第132話「本日から親善大使になった元勇者です」


「以上が、お前の罪状じゃカイリ分かったか?」


「分かったよ、そんで要求は何だ?」


「なに簡単じゃ……王は何よりお前の帰国を望んでいる、それだけじゃ」


 あれから二日、俺は世間の皆様から注目を浴びワイドショーやネットのオモチャになっている現状を変えるために総理官邸に来ていた。総理官邸なのに今はグレスタード王国に占領されて現地人の方が少なかった。


「王様は……いや陛下は今さら何の用だ? 魔王軍団はもう居ないだろ」


「それは分からん、しかし陛下は昔から底が知れんかったからの……考えの深淵は見通せんな」


 困ったら俺に問題を丸投げしながらも人格的には国民を守ろうとする人徳有る王で自分の主義のためには貴族すら敵に回し滅ぼす王、それが俺の知っている王様だ。


「普段は飄々としているのに、やる時は徹底的にだからな……」


「うむ、そこで二人きりで改めて話したいと言ったのは理由が有る」


 もったいぶる言い方はバリ爺の昔からの癖で一呼吸置いて口を開こうとしている。魔王討伐時で七十手前で今は八十に手が届く年齢だからかも知れないが老いたように思えた。


「何だ?」


「王は暴走している……何が原因か分からぬが儂や他の者が反対しても今回の遠征を強行した、そして反対の旗頭の二人の王子を幽閉までしたのじゃ」


「やっぱり……おかしいと思った、二人は無事か?」


 今は無事だと聞いて安心した。隣の部屋で総理や他の政治家と会談している慧花に良い報告が出来そうだ。だがバリ爺の話はまだ続きが有ると言った。


「実はセリーナ殿が暫く不在だったのじゃが、その期に乗じて王位を簒奪しようとした新興の六つの侯爵家が謀反を起こした、しかしネミラーク卿に防がれ逆に六つ全ての家が取り潰され当主は全員処刑された」


 そして唯一、加担しなかったライの伯父の家、ドノンシス・シィ・エルントゥーナ侯爵が今まで名誉爵位とされていた『公爵』へと陞爵しょうしゃくされセリーナも同様に王国公爵となって今は二大公爵体勢となったらしい。


「それはライから少し聞いたけど、師匠が不在……そうか時空宮殿を調べるって言ってた……てか忘れてたバリ爺、一番聞きたい事が有ったんだ」


「なんじゃ?」


「どうやって、この世界に来た?」


 兵士たちの話ではセリーナの大規模な転移魔術なんて聞いたが不可能だ。あれは大規模な因果律操作魔法だ。さらに因果律操作魔法は個人単位でしか使えない。大人数に使うことは本来は出来ないのだ。


「神殺しの槍、神逆兵器の話は聞いたか?」


「ああ、兵士の話ではセリーナの魔力で動いて異世界転移が可能だと……」


「あれは因果律操作魔法の効果を大幅に強化するために作られたもので新生魔王イベド・イラックが完成させた負の遺産じゃ、セリーナ殿の話では神に逆襲するために作られた兵器らしい」


 ま~たあいつか、そういえば言ってたな神を殺すだの神殺しだの神の陰謀とか俺の家族や大事な人間を巻き込んで、ほんと諸悪の根源だった。死んでからも迷惑かけんなクズ野郎め。


「セリーナは向こうで、それを調べてたのか……」


「ああ、その存在を知った陛下は、この世界への侵攻を……すまないカイリ、我々ではもう陛下を止められない何とか開戦だけは避けようと王には偽の報告を送ったがバレるのは時間の問題だ」


 王は侵略戦争する気満々なようだが平和になったばかりのグレスタードに、そんな余力は無い。さらに新たに貴族を六つも処分した状況で国はどんどん荒れてしまう。だから王命を聞くふりをしてバリ爺とノアケールの爺さんは動いたらしい。


「はぁ、分かった行くよ王国へ、それにイベドが……あのクズが関わっているのなら俺のやり残した仕事だからな、俺が……王様を直接説得する!!」


 あの新生魔王が関わっているなら俺が止めるしかない。ついでに神逆兵器とやらも破壊する必要が有りそうだ。そして俺とバリ爺は詳しい打ち合わせのために隣の部屋での話し合いに参加するため移動した。




