第88話「虚無った俺は後夜祭でキャンプファイヤーとか都市伝説だと思ってました」


「どうやら、そのようです。前にも絵梨花姉さんが光っていた時と同じ状態です」


「ああ、スキルの表示も出た……これは」


 俺とモニカは自分のステータス画面を確認して新スキルの存在を確認した。そして声を合わせてスキル名を叫んでいた。


「「超越する主従の絆ブラコン&シスコン!!」」


「えっ……」


「何だよこのスキル名は!?」


 言ってからモニカはポカンとして俺は叫んでいた。俺とモニカが向こうで主従関係だったのは認めよう。でもシスコンではないと断言しよう。


「わ、私はメイドとして仕えているのであって断じてブラコンでは……」


 横に俺と同じ感想の義妹がいた。このスキル名を決めるのは神様で一部の例外を除きスキルの名前は変えることは出来ない。


「ふざけるな勇者それにメイド風情が……私を、魔王様の最高傑作である私を簡単に凌駕したなど……認めない、認めないっ!!」


「あれ? なんか……」


「遅い……ですね」


 俺とモニカはスローモーションで迫るブラッドの攻撃を軽く避けると魔術を連続で打ち込んだ。そして俺達の攻撃で奴は血を撒き散らしアッサリ吹き飛ばされた。


「何が起きた……見えなかった」


「勇者とモニカが一瞬で移動して……時空魔術、なのか?」


 エリ姉さんと百合賀が上空から落下しズタズタにされたブラッドドラゴンと俺達を交互に見て困惑の声を上げている。


「ううっ……時空魔術なのか、だが、速すぎる……何が」


 ブラッドは血まみれの状態で体をガタガタ震わせて驚愕していた。先ほどまでの余裕は欠片も無い。この新スキルに圧倒されたのだろうし俺も説明を見て納得した。


「なるほど……このスキル」


「マイマスター!! 凄いです」


 超越する主従の絆――――第一効果、素早さや付随する物の速さが発動中は一時的に光速となり認識、把握能力が際限無く上がり続ける。


「なるほど……だから血の弾丸や顎も、それに不可視の血の霧も避けられたのか」


「私達はどうやら光の速さで動けて向こうは認識出来ないようです。加えてガイドさんの妨害も効いてますから今は端的に言って……」


 そこで言葉を区切ると上空から奴を見下ろす俺とモニカの言葉が重なった。


「雑魚だな」

「雑魚です」


 ――――ギュアアアアアアアア


 竜の咆哮に続いてドラゴン語で再度、雄叫びを上げて怒り狂った血の竜は遂に最大の技の血のブレスを放出した。


『殺してやるうううううう!!』


 しかし声の勢いと攻撃のスピードの落差は激しく遅過ぎた。俺たちは至近距離で魔術を連射して敵をズタズタにする。もちろん血のブレスも簡単に避けられた。


「どんなに凶悪な力で触れれば致命傷の攻撃も……当てられなければ意味が無い」


「ですがマイマスター、今のままでは決め手も無いです」


 だが隣のメイドは俺に何かを期待しているような視線を向けてきた。頷いて新たなるスキルの第二効果セカンドスキルを見て驚きと懐かしさを感じる。


「神殺ノ虚無突き……これは……」


「はい。私を救い、そして邪神を葬った際にあなたが失った技です……」


 この技は邪神キュレイアを倒した時に使ってその際、モニカを助け出す時に失ったスキルに、と新たに付いていた。


「ではマイマスターは新たなる力をお使い下さい私が援護します」


 そして俺は五年振りにこの技を使う。条件を見て一瞬驚いたが納得もした。だから俺は聖剣を鞘に戻して条件通り神刀を再び取り出した。


「なんだ、何だそれは!? その神気の塊は……」


「……見せてやるよ神を屠った一撃をっ!!」


 焦ったブラッドは持てる魔力を全て使い攻撃を仕掛けてくるがモニカが光速で動いて全てを撃退する。この虚無突き全部無くなれ改め『神殺ノ虚無突き』はチャージ時間が必要な技だった。


