第111話「二人の魔王と勇者絶技」



「貴様、どうやって……何で、ここに失敗作の貴様が!!」


「どうやら本物らしいな、その言い草……我が創造主にして始祖の魔王、魔王イベド・イラック様か、数千年振りといった所か……なっ!!」


 そして言いながらセリーナは赤い魔剣から黒い炎の一撃で簡単にイベドを吹き飛ばす。前に戦った時よりも魔剣の一撃の威力が上がっているように見え、イベドは簡単に吹き飛ばされていた。


「セリーナ様!!」


「ふっ、呼んだのはバカ弟子と……お前だったか、セリカ」


 セリカが呼んだってどういう意味だ。すっかり状況に付いて行けずに居るとセリーナが大股でこっちに向かって歩いて来た。あれはお怒りだ……すっごいキレていらっしゃる。


「あの時、二人を任せた時に大見得切ってこの様か、バカ弟子がっ!!」


 魔剣の腹の部分でぶん殴られた。手加減など一切無く完全に本気で殴られた一撃は死ぬほど痛かった。


「いっ…………ってえええええ!! 何すんだよ!!」


「神刀に選ばれたお前がそれでどうする? お前がその刀を抜く時の誓いと想いは偽りだったか? 私はそんな奴に負けたのか?」


「だってさ、何も事情知らないで……」


 セリーナとの一騎打ちの後から俺はさらにセリーナから剣技や色々なことを学んでいた。そして二度目の戦いで卒業と言われ俺は向こうの世界から因果律操作魔法を使い転移して、この世界に戻った。それがあの夏休みの出来事だった。


「知らんよ、召喚されたばかりだからな……だが、お前の顔を見れば分かる、どうせ我が先祖の言葉に惑わされたのだろう?」


「そ、それは……でも奴は……」


 奴は俺の大事な人達の仇で絶対に許す訳にはいかない敵だ。だから俺は因果律操作魔法で……って違う。あいつの狙いは俺に因果律操作魔法を使わせることで、それなのに俺は我を忘れて口車に乗せられそうになったんだ。


「やはり数十年しか生きてないガキだな貴様は……だが、おい聖剣はどうした?」


「それは私が持ってるよセリーナ」


「なぜ貴様のような女が? ん? お、お前……まさかケーニッヒなのか!?」


 これには流石のセリーナも驚いたようだ。そりゃ当然だ、盟友が転生したまでは良かったけど女になっているとは普通思うまい。


「ああ、こちらに転生して今は現役JDさ!! 改めて礼を言うよセリーナ」


「そのジェーディーというのが何か知らんが女になったのか、凄まじい執念だな、見た目も……いや顔も変わらんな、普通に違和感無いなお前」


 俺と同じ感想を言いながらも再会を喜んでいるセリーナに対して、こちらの現実世界組は困惑していた。


「あの~カイ、この美人な人も魔王……なの?」


「ああ、夏休みに俺が拉致されたの覚えてるか? 主犯はコイツだ」


「ええっ!? わ、私のカイをセリモニと一緒に拉致監禁した人!?」


 ルリが恐る恐ると言った感じで見ている。ま、セリーナって背も俺と同じくらい有るし目付き鋭いし迫力有って流石は最強の魔王だ。ちなみに歩く度に大きい胸も凄い揺れてるから戦闘中は重力魔法で固定してるのは秘密だそうだ。


「ああ……あの時は世界の危機だったからな、許せ勇者の大事な女よ」


「はい、大事な彼女なので大目に見ます♪」


「待ってルリ、サラッと既成事実のように――――「とにかく味方なのか、あなたは……魔王、なのに?」


 ルリの言うことを訂正しようとしたら那結果に肩を貸して歩いて来たエリ姉さんが声をかけていた。反対側の肩はユリ姉さんが支えていて那結果も俺のミスでだいぶ酷い目に遭ったようだ。


「悪かったな那結果、俺も落ち着いたから……心は今でもキレてるけどな、冷静にキレることにした」


「なら結構、ですが英雄化もあまり持ちません……このままでは神気切れです」


 それに了解とだけ答えているとセリーナはエリ姉さんとユリ姉さんを見て驚いていた。そして俺も驚く衝撃の発言が彼女の口から飛び出した。


「こちらの世界の魔族の先祖返りに会えるとは驚いた、そちらは竜族の因子持ちとは……お前の姉達も中々おもしろいな」


「え? 姉さん達って魔族なの!?」




 師から知らされたのは衝撃の事実だった。確かにドラゴンと普通に契約できたり魔法を跳ね返したり変だとは思っていた。そもそも、この世界に魔族なんて存在していたのだろうか?