「――――という訳で、しっかり頼むぞ秋山親善大使!!」


「そら大丈夫でしょうけど、えっと外務大臣……様?」


 王様は俺をどんな形でも王国に戻したい。ならばと時間稼ぎの苦肉の策として考えたのが親善大使として俺を送り出すという話だ。


「様なんて不要さ秋山くん、それよりバリアンス殿、本当に大丈夫なんですね?」


「カイリは仮にも向こうでは英雄、それを犯罪者として連れ帰るよりも両国の平和の象徴、親善大使とした方が外聞は良いですからの」


 そして、俺の因果律操作魔法で乗り込み王を説得する。じゃあ俺の正体を、わざわざ世界中にバラす必要無かったよなと言うと返答はこうだった。


「お主は追い詰められなければ動かんじゃろ? 」


「そらそうだけどさ……あとメンバーは俺に決めさせろよバリ爺?」


「構わぬ、ただ慧花殿と那結果殿の二人にはぜひ来てもらいたい、そのつもりで頼みますぞ? 特に慧花殿は」


 それに頷く二人を見て満足そうに頷くバリ爺に俺が頷いたタイミングで外務大臣がまた割り込んで来た。結構ウザいな。


「本当に、ほんと~に!! バリアンス殿のご機嫌を損なわないように頼むよ~」


 やっぱあれか……バリ爺の魔法にビビッてんな。それも仕方ない、いきなりあんなの見せられたら一般人はこうなるか。警備に完全武装の自衛隊員が四人もいるのにビビり過ぎだ。


「いやバリ爺なら大丈夫ですから、な?」


「うむ、正直、カイリとまともに戦うなんて儂は出来んぞ外務大臣殿」


 バリ爺が素直に頷いた。昔は魔法の師匠だったけど邪神を倒した前後で完全に俺が凌駕している。加えて高齢だし戦闘はそろそろ厳しいはずだ。


「へ? え?」


「総理大臣殿、外務大臣殿、そもそもカイリは単独で王国を相手に出来る上に我々の世界を六度も救っている英雄です」


 ライも同意するように言うとバリ爺とかライにへりくだっていた総理や政治家の顔色が明らかに変わっていた。


「な、何をライカルド殿まで先遣隊の話ではお二人は王国で負け知らずと……」


「わ、わたしも伺った話ではそうと……ねえ?」


 そして何かを察したのか総理や大臣の口が重くなる。ちなみに七海さんと慧花と那結果の三人は総理たちの部下の次官と呼ばれる人らと話をしていたが彼らは事前に話を聞いていたようで最初から俺を警戒していた。


「ああ、カイリが王国を守っていたからカイリ以外には負け知らずだ」


「なっ……では、まさか、一番危険なのは……」


 ここで外務大臣と近くにいた副大臣らも固まった。そら自国の高校生が異世界最強だとは思わないだろうから当然のリアクションだ。しかも犯罪者扱いだし。


「あ、一応は俺です、元勇者の秋山快利、異世界転移して六回ほど世界救ってます、そんで今は高校生で父の会社でバイトしてま~す」


 少し照れ臭いけど嘘は言ってない。そんな俺を見た後に大臣二人は互いに頷くと素早く動いた。


「「勇者様~~~~日本を頼みます~~!!」


 まさかの総理と外務大臣の土下座だった。勇者式土下座よりきれいで慣れているのを感じ俺は自分の母国のトップに凄まじい不安を覚えた。


「わ、分かりました不肖、秋山快利、グレスタード王国に日本国の親善大使として行って来ま~す!!」


 そして俺はそのまま任命式に勝手に出され完全に顔バレ&身バレした。その時には総理は何事も無かったように俺と握手していたから一国の主というのも大変なんだと思い知らされたのだった。




 その後、俺はバリ爺も含めて明後日の皆が一斉に移動するための準備のために千堂グループの第二ラボに戻っていた。


「それで残りの二人は何してんだ?」


 ライの話だと俺の元パーティーメンバー全員が投入されていると聞いていた。だが今目の前にいるのは二人だけだ。向こうの世界に帰るなら残りの二人も回収しなきゃマズイだろう。


