第127話「レインボーな元旦の裏で・・・」
◇
『3・2・1・・・・・・新年、明けましておめでとうございま~す』
テレビで年越しの番組をやっているのを俺は家族で見ながら素直に祝う事が出来ずにいた。昨日の時空震の後から何も無いから逆に不安だった。
「どうした快利?」
「いや、親父……何でも無いよ」
「昨日の昼の事か?」
隠せないと思って俺は頷いた。リビングの人間は先に眠っている夕子義母さん以外は全員揃っていて不安な顔をしている。昨日の時空震は謎の怪現象としてワイドショーを賑わせたが大晦日だからか今はどのチャンネルも新年のお祝いムード一色となっていた。
「快利、また何か起るのか?」
「分からない……もし何か動きが有るなら分かるけど」
少なくともゲートが開いているからセリーナは連絡して来ると思っている。それが無い所を考えると向こうだけで解決出来るか、もしくは連絡が取れないかの二択だと考えられる。出来れば後者でない事を祈りたい。
「まあ、考えていても情報は来ませんし杞憂するだけ時間の無駄、それより皆さん新年明けましておめでとうございます!!」
那結果が明るい声で言うと姉さん達やセリカも新年の挨拶をしていた。少し不気味だが仕方ない動きが無い限り俺だって動けないと思っていたら不意にインターホンが鳴った。
「誰でしょうか、私が出てきますね」
「このタイミングなら多分あの二人でしょ、私も行くわモニカ」
ユリ姉さんとモニカが玄関に行くと「キャー」という軽い悲鳴が聞こえた。予想通り連れて来られたのはルリと慧花の二人だったが恰好がいつもと違う。二人は晴れ着、つまり着物を着ていた。ルリの家でエマさんに着付けをしてもらってから来たらしい。
「エマさんって凄いな、そんな事まで出来るのか!?」
スウェーデン人なのに日本語は堪能だし着物の着付けまで出来るなんて凄過ぎだろと俺が言ったらビールを飲んでいた親父が当然だと言って話に入って来る。
「エマちゃんの昔のライブでは花魁の衣装でライブをした事も有ったからな亮一と二人で投げテープしたものさ」
「それパパも言ってましたよ、母さん凄い怒ってたけど」
「ああ亮一は投げるの下手だからエマちゃんの足とか腕にぶつけてたからな良く喧嘩してた」
そんな話をしていたらルリの両親も新年の挨拶にやって来てエマさんが他の五人も着付けをすると言い出した。いやいや五人は多過ぎるのではと思ったがモニカやセリカが着たいと言うから俺は結界魔法を発動した。
修行の時と同じ要領で結界内の時間の流れを変えることで五人分の着付けの時間を現実時間で十分弱にまで短縮した。
「五人分もお疲れ様ですエマさん」
「いやいや、うちの娘だけじゃフェアじゃないからね……皆も快利くんと行きたいでしょ初詣に?」
疲労困憊のエマさんに回復魔法をかけ後に俺は高速で調理を開始する。向こうで王様も唸らせたことの有る料理『バジリスクの砂肝串焼き』だ。バジリスク自体捕まえるのに苦労するから
「向こうの世界に気軽に行ければ食材の心配は無いんだけど……向こうに戻るのはもうゴメンだからな~」
年々ブラック化していく勇者生活は本当に大変だった。楽しい事も有ったけど苦しく辛い事の方が多くて辛くて逃げ出した。だけど逃げ出した結果、俺の目の前には晴れ着姿の美女が七人も居る。ブラックな異世界から逃げ出して本当に良かった。
「じゃあ初詣行って来ます!!」
「はいはい、いってらっしゃい」
「気を付けるんだぞ~?」
親たちは俺の用意した酒とおつまみで一杯やるようで少しの間みんなで外に行った方が良さそうだ。だから俺たちはまだ寒い中、八人で初詣に行く事になった。
◇
歩きながら見ると改めて壮観なメンバーだ。俺は私服だが七人は全員が着物で美しい模様だとか帯の説明をされたけど全然分からない。だから色だけで言うと偶然にも皆に関係のある虹の七色だった。
「どうだ快利、お姉ちゃんの着物は? 初めてだが似合ってるか?」
