第113話「再会の約束、そして最強の助っ人?」


 フラッシュの言葉に異世界組は騒然としていた。対してこちらの世界の三人はピンと来ていないようだ。しかし俺は気持ちを切り替えてセリーナを見た。


「快利、私は向こうの世界に一度戻る、こちらのゲートの封鎖の解除を」


「分かった、じゃあ――――「快利、先にそちらが優先なのは分かるがスマホの通知が大変なことになっているぞ!!」


 エリ姉さんの指摘通りスマホには通知が先ほどから入りっぱなしで着信も来ていた。信矢さんや工藤先生それに親父達からも連絡が入っている。


「ここって電波有るのかよ……そうかフラッシュがいるからスマホの基地局みたいになってるのか」


「やっぱ一家に一体はフラッシュよね~」


「恐れ入ります我が主……スマホの充電もしておきました」


 ほんと便利だな俺の雷系の魔法や電気系統の魔法だとスマホは充電出来ないのに、何か色々と負けた気がする。だが今はそんな事よりエリ姉さんの言う通り連絡すべき状況だ。


「じゃあエリ姉さんは親父たちに、ルリも一応はエマさんに連絡しといた方がいい、説明し過ぎると大変だから無事という話だけを伝えてくれ」


 俺の言葉にエリ姉さんとルリが頷いて同時にスマホをいじり始めた。そして振り返って残りの四人にも指示を出す。


「モニカは那結果を介抱してやって欲しい起きたら意見を聞きたい、セリカは工藤先生に話を通しておいてくれ春日井さんが出ても同じ対応で頼む、最後に慧花とユリ姉さんは一足先に自宅付近に転移魔術で跳んで様子見を頼む」


 俺が指示を出すとセリーナはすぐに転移した。おそらく時空の狭間に跳んだはずで俺も後を追うために転移した。


「えっと、今回は色々と助かった」


「気にするな、それに我が先祖が迷惑をかけたのだ、私の方こそ済まなかった」


 それこそ謝られても困るレベルの話で例え先祖が悪いからって目の前のセリーナや他の魔族が悪いわけじゃ無い。そんなのは子供でも分かる理屈で異世界での俺はそんな簡単なことすら分かって無かった。だから俺は手を差し出した。


「ま、和睦の握手ってことで」


「ふっ、そうだな何か分かったら駆け付けよう……私の唯一の弟子よ」


「ああ、頼むぜ師匠?」


 そして俺達は互いの世界の因果律操作魔法の封印を解いた。そして、そのままセリーナは因果律操作を使い元の世界に戻って行った。俺もそれを見送ると転移魔法でドラゴンワールドに戻る。戻ると全員戻っていて更に驚いた事に工藤先生と信矢さんと見知らぬ男女二人まで来ていた。




「で? どういう事態なの? てか誰?」


「おやおやおや、それは随分じゃないか勇者く~ん、君の母上を守った対魔導システムのジャミング装置を作ってあげたのに誰とは!! まあ工藤さんに口止めはしていたし、那結果くんも約束を守って僕らの存在を黙ってくれたのは確認出来た」


 いきなり白衣を着た男性が凄い勢いで俺の知りたい情報を話してくれた。お喋りなのか情報を小出しにしているのか分からないタイプの人間で危険な感じがする。


「快利、後で詳しく、お話しします……そちらは快利のご両親から、昇一氏と夕子母さんから紹介された方々です」


 すると目を覚ましていた那結果がバツの悪そうな顔をして言った。てか親父たちの関係者なのか、先生の名前も口にしていたし何者なんだ。


「親父と母さんから? それに口止めって一体……」


「それについては俺から話そう秋山」


 そこで更に割って入って来たのは工藤先生と信矢さんだった。このタイミングなら那結果だけではなく二人とも知り合いと見て間違いないのだろう。ならば例のグループの関係者とみて間違いない。


「工藤先生、一体どういう事なんですか?」


 俺が疑問を投げかけると口を開いたのは白衣の男性の横に居たグレーのスーツを着た女の人だった。口元に笑みを浮かべながらも目付きは厳しく油断の全く出来ない相手にしか見えない。


