第125話「元勇者、四面楚歌と例の会合」


 なぜか俺を見てドヤ顔するガイドを見てポカーンとする俺や他の面々の中で真っ先に二人の女が反応していた。


「よっ!! 待ってました名ガイド!!」


「さすが快利の脳内に住み続けて五年だ、良いとこを持って行くね」


 モニカと慧花が盛り上げると那結果は時空魔術で取り出したパイプを口に咥え同じく、いつの間にか出した安楽椅子に座り俺達を見た。


「では、まずは今回の『元勇者ハーレム放っておいてママに走るマザコン化事件』の全貌をお話しましょう!!」


「勝手に事件にすんなよ」


 しかもマザコンとかハーレムとか言うな事実無根……だと思う。たぶん、きっと……メイビー、自信が無くなって来た。


「私は被疑者に喋る権利を与えない系の探偵なので黙っていて下さい快利」


「横暴だ、横暴!! 黙秘権以上に言論の自由返せ!! 元勇者に人権返せ~!!」


「まあ那結果もノリノリなんだし良いじゃないか?」


「面白そうだし見てましょ快利?」


 慧花とユリ姉さんに両サイドから挟まれたら強くは言えず俺はソファーに戻された。二人して俺の腕に抱き着いて押し付けるの止めて下さい元勇者でも一発で負けそうな心地良さ……そうか、これが勇者をダメにするソファーなのか。


「ふっ、マザコンに続いてシスコンまで拗らせている元勇者も沈黙した所で話しましょう……皆さんは快利の転移や時空その他の魔術の存在を忘れていますね?」


「いや今さら何言ってんだ?」


「快利では無く皆さんに聞いているんですよ、特に自分で任意に魔力を行使出来ない絵梨花さんや瑠理香さんにしたら違うと私は言っているのです」


 ふぅとパイプを吹かす真似だけをして実際は煙すら出さない那結果の話を聞いている内にエリ姉さんが何かに気付いたようで声を上げた。


「そうか快利お前は最初から二つの家を魔術で行き来する気だったな!?」


「え? そうだけど? それに俺のスキルには分身も有るから万が一にも安心だし、この家と前の家の俺の部屋の二つを異空間で繋げて融合するから部屋にいながら両方の家に住める仕様にする予定なんだ」


 だから問題無いでしょと言うと七人が同時に俺を見つめて来た。なんだよ皆揃って熱視線なんて向けられたらさすがに照れるぜ。


「「「「「「最初っから言いなさい!!」」」」」」


「はい……すいません」


 こうして俺の中での確定事項を七人に話していなかったせいで叱られた。やっぱりチートでも話し合いって大事だよね。親父や夕子母さんが言ってたのはこういう事だったのか。前も思ったけど話し合わないから争いは起こるんだと改めて理解したよ。


「悲しいね……分かり合えないって」


「分かり合う努力をしてから言って下さい快利!!」


「悪かったよ……じゃあ簡単にプランを話すから」


 その後、俺は神刀の分身スキルと転移魔術と時空魔術を駆使して昔の家の俺の部屋と今の部屋を繋げると話した。具体例は後日話すと言うと意外と皆アッサリ引き下がってくれてその日は解放された。




――――那結果視点


「快利は秋奈さん、いえ、お義母様の元へウキウキして向かいましたので本日は私が招集しました。議長は私でいいですか皆さん?」


「問題無い、私、秋山絵梨花は賛成だ」


「同じく秋山由梨花も賛成で」


 その後も今日の会合に参加する私以外の六人は賛成の意を示した。これは会合と名付けられた集会で第一回の参加者は三人だったらしい。その参加者は現実の世界、この世界出身の三人だったらしく夏休みが始まってすぐに始まったそうだ。


