第112話「決着、そして予告された災厄」
「下らん……実に下らない!! お前の力が増幅されたとしても俺には届かない!! 英雄、今のお前の力など俺に遠く及ばない!!」
「それが存外、そうでも無いぞ我が先祖よ」
横で大きな胸を張って俺の師が言う。やっぱデカイな……ユリ姉さんより大きいかもしれない。おっと余裕が出たらすぐにこれはダメだ、最後まで気は抜かない。
「愚かなセリーナ、今の段階でも俺の魔力に及んでいないのが分からぬか!!」
(た、しかに……ですが、我が……ある、じの女は……一人じゃない!!)
那結果の声が脳内に響いた瞬間、俺の体に新たに真紅に輝くオーラが追加されて後ろにいるセリカも輝き出していた。
「そうだったなセリカの
セリカとのカップリングスキルの第一効果はセリカと俺の共通の絆の繋がりが強い者をあらゆる条件を無視して任意で呼び出す事だ。そして第二効果は呼び出した者の力の一部を俺に貸し与えるという効果だった。
「私の力の一部……受け取れバカ弟子!!」
「よっし!! さっすが魔王!! 凄い、魔力だ!!」
そしてセリーナの魔力が俺に供給される。一部とはいえ魔王の魔力は凄まじい力を秘めている。これが一部とは信じられない量だ。
「くっ、こうなったら貴様の母をこの場に転送して盾にしてくれる!!」
「なっ!?」
迂闊だった、ずっと母さんと一緒にいた奴なら仕込みの一つもしていたのは容易に想像できる。それに前に魔王サー・モンローも転送魔法は使っていたから同じ魔王のイベドなら任意転送も可能なはずだ。
(でき……ないはず……です快利!!)
後ろでプルプル震えている那結果が勇者コールで呟いた。どういう意味だろうと逡巡しそうになる。だけど今を逃したら魔王が逃げてしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない……だから那結果……。
「お前を信じるぞ……那結果!!」
(あり……がと、かい……り)
そして俺は勇者絶技のための力を全て解放する。黒と白の光があふれ出し爆発しそうになる力を聖剣に一気に流し込む。完璧に制御するために俺も補助に入った。
「ふっ、退かぬか、ならば望み通りあの女を――――なっ!? 何が!?」
イベドが両手を掲げ転送魔法を発動させようとしたのを見て躊躇しそうになったが俺は最後は那結果を信じた。相棒を、大事な人を信じて前に進む決意をする。
◇
「こ、これは……転送魔法が発動しない? いや発動はしているのに……どうなっているのだ!? これは……」
「まさか魔法そのものを妨害しているというのかセリーナ!?」
魔法そのものにジャミングなどは本来は不可能で魔力を吸い取ったり、発動させる前に対象者を妨害するしか方法は無い筈だ。他には封印結界のような中に封じ込める事は出来るが魔法そのものに対しての妨害は見た事も聞いた事も無かった。
「これは驚いた……こんな事が可能なのか?」
「か、のうですよ……」(やって、くれ……ましたね、天才様……)
セリーナに答えるように那結果が呟く。何を言っているか分からないが那結果が上手くやってくれたみたいだ。そして聖剣のチャージが終わると白と黒の光とさらにスキルの三色の光が合わさって輝き出す。
前にセリーナと戦った時よりも遥かに強大な力が暴発しそうになるのを抑え込むと俺は敵を睨んで聖剣を振りかぶった。
「くっ、だが、今残っている魔力だけでも!!」
「行くぞ、勇者絶技……食らええええええええええ!!」
まず最初は白と黒の光が混ぜ合わされたものがビームのように飛んで行く。これは聖剣のスキル技、聖なる一撃に似ているが威力が桁違いだった。
「確かに凶悪だな……だがこれなら、なっ!?」
それだけで終わるわけが無い。俺はそのままビーム状の黒白の光を出したまま突撃する。奴も魔力障壁を展開するが僅かに展開が遅れていた。おそらく転送魔法を使おうとしたから反応が遅れたのだろう。
「こっからが本番だっ!!」
