第133話「新たな疑惑と異世界交流?」
因果律操作魔法が強化されているのは本当で俺はいつもの何倍も力を出せた。その結果、不可能だと思われていた因果律操作魔法の適応範囲が広がり大人数を時空宮殿まで跳ばせて驚いた。
「これで一応は時間と世界を越えたな……」
だが同時に俺は膨大な量の魔力を消費していた。だが、これは異常だ因果律操作魔法は回数制で三回までのはずなのに今は魔力を消費する形になっていた。その事に若干の不安を感じながら周囲を確認する。
「間違いない、時空宮殿ですねバリアンス様」
「うむ、あやつらは……来たか」
そして、ここから先は転送魔法や転移魔術で移動が可能だから魔力さえ回復すれば大丈夫。この時空宮殿は言わば王国の世界と俺の世界の中間地点だが位置的には王国の世界に属した世界だからだ。
「やぁ~っと来たかカイリ!!」
「はぁ……出迎えは美女が良かったぜ、オッサン」
「言うじゃねえか、それに美女はお前の周りに……ってセリカとモニカの嬢ちゃん達じゃねえか!?」
目の前の筋骨隆々で背に巨大な戦斧を担いだ大男はギュルンスト=ロッシュタール伯爵。俺の元パーティーメンバーの一人で俺はオッサンって呼んでいた。
「それはそうであろうギュルンスト、二人の逃亡と幇助でカイリを無理やり連れて来るのが本来の作戦と話しただろ?」
後ろから現れたローブを羽織った白髪の老人は同じく俺の元パーティー最後の一人の魔術師で今回動いてくれたノアケール=ヴァインガー師、市井の魔術師だったが様々な魔術道具や魔術自体を発見、発展させた人で俺を除けば唯一の平民出身者だ。
「ノア師もお久しぶりです」
「ああ、息災のようだなカイリよ」
俺達が握手をしていると兵士たちは全員整列していたが姉さん達とルリは尻餅をついていて信矢さんや百合賀たちに起こされていた。
「ここが……異世界なの?」
「厳密には少し違いますけど、ほぼ間違いないですね……こんな形で来るとは」
ルリの疑問に答えたのはモニカだった。そして、その顔は少し複雑そうで隣のセリカの表情も曇っていた。
「そうですわね……あなたと慧花さんは特に」
「ここが時空戦争の決戦の地……か」
彼女達が複雑なのも当然で俺はここでイベドと一度目の死闘を繰り広げ本来ならモニカと慧花も参戦し、ここで死ぬ可能性が有った場所だからだ。
「積もる話は有るだろうが早急に王城へ……そこで王との謁見が待っている」
「随分と準備が良いですね」
「私とバリアンスの二人で下準備はしておいたからな、今は暴走した王と直接話す必要が有るのだカイリ」
ノア師の言う通りだと思うが一般人の三人や信矢さん達の派遣組は大変だろうから少しだけ休憩を頼んだ。連続の転移魔術や転送魔法は慣れて無ければ辛い。しかし何より問題なのは俺自身だ。
「ごめん、俺、魔力すっからかんだ」
「そうか、お前ならと思ったが、やはり一日は逗留が必要か」
「大丈夫、少しこの子を休ませてあげて欲しい、そうすれば俺が回復出来る」
俺はルリの手を引いて連れて来るとルリも気付いたようで
「どういうことだカイリ?」
「少し待っていれば分かりますわノアケール様」
「セリカ嬢……分かりました少し休憩を……」
そして数分後にはルリは最終チェックを終えて俺に準備が終ったと言えば、もうアイドルの顔になっていた。
「カイ、もう行けるよ!!」
「ああ、じゃあ頼むよ……俺の歌姫さま?」
「喜んで私の勇者様!!」
◇
そしてルリは静かなバラード調の曲を歌い始めた。珍しいチョイスだ。いつもの曲とは違って少し暗いけど心を慰めるような曲で、この場所には合っている気がした。そして俺の魔力も一番を歌い終わる頃には完全回復した。
「なんと……スキルなのか? これはっ!?」
「驚いたな、この嬢ちゃんが居ればカイリは休みが不要なのか」
ノア師とオッサンも驚いたようで周囲の兵士も俺が深い青のオーラに包まれるのを見て驚愕していた。そもそも魔力や神気を回復する方法は自然回復が基本で例外は極一部だ。
「これがカップリングスキル……凄まじいのうライよ」
「こんなのズルいの通り越して呆れるしかないですね」
説明を受けていたライやバリ爺ですら魔力が完全回復していく様子は異様だろう。それだけ神気と魔力の回復が出来るのは驚異的で、このスキルが異常にチートなのだ。
「ふぅ……どうだったカイ?」
「今日も最高だった……でも『隠せない、色
この曲はアルバム曲でライブでも滅多に歌われない曲だった。実際、悲しい曲で秘めた想いを何度も祈るように確認する静かな曲で逆に言えば暗い曲で人気は低い。でも俺はなぜか琴線に触れて気に入っている曲で、この世界でも聞いていた。
「まあ、ね……この曲は私が自分を確かめるための曲だったから……カイを好きだって想いを忘れないように初めて自分で作詞した曲だから」