「では本日の議題は快利とお義母様への対応及び誰が最初に快利たち親子に接近するかの権利についてです」


「前回の規定なら今回は由梨花姉さんに優先権が発生するのですが……」


「皆まで言わないでモニカ、今回は私と絵梨花は無理なのは分かってるから」


 モニカさんが言い辛そうに言うと由梨花さんが答えた。私にも姉さんを付けろと言って来るが私の中で二人は姉という感覚がしないから仕方ない。


「今回の件は秋奈さんの件だからな……あの人が安定するまではダメなんだろ?」


「ええ、詳しくは千堂七海様や仁人様からの話なのですが魔王イベドと我々が交戦中にも記憶の混濁が起きていたらしく暫く昏睡状態が続いていたそうです、そしてタイミング良く黒龍討伐後の朝に目覚めたらしいのですが……」


「どうしたの那結果?」


「ええ、瑠理香さん……快利と私には先に伝えられていたのですが、記憶が再度あやふやになっているそうです」


 私が情報として渡されたものや千堂グループの医師を含めたメンバーから聞かされた話では自衛のために記憶を封じたのではないかという仮定だった。自分の精神を守るために記憶を封じるまたは忘れた可能性が高いというのだ。


「聞いた事は有るが……実際にあり得るのか那結果?」


 絵梨花さんの質問に私は今日は、そのために快利が病院に向かったと言うと納得した。そして続いたのは一番上の姉の由梨花さんで今の発言で気付いた事を隣の慧花さんに話しかけている。


「そうよケイ!! それこそ魔法で何とか出来ないの?」


恐慌トラウマ魔法が有るから解除の魔法も有るだろうが……正直分からない」


 そこで一同が黙ってしまっているとセリカさんが突然パンパンと手を叩きながら口を開くと今は秋奈さんについては快利に任せ別な問題を解決すべきだと言い出した。私が発言をどうぞと言うとセリカさんは私たちの長年の議題を口にした。


「ズバリ、いい加減決めませんか誰が快利に相応しい妻となるのかを!!」


「「「「「っ!?」」」」」


 ちなみに今の緊張した空気感を出したのは私とセリカさん以外の五人だ。実はある意味で私とセリカさんは、この問題において共通認識と同時に同盟のようなものを組んでいるから敢えて発言を許した。


「セリカ、実情では誰一人として恋人ですらないのに妻は早過ぎない?」


「慧花さん、それは些細な事です、ぶっちゃけ快利はここの七人なら誰でも押せばある程度は恋仲に発展すると思います……てか全員キスは済ませてますよね?」


 そう言うと再び会合は蜂の巣をつついたよう騒ぎに発展した。今までは避けていた話題の一つだが仕方ない。私ですら既に数回しているし例の治療のためにした二人は更に多いのだろう。今さら回数でマウントなど取る気は無いが状況確認は大事だ。




 自分でも自然と冷静に対処しろと言い聞かせている間に真っ先にセリカさんの作戦に引っかかった者が出て来た。風美瑠理香……たぶん七人の中で一番精神が不安定な快利の嫁候補だ。


「わっ、わたっ……私は、私は、ま、まだ五、五回しか、いや誤解しないで欲しいのは回数じゃなくて場面で五回で……」


 やはり、こういう場面で腹芸が出来ずに真っ先に墓穴を掘ったのは瑠理香さんだった。そもそも彼女がもう少し器用に立ち回れていれば快利は異世界転移すらしないで平凡のままの可能性も有ったから不器用なのも納得だ。


「誤解も六回も変わらないから落ち着きなさいヤンデレアイドル!! 私とあんたは快利に治療だからって同じくらいしてもらったでしょうが!!」


「それだけじゃないですぅ~!! 楽屋に来た時に二回してもらいました~!!」


 瑠理香さんをフォローするのは秋山家長女だったが、ここでマウントを取らないと死んでしまうような病み具合を発揮したのが瑠理香さんで実は快利は知らないが会合で二人は割と言い合いが多いのだ。


「はっ!? あんたアイドルのバイト中は手を出しちゃダメって規定が!!」


「あの日は皆と違って先に会えなかったから自分へのご褒美だもん!!」


 そして二人を止めに入るのが絵梨花さんだった。実はこの三人については面白い事が有る。まず瑠理香さんは由梨花さんへのコンプレックスの裏返しで噛みつく事が多い。なんせ彼女がアイドルのRUKAモードの時に被っているウィッグが黒髪なのは由梨花さんを意識しての事だからだ。


(この事を聞き出すのに苦労しました……まさか中学の頃の初恋話と当時険悪だった姉二人との関係改善方法を話す度に病み度が進行していたとは……)


 二人を止める絵梨花さんにしても実はコンプレックスが有る。その対象は何と瑠理香さんでアイドルのRUKAと瑠理香さんを一瞬で同一人物だと見抜いたのも自分の大好きな義弟が夢中な女だと常に目の仇にしていたからで、それだけ意識している相手だから脅威に感じているそうだ。


(絵梨花さんの、この勘だけは数値化出来ないんですよね魔族返り特有?)


