第131話「世界中にネタバレされた挙句に指名手配とかマジ?」


『――――以上です。我々は無事です。国民の皆様におかれましては何も心配は有りません、次に我が国と、国民の皆様の新しい友人を紹介しましょう』


『ただ今ご紹介に預かったグレスタード王国の王国筆頭魔導士のバリアンス・マガトノルダークです、言語はキチンとご理解頂けますかな? この国の言語は魔法で訳させて皆々様の耳に届いているはずですが、結構、では――――』


 テレビの中では俺の元パーティーメンバーの一人、いつの間にか王立アカデミーの教授から筆頭魔導士とかいう聞いたこと無い役職に就いた老人が映っていた。


「ま、俺らの中じゃ一番まともか……」


「何を言うカイリ、俺が一番まともだったろ?」


 横の元仲間は今は捕虜の癖に優雅にモニカの淹れた紅茶を飲みながら文句を言ってやがる。一応は牢屋に全員いるので捕虜なのは間違いない。


「交渉事はバリ爺に任せてたろ、お前はすぐに剣出すしギュルンストのオッサンは斧出すし、ノアケールの爺さんも無口だし」


 俺達は無駄に長い総理の会見を三十分以上聞きながら和んでいた。そもそも途中から予想通りの流れだった。


「迂闊でした、政府側も情報封鎖していたのは分かっていましたが……異世界の存在を知っているのは我々だけとの過信は有りました、少し政府を舐め過ぎました」


 七海さんもモニカの紅茶を飲みながら溜息を付いていた。今言った通りで政府サイドは既に一部の人間が異世界と繋がりを持っていて、その事を発表したのだ。そして今日の二十一時にその事を大々的に公表する気だったらしい。


「ま、向こうも半信半疑だったらしいから最初からガツンと行く気満々だったらしい、軽く我らの力を見せつける事も兼ねていたのさ結果はご覧の通り」


 確かにテレビ見たらイニシアチブをどっちが取ってるかは一目瞭然だ。さすがは一国の総理と呼ぶべきだが顔色は隠せず緊張が伝わってくる中継でSNSはお祭り騒ぎになっている。


「それで官邸を襲ったのか……人に被害は出してないだろうな?」


「死者は出してないはずだ、王からは可能なだけ死者は出すなとの命令だからな」


 今さっき聞いたが俺の足止めがライの仕事らしく俺が動かなければ被害は出さないそうだ。とにかく王国は最初から敵は俺のみと想定して今回の作戦を展開していたようで俺が妨害すると判断していたみたいだ。