「私達はこういうの初めてね……てかグラス、あんたファーみたいに私に巻き付かないで自分で歩きなさいよ」
「え~今日は寒いから嫌ですよ、ご主人様~」
二人の言葉を受けて俺は改めて七人を見た。まずはルリは藍色だから実質ステージ衣装と同じだし慧花は紫でシックな大人の色、セリカは赤で侯爵家の色が似合ってるしモニカは黄色の元気で可愛らしい感じがする。
そしてユリ姉さんは深緑で普段と違って落ち着いてる感じで首にはグラスドラゴンが巻き付いている。エリ姉さんは橙色で情熱的で堂々と着こなしている。最後に七人目の那結果は澄んだ青色の着物だった。
「何ですか私が青だとマズいんですか? 瑠理香さんと被ってますか?」
「いや違うけど那結果って透明ってイメージだったからさ……ふ~ん、青も結構似合ってるじゃないか」
那結果は普段はアレだが一瞬だけのデレ期も思ったが見た目だけならストレートに俺の好みだ。なんせ本人が俺の脳内で俺の好きな女性をキメラしてバランスを整えた見た目だから当然と言えば当然だ。
「なるほど快利の中で私はスケスケのスケルトンで、どスケベな着物がお似合いだと、そう言いたいのですね?」
「言ってない、そんな事は一言も言ってません!!」
そんな言い合いをしている内に神社に到着したが思ったより人が多い。近所の神社では無く一駅はなれた大きい神社が良いとセリカが言ったから転移魔術で遠出したが逆に人が多過ぎた。
そして恒例のナンパ男を片付けるだけで入場に三十分もかかった。ちなみに俺がそいつらの処理をしている間にも女性陣は好き勝手に夜店を巡って楽しんでいた。
「はぁ、これで二十三人目か、精神的に凄い疲れた、バカばっかで」
今ナンパされていたのはユリ姉さんで一番安全だけどナンパしてくる相手が危険だから助けに入った。だって守護竜が三体も常に付いてるから触っただけで消滅してしまう危険性が有るから俺のスキルより性質が悪いのだ。
「お疲れ快利、ほら口開けて、たこ焼き買って来たから、はい、あ~ん」
「あ~ん……う~ん屋台のタコ焼きって感じ、ありがとユリ姉さん」
報酬のタコ焼きも美味しいと二個目も「あ~ん」してもらおうとしたらタコ焼きが消えていた。そして犯人と思しきユリ姉さんの首元に巻き付いているグラスの口にはソースと鰹節が付いていた。
「お前って野菜以外も食べれるのか?」
「最近はご主人様に野菜以外も餌付けされまして……意外と食べれるようになりました弟殿」
そんな話をしていると残りのメンバーを探すために二人で神社内を歩き出す。少し歩くと見つけたのは赤と藍色の着物で頭は金、すぐにセリカとルリのコンビだと分かったが二人は男女数名に絡まれていたから突撃する。
「はいはい、二人から離れろ……って最近このパターン多いな、お前らか」
「ったく親友を忘れるなんて困るぜ快利~」
「金田、それにメイド隊の三人か……てか、お前クラスの女子を三人も侍らすとか、このハーレム野郎が!!」
最近は俺が言われる事が多いから遂に言ってやったぜ。しかし俺の言葉と裏腹にルリとセリカの目は冷たかったしクラスメイトは皆呆れていた。
「カイだけは言っちゃダメだと思うけどな~」
「そうです、それに残りの男子二人は今は罰ゲームで買い出し中ですわ」
「そ、それより、お前の隣の美女は誰だよ!?」
金田が言うと他の女子三人も頷いてユリ姉さんを見つめている。グラスはバレないように身動きせずに固まったがユリ姉さんも一緒に固まっていた。
「ああ、姉の由梨花姉さんだ……例の校内で出回った写真で見た事は有るだろ?」
「ああっ!! あの美人JD二人組の!!」
金田が言うと女子三人も思い出したように「文化祭の時の」と言って喋り出す。俺がポイズンドラゴンと戦う前にクラスの陽キャを潰した時の原因になった写真と映像でユリ姉さんと慧花は俺の高校では既に有名人だ。何よりメイクで気付かなかったがユリ姉さんは文化祭を一日だけ手伝ってくれたからメイド隊は覚えていた。