「私の見た所ほぼ人間だな、力も人間レベルで魔族とは言い難い、せいぜい魔力の強い人間だろうな……因子以外は」


「なっ……魔族だと、バカな……セリーナどういうことだ!?」


 先ほどセリーナに吹き飛ばされたイベドがこちらに近付いて来るから俺は慧花から渡された聖剣を構えて奴を睨みつける。だが俺のことなど意に介さず魔王同士の会話が始まっていた。


「二人に気付かないとは耄碌もうろくしましたね……時空宮殿の研究所跡であなたが龍皇とかいう魔王の紛い物を作り自動起動させた時点で怪しいとは思っていましたが」


 龍皇……どこかで聞いたこと有るなと思っていると横の慧花がアッサリと答えを言っていた。


「龍皇って……もしかして七竜事件の首謀者か!?」


「ああ、その通りだケーニッヒ」


「それとセリーナ、今の私の名は慧花だから、それで頼む」


 時空戦争の戦後処理を慧花、当時のケニーとしていた際にいきなり現れた奇怪な人物が龍皇と名乗る者だった。奴はいきなり魔王城の封印されていたドラゴン達を解放すると、その余波で自分も巻き込まれアッサリ死んでしまった謎の人物だった。


「あれも魔王イベドの仕込みか……」


「ケーニッヒ、いや慧花の葬儀の後に時空宮殿の同胞を弔いに行った時に研究データと秘密の研究室を見つけてな、そこで知った」


 セリーナの時間では数ヵ月前の出来事だったらしく今は慧花ことケーニッヒの葬儀後の領地運営と魔族と人間の共生で悩んでいた最中に呼び出されたらしい。


「貴様、それより俺の研究室を見たのなら神へ対抗兵器は作ったのだろうな!? お前らが因果律操作魔法でゲートを閉じたせいで俺は向こうの世界の研究室に戻れなくなったのだ!!」


 あの夏休みの日に俺達が互いに因果律操作魔法でゲートを閉じた際にこの魔王も元の別な世界に行き来が出来なくなっていたようだ。


「ざまあ見ろクズ野郎が、お前が苦しんでるの見るの超気持ちいい~」


「快利よ一体何が有ったのだ? お前は……いや違うな我が先祖が何をした?」


 そこで魔王イベド・イラックは聞いてもいないのに先ほどの胸糞悪い計画を全て語った。対するセリーナは黙って聞いていたが表情は変わらない。


(やっぱ魔族って価値観が違うから仕方ないって思うのか?)


(可能性はゼロでは無いかと……そもそも強者が正しく弱者が滅びるのが必定というのが魔族の生き方なので)


 那結果と勇者コールで話しているとセリーナは「ふむ」と呟いた後に俺を見た。そしてため息を付くと呟くように言った。


「ふぅ、なるほどな……」


「おいセリーナ、聞いているのか!?」


 苛立つイベドが近寄った瞬間、セリーナは赤の魔剣でイベドを再び斬りつけ吹き飛ばした。完全な不意打ちでイベドも避け損なったようで苦悶の表情で後退する。




「貴様!! 裏切るのか!! 俺に造られた貴様が!!」


「裏切る……とは違いますな、今の私は魔王では無く友に助力を乞われただけの一魔族、それと個人的に女や弱者を嬲り者にするクズは好かん!!」


 それだけ言うと怜悧な美貌で睨みつけると凄まじい魔力を周囲に撒き散らかす。だが少し待って欲しいセリーナ、ここには俺以外の一般人が多く修行中みたいに全力を出すと皆が吹き飛んでしまう。


「ふん!! 命名、お姉ちゃんシールド!!」


「えっ?」


 すると今度はエリ姉さんが皆の前に出て立ち塞がると魔力を反射していた。そして偶然にも魔王イベドの方に魔力波の一部が飛んで行きスコーンと良い音がしてダメージを与えていた。


「ぐっ!? また貴様か!!」


「ちょっとエリ姉さん!? 大丈夫なの怪我とか無い!?」


「問題無い、お前達の話をずっと聞いていたからな魔力なら私の特性とやらで全部反射するんだろ?」


 確かに言ったけど魔力の渦に突っ込むのは強力な台風の中に突っ込んで行くようなものでダメージが無いだけで簡単に出来ることじゃない。でも、そのお陰で後ろのルリ達は無事だった……それでも危険過ぎる。


