第130話「襲撃と再会」
「ちょっと待て!! まだ俺はヌルゲーライフを諦めない、止めろよ王様!!」
『残念だが、これは解放のための戦いだ……こちらには大義も有るのだよ快利』
まず本当に大義なんて有るのかが謎だ。そもそも戦闘記録を録画するような魔法や魔術を俺は知らない。目の前の連中が映像技術すら確立していない時点で記録など不可能なはずだ。
「つまり戦闘の状態などで難癖は付けられないぞ王様!!」
『最初から、そんな事は考えておらんよ快利』
いつも以上に余裕だな。転移してすぐの時は俺を見て無駄に動揺するくらいだったのに変わったな、この人も……。
「まず一つ、よろしいでしょうか王よ」
『失礼した七海くん、まだ名前を名乗っていなかったな……お詫びしよう我が名は
フリードリヒ・グレスタード=センジェルト、フリッツと気軽に呼んでくれ』
「え!? 王様そんな名前だったのか!?」
今の今まで王様の名前知らなかった。だって俺は式典とかは基本警備で忙しかったし、王様って呼んでたから本名とか呼んだことなんて無かった。
『そうだったな快利には、この名で呼ばれるのが嫌で気軽に王と呼べと言ったな』
「そうだったのか……ま、途中から公式の場では陛下にしたろ?」
『ふっ、そうだな……懐かしい憶えているか、城下でこっそりカーマインと三人で飲んだ日の事を、あの時に陛下と呼べと言ったのが始まりか』
よ~く覚えてるさ。王も侯爵も立場など関係無く自分の子供の将来を心配していて羨ましいと思った、あの夜は特にそうだった。それに俺の愚痴も少し聞いてもらったからな。
「忘れるかよ、最後は酔い潰れてあんたを担いで王城まで戻ったんだからな……で? 冗談だって今なら言えるぞ……陛下?」
『冗談じゃないさ快利、それに私はもう何も失いたくないのだ……だから戦うのだよ、なあセリーナ?』
しかし俺の言葉は届かず王は横のセリーナに話すのを交代してしまった。
『ああ、その通りだ、快利……』
「セリーナいや、あえて師匠と呼ぶ、何が狙いだ!! 何が原因なんだ? 魔族や人間の相互理解を是とする貴女なら侵略なんて馬鹿げているのは分かるだろ!!」
その無意味さを理解して離反し魔族と敵対したのだから、それが何で今さらという思いしか湧かない。それに何より隣の仮面の男が気になる。
「それと仮面のネミラークとか言ったな!! お前が王や師匠を誑かしたか!!」
『それは違うのだ快利むしろ、こ奴はな……』
あっさり否定する王様の言葉に俺は完全に頭に血が上っていた。目の前の王もセリーナも善人だ。確かにやり方は強引だったし俺も酷い目には遭ったけど二人は国や同胞のために常に動いていた。
「騙されてる奴は皆そう言うんだ王様!! 最初から怪しいと思ったんだ仮面で素顔を隠して喋れないとか嘘だろ、どうせ貴族戦争の生き残りで狙いは俺への復讐か?」
『残念だ快利……そろそろ時間だ、次は日本政府との折衝も有るからな』
「なっ!? 日本政府!? 何でいつの間に!?」
『まさか投入した部隊が一つだと思ったか? 既に密使を送り交渉は前段階まで進んでいる、秀一郎への対策として二重に手は打ったが……見事に囮にかかったな?』
くっくっくとイタズラが成功した子供のように笑うと画面が徐々に乱れて映像が消えかかって行く。
「待てよ王様!!」
「七海!! すぐに政府に連絡を!!」
「くっ!? ただちに日本政府に――――「所長!! この第二ラボ周辺に大量の第二甲粒子の類似反応!! 多数確認!!」
仁人さんと七海さんが叫んだと同時に研究員の一人が意味不明の単語を叫んで遮った。その言葉に七海さんと仁人さんがハッとした顔をして俺を見た。
「くっ!! どうやら研究所の周囲にも敵が来るぞ元勇者!!」
「どういう事ですか!?」
仁人さんは魔力をあくまで全く未知の物質として研究所内では扱っていて名前をテキトーに名付けたそうだ。近い内に魔力に統一すると言った。
「だけど何で研究所の場所が!?」
