第128話「動き出す世界と裏側の事情」


「あ~生き返ります……我が主そして元勇者、感謝します」


「あ、ああ……俺の魔力オドもう空だ……」


 ユリ姉さんと手を繋いで魔力を急激に与えた結果フラッシュドラゴンは安定して動けるようになった。しかし反対に俺は魔力が全部吸い取られて干からびる寸前だ。

 ちなみに以前、魔王サー・モンローと戦って魔力が空になった時には完全回復に三日は要した。


「今襲撃したら勇者討ち取れますよ元四天王さん?」


「君は秋山の相棒だろ……何で私を唆すんだ」


 那結果がニヤニヤしながら百合賀に言うと勝手に聖剣を取り出して俺をツンツンしている。止める気力すら無い俺だったが視界の隅で誰かが立ち上がる。それは藍色の着物のルリだった。


「ふふん、私の出番だねカイ!! 任せて!!」


「そうか瑠理香の歌なら!!」


 エリ姉さんが今さら気付いたように言うが俺は最初からルリ頼みだった。何を隠そう回復系のスキルはルリしか持ってないからだ。魔力は空でも神気エーテルを使うスキルは使用可能だ。


「じゃあカイのために作った、この曲で!!」


「やはり快利のためなのか……愛されてるね快利?」


 慧花がからかうトーンで言うから俺は照れ臭さと申し訳なさ、それ以上の嬉しさで心の中が複雑だった。


「一ファンとしては複雑だけど……やっぱ嬉しいな、俺のための曲なんて」


「頑張ったから聞いてねカイ『支えたい君の背中』……スゥ……」


 その歌は一人の少女つまりルリこと歌姫のRUKAが困難に立ち向かう様々な人の背中を支えて後押しするという流れの歌だが歌詞が問題だった。


「いい歌だった……完・全・回・復!!」


「これ、快利と瑠理香の関係知ってたら完全にバレるわね」


 俺が感動してルリと一人握手会をしている間にユリ姉さんは俺達を見ると呆れたように呟いた。


「過去から逃げない背中が好き、諦めないで進む背中が好き、全部に裏切られても前に進むのはなぜ? だから私は君の背中を支えたいって、全部これ快利のことですわね瑠理香!!」


 セリカが俺の部屋の今の曲が収録されているCDの歌詞カードを睨みながら言うと後ろのモニカや慧花も覗き込んで絶句していた。そういえば既視感が有ると思ったら俺の事だったのか。


「本当はカイが大好きだよってラブソングにしたいって言ったら流石にバレるから変えろって母さんが……」


「それはもう告白だな、そういえば瑠理香お前はテレビを使って度々、快利に告白していたな!! ファンに怪しまれてたぞ!!」


 そういえば仲直りしてからテレビで一度言われたなタイプは元勇者って……今思えば告白されてたのか……って度々?


「度々ってエリ姉さんどういうこと?」


「テレビで毎回お前の事を話していたぞ瑠理香は!!」


 俺は毎回テレビをチェックしていたが学校の事くらいしか話して無かったと記憶している。それを言うとセリカや慧花にも呆れられた。今度もう一度VTRをチェックしておこう。


「って快利、フラッシュが回復したなら!!」


「いや、済まない主、そして元勇者よ魔力でギリギリ動いているのは変わらないから依然として電力が無くてな、今のままではネットにダイブが出来ないんだ」


「そうか、じゃあ……コンセント繋ぐ?」


「都内がブラックアウトするが良いのか? それよりも別に良い方法が有るから聞いてくれ」


 そこで聞いた話は千堂グループが所有する原発なら供給量が賄えるらしく勝手に使って良いらしい。ただし事前に許可が必要だそうだ。


「ねえ原発って国とかの所有物なんじゃないの絵梨花?」


「私も詳しくは知らないよユリ姉ぇ、ただ千堂グループならおかしくは無いと思う。まず母さんに聞いてみよう」


 下の階の宴会が一段落したようで戻って来た母さんに今の話をしてみると少し困ったような顔をして答えてくれた。


「あらフラッシュちゃんのご飯ね……それが今ね千堂グループと繋がらないのよ~、緊急事態につき三が日開けに連絡しますって話でね」


 やっぱり三が日は皆お休みなのかしらと言ってる母さんだが今年が初だそうだ。あのグループは実の母さんも親父も大叔父さんも危険だと言っていたから何となく嫌な予感がする。