「工藤さん、ここは直接わたくしが話します。仁人様の話は初対面の方には難しいでしょうからね、では改めて、初めまして秋山快利くん私は千堂グループ会長代理、千堂七海です、よろしくね」


「千堂グループの会長って……こんな若い女の人が!?」


「それはどうも、皆さんも那結果さん以外は初めましてですね早速なんですが皆さんに良い話が有ります、お聞きになりますか?」


 俺と慧花そしてセリカ以外のメンバーは完全に彼女の眼光と言葉にひるんでいてエリ姉さんですら飲まれていた。そのあふれ出るようなカリスマ性はスキルとは違う彼女の生来のもので俺スキルのような紛い物では無い本物のように感じる。


「状況次第です、慧花たちに向こうの状況も聞きたいので――――」


「向こうでは既にあなたの家が爆発して大事件です、このままですとワイドショーの話題は住宅地での謎の爆発事故で決まりでしょうね」


 とにかく皆だけで話し合うべきだと考えたのに目の前の女性はそれを許さなかった。何が良い話だ俺達を追い込む気満々じゃねえか。


「俺は二人から直接――――「そちらの……千堂さんの言う通りだ快利」


「すみません皆さん、わたくし千堂という苗字が嫌いですので七海と、名前の方を呼んで頂けると幸いです」


「……分かりましたよ七海さん、慧花、詰んだのか?」


 そして今の七海さんと慧花とのやり取りで理解した。これは地味に追い詰められている状況だ。セリカも旗色の悪さを感じているようで視線で危険だと言っている。


「手は無い……向こうで転移魔術が妨害されてね、迂闊だった」


「なら――――「こちらは戦う気は毛頭有りませんよ? 事故のようなものです」


 ならば妨害という敵対行為に対しての対価、またはそれに準ずる行動をした報いなど難癖を付けようとすると今度は先回りされた。完全に読まれている。


「それに、あのままでは付近に潜伏していた記者に見つかっていましたよ? 転移魔術でしたか? それが世間にバレていたかも知れませんね」


「貸しを作った上に脅迫ですか……」


 目の前の女性は向こうの世界の貴族と同じような厄介な相手で純粋な力押しや脅しは効かないタイプの人間だ。


「違いますよ、当たり前の指摘です年長者の意見は大事ですよ?」


「なら、その意見とは?」


「そうですね、あなたの実のお母様についてなど、いかがです?」


 それを言われた瞬間、俺は勇者のオーラを全開にする。どんなに澄ました顔してる美人でも泣いて謝らせてやる……って嘘だろ俺の勇者のオーラが効いてないように見えるんですけど。


「へ、へえ……俺の殺気に当てられて余裕なんですか、こっちの世界じゃ初めてですよ七海さん」


「それはどうも……凄まじい気迫ですね高校生とは思えない、でも聞いていた人物像とは大分違うようですね快利くん」


 効いてはいるらしいけど表情が一つも変わってない。嘘だろスキル補正でも有るのかよと俺は焦って咄嗟に神々の視点全部丸見えを使用する。そちらの頭の中を全て見せてもらう、どんなに胆力が有って頭が良くてスキルの前では無力だ。


――――ビィィィィィィィ!!


 俺がスキルを発動させた瞬間、不意に謎の大音量が響き渡る。まるで防犯ブザーのような音が鳴り出した。それと同時に白衣の男性が取り出したノートPCをカタカタさせながら興奮したように喋り出す。


「ほう、今の波形が『スキル』というものか七海よくやった!! 貴重なサンプルが取れたぞ!! なるほど過剰なまでの高ベータ波に近い何かを体外に放出しているのか、しかしそれで他人に影響を? 実に興味深い!!」


「お褒めに預かり光栄ですわ仁人様」


 ニヤリと笑う白衣の男と、その仁人と呼ばれた男の言葉にうっとりしている七海さんに面食らったが厄介な事態だ。俺がスキルを使ったのがバレた。こんなの向こうの世界でも普通は分からない。

 スキルは発動して効果が出た時に初めて他人には発動したと分かるものだ。発動する瞬間を捉えられ効果前に察知されるなんて致命的過ぎて戦いの常識が変わってしまうレベルの話だ。