「そっか……実はプレイリストに入れてるんだ、これも」
「あっ!? 本当だ……うれしいな~!!」
そして準備が整うと俺は普段あまり使わない転送魔法を使用する。転送魔法は転移魔術と違い大雑把な部分が多く大量に人や物を移動出来るが反面、一人一人の安全性が圧倒的に低くなってしまう上に転送先が広くて何も無い場所だという欠点があるから使用はあまりしなかったのだ。
「セリーナほどじゃないけど俺も使えるようになったからな、ただ向こうじゃ広い場所が無くて……」
だけど今回は王城の巨大な中庭に俺ごと皆を転送する。王城内には数万人規模の人間が収容出来て中庭も某ドーム数十個分の広さが有る。改めて魔力の戻った俺は周囲の全員を一斉に転送した。
「よしっ……着いた、全員いるか!?」
「問題有りません快利、瑠理香さんや千堂グループの人間には結界を張りました」
それを聞くと信矢さんと付いて来た男女二人の内、女性の方が何やら一昔前のパラボラアンテナみたいな機器を取り出し男性の方はノートパソコンを起動させていた。調査するとは聞いていたけど撮影してるみたいだ。
「分かった、那結果は周囲の索敵をフラッシュと頼む、慧花!!」
「なんだい快利?」
「最悪の事態を想定して動く、お前はどうする?」
「私は君に付いて行くさ……父上と袂を分かつ事になってもな」
それに頷くとセリカとモニカを見る。二人も時空宮殿で休憩中に装備を変更してもらい武装重メイド服と炎神の鎧を装備している。なのに慧花はなぜか私服のままだった。一応は俺の加護は付いているけどな。
「い、いよいよ謁見ね、やったろうじゃない!!」
「ユリ姉ぇ声が震えてる……いざとなったら快利が何とかしてくれるさ、な?」
「もちろんさ俺が必ず守るから、
そして俺も鎧を装備する。最後にルリは高校の制服のままでアイドル衣装は持って来たけど着ないでいいと頼んだからそのままだ。
「では……行こうかカイリ」
「分かった、ライ、先導を頼む」
そして俺達は兵士たちを中庭で待機させると主要メンバーだけで王城に乗り込んだ。
◇
「待っていたぞ快利」
「師匠、いやセリーナ殿……」
城内に入ると人の姿はなく完全武装した魔族の集団が居て更に中央には青い鎧に青い髪の美女で俺の師匠、真・超魔王の称号を持つセリーナだった。
「状況は理解しているな?」
「ああ、王と謁見するために本日は和平交渉のための親善大使として来た」
セリーナの問いかけに俺は頷いて目的を告げた。するとセリーナはフッと口元を緩めて言った。
「そうか……その道を選んだか、だが陛下は怒るぞ?」
「だから説得しに来た」
「分かった……頼むぞ」
それに頷くとセリーナは道を開け俺たちの先導に加わった。そして俺達は魔王さえも仲間に加え謁見の間に向かう。門番が俺達を確認すると門はすぐに開かれ通された先には三人の男が居た。
「これは……どういう事態かセリーナ?」
「親善大使をお連れしただけです陛下」
玉座には王、そして両サイドにはドノン公爵と仮面の男ネミラークがいて俺達の入室と同時に完全武装した近衛が部屋に出現する。隠形系の術か何かのアイテムの効果で隠れていたようだ。
「お久しぶりです殿下、親善大使の秋山快利です」
皆は驚いていたが俺やセリーナと元パーティーは気付いていて既に戦闘態勢に入っていた。だが俺は剣は抜かず一歩前に出て膝を付く。
「そうか……そうか快利!! お前はあくまで向こう側に付くと?」
「ええ、俺はただの秋山快利です、陛下」
俺が言うと王様は俺を見て溜息を付くと同時に声を荒げた。
「お前に理不尽を与え続ける世界を代表すると言うのか……快利!! あのような理不尽な世界など……それとも罪状を気にしているのか? なら気にするな二人を助けるためだったのは分かっている、今すぐに恩赦を出し私の後継者として国中に喧伝し、その上であちらの誤っている世界を正そうではないか!!」
「陛下、今日は是非とも、そのお考えを直して頂きたく参りました」
王がここまで俺に対しての理不尽に怒っていたのは驚いた。てか割と無茶振りして来たのは王様だったし、だが俺の決意は変わらない。俺は
「はぁ、分かった……では会談の場を設けよう、少し時間をもらおうか」
「ありがとうございます、つきましてお願いがございます」
「お前の申し出なら聞こう……それと敬語は不要だ普段通り話してくれ」
ある時から陛下呼びになったけど王様は最初から俺にはフランクに話せと言ってくれた。異世界から来たから慣れさせるためと言って周りを黙らせ数年は好きにさせてくれた。
「では、何人か連れて来た向こうの世界の人間を好きにさせてくれよ、王様」
「ああ、良いぞ快利、その者らは……っ!?」
「じゃあ信矢さん、お願いします」(王様が動揺してる?)