「快利兄さんには近付けさせません。お義父様から新しい爆薬も調達出来たので使わせて頂きます」


「最近使ってないと思ったら……無くなってたのか」


「何かとお小遣いと言って現金を頂く機会が増えたので、それよりも爆薬が欲しいと無理を言って都合して頂きました」


 本当に親父の人脈どうなってんだ。そんな悪態をつきながらも神刀の先に俺の神気が集まり凝縮され臨界に達した。


「モニカ、久々に使うから万が一の時にはエリ姉さんを頼む」


「はい、絵梨花姉さんはお任せを、ご存分に……」


 頷くと俺は奴の目の前に一瞬で移動した。そして左手で聖魔術で軽くけん制したが攻撃してもダメージが余り通らず回復スピードも速くなっていた。もう進化し始めて回復スピードも上がっていた。


「そ、その技もいずれ……私が進化さえ、すれば……」


「それは無理だ。なぜならこの技を食らったら次は無い……もう終わりにしようブラッドドラゴン、その醜悪な思想全てを勇者が討伐する」


 そして俺は神刀を目の前の赤黒い塊に突き刺した。


「終わりだ……神殺ノ虚無突き全部消してやる


「止めろ、ヤメロオオオオ、ああ、回復が追い付かない……私が消えっ――――」


 俺は神刀の柄をグッと押し込んで更に神気を注ぎ込む。その純粋な破壊の力は一瞬でブラッドドラゴンを浸食し血の一滴に至るまで分解し消滅させていく。


「神さえ消した……俺の意思で、だからお前も俺が終わらせる。進化させる暇など与えない!!」


「あ、アア……アアアアアアアアアア、消えたくない、消えたくないいいいいい」


 それが血の竜の叫んだ最後の言葉となった。断末魔はその場の全ての人間の耳に残ったが、その絶叫を放った敵は一片の欠片すら残さず消え去った。


「俺が向こうでやり残した仕事も、今度こそ終わったな……」


 俺の技の影響か、それとも偶然か分からないが気付けば雲すら消えて美しい蒼穹が広がっていた。





「それにしても……何とかなるもんだな」


「まあ、お前と風美それにモニカが協力してくれたからな」


 あれから一時間後、なんと文化祭は続行中だった。まず俺達は認識阻害を全力で学校全体に行い次に体育館にいた人間に一時的にボヤ騒ぎが有ったから体育館に避難してもらったと偽の記憶を擦り込んだ。


「俺の魔力が枯渇寸前になったけどな」


「ですから瑠理香さんを連れて来たんじゃないですか」


 モニカの言う通り避難させたルリとセリカを連れ帰るとルリはやる気満々で歌い出し俺の魔力と神気そしてやる気もマックスになった。


「ありがとう秋山くん、この間のポイズンでも大変だったから、文化祭中断なんてなったら……」


「まあ、本来はダメなんだけど、ちゃんと俺が全員を神々の視点全部丸見えで見たから大丈夫」


 黒幕会長が言ったようにポイズン戦でも大騒ぎだったのに今回は文化祭の最中だ。もし今回の問題が発覚したら休校どころか廃校レベルだろう。


「俺達も揃って母校が無くなるのは論外だ……それよりも例の件は大丈夫ですか」


「それに関しては問題無いわ、そうよね尊」


「ああ……生徒会としては問題無い、あとは学校側だ」


 最後にエリ姉さんを見るとニヤリと笑って頷いた。


「ああ、私としても歓迎だ……それと閉会式を楽しみにしてろ快利」


 集まった俺たち五人は再度顔を見合わせ頷き合うと行動を開始した。俺とモニカはクラスに戻り、生徒会の二人とエリ姉さんは閉会式の準備のために残った。


『今年度の文化祭はただ今の時間を持ちまして終了になります一般の方は――――』


 俺達が最後のお客さんを送り出したタイミングで終了のアナウンスが流れ出し簡単な後片付けを終わらせると俺たちは体育館で閉会式に向かう。





 文化祭の閉会式とは言うが実際は校長の挨拶から始まり生徒会長、そして今は司会進行の文化祭実行委員長の女子生徒が挨拶をしているだけなのに体育館は緊張感に包まれていた。