そして俺は奴の眼前まで転移すると本命を叩き込む、実は今までのは厳密には勇者絶技では無い、牽制のために使う目くらましでセリーナを倒した技はここからだ。
「なっ!? これはっ!?」
「行くぞ……響かせろ、歌姫の調べの如く!! そして受けろ!! 音速の一撃をっ!!『
驚いているがもう遅い。瑠璃色のオーラを纏った音速を超える斬撃の前に魔力障壁があっさり崩壊する。そしてその魔力斬の余波がイベドの右腕を斬り落とす。
「んぐっ!? ぐっ……バカな、ただの斬撃で!?」
「まだまだ行くぞ!!」
「またしても、ただの剣の技!! なのに、何でこんなに!?」
そう、これは勇者式剣技の連続剣だ。必殺技ラッシュとも言う。これを三連撃するのだが使う技は毎回ランダムだ。だから俺でも最初は使う時は混乱していた技だ。
「お姉ちゃんへの想い、熱き呪縛を力に変えて
今度はエリ姉さんとのカップリングスキルで使用した技だ。背後に回り込んで爆炎の中から飛び出て奴を背後から袈裟斬りにする。今回は弐式だから威力も上がって敵の防御も間に合わずに直撃し奴の背中から血飛沫が飛んだ。
「うぐっ!? くっ……バカな、こんな未来、俺はっ!?」
「知らないだろうよ!! お前の固執した神様ですら未来は完全に見通せない……これで決めるぞ!!」
そして最後に出すのが本当の勇者絶技だ。全てはこの一撃のための布石で今までの技は敵のスタミナを奪うのが狙いだ。動きが鈍った相手に確実に当てるための一撃を今放つ。
「終わりだ、
「くっ!? 防げない、それに動きまで……まさか、こんな技で……こんな小手先の技で俺が!! ぐがっ!?」
俺は最後にバットでフルスイングするように横薙ぎの一撃で聖剣を全力で振った。聖剣は真紅に輝き魔王イベド・イラックを真っ二つにした。そして最後まで戦場で立っていたのは俺だ。
◇
「お前はさ……過去ばっか気にして辛い感傷に浸ってさ……そりゃ辛い過去があったら書き換えたいし、やり直したいよ正直、過去を全部ぶっ壊して世界も壊したいって思った事も有ったよ」
「ううっ、おの……れ」
もはや瀕死で下半身が消滅し上半身だけになった魔王イベド・イラックは俺を睨みつける事しか出来ないようで俺は聖剣を鞘に戻して奴に話し続けた。
「転移前も、戻って来た転移後も……何で俺ばっかりって、しかも周りは調子良く謝って来てさ……昔のことを無かったようにすんのは、ふざけるなって思ったよ」
本当は心のどこかでエリ姉さんの事もユリ姉さんの事もルリの事も許していなかった自分も確かにいた。そして那結果が俺に代わって三人に説教しているのを見て心がスカッとしていた事も有った。
「それでもさ……過去は過去なんだよ、もう過去なんだ!! 母さんがお前に酷い目に遭わされたのもっ……ユリ姉さんが騙されて俺を罵倒したのも、ルリが……俺をイジメてたのだって、全部乗り越えなきゃダメなんだよ!!」
もちろん忘れる事は絶対に出来ないしアッサリ許すなんて論外だ。それでも先に進むには誰かが……いや違う、俺が、俺こそが悲しみの連鎖を断ち切って止めなきゃいけない。俺自身が変わらないとダメなんだ。
「だから、俺はっ――――「ご大層……だなっ……ごほっ!?」
「まだ喋れるのか……しぶといな」
奴は前回の戦いの最後に死を偽装したり最後の魔法で過去に干渉したり好き放題していたから奴が完全に死ぬまで警戒は必要だ。
「げほっ、ごほっ……聞か、せろ。最期に……」
「何をだよ?」
「お、まえは……ほんとに、憎く……ない、のか?」
「また神か?」
いい加減うんざりする。最後まで狂っているようだと思って聞いていたら奴の回答は俺の予想とは違っていた。
「ちっ、がう、うし……ろ、女どもは、お前を、しいたげ……ごほっ」
死にそうになりながら震える指を俺の後ろの大事な人達に向けて指していた。ちなみに警戒したセリーナが結界を張って七人全員を守ってくれている。
「今言ったろ? 酷い目に遭わされたってさ、でも、それ以上に大好きなんだ……」