「っ!? そうか兵士たちをビーコン代わりにしたな!? 迂闊だった最初から捕まる事まで想定内だったか、完全に油断した……」
俺の疑問に仁人さんが自己解決していて周囲の人間も気付いてしまった。完全に相手に踊らされている状況だ。
『ふっ……快利、前に教えたはずだ王手飛車取りは難しくない、その状況に持ち込むまでが難しいとな……まだまだ甘い』
「え? その言葉って……昔」
そこで通信は完全に途絶した。正確には正面の巨大ディスプレイが魔力供給過多を起こしオーバーロードし煙を上げて壊れてしまった。俺の琴線に触れる言葉を残したのも気になるが今は外の対応だ。
◇
「これより我らは卑怯な罠により囚われの身になった我らが英雄、勇者カイリの奪還作戦を開始する!!」
「「「「おおおおおおおおおお!!!!」」」」
「王命により抵抗しない者は攻撃はしてならぬ、あくまで抵抗した者を排除せよ!! では突撃する魔導騎士隊、魔法構え……てぇーー!!」
研究所の敷地内のは既に百名以上の鎧を装着した騎士たちが溢れ同時に研究所入口に中級魔法を放った。しかし、それは研究所に届く事は無かった。てか届かせるわけには行かない。
「その抵抗する者が俺ならどうする?」
「勇者カイリ!? 囚われの身のはずでは!?」
「そうか自力で脱出を!!」
「ちっげえよ!! てか攻撃すんな、ここは俺の故郷の世界だ暴れるなよ!!」
俺は即座に転移魔術で研究所の外に出ると鎧を装備して王国兵の前に降り立った。そして既に研究所の周囲には
「勇者様、どういう意味でしょうか? 我らは救援部隊として参りました」
「説明は面倒だが攻撃を止めろ、まずは――――「それは無理な相談だ、カイリ」
騎士たちの間を割って会話に乱入してくる気配は覚えの有るもので声もしっかり聞き覚えがあった。そして装備している黒いフルプレートも見覚えが有る。
「ライカルド様!?」
「兵士諸君、王命を忘れたか? 我らは勇者を取り戻す、おお!! 何と悲しき事か敵に操られ尖兵にされるとは勇者なのに情けないな~?」
やたら芝居がかった様子で大剣を抜くと今日も奴の魔術剣は輝いていた。自慢の銀髪と同じくらいに輝いてムカつくイケメン騎士がそこにいた。
「オメー、ライ……分かって言ってんな?」
「ふふっ、何の事やら分からんな、だが共に魔王討伐をした仲間を救出するのが俺の任務だ……そう、敵対してもな!!」
こいつはライカルド=ギィ=エルントゥーナ次期伯爵、王国最強と謳われた騎士で身長は俺より高い190センチ越え、そして俺と一緒に魔王サー・モンローを討伐した初代勇者パーティーの一人だ。
「ライ、今はお遊びしてる場合じゃねえんだよ」
「残念だがこちらもお遊びでは無い!! さあ悪の手に落ちた勇者を救おうではないか諸君!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」
止めろお前、そういうとこ本当に変わってないな。マジでムカつくんですけどコイツいい加減にしろよイケメン騎士め。
「おっま、余計な事しやがって、本当は何したいんだよ!!」
「いや実はな、お前が王国に戻った時に私と勝負しないで帰ったろ? せっかくの新技の用意が無駄に終わってな、だから今日はそれを手伝え、どうせ暇だろ?」
「新技の実験台とか軽くトラウマなんだけどっ!! あと超忙しいんだよ!!」
新技特訓とかエリ姉さんとの過去のトラウマと弾むオッパイを思い出すから止めてくれ本当に、でも少し元気も出て来たぞ。
「そう言うな私も寂しかったんだ、お前と戦えない日々は!!」
「あ~!! もう、仕方ない、お前が負けたら手伝えよ!!」
「心得た、では久々に戦おうカイリ!!」
◇
俺が神刀を構えるとライは魔術剣『シギィドンオーラ』を構えた。奴は純粋な剣士で魔力は低めだから最低限の魔力で魔術を行使する必要が有ったから作らせたのが目の前の黒の大剣だ。
「相変わらずデカくて黒いな」
「黒は我が家の色だから……なっ!!」