「いつもの朝の朝会とは違いますね……」


「特に三年生は凄いですわ」


 セリカとモニカが周囲を見て小声で呟く。独特な緊張感に異世界組と俺は圧倒され少し驚いていた。


「ま、これが醍醐味らしいぞ……俺は今年まで知らんかったけど」


「でも今年は一緒に楽しめるねカイ」


 俺の横でルリが嬉しそうに話すのを見て頷くといよいよ本命の売上ランキングが発表される。まずは一年生からと言われ後ろの方がざわめき出した。


「初々しくて羨ましいね後輩諸君は……」


 そのまま二年生の順位が発表されたが俺達のクラスが一位だったのは言うまでもない。そしてラストの三年生のランキングは全体ランキングと同時に発表されるらしいのだが、ここで今まで司会進行していた文化祭実行委員長が交代しますと言って舞台袖に下がると出て来たのはエリ姉さんと冒頭に挨拶した黒幕会長だった。


「絵梨花姉さんがどうして出て来たんですの快利?」


「本人が説明するみたいだから見てようセリカ」


 エリ姉さんの人気は健在で家であんな感じになってからも学園では相変わらず人気者だった。家じゃ完全に残念な痴女っぽい人なんだけどね。


「今回は文化祭実行委員長より最後の発表を譲ってもらった……理由も後で話したいが、まず発表しよう。最初は五位からだ」


 エリ姉さんが話し終わった瞬間にざわめきが広がった。特に三年の方が特別大きかったがエリ姉さんの咳払い一つで黙らせると発表が開始された。


「それではいよいよ発表だ……三年生の一位は二組だ、おめでとう……」


 だが歓声は全く起きなかった。俺やセリカとモニカが不思議そうにしているとルリと金田が気付いて小声で説明を始めた。


「普通ね三年生が一位だから『今年の総合トップは~』って言うのが普通なんだ」


「それと各学年は六クラス有るから五位は変だろ。しかも呼ばれなかったのは例の俺らにイチャモン付けて来たクラスだ……荒れるぞ」


 そして三年生と一部のクラス担任までが立ち上がり壇上の姉さんに抗議の声を上げた。驚きと困惑さらに怒声によって会場は埋め尽くされたがエリ姉さんは何も喋らない。それから落ち着くのに五分はかかったように思う。


「はい、終わりですか……では皆さんが静かになるまで四分三十二秒かかりました」


「そこなのかエリ姉さん!?」


「ちゃんと数えてたんですね絵梨花姉さん……」


 俺とモニカのリアクションが静かになった体育館に響くがエリ姉さんは一顧だにせず喋り出した。


「まず今回の開催は様々な困難が有った中で皆が頑張ったと思う……しかし中には問題行為も有った。下級生に脅しをかけ模擬店を強引に変更させた挙句、出店の許可が取れなければ交換するように迫った……これは問題行為だ」


「待ってくれ秋山さん、それはっ、俺達は許可を貰ったし生徒会を通じてキチンとした条件でっ――――」


「条件とは一方的に下級生を呼び出し裏で話すことか? 密室で脅された側はさぞ心細かっただろうな」


 いや全然……とは心の中で思ったのだが口には出さず成り行きを見守った。


「で、でも、秋山さんも話し合いには――――「ああ、参加した。私の可愛い可愛い弟が呼び出されたからな、だが私の可愛い可愛い快利が事前に任せて欲しいと言ったからあの時は黙っていた」