「なっ!? ま、まさか快利のスキルが……あっ――――」


「どうやら試作型計測器の調子はいいらしいな那結果くんの波形もサンプルにしていたが効果は有ったようだね」


 那結果が珍しく動揺して口を滑らせたせいで完全にバレた。こうなったら完全にイニシアチブを取られる前に実力行使をすべきかと聖剣に手をかけ慧花を見るが首を横に振られた。


「私のデータ……あの二回で取られたのですか」


「ああ、那結果くんのデータだけで発動する瞬間を察知するオモチャくらいは作れるさ、それに秋山快利くん、君のデータはずっと集めていたからな」


「俺のデータを……どうやって?」


「君の今までの行動の揉み消し、いや隠蔽工作をしていたのは誰だったのか、もう忘れてしまったかな?」


「隠蔽と同時に俺のデータも取られていたと……そういう意味ですか?」


 俺は目の前の白衣の仁人さんを睨んで言うと隣に来た七海さんが頷いて口を開くと俺を見て言った。


「それがあなたのお父様との交換条件でしたから……工藤さんにも映像データや口頭での報告などもしてもらって必要な情報は全て取らせてもらいましたよ」


「マジすか先生……」


「悪いな秋山、これも仕事だ」


 つまり先生が赴任した時からの俺のデータは取られていたと見るべきだろう。俺がそう考えて口にしたら即座に否定された。


「それは違う君のデータは少なくとも八月中から取り始めていた。君の父親の昇一氏と風美社長からも依頼されてね」


「えっ!? 伯父さんからも?」


「そうだよ風美瑠理香さん、いやアイドルのRUKA、そもそも君たちのドーム破壊の損害賠償の負担も我がグループが八割持ったんだよ」


 嘘だろ、そこまで……じゃあルリ達の方にも脅しをかけられるのか。そういえば前にルリが事務所も千堂グループに関係が有るとか言ってたのを今思い出した。


「さて、どうしますか勇者カイリくん?」


「ぐっ……」


 皆の不安そうな気配が伝わって来る。勇者コールを使った瞬間には察知されるから迂闊に使えない。それに魔法の妨害装置のようなことも言っていたから魔法は発動すら出来ないかもしれない。


「そこまでです七海先輩、ドクターも……年下イジメて楽しいんですか?」


 呆れた顔をして話に割って入って来たのは先ほどから無言を通していた信矢さんだった。信矢さんはスマホを見た後に俺達を守るように間に立つと二人と対峙する。


「おやおや信矢、きみ以来の興味深い研究対象なんだ、もう少し楽しませてくれ」


「はぁ、ドクターはダメだ、じゃあ七海先輩、例の約定……快利くんにも代襲相続のような関係で権利は使えると思いますけど?」


 権利とは何ですか? と、思わず真顔になって聞くと後で話すと言われて信矢さんは笑顔を見せてくれた。




「――――という状況だ快利」


「なるほど、他の皆は補足とか有る?」


 信矢さんと工藤先生が二人を抑えてくれている間に俺達は状況整理をしていた。俺がセリーナと転移した後、様子を見に行った慧花とユリ姉さんは家の惨状に困惑して咄嗟に身を隠していたらしい。


 そしてちょうど同じタイミングでセリカが工藤先生とスマホで話をしていて慧花の判断でユリ姉さん達と合流し四人を連れて来てもらい睨み合っていたのが俺が戻るまでの話だった。


「さて、では改めて話を聞いてもらえますか?」


「う~ん……正直なところ少し考える時間が欲しい、です」


「なるほど、では後日、再度お話の場を設けてもらうのは可能?」


 それが一番良いんだけど状況は最悪だ。この人達と言い合いをしている場合では無い。黒龍が目覚めようとしているから対策を立てる必要が有るし状況次第では目の前の人に協力してもらうのが一番の近道な気がする。


「そうだと言いたいんですけど……時間が無い、です」


「詳しく聞けるのかしら?」


 そこで俺は即応式万能箱どこでもボックスから人数分の椅子を出して更にちょうどいい円卓も出して青空学級ならぬ青空会議を提案した。ドラゴンワールドは今はまだ日が高い時間帯だった。