「ああ、我々の連絡が無い時に突入する手筈となっていてな、ライは言っとらんのか? 今は時空宮殿に待機しているはずじゃ」


「んな話聞いてねえぞライ?」


「俺は作戦に投入されていると言っただけで、この世界にいると言ってないギュルンスト伯やノアケール殿は時空宮殿だ」


 やれやれと言ってるライは銀髪をサラサラさせて無性に腹が立ったから思わず聖剣を呼び出す。


「お前っ、本当にそういうとこ変わんねえな!!」


「じゃ、やるか?」


 ライも魔術剣を構えた。ちょうどいい運動だと俺達は剣を構えた。そして数時間くらい勝負をし続けていると後ろのドアが開いた。


「ふぅ、ここが一番落ち着くなんて……あ、ケイいたいた、これ課題ね」


「ああ由梨花、助かるよ……他の四人もそろそろ帰って来る時間か?」


 ちなみに慧花と那結果は大学と高校をそれぞれ休んでもらっている。逆に今日、大変なのは高校に出ている四人と今やって来たユリ姉さんだろう。


「それでフラッシュ、ユリ姉さんの周囲はどうだった?」


 スマホを付けて確認すると即座に画面にフラッシュが出現し報告を始めた。


『有害な者が三十名、全て排除した……主の言う通り殺しはしなかったぞ』


 ユリ姉さんだけで三十人か……高校の方は何人いるんだろうか。一応は千堂グループからも護衛を出してもらってるけど親父や家にいる夕子義母さん、病院にいる本当の母さんにも護衛が割かれているから万全では無いそうだ。


「私はご主人様のご学友に野菜スティックを頂きました~」


「変な記者が近寄って来たからグラスが蔦でグルグル巻きにしちゃって……」


 それで首に巻き付いて護衛してるのがバレてサークル仲間に匿ってもらった際に餌付けされたらしい。


「それは良くやったなグラス、マリンの回復はどこまでだフラッシュ?」


『マリン姉さんは全盛期の七割くらいだと聞いた』


「そうか、なら最悪の場合でも皆を逃がせるな……」


 俺達が話しているとスマホを覗き込んで来たのは元パーティーメンバーの二人で特にマリンドラゴンに所領をメチャクチャにされたライは複雑そうな顔をしていた。


「それにしても、まさか七竜まで手懐けるとはな」


「もう三竜だし、話せば分かる奴らばかりさ」


「そうか……ただドノン伯父上が見たら卒倒するだろうな、また港や湖が吹き飛ばされるって泡吹きそうだ」


 違いないと言っていたら後ろのドアに気配を感じ振り返ると気配が五つ。恐らくはエリ姉さん達、高校組の四人と……あと一人はと考えているとドアが開いた。


「快利!! 戻るなんて聞いてませんわ!!」


「そうです帰ったら、お気楽な野良メイドライフが無くなります!!」


 異世界の問題児の二人をゲンコツで黙らせると同じく異世界からの仲間が笑いながら和んでいた。そういえば向こうで邪神戦争後の少しの間は王城ではこんな感じだった気がする。


「二人は変わらないのぉ~」


「ですねバリアンス様」


 そして問題は残り三人だ。その内の二人はエリ姉さんとルリだけど最後の一人が問題だった。


「百合賀……」


「絵梨花に無理を言って来させてもらった……すまない」


 ライは気付いてないがバリ爺は気付いたようだ。しかし、この二人とは因果なものだ。なんせ百合賀にトドメを刺したのはバリ爺と相方の魔術師ノアケールの爺さんの二人だったからだ。




「何で出て来た、お前の事は黙ってるつもりだったんだぞ?」


「分かっているナノや絵梨花にも止められたからな」


 じゃあ何でという前にエリ姉さんとルリが出て来て話を聞いて欲しいと言われたから俺は聞く事にしたが先に反応したのはバリ爺だった。


「そなた魔力の素養が有るな……それに、この魔力は覚えが有る……誰じゃったか」


「過去お前達に敗れた元魔族だと言ったら?」


「ふむ……そうか四天王か、しかし明らかに今は人間じゃな理由を聞いても?」


 百合賀の言葉に頷くとバリ爺は正体に気付いたようで疑問を口にしていた。一方でライは剣に手をかけたので俺が止めた。


「おいカイリ、四天王ってどういう事だ?」


「今の彼女は俺の学校に通っている百合賀尊……先輩、この世界に普通の女子高生として転生したんだ、そんで色々有って記憶と魔力が戻った元ビルトリィーだ」


「えっ……いや、そういえば少し似てる、ってカイリ、俺とお前とギュルンスト伯がボロ負けした相手じゃないか!!」


 俺たち勇者パーティーは過去にビルトリィーに敗北寸前まで追い込まれた。最後はバリ爺と魔術師ノアケール師が倒した。どうやって撃退したかは俺達は知らない。


「俺はこっちでリベンジしたから」


「それ有りかよ……じゃあ何で生きてる?」


「彼女には色々と世話になったからだ」


 ポイズンドラゴン戦や文化祭、そして那結果の編入など地味にお世話になった。俺の言葉に一応はライも納得して剣にかけた手を戻し百合賀の話を聞くと予想外な事を言い出した。


