第110話「真打ち登場?紅き絆に呼ばれし者」
「どこからだと? お前は一つ忘れているぞ英雄、そこのお前のハーレムの女共は全員がお前を想い慕っている、違うか?」
「い、いやハーレムとか皆は大事だけど、そっ、そういうのとは、ち、ちげ~し」
皆は大事だし、つい勢いでさっきはキスしちゃったけど仕方ない事だったんだし、あくまで不可抗力だからな。でも俺ってこの場にいる女の子の半分以上とキスしてるんだよな。
「そこで妙な童貞心を出さないで下さい快利、あなたは先ほど美女二人に連続でキスして無駄にくっさいセリフを吐いてるんですよ、脳内で元保護者をやっていた私としては心中複雑なのです!!」
「うるせえ、お前だってどさくさに紛れてキスしてきたじゃねえか!! 保護者面すんじゃねえ!! あっ……保護者って、まさか……」
那結果に反射的に言い返していたら一つのワードに引っかかりを覚え、そこから連鎖的に一つの最悪な仮定が頭に浮かんで来てしまった。
「気付いたかな英雄? この魔力これは本当の意味で十年以上溜め込んだ負の魔力、闇に溢れた素晴らしいものだ……お前の母のな!!」
ニヤリと醜悪な笑みを浮かべると隣の黒い球体に触れそれを吸収していく。とんでもない量の魔力が魔王に次々と糧となっていく光景に絶望を覚えていた。そのタイミングで俺のスマホが場違い通知音を響かせる。
「出たらどうだ? 待ってやろう……恐らくは外の人間共だろう」
「外の人間? どういう意味だ……もしもし?」
『やっと繋がった!! 秋山か!? 工藤だ、監視していた君のお母さんが突然倒れたから今、保護したんだが直前に黒い変な塊をっ――――ピッ』
俺は先生の答えを聞くより早くスマホの通話を切って懐にしまうと神刀を無造作に振るい光の斬撃を奴に向けて抜き放った。
「理解したか?」
「一度ならず二度までも母さんを!!」
しかし俺の繰り出す光の斬撃は魔王の障壁の前に霧散する。魔王が言ったように闇に溢れた圧倒的な魔力による強化は周囲の障壁を強固にしていた。
「素晴らしい、これが母の愛か……実に素晴らしいと思わないか?」
「洗脳だけじゃなくて、十年以上前から利用していただと!! まさか……」
まさか母さんの過去も全てこいつの仕業だったのかもしれないと嫌な俺の脳裏に嫌な考えが過ぎった。
「いやいや、何でも魔王のせいにしてはいけないな英雄」
それはそうだと息をフッと吐く。正に自分で言っていた通り陰謀論に陥っている今の魔王そのものじゃないか冷静になるべきだと俺は心を強く持って神刀を構えた。
「お前に教えられるとはな……」
「まあ、実際お前の両親の別れも全て俺の仕込みなんだがな?」
何も考える事も無く突っ込んだ。そして至近距離で『虚無の彼方への旅路』を放つ。しかし光と闇の魔力は霧散する。構わず今度は『
◇
「終わりか? なら話してやろう……あれはそう、私が因果律操作魔法は日に一度しか使えなくて困り果て数万年経ってからの話だ」
肩で息をする俺を満足そうに見ながら魔王は淡々と話し出す。まるで昔懐かしい思い出話を語るように口が動いていた。
「戯言を、言うなぁ!!」
俺は怒りのまま神刀を上空に投げ両腕から氷極魔法『
「凄いな、さすがは英雄、母の愛に守られたこの障壁に傷を付けるとは……見事だ」
「バカな……土極や嵐極も効きそうに無いな、クッソ!! クソ!!」
文字通りの母の愛で構成された魔力障壁に英雄化した俺の魔法や剣技は効いていなかった。だが、それでも俺は魔法を連射する。
「まあ、無駄だろうな……概算してみたが今の俺の魔力は、お前の英雄化時の魔力の優に十倍以上、無駄なのだよ」
「快利、態勢を立て直すべきです!! 私の話を聞いてくだっ――――」
「黙ってろ那結果!! ならば
連続火球を全て炎極魔法に切り替えての現状出せる出力の最大の勇者式剣技だが障壁には亀裂すら入らなかった。一度攻撃を止め次の勇者式剣技を使おうとした時に背後から叫び声が響く。