「び、美人JDだなんて……て、照れるわよ~!!」
あ、これは思った以上に喜んでるなユリ姉さん。何だかんだで俺と同じでエリ姉さんの引き立て役ポジだったから自分に注目されるのが嬉しいんだ。皆で軽く雑談していると俺のクラスメイトが次々集まって来る。人数が多いからと端に寄って来るとなぜか甘酒を巫女さんと一緒に配っているモニカを見つけた。
◇
「お前は何してんだモニカ?」
「快利兄さん、こちらの巫女のアルバイトで元メイド隊の吉田さんが困っていたので手伝っていたのですよ」
よく見たらクラスの女子が一人、巫女さんの恰好をして甘酒を振る舞っていて俺も貰った。知人の紹介でバイトをしていたが大盛況で忙しそうにしていたからとモニカが手伝っていたらしい。
「メイド長、もう落ち着いたから大丈夫だよ」
「そうですか、ですが吉田さん素晴らしいです!! 給仕の腕に鈍りが無いです」
「だってメイド魂でしょ? 最近は家事とか殆ど私がやってるんだよ!!」
「素晴らしいです!! 元メイド長として鼻が高い!!」
謎の友情が生まれていて兄としては嬉しいぞと思いながら周囲を探すとエリ姉さんと慧花という珍しい組み合わせを見つけたが二人と一緒にいた者らを見ると俺はモニカとセリカに勇者コールで断りを入れて気配を消して場を離れた。
「来たね快利?」
「ああ、それにしても百合賀と黒幕会長も来てたんですか」
慧花たちと話していた二人は生徒会の面々でエリ姉さんの親友の黒幕会長と副会長の百合賀だった。会長は白で百合賀が黒の着物姿で対になのは二人で選んだからだろうかと思って目が合うと会長は笑顔で新年の挨拶をして来たが百合賀は一転険しい顔で近付いて来た。
「秋山、会いたかったぞ」
「例の時空震の件か?」
「それも有るが……ネットで噂になっているこれを見たか?」
百合賀がスマホで見せて来たのはSNSの呟きで、それを掲載していたニュースサイトだった。見た感じ大手では無く個人やブログの延長線上のようなものだが黒服の人間の後姿が映っている。
「え? 年末のキャンプ場に現れたコスプレ集団?」
「ああ、だが問題は次の写真だ……これをどう見る」
そこに写っていた鎧姿の人間を見て俺は固まった。なるほど一般人ならコスプレだと勘違いするだろうが残念ながら本物だ。グレスタード王国の採用しているフルプレートの銀の鎧姿の兵士が黒服と対峙している写真を見て俺は驚いていた。
「ほう、これは快利……懐かしいね祖国のものだ」
慧花が言うと何かを察したのかエリ姉さんが黒幕会長を連れてセリカや瑠理香の方に行ってくれた。そして振り返ると頷くのを見て俺も目で感謝の意を伝える。そして俺と慧花とセリーナの話は続いた。
「なるほど……その顔、お前が知らないなら向こうが勝手に?」
「少なくとも私も快利も知らないし介入していない」
慧花の言葉に俺は表情を崩さないようにしながらコクンと頷く。頭の整理が追い付かない。恐らくは本物だろう、理由は単純明快で王国の紋章が刻まれている。こんな紋章が一致するなんて、この世界じゃ絶対にあり得ない。
「百合賀、お前にも新生魔王と黒龍についてはスマホで話したな?」
「ああ、私はナノと家族を守るために家に引っ込んでいたが、それで?」
俺は改めて去年の戦い、と言っても数週間前の話を簡単にして状況を話す。そこで百合賀は頷いて再び動画を見ようとしたら削除されたとスマホを見せて来た。
「動きが早いね快利……」
「ああ、なら上の人間は気付いてるな……じゃあ心当たりに連絡するしかないか」
「宛が有るのか?」
「有るぞ、ついでにお前の正体を話したら被験体にしたがるヤベー宛がな」
それは遠慮したいと奈之代と結婚するまでは清い体で居たいとか言い出しやがった。元四天王でサキュバスのくせにと思ったが口に出さなかった。
「顔には出ているぞ元勇者、今の私は少しだけ性欲の強いJKだ」