「あ、でもフラッシュちゃんのご飯の当てなら良いとこが有るわ、試験稼働しているとこで、ここなんだけど~」


「いやいや勝手に充電したのが国内でも大問題だったのに外国なんて」


 義母がスマホで世界地図を見せて示した場所は隣国のとある原発だった。普通にアウトだろと思ったが夕子義母さんはお気楽に話を続ける。


「大丈夫よ、お隣だし、まさかドラゴンが充電しに来るなんて思わないわ~、それに向こうでは神聖な生き物だからOKなはずよ」


 仕方ないから今回は夕子義母さんの案を採用してフラッシュには極力目立たないように充電してくるように言って送り出した。一抹の不安が残りながらその日は解散となった。




 そして翌日、中国広東省で白く角の生えた光る竜が目撃されたと一部の新聞の紙面が賑わい春節前の吉兆であると中国政府も慶事を祝うコメントを出したそうだ。一方で原発が謎の停止をした事はノーコメントだった。


「何か言うこと有るよなフラッシュ?」


「爆発はさせなかった、あと満腹だ元勇者よ」


「だろうね!! 最新の原発ぶっ壊したら、そりゃね!!」


 新年二日目、今日も今日とてヌルゲーです。どうしよ……中国の皆さん、ごめんなさい我が家のドラゴンが少しやり過ぎちゃったみたいだよ許してね。


「ちょっと快利、大丈夫なの!?」


「聞いて下さい主、近隣の村や町の人々は発電所に反対していて壊した事を感謝していましたよ!!」


「え? なら……よくやったわフラッシュ!!」


 良いのかな……ま、向こうも隠蔽する気満々だし後は向こうに任せよう。俺し~らないっと。そして案を出した夕子義母さんは今日も朝から家にいた。今日から予定日まで在宅ワークに切り替えたから朝から一緒だ。


「そもそも予定日が五月なのに仕事し過ぎよ母さんは」


「そうだよ、親父も俺やモニカが会社から無理やり連れて帰るから安心して」


 俺が言うと横のモニカも頷いて新聞を読んでる親父を見た。親父は苦笑すると新聞で顔を隠してトイレに逃げ出した。


「ありがと快くん、昇一さんと私のご飯のお世話もお願い、モニカちゃんのご飯は美味しいけどユリちゃんの味付けは濃すぎるからお腹の子に心配で」


「うん……栄養満点なのを作るから、あとユリ姉さんは最近、調味料でごまかす方法身に着けたから少し濃いんだと思う」


 こんな感じで朝から少しの? ハプニングは有ったけど秋山家は今日も平穏だった。こんな平和な日々が続いてくれればと思ったのは昨日のグレスタードの事が有ったからだろう。しかし俺の杞憂は最悪な形で当たる事になった。




 あれから三日が経過し世間はお仕事モードでも俺たち学生は冬休み継続中でネットで情報収集をしていた。しかし遅々として状況は進まず千堂グループからの連絡も無い中で、ぶっちゃけ暇していた。


「ふむ、このお笑いコンビは伸びますね私には分かりますチャンネル登録しておきましょう快利」


「テレビ見るのも良いけど那結果さんや、情報は?」


「残念ながら、先日のフラッシュさんが動いてから各種政府関連のデータベースが軒並み硬くなって面倒な上にハッキングをしても無駄なのが分かりました」


 那結果とフラッシュの話では我が国を含めた先進国のデータベースが軒並み更新されてないそうで逆に不気味らしい。


「恐らく外部に繋がってないローカルネットワーク的な独自のシステムでも構築しているのかと、直接施設にでも乗り込まないと無理ですね転移魔術使います?」


「本来なら場所突き止めてサーバー抑えるべきなんだろうけど……政府がそこまで把握してるか?」


「ですが例の黒服の某MIBのような恰好した者は政府関係者では?」


 那結果の指摘した通りグレスタード王国のフルプレートの騎士と対峙していた黒服の存在だ。現地人つまりは、この世界の人間だろうが王国兵みたいに紋章なんて付けてないから誰か分からないし普通に考えて政府の人間だろう。