「快利、落ち着いて下さい!! 炎極魔法はこう使うんです!!」
セリカが家に置いてあった木刀に無理やり
「ん? これはっ!? バカな……貴族の娘、貴様どこでそれを!?」
「魔王が怯んだ……セリカそれは!?」
セリカの予想外の一撃に俺も魔王も混乱し明らかに動揺していて先ほどの余裕な態度から一変する。そして俺の怒りも一時的に霧散していた。
「これはセリーナ様から頂いた魔王毒、その調合版で魔族の中でも魔力の高い者に反作用を起こさせる毒『魔王コロリ』です!!」
「……なんか、こう、もう少しいいネーミング無かった?」
「付けたのはセリーナ様です!!」
おい師匠よ……もう少しマシな名前付けとけよ。そんなことを考えながら俺は冷静になって魔王を見ると障壁を解除していた。どうやら障壁内部に侵入した魔王コロリを外に出しているようだ。
「くっ、あの出来損ないの失敗作が!! 足を引っ張るだけではなく、どこまで俺を愚弄すれば気がすむのだあああああああああ!!」
「ちっ!!
奴が怒りに任せ魔力を波のように周囲に放出させるから俺は咄嗟に結界を展開して後ろの皆を守った。勇者三技の魔法であり守りの要はそう簡単に破れはしない。
(さっきから、これじゃ手詰まり……まるで千日手だ決め手が無い)
「ふう英雄よ勝負が付かんな、しかし私にまたしても神の理不尽か……自分の作り出した者らには妨害され、お前の女や、そして貴様の母も中々しぶとかった」
俺と同じ感想を持っていたのかと思えば奴は唐突に変な事を言い出した。
「母さんがしぶとい? どういう意味だ」
「話の続きだよ……結論から教えてやろう、お前の母の不倫の相手は俺だよ」
今日、最大の衝撃に俺の全思考が完全に停止した。今度は怒りすら湧かずに目の前の魔王を茫然と見て意味が理解出来なかった。
◇
「快利!! ええいポンコツ勇者!! 隙だらけですよ!! 取り合えず結界解除しますセリカさん!!」
「大丈夫です那結果さんお任せを!! すぐに起こしますわ!!」
那結果の声が遠くに聞こえ、その後にセリカの声が俺のすぐ後ろから聞こえたからボケっとして振り返ると綺麗に俺の頬に平手打ちが入った。
「……って、ふぅ、どうしたんだろ急に……ほんと今日はメンタルおかしいな」
「ショックな事が有れば人間誰しもそうなります!! 昔、お父様の件で私にもそうしたのをお忘れ?」
そういえばカーマインの旦那が死んでから屋敷で塞ぎ込んでた時にセリカに一発ビンタを入れて街に遊びに連れ出した事が有った。
「ああ、思い出した……いやいや、さすがに意味不明なんだよ魔王!!」
良くも悪くもビンタ一発でショックから目覚めた俺は再び目の前の魔王を見て抱いた感情は二つ、それは困惑と怒りだった。
「ならば話してやる……貴様に勝てぬと分かったタイミングで俺は自らの死を偽装するために周囲に魔術弾を飛ばし転移魔術で過去に跳んだ、そして過去、貴様の幼少期に跳んだ、英雄を消すためにな」
「ま、俺を消すなら確実にそうするよな」
しかし魔王イベドは俺に敗れ時空の狭間から転移し過去に跳んだ際に気付いたそうだ。俺が将来的に因果律操作魔法を習得する事、そして自分より遥かに強くなり自分の神殺しの計画に組み入れられる可能性が高い事を知ってしまった。図らずも因果律操作魔法を使った際に偶然見た分岐未来の一つで知ったそうだ。
「そこで俺はお前を観察するために転移魔術を使い未来と過去を何度も行き来した、その結果、俺は因果を操り貴様を育て上げる計画を思いついたのだ!!」
「余計な計画思いついてんじゃねえよ!! あの時に大人しく死んどけよ!!」
「まず最初に貴様を異世界に早期に送り込むため貴様の姉を利用した、しかし、もう一人の姉の妨害により失敗した」