「お、おう……とにかく百合賀お前も警戒しろ、狙いが俺なら良いけど本腰入れて来て正体がバレたら多分お前もターゲットにされる」
「ああ、だろうな……しかし逃げる場所など」
そこで俺は百合賀に最悪な場合でも異世界を一つ確保している話をした。それは緑豊かなドラゴンワールドの事だ。マリンやグラスが拠点にしている惑星なら安心だろう。一応は居住可能なのは証明されているからと話していた。
「……お前も一応はエリ姉さんの友達だからな」
「そうか、恩に着る……元勇者」
「勝手に恩に着るのは良いですけど私も話に入れて下さい」
いきなり背後に現れたのは那結果で先ほどから探していたが全然見つからないと思っていたら遂に我慢出来ずに自ら出て来たようだ。
「那結果か……実は――――「皆まで言わなくても大丈夫です、あちらの木の上から皆さんを盗聴していたので内容は全て把握しています!!」
相変わらずとんでもない事を言い出す相棒を見ながら頭に松ぼっくりが乗っていたから取ってやると「わざとです」とかほざいた。俺は盛大に溜息を付くと四人で数分だけ雑談をした後に皆で初詣を楽しむと家に帰った。
◇
「あら、おかえりなさいカイくん」
「夕子義母さん、起きたの?」
俺達は行きは八人だけど帰りは百合賀と黒幕会長を含め十人で帰って来る事になったのだが玄関で迎えてくれたのは先に寝ていたはずの夕子義母さんだった。
「ええ、下の飲み会がうるさくてね、私はお酒飲めないのに、ね~?」
そう言って自分の大きくなったお腹を撫でて語りかかけていた。そのお腹の中には俺の未来の妹が居る。てか俺これで妹何人目だろうか……四人目か。
「すいません夕子さん、うちの両親が」
「いいのよ瑠理香ちゃんは気にしなくても、あの三人には私がお説教しておきますから……えっと後の二人は?」
そこで百合賀と黒幕会長に気付いたからエリ姉さんが二人を簡単に紹介すると親父達は完全に酔っぱらっていて一階が使えず上の階のエントランスで話す事になった。
「それにしても大きくなったね絵梨花たちの家」
「義父さんや母さんが頑張ってくれたんだよ」
こちらの新居には初めて来た黒幕会長が二階に上がって来て言うとエリ姉さんが自慢げに言う。本当に凄いからね明らかに豪邸だし今の家。
「それだけじゃない、この家には魔術防御が壁や土地そのものに張り巡らされている……私でも息苦しいくらいだ」
「ああ、悪い二人はゲスト登録しとく、那結果やってくれ」
「では二人とも、お手を拝借……ゲスト登録完了です」
魔力持ちには俺が許可出さない限り苦しむような結界にしたのを忘れていた。俺が回復魔法を使っている間に那結果に出入り許可申請を任せると顔色が良くなった百合賀に礼を言われた。
「気にするな、それより例の話だが」
「ああ、昨日から私と奈之代の二人で調べていたんだ」
そこで二人が調べてくれた成果を見ると見覚えのある鎧や旗などが見えて眩暈がした。そこで俺はさらにスマホをスワイプしようとして今さら気付いた。
「ネット検索ならフラッシュだな、ユリ姉さん」
「あっ、そっか……フラッシュ!!」
スマホで呼び出すとフラッシュが小型サイズで出て来たが深刻そうな顔をしていた。どうしたのだろうかと口を開くのを待っていたら意外な答えが返って来た。
「充電が……切れかかってます……主」
「そういえば最近ご飯あげてなかった!! 新しい原発探さなきゃ!!」
「ユリ姉さん落ち着いて原発は落ちてないから……仕方ない奥の手だユリ姉さん手を繋いで!!」
フラッシュは自分の余剰電力で充電することは可能だし自分も発電は可能だが本人が回復出来ないほどの電気切れになった場合は体内の魔力を使ってしのぐ一種の省エネモードになり充電が終わらないと動けなくなるのだ。だから一時的に俺の魔力をフラッシュに送り込む。
「そっか、カップリングスキルね!! G・D・M!!」
「発動!!」
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