「反射するのは魔力だけで魔力の余波で飛んでくる物は防げないんだよ?」


「大丈夫だ避けてみせる、それにやっと私もお前の役に立てるんだ快利」


「いや、エリ姉さんには何だかんだで世話になりっぱなしだから気にしなくても」


 俺を高校までこの世界に繋ぎ止めていたのもエリ姉さんだし、向こうで戦えたのも勉強も全部そうだった。過剰に厳し過ぎたけど恩義はしっかりと有るんだ。


「だが、お前がこちらに帰って来てから私は役立たずで、守られるだけだった」


「いやいや一般人が戦えないのは普通だから!!」


「それでも!! ユリ姉ぇと瑠理香は毎回お前の戦いをサポートしていた」


 そういえばエリ姉さんとのカップリングスキルってあまり使ってないんだ。強力なんだけど名前が恥ずかしいから使うのを避けてたとは今さら言えない。


「それは……ルリのは使い易いしユリ姉さんは単独でも便利だから」


「私だって役に立ちたかった!!」


「ありがとう、でも危ない事はして欲しくないんだよ、エリ姉さんにも皆にも」


 ユリ姉さんの焦りみたいなものは何となく分かっていた。でも怪我を癒し、あの男実の父親との因縁も片付けた後は大丈夫だと思ってたけど違ったみたいだ。


「とにかく小さい頃からエリ姉さんには恩が有ったんだから気にしないで……」


「だが瑠理香には口うるさい姉だと愚痴ってたんだろ?」


「そ、それは……」


 はい、言ってました中学の頃に……あの頃は家でしごかれていたから愚痴くらい言うよ。どうやら前のルリとの口喧嘩のことを未だに根に持っていたみたいで驚いた。


「あの頃は俺も色々と……ごめんなさい」


「ふむ、ならば仲直りだな、姉弟同士だ問題は無い!!」


「え? 仲直りってっ――――んんぅ~!!」


 気付けばまた無理やりキスされていた。俺は自分からグイグイ行ける積極的元勇者になったはずなのに、二人の女の子にキスするなんて偉業を達成した筈なのに、また奪われてしまった悔しい。


「ふっ、初回は頬とはいえ私もこれで二回目だ!! どうだユリ姉ぇ!!」


「あんた、ほんと私に対して負けず嫌いなのは昔からね」


「ああっ!! カイが、カイがまた色んな人と浮気してる~!!」


 どうする……これって俗に言う修羅場というやつでは無いだろうか。非モテ、陰キャだった俺には無縁な世界だと考えていたら横のセリーナに怒鳴られた。


「おいバカ弟子、発情している場合では無い、構えろ!!」


「こっちは修羅場なんだけど……それと慧花たち三人の方に魔力波を飛ばさないとか器用なこと出来るんだな?」


 イベドとは違ってセリーナの魔力波は三人を避けるように動いていた。恐ろしく繊細な魔力コントロールだ。


「私の魔力コントロールと、セリカに持たせたあれのお陰だ」


 そう言って見ると先ほどセリカが撒いた粒子『魔王コロリ』が三人の前面に撒かれていてセリーナの魔力波は相殺されていた。すると三人はモニカの転移魔術で俺の後ろに急いで転移して来た。