 確かに事前にエリ姉さんにはあいつらを当日まで騙すから任せて欲しいとは言ったから間違ってない。


「君達が帰った後に弟は肩を震わせていたよ……ああ、可哀想な私だけの快利」


 当日の事を考えたら笑いを堪えるに必死で肩を震わせていたのは事実だ。それとチョイチョイ私情が入ってるからねエリ姉さん。


「カイは、カイは私の……だから……」


「ルリ、ここでは落ち着こう、お願いだから、な?」


 まずいよエリ姉さんが学校でも変なスイッチ入ってるしルリも病み始めた。どうしようとモニカとセリカも見ると二人とも目が据わっていた。


「さらに私の可愛い弟の快利は最高の文化祭にしようとまで言って先輩を立てた、なんて出来た弟なのだろう、お姉ちゃんは嬉しいぞ快利~!!」


 それも言ったね、相手を信じ込ませて油断させるために、そんで後で盛大に目の前で悔しがるだろうからと思って言いました……今思えば性格悪かったな俺。


「そ、それは……」


「以上の事から君達のクラスは失格だと判断した、これは実行委員長と教頭と校長及び各学年主任の先生も了承済みだ」


 すっかり意気消沈した三年生のクラスに言い放つとエリ姉さんは俺達に向かってウインクした。


「だが、総合優勝はどうなっているんだ秋山さん」


「「「「そーだそーだ!!」」」」


 有象無象の一般生徒と教師が騒いでいるがエリ姉さんは頷くと手で制して場を静まらせ口を開いた。


「それについては今から発表します」


 舞台上で俺たちを再び見ると不敵な笑みから急にニコリと柔和な笑みを浮かべ、主に女子から歓喜の悲鳴が上がった。前はあの笑顔が怖かったんだよな……俺。


「まず、売り上げにおいて総合優勝は……2-5及び協賛の秋山総合商社です」


 その発表は当然で同学年の連中は驚いてはいなかった。だが問題なのは俺たちのクラス名の後に付いた企業名だった。


「今まで法人・企業枠で参加して下さったのは町内会とかご近所のボランティアとか商店街の一部店舗で……まさかガチな企業が来るなんて想定してませんでした」


 黒幕会長が出て来てエリ姉さんの隣でマイクを握ると声を発した。その横で再びエリ姉さんも口を開く。


「売り上げ自体とんでもない金額になって三年生のトップとの差が圧倒的でね、おまけに文化祭史上最高額の売り上げを叩き出したのよ」


 シーンと静まる体育館にエリ姉さんの声が響いた。その横で百合賀がホワイトボードに見やすい売上表を張り付けて見せた額は圧倒的でうちのクラスだけ七桁万円でゼロが一つ違った。


「大人と子供の戦いだな……こりゃ」


「じゃあ圧勝で私たちが優勝だよカイ!!」


 ルリが叫ぶとクラス全員も騒ぎ出す。だがエリ姉さんの話が終わってないから俺は手を軽く叩いた、魔力を本当に少しだけ込めてパンと叩いたら静かになった。


「助かった快利……それと喜ぶのはまだ早い。そもそも企業枠は売上勝負には参加しないという不文律が有る、これはあくまで文化祭は学生のものという配慮からだ。しかし今回は生徒の支援のみで判断が難しい……そこで改めて問いたい、君達が優勝でいいのか?」


 エリ姉さんが俺を見て言った。なるほど……よく分かったよエリ姉さん。俺が後ろを向くとクラスの連中が俺を見て、実行委員の俺が答えてくれと委ねられ少し考えた後に答えを口にした。




「あ~、俺の人生でこんな遅くまで学校にいるの初めてだ……」


「それにしても……こちらの世界にも野営に焚火なんて有ったんですね快利兄さん」


 俺はモニカと並んで離れてやぐらのように高く組まれたキャンプファイヤーモドキを見ていた。なぜモドキかというと実はこれは見た目だけのLED照明でそれっぽく見せているだけなのだ。