後ろが妙にざわざわしているが今は無視だ。これは最後の始末、英雄いや元勇者として魔王に引導を渡すのは俺の仕事だから。
「そう、か……なら、神は、神を……」
「魔王イベド・イラック、結局お前は自分の理不尽を覆すために多くの人に、俺の大事な人達を巻き込み理不尽を強いた……その時点でお前の復讐は必ず俺が止める、そういう運命だったんだ」
結局は人を呪わば穴二つという事だ。自分のために他者を利用しようとしたなら必ず手痛いしっぺ返しが待っている、それが目の前の魔王の業だ。少なくとも俺はそう思っている。
「ふっ……ごほっ、そう、か……だがっ、まだだ」
「もう……ここで終わらせてやる永遠にな」
「ああ、俺は終わりだ……だが!!」
そう言って起き上がろうとした瞬間に微かに魔力を感じ俺は聖剣を抜いて奴の左腕を斬り落として剥き出しになっている魔族の核を神刀で貫き完全に破壊した。その黒い核は嫌な音を立てて粉微塵になった。
「今度こそおしまっ――――「バカめ……俺の死が……最後の、トリガーだぁ」
「え?」
俺の呆けた声が結界内に響くがそれ以上に奴の笑い声の方が大きく響いていた。
「ははっ……恐怖しろ、黒き絶望が……最後の龍が……死を運ぶ黒龍……が、世界を覆う……これが、俺の……さい、ごの、神への……はんぎゃ、く」
「どういう意味だ!? おい!!」
「俺の……勝ちだ……えい、ゆう……」
それが奴の残した最後の言葉になって完全に消滅した。これが魔王イベド・イラックの最期だった。しかしまだ全ては終わっていないと、この場の全員は誰が口にするまでも無く理解していた。
◇
「終わったか……」
「一応はな……」
セリーナと俺は互いに顔を見合わせる。そして俺が先に口を開いた。
「セリーナ頼みが有る……」
「分かっている、因果律操作魔法で封じた双方のゲートを解放するんだな?」
打てば響くというか以心伝心というべきか、それとも因果律操作魔法を持つ者同士の共通認識と言った方が良いかもしれない。
「ああ、どの道お前が戻るには必要だろ?」
「そうだな……実は最近は時空震が多くてな、ゲートをこちら側だけでも解放し調査をしたいと思っていた」
セリーナが言うと結界が解け始めた。俺の神気と魔力はまだ有るが那結果が限界で倒れそうになっていたから慌てて抱き寄せて支えた。
「ううっ……」
「お疲れさん、今回も助かったぞ」
「では、今度、二人きりでご休憩の場所へ……うっ……」
そのまま気絶した那結果を抱っこしたままで周りの皆が集まって来ると代表するように慧花がセリーナに声をかけていた。
「セリーナ、実は時空震自体はこちらでも増えていたな……まるで時空戦争が始まる前のようなんだ」
俺も同意するように頷くと、いつの間にか青の鎧からいつもの黄土色のローブ姿に戻っていたセリーナが反応していた。
「慧花には転生前に話したがあれは時空宮殿が動いた結果起きた時空震だ。しかし今回のものは違う」
「原因不明ということか?」
「いや、実は話さねばならない事がある、実は――――」
そこで話されたのは知っている事と知らない事が混在していた。まずセリーナ達、魔王シリーズ七体が目覚めたのはイベドが倒されてすぐではなく数ヵ月ラグが有ったらしい。具体的には俺がドラゴン討伐をしている最中に王国の裏世界の世界樹付近で目を覚ましたそうだ。
「そして時空宮殿の危機を察して私達は同胞を救出し拠点などを復活させたが、私や他の姉や叔父達、他の魔王シリーズと袂を分かつことになった」
「確か生き残りの魔族達を間引くとかいう話で揉めたんだろ?」
「ああ、そこで面倒になった私は勇者のお前を倒し王国を占領すれば解決すると思って、あの日王城に単身で赴いた」
その後は知っての通り俺は全部が嫌になって因果律操作魔法で今のこの世界に戻り過去改変を数度繰り返して今の時間に至る。
「それでセリーナ? 結局は時空震の原因は何だったんだ?」
「ああ、ここからが重要だ、我らが目覚めるのは本来もう少し先だったが時空震の発生が顕著で早く目覚めた理由は快利とドラゴン達の戦闘で発生した時空震だった」