一瞬だけ王様が動揺した。顔芸が得意な人と言われているが俺には驚いてる顔が転移してすぐの時から丸分かりだった。だから以前にも分かりやすいと指摘したら俺以外では第二王妃にしかバレた事は無いと言われ、やはり俺に隠し事は出来ないと苦笑された。
「初めまして私は春日井信矢と申します、今回は千堂グループ代表兼、彼の友人として参りました」
「そうか……そうか君は……良いだろう、だが快利、その者は本当に友か?」
「友達っていえば少し違うけど向こうでは何度も助けてくれて友達って言うより近所のお兄さんみたいだな~って……勝手に思ってます」
母さんの件では千堂グループには世話になったし何故か俺を庇ってくれた場面が何度も有って、しかも裏で色々と動いてくれて狭霧さんと一緒に何かとサポートもしてくれた。
「実際に彼より年齢が四つほど上ですから、兄貴分なんて柄じゃないけど、そう思ってくれてるのは素直に嬉しいよ」
「ああ、そうか、君は……あの約束を」
王様がボソッと言った約束という言葉を俺は聞き逃さなかった。約束って何だろうか? そもそも王のあの顔はまるで……。
「な、何でもない、では今宵は歓迎の夜会を挟み明日、会談としよう」
その言葉で解散となったが俺の中では新たな疑惑と謎が頭の中で浮かんでは消えていた。
◇
そして今、俺はセリーナと元パーティーメンバーと信矢さん達と百合賀そして、いつもの七人を集めて会議室で状況確認をする事になった。
「まずはセリーナ、何で王を止められなかった?」
「それは――――「それは私が説明しようカイリ」
間に割って入ったのはノア師だった。俺は頷いて話を聞くと思った以上に立て込んだ事情が発覚した。
「魔族にだけ発症する伝染病?」
「ああ、私が迂闊にも時空宮殿から持ち帰ってしまったようなのだ、イベドの研究室を調べている間に私に付着していたようでな」
俺と時空の狭間で別れた後に王様に報告し調査隊を結成したセリーナが見つけたのが神逆兵器-神殺しの槍-と呼ばれる因果律操作魔法の効果と能力を大幅に大きくする時空間破壊兵器だった。
「それの存在の報告に戻った時には七大貴族は六つ消えて王城は大混乱だった」
そこで話を引き継いだのはバリ爺で七大貴族の六家が王に対して謀反を起こした経緯を語ってくれた。
「セリーナ殿が不在にしたのは二日間、謀反は調査隊が出立した翌日に発生してな前々から狙っていたのだろうがセリーナ殿不在を狙ったのは明らかだ」
だがタイミングだけは完璧だった。まずセリーナが居ない上に俺の元パーティーメンバーの内、王都にいたのはバリ爺だけでノア師は故郷の村へ、そして残りの貴族の二人は所領に帰っていた。
「わしが駆け付けた時には衛兵の殆どは絶命していたが王や王子それに王妃様は無事だった、ネミラーク卿と数名の近衛たちが必死に守って最後はネミラーク卿が謀反人たちを処刑したのだ」
「あの仮面の男か……」
先ほど謁見した玉座の間に六十名以上の私兵を伴い侯爵たちは王を追い込んだらしいがネミラークが防いだらしい。
「貴族戦争の生き残りで、そこまで強い者が?」
「貴族戦争での生き残りの騎士や貴族の強者なんて軒並み快利兄さんが……」
セリカの疑問にモニカが答えているが実際その通りで当時の騎士や魔法使いなど向こうに付いた者は戦中・戦後に俺が全て倒した。
「ああ、俺が……すべて」
もちろん慧花やモニカも手伝ってくれたし、今いるパーティーメンバーも協力はしてくれたが基本は俺が滅ぼした。大規模魔法や暗殺など様々な方法で敵を倒し俺が全て倒した恩人も含めて全てを……。
「戦争だったんだ割り切れと私は言ったよな快利?」
「慧花……ああ、そう、だったな……」
この頃から俺は徐々に心が死んで行ったんだ。いや心を殺さないと自分を保てなくなっていた。だからモニカやセリカが数少ない心の拠り所で、慧花、当時のケニーと交流するのが最後の自分の心を守る手段だった。