「私も王国に……あちらの世界に連れて行ってくれ、親善大使になったのだろう?」


「そりゃ俺に一任されてるから問題無いけど、どうしてだ?」


「向こうに残した気がかりが有る、我らの魔王サー・モンローが例のイベド・イラックに唆されていたのなら、魔王城を調べた方が良いと思ったのだ」


 その内容は分からないがドラゴン達が封印されていた地下室の奥の実験室に何かが有るらしい。それの確認をしたいと百合賀は言った。


「なるほど……それで黒幕会長には言って来たのか?」


「これから言おうと思っている……それにもう逃げ切れないし何よりナノと住んでる世界にまで影響が有るのなら私も決着をつけたいんだ」


 百合賀の目は真剣で俺は頷くと彼女も連れて行く事を決めた。それを待っていたと言わんばかりに中継を見ていたとルリが前置きして言った。


「カイ、私も付いて行くよ……正体がバレてもね、だってカイも勇者だってバレちゃったんだしさ」


「私はバレる正体は無いが姉として付いて行く」


 そしてエリ姉さんも行く気満々なようだ。俺は素直に嬉しかった……今度は俺に二人はしっかりと付いて来てくれると言ってくれたから。


「ありがとうルリ、エリ姉さん……二人には来て欲しいって頼むつもりだった」


 良かったと心から思えた。だって二人は俺の大事な人でもう二度と失いたくない大事な人達だから。かけがえのない存在だから。


「あ、では私は遠慮しておきますわ、ね? モニカ?」


「そうですね~セリカ様、わたしは夕子義母さまと妹の護衛に」


 こんな場面で何を言ってるんですかね。今良いとこだからと俺が慧花に視線を向けるとニヤリ頷いて二人の前に立って慧花は宣告する。


「二人は強制連行だ、なんせ誘拐されたんだからな?」


「「え~」」


 嫌だ~と我儘を言う二人を那結果に任せると俺は異世界行きのメンバーの選定に入った。そして出発の日はすぐに来た。




 カメラのフラッシュが凄まじい数でルリ以外この状況に慣れていない。ちなみに狙撃は三度ほどされて俺が全て防いだ。


「無駄だ、この場の誰も傷付けられない結界を張った……豆鉄砲で元勇者を殺れると思うなよ自称テロリストさん?」


 これが俺のカメラの前での第一声だった。ちなみに俺は敵にカウンターとして即座に天罰覿面何が出るかな?を発動させ効果を最短に設定した。


(那結果、効果が出た奴を順に千堂グループに連絡して確保してもらってくれ)


(はいマイマスター、秋津さん達が動いてくれるそうです)


 そしてメンバーは俺と、那結果を含めた女子が七名。秋山家プラス慧花とルリだ。そして千堂グループからの出向組として信矢さんと他は男女一名づつの二人と百合賀も、ここに変装して入れて貰った。


「カイリ、あの程度なら俺でも何とか出来たぞ?」


「言うなよライ、一応はホームで活躍くらいさせてくれ」


 俺は聖剣をぶんぶん振って言うと「あいよ」とライも答えて魔術剣をしまった。もちろんライとバリ爺も帰還組で兵士たち八〇名も帯同する。残りは千堂グループの地下で待機してもらい第二陣として帰国予定だ。


「バリ爺、合図ってのはこの魔力か?」


「ああ、このタイミングで因果律操作魔法を発動すれば後は転送魔法と転移魔術を組み合わせた使い方さえ分かれば大丈夫だとセリーナ殿は言っていた」


 それに頷いて俺は空を見て最後にカメラを見た。


「じゃあ異世界に親善……行ってきます!!」


 そして次の瞬間、百名近い人間が一瞬で転移した。目指すは新生魔王の使っていた拠点『時空宮殿』そこを経由して俺たちはグレスタード王国に向かう。俺は周囲のメンバーを最優先で守れるようにして時空の狭間へ跳んだ。

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