「さて、いい加減、頭は冷えたかバカ弟子」


「……冷静に戦えるくらいにはな、行くぞ!!」


 俺達は同時に飛び出した。移動に平然と転移魔術を使いながら瞬間移動のように移転先で技を繰り出す。




「この裏切者が!!」


「裏切ならあなたの方が先だ!! なぜ放浪し時空の狭間に飲まれる寸前の時空宮殿の同胞まで見捨てた!! 救助しなければ皆が死んでいたんだぞ!!」


「弱者が死ぬのは世の摂理、そして神の仕業だ!!」


 セリーナの魔剣とイベドの大鎌がぶつかり合う。凄まじい闘気と魔力のぶつかり合いの隙を突いて俺も転移魔術で真後ろに接近して神刀で斬りつける。


「また神かよ!! 誰かのせいにしないと生きて行けないのか腐れ外道が!!」


「ほざけよガキ!! 女が来たら泣き止むのはママが恋しいのか? 英雄!!」


 俺の神刀を障壁で防ぎセリーナの魔剣をも大鎌を弾くと奴は俺達を睨みつけた。悪いが魔王、いくら美人でも師のセリーナを俺は女として見たことは一度も無い。


「言ってろ魔王、女の子が恋しくて何が悪い!! 体は思春期なんだよ!!」


 俺が神刀を腰の鞘にしまい今度は聖剣を鞘から抜いてイベドに斬りかかる。対して奴は今まで障壁で抑えていたのを大鎌での防御に切り替えていた。


「まったく男はこれだから!! ここにはレディもいるのだ少しは上品にしろ!!」


 そして俺と入れ替わるようにイベドの背後にはセリーナが転移魔術で移動していて

魔剣で一閃するがイベドも転移魔術でそれを回避していた。


「す、すごい……これが最高峰の戦い……」


「ああ、三人供が一騎当千で有りながら魔力が極限まで強大化した魔王イベドと英雄化した快利、そして英雄化した快利と同等の力を持つセリーナ」


 慧花がモニカ相手に解説しているが実は裏で戦っている奴がもう一人いる。それは那結果だ。先ほどから英雄化の制御に加え敵の魔力パターンなどの計算も俺とセリーナ双方に送っている。ずっと静かなのは全能力をサポートに回しているからだ。


(これが勇者コールか……魔力通信を簡略化したものか、面白い)


(そりゃどうも、それより相棒がオーバーヒート寸前なんだが手は有るか?)


 手詰まりなのを話すとセリーナも敵の守りを崩すのは厳しいと言う。今の俺には聖剣が手元に有るが消耗して厳しいし英雄化もあと数分しか持ちそうにない。そうなれば絶大な魔力を誇る今のイベドに対抗するのは不可能になる。


(ならば方法は一つだな、時間を稼ぐから何とかしろ)


(分かったセリーナ、5分37秒だけ時間をくれ)


(何でそんな中途半端な……)


 ちょうどRUKAの新曲の時間がそれなのだが詳しく話している暇は無いから俺はすぐに転移魔術で離脱しルリ達の横に転移した。


(よく分からんが6分程度なら待たせてやる!! 早く行け!!)


「逃げるか英雄!!」


 俺はイベドを無視して即応式万能箱どこでもボックスから有る物を取り出す。それを見た瞬間イベドの顔色が変わった。これは邪神の作りし万能薬『エリクシル』残りは四つだが、その内の二つ取り出す。


「知っている、知っているぞ!! 邪神キュレイアの遺産、それを寄こせ!!」


「よそ見をしている場合かな我が先祖!!」


 セリーナが絶妙なタイミングで妨害して拮抗を保ってくれている間に俺は一つを自分で、そしてもう一つを那結果の方に突き出す。


(あ~ん、して下さい……余裕、有りません)


「分かったよ、口開けろ!!」


「あ~ん」


 自分で一つを飲むともう一つを那結果に飲ませる。途中何度も咽ていたが全て飲み干すと那結果は全快し俺は半分まで回復した。そしてここからが本番だ。


「那結果、頼むぞ!! 二つ連続だ!!」


(おま、かせを……あの二人の……スキル、発動用意、頑張って、かい……り)


 それを脳内で聞いて頷くと俺はエリ姉さんを見る。


「快利? どうした?」


「エリ姉さん見てて欲しい俺の傍で……使うよ姉式・爆熱無限呪縛の陣ブラコン・バーニング・ゾーン、展開!!」


 叫ぶと魔王が作り出した異空間を内側から食い破るように炎の結界が燃え上がる。これが俺達の反撃の始まり……その狼煙だ。




「また私がオレンジ色に……よし快利、お姉ちゃんの結界を最大限に使うんだ!!」


「もう恥ずかしいとか言ってられないしね、続いてルリも頼む!!」


 後ろで喉の調子をチェックをしていたルリを見ると「よし!」と言って立ち上がって俺を見た。 


「分かってるよ~……ふう、任せて私の勇者様!!」


「頼むよ……俺の歌姫!!」


 そして炎が舞い散る中でルリのスッと息を吸うブレスの音が聞こえると静かに歌い始めた。アカペラだとこんな風に聞こえるのか……でも関係無い。なぜなら俺が求めるのはRUKAのいや……ルリの歌声だから。


「ふぅ、歌姫の守護騎士ナイツ・オブ・ディーヴァ発動!! この歌は俺達の凱歌だ!!」


 そしてルリの歌声が響くと深い青色のオーラが俺を包んで戦場に広がった。それと同時に俺の神気と魔力が急速に回復し準備は整った。


「くっ!! 前よりもさらに強くなったか快利!!」


「あれは何だ!? あんなもの……俺が見た未来にあんな姿は!?」


 魔王同士が互いの一撃を相殺し合いながら俺の魔力と神気の波に巻き込まれないように回避すると距離を取って後退した。


「見せてやる……お前に勇者絶技を!!」


 セリーナが俺の横に並ぶと同時にイベドが俺達の反対サイドに着地した。見ると四つの光を纏った俺を見て明らかに動揺していた。さて、いい加減この茶番を終わらせよう最悪の魔王よ。

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