それを言われて俺も何となく理解した。つまり時空震が多いのはドラゴンの仕業という事だろう。
「ちょっと!! うちの子達が原因だって言うんじゃないでしょうね!! あの子達は通学とネット検索とお肌の乾燥対策にしか使って無いわよ!!」
「ユリ姉さん……そんな使い方してたんだ」
「これは竜の巫女、失礼した、君の所有するドラゴンを見せてもらえば魔力の波長を見る事が出来る、可能か?」
セリーナの言葉にキョトンとした後にユリ姉さんは俺を見たから「大丈夫」と言って頷くと呼び出そうとスマホを取り出し通話する。これでフラッシュはすぐ呼び出せるらしい。
「……そういえば出て来ないわね三人とも、マリン、フラッシュ、グラス!!」
「お呼びですか……我が主」
「ご主人様~、マリン姉さんは浸食酷くて私達だけです~、ごめんなさいって言っておいてって、ううっ、おえ~」
見るとグラスもフラッシュも小型犬サイズになっていて一言で言うと超グロッキー状態に見えた。グラスが黒い魔力の塊をケホッと吐いていて苦しそうだ。恐らくはユリ姉さんを介して時闇の楔に浸食されていたのだろう。
「これは……セリカ!! 魔王コロリを貸してくれ」
「ほんとに名前付けたのお前なんだな」
「ああ、正式名称が『魔王タイプ殺傷分解用微粒子Ver.3.1』という名でな、これもイベド・イラックの研究成果だ、長いから魔王コロリと名付けた」
確かに長いなと思っているとセリーナは魔王コロリに何かの魔法をかけるとグラスの口に一粒だけ放り込んだ。
◇
「おいおい、それ大丈夫なのか!?」
「問題無い、ドラゴンにとっては別な魔力が入って腹を壊している状態だ、だから魔王の魔力で作られた楔の力を弱めれば後は自力で何とかなるはずだ、お前も飲め」
横のフラッシュにも飲ませると二人揃ってしばらくすると落ち着いたようで動けるようになっていた。
「すまない、それをマリン姉さんにも頼めないか!?」
「構わん、異世界に跳ぶのだろう? 快利、この場の全員を跳ばすが構わんな?」
「ああ、皆もドラゴンワールドに行こう」
そのまま全員で転送されて到着した先にはマリンが横たわっていた。周りには心配したように水棲型のモンスター達もいて心配してそうにしていた。慕われてるなマリンドラゴン。
「マリン!! あんた大丈夫なの!?」
「マスター……すみません毒を抑えるために取り込み過ぎました」
「おバカ、本当に無理して……快利、セリーナさんお願い!!」
俺はすぐにユリ姉さんと手を繋いでG・D・Mを発動させると俺の魔力が吸い出されユリ姉さんを介してドラゴン三体に供給されて行く。セリーナは既に魔王コロリをマリンに食べさせていて解毒もすぐに完了した。
「ふぅ、助かりました……それにしても魔王に助けられるとは皮肉ですね」
「気にするな、しかし……やはり三体ではなかったぞ魔力の波形は違う、これ以上の強さの魔力だった」
セリーナが言うと同意するようにマリンが起き上がる。さらに他の二体も本来の大きさに戻り完全に回復したように見えた。話はユリ姉さんを介して聞いていたようでマリンが俺達の疑問に答えた。
「そうでしょうね、恐らくはあのイレギュラーです」
「それって黒龍のことかマリン?」
「あ~、あの黒い蛇ですよね、龍とか言ってましたけど……」
グラスが俺の問に答えるように言うと俺達のスマホにデータが送られて来た。よく見ると凄まじい量の通知が来ているが、まずはフラッシュが送信してきたデータを見る事にした。
「すまない、那結果と相談し確信が持てるまで秘密にしていた」
「そうか……那結果は寝てるから後で聞くけど……説明できるか?」
俺がフラッシュに言うと全員の視線がフラッシュに向いて彼女はゆっくりと事実だけ口にした。
「結論から言おう……黒龍と名乗る我らとは違う八体目の龍が近い内に元勇者の世界に出現すると、このデータでは出ている」
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