「いや別にしないけど?」


「嘘付くな、お前なら絶対に俺達を止めるだろ? 現に俺と戦ったしよ」


「そりゃ戦うだろ、皆が危険に晒されたからな」


 ここには俺の大事な人が多数居る。だから守っただけで総理だろうが何だろうが俺に関係無い人間は何か無いと助けないのが俺の今のスタンスだ。


「だろう? だから向こうの人間も――――「残念だがライカルド、快利は少し変わったんだよ、な?」




 ニヤニヤしながら慧花が近付いて来た。イタズラっぽい笑顔を浮かべて何が言いたいのかも分かったから思わず返答に窮していた。


「どういう事でしょう殿下?」


「今の快利は私達が危機にならないと動かないぞ、な?」


 そう言っていきなり俺に抱き着いた。柔らかいです相変わらず……そして大きいです。腐っても元男なだけ有って慧花はこっちの好みがよく分かってるのが悔しい。


「……うっせ、言わせんな」


「ほうほう、これは、ならわざわざ国を抑える必要は無かったな……お前の女を一人でも攫えば……じょ、冗談だカイリ、俺達以外は殺気だけでショック死するぞ」


「次同じこと言ったらオメーでも斬るぞ」


 聖剣と神刀を出して威嚇する。俺の大事な人たちに手を出したら永遠に許さないし許されない。


「つまり愛されているのさ私達はな?」


「あの~殿下よろしいでしょうか?」


「ん、何だね兵士くん」


 先ほどまで捕虜の兵士たちも今は自由にしていて地下の牢屋のスペースの中なら好きにしてよくなった。理由としてはここに俺とライが居るからだ。


「つまり何とな~く分かる限りで、殿下も含めた、こちらの七名の方は全員が勇者様の奥方という事でしょうか?」


「ああ、そのとお――――「ちっ、ちげえしっ!! まだ結婚とかはええから!!」


 そんなんじゃないし、てかハーレムとかダメだし。慌てて俺が訂正に入ると兵士たちは驚いていたがライは明らかに新しいオモチャを見つけたような顔をしていた。


「いや~、お前が女の問題で慌てるのを見るのも懐かしいな」


「言い方考えろよ?」


「ふむ、私の快利が向こうの世界でもモテモテだったのは知っているが実際どうだったのだライカルドさん」


 声をかけたエリ姉さんは保護者のように俺の私生活を聞き出していてユリ姉さんやルリも興味津々に聞いている。


「なるほど、こちらの世界にも待たせている者がいたとは……そうか君達が」


 旅の仲間には魔王討伐の際にエリ姉さんの話は何度かした事が有った。特にライは俺の剣術が独自で、ある程度しっかりしていた事で疑問を持たれ色々と質問されたから詳しく話したことも有った。


「しかし例のカイリの姉がこんなに美しいとは、胸以外は猿害獣の如き野蛮さと聞いていたが……」


「ほう、快利お姉ちゃんに何か言う事は有るか? セリカ、モニカ、猿害獣とは何か教えてくれないか?」


 俺は言うなよとセリカとモニカを見た。慧花も笑ってはいるが分かったという表情をしていたから安心したら後ろの那結果が言っていた。


「こちらで言う所のゴリラに似たモンスターですよ絵梨花姉さん?」


「さすがに酷いぞ快利お姉ちゃんは胸以外も女だぞ、今度確かめさせてやろう」


「だ、だってエリ姉さん昔は腕力は俺より上で抑えつけたり押し倒したり酷かったじゃないか!!」


 エリ姉さんは悪意は無いけど無自覚な体罰お姉ちゃんだったせいで俺の体は無理やり鍛えられた。それこそ高校で軽く暴力を振るわれても大したダメージは無いくらいには丈夫だった。


「そういえばカイが毎回、技の練習台にされた挙句ストレッチと言って凄い体を抑えつけて来るって……ああっ!! カイに抱き着きたかったんですね!!」


「その通りだ瑠理香、お前が中学の頃に快利とイチャイチャしていた頃からな!!」


 そしてエリ姉さんとルリが言い合いを始めたから俺は二人は放置してライを睨んだ。中学時代の話は二人にはNGなのにと思っていると、もう一人ダメージを受けている人がいた。


「ご主人様~、弟殿も怒って無いって言ってるじゃないですか~」

「その通りです今さら落ち込む必要などございません」

「元勇者は、お優しい方ですよ?」


 隅っこの方でドラゴン三体に慰められているユリ姉さんだった。


「だって、快利あっちの世界で私の話してないみたいだし、そりゃ私はあんなだったから話してないだろうけどさ~」


 実際、ユリ姉さんとは険悪を通り越して嫌われていたし真っ先に忘れていたからな仕方ないと考えてドラゴン三体に任せておく事にした。そんな話をしている内にテレビの内容は一気に凄い事になっていた。




『――――以上が、当グレスタード王国の考えで有り敵対するつもりはございませんが、あくまで日本国に限ってと王は申しております、がっ――――』


 次の瞬間、テレビ内で銃声が響き話していたバリ爺が狙撃されていた。倒れたバリ爺から血が……流れなかった。そして何事も無く起き上がると慌てる周囲を見てニヤリと笑って自分に向かった銃弾を見せた。


『これが、こちらの兵器ですね……素晴らしい鉄製の小型の矢じりのような物を火薬で飛ばす原理と聞いてます、まあ最初から実態を知っていれば魔法で対処できます」


 そう言って手に取った銃弾を浮かせると炎の魔法で溶かしていた。どんなに速い弾丸も威力の高い火器も防護魔法や爺さんのローブに張り巡らされている防衛魔術には傷一つ付けられないだろう。