俺は斬りかかって来たライの剣を神刀で弾き返し戦いが始まった。巨漢から繰り出されるのは強引な力任せの剣術では無く実戦で鍛えた流麗な剣
「ほう、セリーナ殿に鍛えられたのは本当のようだな」
「まあな……てか、そうだセリーナと戦えよ」
俺が言うと奴は刀身を氷に包み振り下ろす奴の得意技を繰り出して来た。それを神刀で軽くいなす。だが奴も俺の手を把握しているから次の雷系の魔術を展開した。
「それがセリーナ殿と戦うと魔法有りきでな……お前のように剣だけで戦ってくれないから周囲が穴だらけになるから演習場すら使えんのだ、よっ!!」
「なるほど、さすが師匠だな……っと!!」
当然、俺は神刀の能力は使わず剣技とスキルと魔術で戦う。上級魔法や極魔法などは絶対NGだし中級魔法は奴の鎧に弾かれるから魔力の無駄遣いになってしまう。
「それにしても王は何を考えてる?」
「さあな俺や他のメンバーまで投入されたから、なっ!!」
奴の雷光をまとう剣技を時空魔術と時間魔法を同時に展開し避けると振り向き様に斬撃を入れる。そして勇者式剣技を放つ。
「おいおい、まさか爺さん連中やオッサンまで来てんのか!? なら時間はかけられないな行くぞ
「くっ!! 相変わらずだなって、お前それ魔法使うんじゃ!?」
「問答無用だ!! 喰らいやがれ!!」
しかし俺の勇者式剣技は防がれた。一応この恥ずかしい名前の剣技は魔王を倒した技である。それを防ぐ実力をライは手に入れている事になる。
「ふっ、間近で何度も技は見たから弱点くらい突けるさ、な?」
そして俺の白銀の鎧に微かに焼けた箇所が確認出来た。奴の魔術剣の炎を帯びた斬撃がいつの間にか俺に当たっていた事を意味する斬撃痕だ。
「いつの間に!?」
「ふぅ……久しぶりにお前に剣が届いたな、カイリ!!」
ライの斬撃は普通は届かないはずだ。理由は簡単で俺の剣術スキルがカンストして奴より上だからだ。しかし俺にライの斬撃が届いた。これの意味する事は一つだ。
「お前、まさか剣術スキルがカンストしたのか!?」
「ああ、やっとお前と同じ+10だと鑑定してもらった、そして、その時に同時に覚えた俺のスキルを見せてやろう!!」
「来いよライ!!」
「ふっ、あんなに弱かったのに今は俺が追う側とはな……だがっ!! 行くぞカイリ!! 雷迅の軌跡!!」
ライの一撃は一瞬動きが見えなかった。完全に反応が遅れて俺が気付いた時には雷と風の刃が俺の鎧と盾を串刺しにしていた。
「くっ……凄い、な……ライ」
「……だが、お前はもっと強くなったのか、何だ、それは?」
危機一髪、俺の代わりに攻撃を受けた分身体は消滅した。そして本体の俺は奴の背後に回り込む事が出来た。神刀で生み出した分身スキルで名前はまだ無い。
「分身とだけ言っておく俺にこれを出させた時点で大したもんだ、三分の一も神気を持ってかれたからな、だから見せてやる勇者絶技を!!」
そして俺の勇者絶技、
「何だそれ有りかよ!? くっ……ダメ、か、だが俺の勝ちだ」
◇
「こらカイリ、俺の美しい体、特に髪が痛んだらどうする? もっと丁寧に縛れ」
「うっせぇナルシスト野郎、回復してやっただけ感謝しろ!!」
俺は連行して来たライと副官を研究所に連れて尋問を開始した。その様子にセリカを始めとした異世界組はニコニコしていて反対に姉さん達はポカンとしていた。
「あのさセリモニ、あの人は?」
「そうよケイ教えて」
ユリ姉さんとルリが気になったようで聞いていたが苦笑しながら慧花が二人の質問に答えていた。
「ああ、彼はライカルド次期伯爵つまり貴族、そして快利の頼もしき仲間だ」
「ふむ、いかにも……あっ、殿下でしたか、すっかり現地に馴染んでおられる」
まったくコイツも顔が同じだからと勘違いしてるようだ……ん? 何か今少し様子が違った気がした。
「いや私は角倉慧花で――――「いえいえバレてますから、セリーナ様から聞いてますよ、ケーニッヒ、で・ん・か!!」
「快利、セリーナの奴に裏切られた、このままでは君との結婚生活が!!」
「そういうの良いから、まだ結婚とかしてないから!!」