「快利、割り切っても良いけど苦しかったんだよね? 今なら好きなだけ愚痴っても良いのよ」
「そうだ快利、お姉ちゃん達が二人でお前を好きなだけ甘やかしてやる!!」
「あ、それは嬉しいけど今は無しで……」
エリ姉さんが抱き着いて来ても良いんだぞとか言ってたがルリが今は真面目な話をしてると言って中断させてくれた。だけど実は俺の本心は違った。
(今、死ぬほど甘えたいけど……決意が鈍りそうだから甘えられないよ)
その後も話し合いは夜会前まで続いた。信矢さんと百合賀たちは明日、旧魔王城の調査に向かう事が決まった。魔族繋がりでセリーナが一行を護衛してくれる事になって一安心だ。そして俺達は王城に残って王様との話し合いだ。
◇
「中規模か……現状なら頑張った方か」
「本当の舞踏会なんて初めてだよ、そして君は鎧のまま?」
夜会は凄まじく豪華……という訳では無いが王家が主催するだけあって規模も決して小さいわけでは無く貴族も緊急招集した王都周辺にいる者らを中心に有力な家が数十家と、その子弟や従者を含め数百名を越えていた。
「魔王討伐の旅に出た日からは俺の正装はこれでしたよ、てか信矢さんタキシードとか持って来てたんすか?」
何が有るか分からないからと狭霧さんとお母さんが用意してくれたらしい。こっちの貴族の正装とはだいぶ趣が違うが信矢さんの着こなしは完璧だった。
「俺もやっぱり鎧じゃなくて何か別なのを……」
「そんなこと無いよカイの鎧姿似合ってるよ!!」
「そうね、いかにも勇者って感じだしね……その、素敵じゃない?」
後ろに振り返るとアイドル衣装のルリと黒いドレス姿のユリ姉さんがいた。遠目には王様と話しているエリ姉さんとセリカもいて例の仮面のネミラークもいる。
「ルリは相変わらず可愛い……はっ!? それよりユリ姉さんのドレス、それどうしたの?」
「それは母上の昔のものを借りたのさ」
そして同じく意匠は違うが同色の黒のドレスに身を包んでいたのは慧花だった。どうやら姉さん達は第二王妃のものを借りたようだ。俺は数度しか会った事が無いけど手作りのお菓子とかもらった優しい人で慧花と一緒に茶会に招かれたことも有る。
「絵梨花と母上は話が合ったようでな、あと母上は私が生きている事を知らされて無かったから凄く驚かれたよ」
そら死んだ息子が生きてたらビックリするだろうなと言うと、転生した事よりも女になってた方に驚かれたらしい。
「まあ、そっちも驚くか……でも、う~ん」
「娘になりましたって言ったら笑われたよ」
その後に「おかえりなさい」と言われて不覚にも泣きそうになったらしい。俺にも経験が有るから分かる。姉さん達に言われたおかえりは自然と涙が出て帰って来れたと実感出来たからだ。あれから半年以上か早いな。
「ああ、そしたら驚いた後に、あなたも王家の血筋ねって言われてね」
「まさか王家って転生しやすいの?」
ユリ姉さんが冗談めかしに言いながら肩のグラスに野菜のスープを与えると「こっちの野菜はマズイ」と言ってペッと吐き出していた。やっぱ、こっちのってマズいんだな。
「違うさ由梨花、王家の人間は諦めが悪くて凄くしつこいのさ……私の快利への想いを母上はそう感じたらしい」
王家の人間は王様を筆頭に執着心が強く最後まで諦めない。この国の滅びを諦めなかったから王様は異世界転移こと勇者召喚の研究を続けて俺を呼び出した。そして今回は俺の事をしつこく追って来たという訳だ。
「じゃあ俺たちも、そろそろ本丸に行きますか」
「ならば私も参りましょう快利」
ちゃっかり那結果も第二王妃から借りた白のドレスを着て俺の後ろに付いていた。そして姉さん達とルリも引き連れ六人で王の元に向かう。まずは異世界外交いや異世界交流の第一歩だ。
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