「この世界で傷つけられるとしたら戦車の大砲とかバズーカ砲とか、ああいう凄まじい火力のだけだろうな」


「それの威力は知らんがカイリが言うのだから間違いない、しかし面白いなこの世界は初速だけなら俺の剣と同じかそれ以上だ」


 ライと俺が淡々と話しているが現実世界組の三人は慌てていた。そりゃ目の前で狙撃されたんだから当然だ。ちなみに後で仁人さんに聞いた話だとアンチマテリアルライフルなら貫通が可能な強度だと教えられた。


『さて、実は今のもこちらで用意しました、こちらの言葉でデモンストレーションというらしいですね、これで少しはこちらの世界の方にもご理解頂けたかと……』


「カイ~!! SNSが凄い事になってる重いよ~!!」


「うわっ、ほんとだ、困惑の声に陰謀論から他にも色々……」


 ルリの言う通りでSNSは主要な所もニュースサイトも実況する動画チャンネルなども大混乱が起きていた。しかし俺の旅の仲間はマイペースだった。俺たちのスマホを見て何かを思い出したようだ。


「ほう、そういえば、これで歌を聞いていたなカイリ? それに俺や他のパーティーメンバーの絵を瞬時に作り出したりな」


「絵を瞬時に? あ、ああ……カメラか」


 写真って概念が無いからな向こうは……あれ? でも王様は知ってたよな。あの人も謎だ。なぜか俺たちの世界の知識を持ってるからな不思議だけど。


「音楽ってカイ!! もしかして私の歌!?」


「えっ……いや――――「いやいや、お嬢さんとは髪色が違う。カイリが言うには歌った者はこの国で一番の清楚系美少女アイドルで黒く長い髪をなびかせ守ってあげたくなる可憐で尊い存在とカイリが……ん?」


 何で俺が旅の途中で復唱させた言葉を今でも覚えているんだこの剣士は、そういえば無駄に記憶力良かったんだこいつ。


「カイ……やっぱり大好き~~!!」


「ルリ!? 抱きつかないで大変な事になるから!!」


「これは余計な事を言ったようだな、済まないな」


 ライの野郎が欠片も悪気が無いように髪をファサってしているけど俺はそれどころじゃない。ルリが俺に抱き着いてくると、どさくさに紛れてセリカとモニカまで俺に抱き着いて来て更に後ろからは那結果までくっ付いて来て動きが取れない。


「ちょ、おい!! モニカと那結果は聞き分けが良かったろ止めてくれ!! ったく、慧花もエリ姉さんも笑ってないで助けてくれよ~」


 ユリ姉さんにも助けを求めるとやっと復活したようで三竜を使って引き剥がしてくれた。だからもみくちゃにされてる間に慧花とライの会話が聞こえていなかった。


「ふっ、そうか……カイリ本当に変わったんだな、いや、これが本来のお前の姿だったのかもしれんが、どうなのです殿下?」


「私が合流した時は転移したての君らと旅をする前の甘えた子供に戻ってたよ」


「そうですか……ああ、あの英雄も人の子だったか」


 そんな和んでいた俺達だったがテレビの放送はまだ続いていた。




『と、このように両国の発展と友好を我が王は強く望んでいますが一つだけ要求が有るのです……皆様と強いては両国の間で禍根を残さないために必要不可欠なことがございます』


 どうやら今まではグレスタード王国のスタンスの話をしていたようだ。そして本題だと言わんばかりに目を開いた老人は口を開いた。


『ところで皆様、こちらの世界でも勇者と呼ばれる存在が実は我が国にも居ました』


 その発言に俺と他の、この場の全員がテレビ画面に注目していた。


『ですが、その勇者は逃亡しました……この世界に、それはなぜか……彼の故郷がこの世界、この国だからです』


 その場の政治家や一部の関係者ですら驚きの声を上げてざわついていた。これでマスコミが大量にいたら大変な事になっていただろう。


『なので我らとしては、その逃亡者の返還願いたい、実はその者は我らが王国から貴族の令嬢と付き人を誘拐しているのです』


「ちょっと待て……」


「そういえば誘拐されましたわねモニカ?」


「はい、快利兄さんがお義父様たちに土下座して誘拐されましたねセリカ様」


 事実がだいぶ違ってるよね。土下座はしたけど誘拐はしてないからね俺は師匠に二人を任されただけだから……そうだよなと俺はセリカとモニカそしてセリーナから話を聞いてるはずの慧花にも文句を言った。


