る。
「え? あ、はい……」
足元? 大事な人? いや……大事な人は雪だけど……まあ、恵ちゃんも大事な人だし……おばさんも大事な人には違いないけど。
何か意味深な事を言う妹……いや、それよりも……そんな事よりも……これじゃ……どっちが親かわからない……。
妹に俺は完璧に……完膚無きまで言い負かされてしまった。
これで……益々妹の兄離れが進んでしまった様な気がして……俺は……またさらに……憂愁に陥ってしまった。
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