 そして言わずもがな由梨花さんは実の妹の絵梨花さんに常にコンプレックスを持っていた。文武両道で眉目秀麗の人気者の妹に対し常に劣等感を持ちながら妹に助けられる情けさなで押し潰されそうな人生で、家族として信頼しているのに苦手だという屈折した感情を持っていた。


(つまり三すくみの状態です、快利が昔遊んでいたポケ〇ンと言うゲームの最初の御三家みたいな関係らしいのですがイマイチ私には分かりませんね)


「先ほどから議長は何を考えているのかな?」


 そこで声をかけて来たのは慧花さんだった。ある意味で私と似たような視点を持ちながら立場は全く真逆な女で厄介な人物ナンバーワンだ。


「そういえば全く発言しませんね那結果さん」


「一応はまとめ役ですから今の内容を脳内に記憶し議事録として起こす予定ですので少し処理をして止まっておりました」


 真顔で嘘を付くと納得したのか二人は暴走する瑠理香さんと由梨花さんを止めに行く。そういえばと周囲の確認するとモニカさんが居ないから見回すとキッチンで湯を沸かしていた。

 さすがはメイドで気配り上手だ……昔、快利に救出されピーピー泣いて恨み言を言って困らせていた幼少期とは違い大人になった。


「皆様、お茶のおかわりと簡単なお菓子をご用意しました」


「モニカお茶よりも私を援護なさい!!」


「ですがセリカ様それに皆様も心を落ち着けて下さい、そんなに怒っていては快利兄さんの妻になる計画が台無しになりますよ?」


 昔から二人は主従の関係でしたが最近は友としての感覚の方が強くなっているようで例のドリルヘアを整えるのも趣味だと言っていたから友達の髪を結ってる感じなのでしょう。その言葉にセリカさんも落ち着きを取り戻したようで席に戻っていた。


「ラベンダーティーとは気が利いてるね、さすがモニカだ……ふぅ」


 慧花さんの言葉で全員が席に着き少しだけ休場となり平和なガールズトークになった。話題の中心はもちろん我が主、快利の事だった。今日の会合は快利が帰って来るまでは終わらないだろう。これは第二ラウンドまでの小休止になるだろう。




 俺は病院で母さんとの面会を終えると廊下で待っていた人物と二人で病院を出ると病院前に待機していた黒塗りのリムジンに乗せられた。


「そうか、君の魔法や魔術でも難しいか」


「はい仁人さん、その……そちらの医療でも?」


「ああ、過去にもトラウマがもたらす脳への影響を調べたが当時の実験対象者も特殊でね、最終的に耐える事が出来ずに多重人格モドキになった」


「ええっ!? 多重人格って……大丈夫だったんですか、その人?」


 その人は今は問題無く社会復帰し結婚もしグループ内で働いているらしい。少し興味が湧いたが今は母さんの話が優先だ。実は母さんとの面会は今日で二回目で一回目の時は意識が戻らず、その時に俺が魔法や魔術を使ったのだが目を覚まさずイベドとの戦いの後から経過を見てもらっていた。

 その後に容体が安定して話せるようになったのが先週で今日、久々の再会となっていた。親父や夕子義母さんとの話し合いを先に済ます事が出来て全部片づける事が出来たのはラッキーだったかもしれない。