「やはり、そのような事態か……二人に朗報と言うか報告だが七大貴族は滅んで今は二大筆頭公爵家と呼ばれ方が変わったぞ?」


「本当ですかライ師匠!!」


「ああ、てか本来は王はカイリが戻らない場合を想定して君やモニカに潜入して内部から不正を暴いてもらおうと考えていたらしいからな」


 どうやら七大貴族も問題が有ったらしい。今はセリーナともう一人ドノンのおっさんの二人が侯爵から公爵となって王の側近のような扱いだそうだ。


「え? じゃあお前ん家が実質ナンバー3じゃんライ?」


「ああ、ドノン伯父上も頭を抱えていたよ、上が皆消えて自分に重責が~って」


「ああ、ご愁傷様だ」


 あの人は四大侯爵家の頃から苦労人だったからな。文官だったから大変そうで何回か手伝ったら仕事を手伝わされて大変だった。向こうはマジで理数系居ないから測量とか大変だったし、識字率も低くて読み書き出来る俺が貴重だったからな。


「そんな事より快利、あんたの話まだ続いてるわよ」


「分かってるよユリ姉さん、爺さんは話長いから大丈夫――――」


『なので、日本政府に対し我が国は勇者カイリ、この国では秋山快利と名乗る青年と彼が連れ去った侯爵令嬢とお付きのメイドの引き渡しを求めます、これは誘拐犯の返還という我が国と日本国との外交問題の発展する行為だと王は考えております』


 そして政府の人間が俺の顔写真のパネルを持って来た上に横にセリカとモニカの写真まで載せやがった。


「ふっざけんな!! じじい!!」


「なるほど、これが王の言っていた大義か……考えたな」


「ライ、お前も父上が何か考えてるくらいは言ってくれ」


「そうは言いますが殿下、私が陛下に知恵で勝てるとでも?」


 ライと慧花は余裕ぶっこいてるけど俺は問題だ。全国に俺が勇者で逃亡者で指名手配なのがバレちゃったんですけど舐めてんですかね皆さん。


「ちょっと快利!! もう全国ネットよ、赤っちとかサークルの皆から通知ヤバいんだけど!!」


「こちらもだ奈之代と百合賀からも来ている!! 家にいる母さんからも電話が」


 姉さん達のスマホも通知が、あっと言う間に三桁を越えて今は夕子義母さんから通話が来たから出る所だと言う。


「事務所とクラスの皆からも連絡来てるよカイ~!!」


 そしてルリの方も大変なようで那結果はどうしているのかと思えばスマホは切ってるから問題無いようだが俺の肩をチョンと叩くと問題児の二人を指差していた。


「はい、実はそうなんです、私はカルスターヴ侯爵家の令嬢で―――」


「ええ本物です、だから皆さんは本物の王立メイド――――」


「お前らはいい加減にしてくれませんかねえ!!」


 そして慌てる俺達に対してセリカとモニカはマイペースにも通話して来たクラスメイト正体を明かしやがった。二人にゲンコツしていると今ので俺が近くに居るのが分かって余計に電話口は騒ぎになる始末だ。


「快利、私のSNSの裏アカウントで調べましたが学校やご近所の皆様が順調に個人情報を漏らしています!!」


「マジかよクソッたれ情報化社会!!」


 那結果の報告で完全に外堀を埋められた事を実感した。まさか俺の正体を公表して来るなんて王様は本気だ。なるほど、この世界に俺の居場所を無くすのが狙いか。そして奥のドアが開いて仁人さんと七海さんの秘書も入って来ると七海さんに耳打ちしていた。


「快利くん……呼び出しです」


「……呼び出してるのは爺、いや王国ですか?」


「いいえ、日本政府からです、秋山社長経由で私の所に連絡が」


 親父の所にまで手を回して来たのか、この様子じゃ政府そのものが敵となる可能性すら有るな。俺は頷いた後にライと慧花と那結果の四人で向こうの呼び出しに応じる事になった。


「明後日から新学期なのに……何でこうなるのやら……」


 絶対にヌルゲーにさせないという何者かの強い陰謀を感じる元勇者の俺だった。

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