完全に俺を無視して奴の独演会が始まった。こいつの悪い所って一から説明する所だ。だが俺は即座に疑問を口にしていた。
「何でそこで修正しなかったんだ」
「お前は知らないのか? 因果律操作魔法は一度介入した時間は固定化される。転移魔術のように観測するしか出来ないものとは原理が違う、だから俺は一度目で既に失敗したのだよ……お前の幼少期に跳んだ時にな」
聞きながら勇者コールで那結果に聞くが初耳だそうだ。確かにルリには過去に三度ユリ姉さんには二度使っているが、いずれも同じ時間に二度跳んだことは無く微妙にズレた時間にしか跳んではいないから本当なのだろう。
「お前に敗れ瀕死のまま過去に跳んだ俺は最初こう考えた、お前を利用するよりも別な存在、お前以上の人間を作り上げ未来に持ち帰ろうとな」
「そういえばセリーナ達も作り出したとか言っていたな」
「だから考えたのだ勇者を生んだ女を孕ませれば同じ存在を作れるのでは、とな」
一瞬フラッと意識をやりそうになったが横のセリカが手をギュッと握って俺は意識を保った。そして息を吐くように口から言葉にすらならない音を出した。
「…………は?」
「だが俺も軽率だった、人間の女があんなに脆いとは……子を産ませるだけだったのに俺と交わった事がストレスになり流産した、まったく洗脳までしたのに使えん女だとは思わないか?」
「…………一つ、聞かせろ魔王イベド・イラック」
「何かな?」
「母さんは昏睡してよく覚えて無かった、お前のことも一夜の過ちだと聞いた、間違い……無いか?」
「そんなわけ無いだろ、確実にお前のコピーを作るために何度も凌辱した、だが人間なのがいけなかった……心が壊れてしまった……弱いな人とは」
ニヤリと笑った奴の顔を見ても心が冷たく凍るように冷静になる。敵の狙いはその嫌らしい笑みで分かっている。俺を錯乱させるのが奴の狙いで暴走しそうになる弱い心を必死で落ち着かせた。セリカの手を咄嗟に離したのは離さなければ腕を折ってしまいそうだったからだ。
「そうそう、英雄よ伝えておくことが有る」
「な……んだ?」
奴は笑いを堪え切れないと言った顔をしていた。そしておぞましい言葉を放った。
「人間の女にしてはお前の母の抱き心地は良かったぞ?」
今度こそ頭が真っ白になって俺は無意識に黎明の盾を奴に投げつけ爆発させると叫びながら神刀で斬りつけた。
「あああああああああああああああああああああ!! 死ねええええええええ!!」
「それだよ、その顔だ!! 思い出すなぁ英雄よ、お前の仲間が一人、また一人と倒れて行った時もそんな顔をしていた!! あの時は最高に気持ち良かったんだ俺を妨害する奴の顔が絶望に染まって行く顔がさぁ!!」
もう何も聞こえないし聞きたくない。ただガムシャラに刀を振るう。何度も弾かれるが出せる全ての属性の魔法を放ちながら両足の先に魔術を溜め込み炎と雷の蹴りを連打する。
「死ね死ね死ね死ね死ねええええええええええ!!」
「凄い凄い!! そんな児戯まで使うのか英雄が? これがお前の真の姿か!! 英雄など仮初の姿、ただの情けない子供ではないか!!」
なおも傷一つ付かない障壁を前に俺に心の余裕は完全に無くなった。今日はこんな事ばかりだ。俺が何をしたんだと言いたくなるくらい最悪な事実が次々と明らかになるヌルゲーなんて戻って来ても最初だけで詐欺じゃないか。
◇
――――セリカ視点
「快利……こんなのって、酷過ぎる……」
目の前の勇者は私の大事な恩人で全てを捧げても良いと思える人だ。その人が見たことも無いくらい怒り狂っている。
「セリカ、何とか動けるようにはなったが……これは」
「ええ殿下、いえ慧花さん……快利の根底に関わる全てが今日は崩されて挙句、自分の母を凌辱されていたなんて、あまりにも快利が……不憫で」
快利の人生そのものが目の前の魔王に全て操られ因果の果てに知らされた残酷な真実に私の憧れの勇者はついに暴走した。