俺の発言でエリ姉さんとルリが騒ぎ出すが、それより騒ぎ出したのは先ほど通信のために呼んだ兵士たちだった。
「やっぱり殿下なんですか女装されてまで勇者様のことを……なんという献身……」
「しかし無駄に凝っておられますね向こうでは胸に詰め物などしてませんでしたし」
そう言って兵士たちがマジマジと慧花の顔を見た後に視線が揺れる胸の方に移動していた。これは男の心理だから許してやろう……だが見過ぎだ。
「あ~、それは慧花の本物の胸だから触ったら殺すからな、お前ら?」
「そうだぞ触れていいのは快利だけだ不敬罪でチョン切るぞ?」
妙に俺と慧花の息が合って兵士二人は震え上がっていたが一人だけ縛られて動けなくなっているのに余裕な男がいた。もちろんライだ。
「ほお、これはこれは殿下おめでとうございます……カイリと以前より仲睦まじくなられたご様子で、お子はもう?」
「まだだ、この童貞は奥手で未だキス止まりだ」
「何と、カイリお前ま~だ童貞なのか?」
煽られたならまだしもライは心の底から驚いているから腹が立つ。こいつはこんな感じだが許嫁兼幼馴染が二人いて両方と結婚し妻が二人もいる勝ち組だ。リア充だ男の敵だ。しかも二人とも超美人で生まれた子供たちも可愛い。
「うっ、うる、うるせぇ!! 童貞童貞って童貞差別で訴えるぞ!! 好きで童貞じゃないんだ、俺は清く正しい異性交遊をだな――――」
「ほんと肝心なとこヘタレなんだから快利は」
「カイはもう少し積極的になって欲しい」
「仕方ないな、お姉ちゃんと一緒に卒業だ!!」
ユリ姉さんとルリとエリ姉さんまで言いたい放題だ。てかユリ姉さんとルリだってヘタレじゃんヤンデレじゃん。エリ姉さんは……まあ平常運転か。
「ライ様のように第二夫人までは持って頂かないとメイドの居場所がありません」
「そうですねライ師匠みたいにナルシスト過ぎるのは困りますけど」
「違いありませんね、それで四天王戦は苦労しました」
ちなみに最後の発言は那結果だ。何を隠そう魔王軍の四天王のビルトリィー、今は高校の先輩の百合賀との戦いで盛大に誘惑にかかったのはライが原因だった。
「最後の頭の色が愉快な君、初めて会う顔だが?」
「残念ながら私は初めてでは有りません、ずっと見てましたので」
当時は那結果は居なかったけど俺の記憶を見て知っているので当然だろう。奴がポカンとしたのは笑えたが今はそれどころじゃない。
「歓談中に悪いが最悪の知らせだ」
「何が有ったんですか仁人さん、七海さん」
尋問というよりは雑談していた俺たちの所に来たのは千堂グループの二人で険しい表情をしていた。
「ニュースを見た方が早いわ、どうぞ」
七海さんが言うと先ほど魔力でオーバーロードし壊れた巨大ディスプレイの代わりに用意されたテレビの電源を付け俺達は驚愕した。
◇
『先ほど政府緊急会見中に突如現れた武装集団によって総理官邸が占領されました、中には総理及び――――』
中継映像は現場付近から離れた場所のようで映像には炎上した車や救急車それに周囲を取り囲んだ警官隊が居た。
「善戦したようだな、警備連中は……」
「思った以上に被害が出てるな、やるもんだなカイリの世界の人間も」
ライは画面を見ながら冷静だった。それは慧花やモニカも同じで那結果に至っては使われた魔法や魔術を画面で分析しようとしていた。
「カイ!! 普通に大事件だよ~!!」
「はっ!? そうだった!?」
この状況に慌てているのはルリや姉さん達だけで俺を現実に引き戻してくれた。国の中枢が襲われたのだから当然だ。そしてテレビの中継が突如切り替わった。
『ここでスタジオです、ただ今、政府からの発表で先ほど急遽中断された緊急会見の続きが間も無く再開されるようです』
そして画面が切り替わって映っている人物は憔悴した様子の日本の総理大臣と俺が良く知っている魔法使いだった。
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