「このキャンプ場行ってみる?」


「事前に衛星をジャックして索敵をしますか?」


「止めとけ、関わったら最後ヌルゲーじゃなくなるし」


「むしろ本当に王国が来ているなら狙いはあなたです」


 那結果が最後だけ真剣な声のトーンで言うと俺も溜息を付いた。向こうが来たなら俺が狙いだろうがセリーナが接触して来ないのが変だ。最悪の事態を考えた方が良いかもしれない。師が敵に回ったと考えて動く必要も有る。


「快利も大変ですわね~モニカ?」


「快利兄さん陰ながら応援してますよ」


「お前らの母国だぞ一応は?」


 二人はスマホをポチポチしながらソファーでゴロゴロしている。モニカは先ほどまで家事をしていたから分かるがセリカは昔のお嬢様時代と違ってだらけている。冬休みだから良いかと思っているとテレビにニュース速報が入った。


「政府が重大発表? 今日の21時から?」


「増税ですか? それともフラッシュさんの尻拭いですかね?」


 その瞬間いきなり家の固定電話が鳴り出すと俺のスマホや皆のスマホが一斉に鳴り出した。まるで緊急地震警報のような音にびっくりしたが相手を見て俺は待ってましたとばかりに電話に出る。


「もしもし……」


『状況はどこまで把握していますか快利くん?』


「一般のネットの噂程度です七海さん」


『分かりました、簡潔に言います。先ほど最後の抵抗をしていたグレスタード王国と名乗る者達の先遣隊の八十名を生け捕りにしたので尋問に協力をお願いします』


 どうしよう、思っていた以上に話が進んでいたんですけど……てか向こうは魔法や魔術を使ったはずだから相当の犠牲を出したに違いない。とにかく俺は慧花とルリにも連絡を入れて八人で千堂グループの第二ラボに跳ぶことになった。




「私まで来て良かったのカイ?」


「ああ、色んな意味で警戒したいから……」


 それに俺の不在の間に何が有るか分からないからと心の中で付け足すと三重チェックを受けた後に案内され十分ほど歩くと目的地に到着した。今回は転移魔術は使わないで欲しいと言われたから正規の手続きで来たのだ。


「うわっ、思った以上に人がいっぱい居る……」


 前に来た時は十名弱しか居なかった部屋が今は五十人以上の人間がいた。そして俺に気付いた七海さんと仁人さんが近付いて来た。仁人さんはいつも通りだが七海さんは少し顔色が悪く目の下に隈も出来ていて美貌が台無しだ。


「お待ちしてました皆さんには19時までに状況をお話します」


「七海さん、時間制限付きなのはどうしてですか?」


「向こうがアクションを起こす時刻が20時だと予告して来ました」


 そして俺たちは初めて年末の年の瀬に有った時空震の後に日本で起きていた事件について聞かされた。先遣隊として八十名の部隊が派遣されて来たそうだ。


「初手からツッコミ所が満載なんですけど質問いいですか」


「ああ、だが答えられる事は少ないと思うがな」


「まず八十名もどうやって転移して来たんですか? そもそも向こうは七年後の世界で俺が過去改変したせいで別の世界になってますから単純な転移や時空魔術では到達すること自体が不可能です」


 あくまで二つの世界は七年という時間の隔たりが有り、しかも時間の流れは俺が断ち切ったせいで別な世界として存在している。俺が今まで潰したような細かい枝葉のような可能性のIFの世界とは違い別物として認識されている異世界なのだ。


「前に俺と那結果が説明しましたけど因果律操作魔法の異常性は話しましたよね?」


「並行世界の存在を許さない魔術に対抗しているかのような魔法だったか?」


「はい、俺の矛盾なんて何も無いパラドクス・ディストラクションは有り得た可能性を潰す魔術で俺は多くの可能性を消しました、そうする事で未来を一つに修正したんです」


 具体的には新生魔王イベド・イラックとの時空戦争の時の戦いだ。矛盾を無くすために他の可能性を全て消す。転移魔術と時空魔術の混合魔術で本来は因果律操作魔法よりも使いたくない禁術と言ってもいい魔術だ。この世界で俺はルリとユリ姉さんを救う時に二度使用している。