「まず先ほどの戦いから今の状況までについて、お話します」


 そして俺と慧花が中心に説明した。途中で那結果とフラッシュに補足を入れてもらいながら黒龍の存在まで話すと大人達の表情は一気に厳しいものに変わっていた。


「なるほど……今の話をしてくれたのなら多少の信頼関係は築けたと見ていいの?」


 モニカの淹れた紅茶を飲みながら見る七海さんの目は真剣で俺達の話を信じてくれている様子だった。そこに先ほどのような敵対するような態度は見えなかった。


「取れる手段が少ないこと、それと今までこちらの無理を通してもらったり他にも隠蔽と……あとは母さんの監視の件で俺への配慮も考えて頂いたので敵対しなくても良い相手とは考えてます」


「そうですか今はそれで充分です。では、信頼の証として私達も一つ手札を晒しましょう……仁人様、例の映像についてお願いします」


 そして仁人さんにスマホを渡され見せてもらった映像には母さんが映っていた。どうやら俺がイベドと戦っていた間の記録のようだ。そして母さんがルリやユリ姉さんと同様に黒い楔を出現させて苦しんでいる姿も確認出来た。


「時闇の楔か……先生がこっちに電話してくれた時のですか?」


「いや、電話が切れて少し間が有ったはずだ」


 それを聞いて動画を早送りすると今度は倒れた母さんが救急車で病院に搬送されるシーンに変わっていた。そして何の前触れもなく車内で母さんの体が青紫色に光ると数秒して収まった。今の光は間違いなく転送魔法の兆候だった。


「転送魔法の兆候が出て、消えた?」


「君達が魔法と呼ぶ現象の一部を解析し、シーケンスを阻害する機器を作ってみた、まだ車に搭載するレベルの大きさのものまでしか作れないのが難点だ」


 魔法へのジャミング、さっきのイベドとの戦いで奴が転送魔法を使えなかった理由はこれだったのか。そして俺の横でスマホの画面を覗き込んで来た那結果や慧花も驚きを隠せていなかった。


「この目で見るまで半信半疑でしたが魔法を妨害なんて、出来るとは聞いてましたが……こんな」


「ああ、こんな事が可能なのか……」


 目の前の人は本物の天才だ。那結果がどれだけ魔法の話をして研究に協力したかは分からないが魔法の習得及び発動の体系化は出来ていても、魔法そのものに干渉するなんて不可能だと言われていた。発動後にしか魔法は対処出来ないというのが異世界での定説だったのだ。


「那結果、お前が二人と会ったのは……いつだ?」


「家探しを始めて数日後ですの約一ヶ月前です」


 ならこの人は一ヵ月以内にジャミング装置を開発したことになる。一年後には俺の魔法も全部封じられる可能性すら有るしスキルも妨害しかねない驚異的な存在だ。


「少しは信用してもらえたか?」


「色んな意味で……でも魔王クラスの魔法を妨害するなんて」


「いやいや、魔王と呼ばれる者がどれ程かは分からないが実は試作機は一回使っただけでオーバーヒートして壊れてしまってねえ、三億がパーだ」


 さ、三億円って宝くじでしか聞いた事無い単語なんですけど、それだけの資金をかけて魔法のジャミング装置を作ったのかよマジか。


「ああ、これでも突貫作業で予算もケチったからな本当は見積もりの十倍は欲しかったんだぞ七海?」


「すいません仁人様、最近は情勢が厳しくグループ内で搾り取るのも一苦労で、趣味の研究費が年間で八十億までしか捻出できませんでした」


 そして次期総裁で会長代理の七海さんが申し訳なさそうに謝っているが八十億円って大金ってレベルじゃねえぞ……どうなってんだこの人達の金銭感覚。そんな事を俺を含めた全員が戦々恐々と見ていると七海さんは俺達に向き直って口を開いた。


「それでは最初の話に戻りましょう快利くん、私達からの提案を受けて頂けますか」


「は、はい……ご協力をお願いします」


 この日、元勇者の俺は完全に目の前の天才と女傑に敗北した。やっぱり、お金の力は強過ぎるんだよ……お金大事。

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