「なんか昔は本物の火を使ってこの中に文化祭で使った舞台装置とか大道具とかを薪にして燃やしたらしいよ」


「ああ、昔のアニメで見たな……都市伝説だと思ってた」


 後ろから缶ジュースを持って来たのはルリとセリカで俺は炭酸ジュースを貰った。そして二人の後ろからエリ姉さんと生徒会の二人もやって来た。


「やあ元勇者、先ほどの演説は中々だったな」


「抜かせ元四天王、お前の方が得意分野だろうが……」


 俺は先ほどの体育館での出来事を思い出していた。我ながら随分と丸くなったものだ。


「正直、ああいう解決法が一番助かったよ。感謝するね秋山くん」


「まあ……他に選択肢は無いでしょ黒幕会長」


 俺は最終的にあの場で総合優勝を辞退すると同時に別な提案をするために簡単に話をした。勇者として演説した経験が生きてくるとは思わなかった。


「今年度は総合優勝は無しという措置にしてくれとは上手い逃げ方だったな快利」


「三年は総合優勝に拘ってた、でも卑怯な手とはいえルール的にはセーフで数字的にも俺らが圧勝と誰の目にも勝ちは明らかならば勝ち過ぎはダメだ」


 今年は俺の提案で総合優勝の枠は無しという形で決着した。こうすれば今年は三年が勝てなくても仕方ないと言い訳も出来るし俺達のクラスも勝ちを譲ることで余計ないさかいも生まれないという寸法だ。


「カイなら絶対に白黒付けると思ったんだけどな~」


「それは私も思いました。快利兄さんは向こうでは貴族が大好きな玉虫色の解決方法は嫌いでしたから」


「やるなら徹底的でしたものね……」


 三人もそれぞれ好き勝手に色々言ってくれる。俺にも色々と考えが有るんだ、今は語る気は無いけどな。


「それで後夜祭って何するんだ……まさかLED見てるだけじゃないんだろ?」


「昔からの伝統では踊るんですけどね、尊?」


「オクラホマミキサーというやつだ。問題はそんなものは今は授業で習ってないし踊れる人間がいない事だ、なあ勇者?」


 やれやれと百合賀が言うが黒幕会長も困惑していた。それと同時に百合賀の狙いも分かってしまった。


「ふぅ、それで雁首揃えて皆でLEDを見てるのか……あ~、もう分かったよ。お前の言いたい事は……例の件頼むからな!!」


 陰キャに何を期待してるんだか……少し大声を出して注目されたけど気にしてる暇は無い。俺は隣のモニカの手を取った。


「えっ? 快利兄さん?」


「前に地方の村のお礼の宴の時に一緒に踊ったろ……行くぞ」


「それは……ま、まさかっ!?」


 俺は強引にモニカの手を取ってキャンプファイヤーの前まで歩いて行く。メイド服の美女と普通の俺が並ぶと違和感が有るのか注目されているが曲が流れ出しいよいよ後には引けない状況だ。


「恥かくなら一緒にだ」


「はい、マイマスター……」


 そして腰に手を当て本場の社交ダンスにしては下手なステップを、しかし楽しく適当な踊りを披露する。なんせ農村仕込みの歓迎の踊りでたかが知れてる。


「トワディーの曲じゃないか……これは3rdシングルの……良い選曲だ百合賀!!」


「では私たちも混ぜてもらおう……ナノ行くよ」


 どうやら百合賀たちも踊るようだ。元四天王で変装して社交界にも出入りしていたからダンスは得意みたいで黒幕会長を上手くリードしていた。こうなると活躍するのはリア充共たちだった。


「私やってみたいかも~」

「陰キャに出来るなら陽キャの俺にも」

「じゃあ行こうぜ、うぇ~い」


 若干イラっとしたが後先考えずに行動に移す脳天気さは今回は役に立った。お陰で普通の生徒も徐々にぎこちなく踊り出した。


「さて、これでフィニッシュかな……」


「少し名残惜しいですけど……久しぶりに踊れて楽しかったですマイマスター……それと快利兄さんは次の方が待ってますよ?」


「えっ?」


 見ると仁王立ちのエリ姉さんに、若干病んだ目でステップをとるルリ、そしていつの間にかドレスを用意して着ているセリカが列を作っていた。


「「「次は私よね!!」」」


「こんなテンプレなオチとか都市伝説じゃねえのかよ……」


 こうして俺の人生初の文化祭と後夜祭は様々な世界の危機と直面しながら無事に終わりを告げた。勇者としてのやり残した仕事も終わって今度こそ俺のヌルゲーライフが始まる……はずだ。

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