「しかし因果律操作魔法は真逆で因果を操作し可能性を増やす、だが君ならば二つを使いこなし自分の望んだ未来だけを残す事が可能、そうだな?」


「ええ、だから異世界のグレスタード王国のある世界は時間も場所も別で可能性世界では無くて完全に別の異世界です。行き来できるのは俺と真・超魔王セリーナだけなはず……です」


 一応はイベド・イラックも使えたが奴はもう死んでいるから除外している。だが、それでも謎は残る。因果律操作魔法は自分を起点に世界を変える事の出来る魔法であって自分に効果を及ぼすものだ。


「そうか、他人が、しかも君たち二人以外の八十名という大量の人間が因果律操作魔法を使う事は絶対に不可能なのか」


「はい、第一ラーニング条件すら明かされてないもので存在すら知られてないレベルで研究が進んでいるとは思えません」


「なるほど、では……やはり捕虜を尋問するのが一番だな、こちらには損失出したくせに向こうはゼロとは納得行かん」


 やはりこちらに被害者が出て向こうはゼロかと俺は思った。当然だ、こちらの現代兵器は恐らく向こうの兵士たちには効果は無いからだ。




 廊下を歩きながら俺は気になった事を仁人さんと話していた。


「よく八十名も相手方に死者を出さずに捕らえましたね?」


「こちらは二十名近くエージェントが死んだよ……まさか初手から切札を使わされるとは異世界を甘く見ていた」


 そんなに人が死んだかと思いながら姉さん達とルリを上の研究室に置いて来て正解だと思った。付いて来た那結果やセリカ、モニカ、慧花は眉根一つ動かさずに頷いただけで動揺してない。人選は正解だったらしい。


「切札? それが王国兵を?」


「ああ、第一次及び二次派遣部隊が全滅した原因が魔法や魔術でこちらの完全な無力化だとは思わなかった」


「でしょうね……向こうではそれが基本です、銃も効かなかったでしょ?」


「ああ、動揺してたとは言え無駄に犠牲者を出してしまったのは痛恨の極みだ」


 仁人さんの話によると当初、派遣されたのは戦闘とは不向きの通常のエージェントで偵察目的で元殺し屋などの人間だったらしい。そして彼ら三人はアッサリ洗脳魔法にかかり銃をそうだ。


「確かに彼らは元はそういう職業だったが命令には忠実だからな、あまりにも不自然だったから第二次派遣団には細工をした」


 まずエージェントが命令無視をした時点で違和感を感じたそうだが仁人さん以外は完全に騙されたらしい。


「細工ですか?」


「ああ、盗聴器を仕掛けた、魔法を行使し命令している音声がしっかりと録音されていたよ……死体から回収して敵の手口が分かった」


「そう……ですか」


 つまり最初から捨て石にしたようなもので無駄に犠牲者を出したという意味を理解した。それこそ俺を呼んでもらえば犠牲者は出さなかったはずだ。そして同時に王国のやり方が貴族戦争から変わってないのを思い知らされた。


「やはり大義名分を得るために……攻撃を受けたフリはグレスタード王国の右に出る者は居ないって皮肉で言われてる程です」


「撃たれた演技と逃げるフリが上手いですからね我が祖国の兵は」


 敵として戦ったモニカだからよく分かるそうだ。そもそも王国の装備は対魔法及び魔族の攻撃に数度は耐える前提の防護が施されていて普通の銃じゃ弾かれるのがオチで斥候兵の皮鎧ですら貫通は不可能な強度だ。


「それに気付くのに何人も失ったよ……さて着いたぞ」


 重々しい扉が開いた中は薄暗い鉄格子だらけの監獄ような場所で俺たちは、そこで待っていた人達を見て驚いた。居たのは王国の兵士ではなく知り合いだったからだ。


「な、何で皆さんが……」


「待ってたよ……快利くん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る