「そういえばSHININGに行ったらしいな、あそこは数少ない安全地帯でな……佐野警部……じゃなくて佐野会長とも会ったそうじゃないか」


「はい、それにしても大叔父さんと皆さんが知り合いとは思いませんでした」


 親父をぶん殴った後に報告のために連絡をしたら顛末は既に夕子義母さんが報告済みで俺は大叔父に「でかした!!」と、お褒めの言葉を貰ってしまった。親父とも会ったらしく前より男前になったと言っていて笑ってしまった。


「まあ正直、君の気持ちは分からないでも無い、一緒に過ごせるなら親と居たいだろうからな」


「仁人さんも、そうなんですか?」


「ふっ、俺か……俺は親より研究と……七海と居る事の方が大事かな」


 その言葉に影が有ってスキルを使って覗き見でもしようかと考えたけど触れてはいけない話題な気がして止めておいた。それから数分で俺は家の前に送り届けられていた。最後に母の退院は早くて来年の一月の後半から二月の頭だと言われ面会の頻度も増やす事が決まった。


「本当に、ありがとうございます」


「気にしなくていい、それに君には今後とも良い付き合いをしていきたい、そのための先行投資さ、ま、つまりこれからも頼む」


「はい、じゃあ、えっと……よいお年を!!」


「ああ、そちらもな……七人も相手は苦労するだろうが、頑張れよ!」


 最後にフッと笑うとリムジンは行ってしまった。それを見送って家の方を見ると庭先の窓から顔を出していたモニカと目が合った。軽く手を振るとモニカも手を振り返す……ことは無くニヤリと笑うと窓を開けて叫んだ。


「みなさま~!! ハーレムの主が帰還しましたよおおおおおおおお!!」


「やめないかモニカ!! ご近所迷惑だろ!!」


 俺が叫ぶと玄関が開いて姉さん達が俺を見ていて、庭先からはルリとセリカの二人が俺に飛び掛かって来た。怪我するからと二人を受け止めるとガッチリ抱き着いて離れる気配が無い。


「二人とも一応、病院帰りだから何か風邪とか移ったりするかもしれないからさ」


「その時はカイが治してくれるでしょ?」


「ええ、今日はタップリ家族サービスして下さい快利!!」


 二人に抱き着かれながら玄関を見ると姉さん達の後ろから慧花と那結果も出て来て少し難しい顔をしているが目は笑っていてホッとした。今年は色々有り過ぎたけど間も無く大晦日。何年振りか、もしかしたら初めての平穏な年末年始が迎えられるかもしれないと思って俺は新しい家に帰宅した。


「ただいま、みんな!!」


 絶対に来年は良い事が有ると皆に囲まれて俺は確信する。俺のヌルゲーライフは来年からが幕開けで本番なんだと俺は心の中で強く思った。そして今の心の中の宣言が最後のフラグを立てた事に俺はまだ気付いていなかったのだった。





 雷鳴と雨音の響く中で三人の人影が見える。そこは異世界グレスタード王国の玉座の間だ。快利が異世界転移し勇者として戦った王国の中枢だ。


「以上が報告だ、王よ」


「分かった……ありがとうセリーナ公爵よ、悪は全て滅んだか」


 この部屋には今現在、三人しか人はいない正確に言えばセリーナは魔王なので人間では無いが些細な事だ。この王国の最高権力者二人と謎の男という組合せは実に不気味で謎めいている。


「ネミラーク、お前の仮面も直に取れる、その時にはまた私に仕えてくれるか?」


「もちろんだ我が王よ……」


 白い仮面を被った王の護衛ネミラーク、かつて快利と相対した時には喋れないと言っていたがあれは嘘だった。セリーナは事前に王から聞かされ快利に彼の正体を話さなかった事を正解だったか自問自答する。


「では、これより新生魔王の研究遺産の使用の審議と……そして」


「ああ、我が王よ……」


 二人の男の言葉に頷くセリーナに王も頷き返すと王は決定的な言葉を口にした。


「我が王国の護り手であり私の後を継ぐ次期国王の秋山快利を奪還する!!」


 この数日後、グレスタード王国では史上初の異世界転移による軍事遠征が発表される事になる。しかし誰一人としてグレスタード王の真意を知る者はこの場も含め居なかった。彼の隠された真意と野望が分かるのは、まだ少し先の未来だった。

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