「お前が、お前がぁ!! お前が全部っ!!」
「そうさ、しかし英雄カイリよ、これも全ては神のシナリオ……だから、お前に素晴らしい事を教えよう、因果律操作魔法を使うのだ、母を凌辱する俺を殺し、秋山由梨花を騙す俺を殺し、そして風美瑠理香を狂わせた俺を殺せば全てお前の世界は元に戻るんだよ……快利お兄ちゃん?」
魔力も神気も全てを投入してどんどん消耗していく目の前の快利に英雄の面影は無く泣きじゃくる子供にしか見えない。そんな子供に魔王イベドはとんでも無い事を言い放った。
「えっ? ほんと……か? みんな元に?」
「しまった!? これが、これが本当の狙いか魔王イベド!! 快利に因果律操作魔法を三回使わせるためっ――――くっ!?」
那結果さんが口を開いた瞬間、魔王が片手で闇の光弾を放って那結果さんを吹き飛ばす。ゴロゴロと絵梨花お姉様たちの方に転がされたが私でも理解していた。
「慧花さん、つまり……最初からこの状況を?」
「恐らくね、最悪だ……快利が頷いたら終わりだ、私達が認識する暇もなく世界が崩壊してしまう!?」
慧花さんが聖剣を構えて技の体勢に入るが二人の魔力の渦の前に近付けずにいるとモニカが背後から転移魔術で接近しようと跳んでいた。
「なら私がっ――――きゃっ!?」
しかし転移した瞬間を狙われ闇の光弾の直撃を受け那結果さんと同じく、こちらに転がされ戻って来た。
「邪魔だ女共よ……おっと、快利お兄ちゃんは因果を捻じ曲げる力を三度も使える。そしてここに戻れば神を越え幸せな日常に戻れるんだよ?」
「そう……か、そうすれば母さんもいて、姉さん達も、それにルリとだって……」
もう快利は魔法を使おうとしている。しかし快利は矛盾に気付いていない。だから私は声を大にして叫ぶ。
「それはまやかしです快利!! そもそも秋奈さんが離婚しなければお二人は姉になりません!! そして瑠理香さんとも出会わない可能性だって増えます!!」
「ちっ!! 邪魔をするな女共!!」
魔王が光弾を連射して私を襲うとするけど慧花さんが聖剣で防いでくれたが吹き飛ばされてしまい倒れてしまった。
「きゃ!? 殿下……慧花さん!!」
「セリカ……ここは退くんだ……」
茫然とする快利を見て私は思い出していた。快利は突然現れた変な人間だった。一人でお忍びで遊んでいたら誘拐されそうになるという、今ではお約束なタイミングで助けてくれたのが快利で当時は勇者として知られておらず今よりも弱く暴漢相手にも必死に戦っていた。
「嫌ですわ……慧花さん、私は快利を信じています!!」
「セリカ、だが……」
快利は、勇者カイリは助けてと言ったら必ず助けてくれるお人好しで、それでいて何倍も人より傷付く優しい人。だから、勇者になる前から知っている私が信じなくて誰が信じる。そうですわよね……お父様、お母様。
「快利……いいえ勇者カイリ!! どうか一度だけ、あと一度だけ目を背けず立ち上がって下さい……その後は私が必ずあなたの支えになると誓います絶対に!!」
「ううっ……これ、は?」
魔法を発動させようとした快利の体が赤く、紅く、輝き出し私自身も同じ光に包まれた。驚いたのは私達以外もで魔王も赤い光に吹き飛ばされていた。
「まさか……カップリングスキルなのですか……『
那結果さんが倒れたまま呻きながら呟くが私にはスキルの使い方が分かっていた。だから快利を見て強く念じた。
「これは……この赤く燃えるような繋がりは……セリ……カ?」
「ええ、その通り!! そして今こそ紅き絆の繋がりにおいてあなたを呼びます、来て下さい!! 真・超魔王セリーナ!!」
そして、それは来た。あらゆる
「まったく、何で私を呼び出しているんだ……バカ弟子が」
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