第65話「決戦のメイドパーティー!!」

 ◇



「なあ快利、俺はなんでメイドコスプレした嫁と義理の娘達とホステスに囲まれて息子が作った手料理を食ってるんだ?」


「すげえ情報量多いな親父、あと夕ご飯は俺とユリ姉さんとモニカ、それと慧花も手伝ってくれたから」


 そう言って俺は慧花からシーザーサラダを食べさせられていた。ちなみにこの料理は俺が作ったものだ。親父は横で母さんから真鯛のカルパッチョを食べさせられていた。それも俺が作った料理だ。


「はい、あなた……じゃなくて旦那さま、あ~ん」


「いや、ゆ、夕子、ど、どうして……あ~ん」


 最近になって結構な頻度で言ってますが両親のイチャイチャは目に毒です。しかも片方がコスプレしてます。なんかのプレイにしか見えなくて辛い。

 お兄ちゃんはこれから生まれて来る妹もしくは弟に今日の事は話さないと心に決めたよ。そんな決心をした俺には現役ホステスと義理の姉が両サイドに着いています。


「ほら快利、お姉ちゃんが丁寧に皿に盛り付けした鶏のから揚げだぞ~」


「うん、俺が揚げたんだけどね……ちなみに原材料は異世界産だから」


 後ろではモニカに指導されているセリカとユリ姉さんがメイドの心得を読まされていた。ニワカメイドの二人を指導しているみたいだ。


「ふふっ、ではどうぞ、お客様、違ったね……ご主人様?」


 現役ホステス(メイドVer.)にオレンジジュースを注がれる俺。知ってるかコイツ元王子なんだぜ、とか言っても誰も信じてくれないんだろうな。


「ホームパーティー的な料理を用意したのに我が家がイメクラになってたんだけど、どうしてくれんの? 俺このために料理作ってたの?」


「イメクラなんて下品な言い方は止めてくれカイリ。コスプレパーティーさ、それよりも私が作った厚焼き玉子だ食べてみてくれ」


 これは俺が親父を呼びに行った後に作ったらしくて、まだ温かくて食べ応えもあった。異世界とこっちの世界どちらを通しても慧花の手料理なんて初めてで驚いた。


「王族の手料理なんて向こうで出したら大事件だろうな」


「ふふっ、違いない……おや、エリカどうやら交代のようだ。一度退こうか」


 エリ姉さんと慧花が席を立つと今度はユリ姉さん&セリカが両サイドに座った。失礼致しますとか言って今度は紅茶を淹れだすセリカ。


 そしてユリ姉さんはモニカと一緒に作っていたスコーンとジャムを用意して俺に食わせてくる。待って、夕食時になんで俺は優雅なティータイムを、こうなったら親父に助けを求めるしかない。


「ふふっ、そう言えば中学の時はこうやって食べさせ合いっこしてたよね?」


「ああ、懐かしいな、じゃあ俺もだ夕子、口開けろ。ほれ、あ~ん」


 親父いいいいい!! おめえ何で即オチしてんだよ。しかもいつの間にか二人だけの空間になってるし、このままじゃ俺が残り五人の相手をする事が確定的になってしまうんだが。


「さて、快利兄さん、次は一流のメイドのおもてなしをさせて頂きます」


 モニカがラスボスだと言わんばかりににこやかにトレーを引いて来る。またお菓子なのか、卵焼きとサラダは良かったけど夕食時にお菓子ばっかなのは困る。とは言ったのが当然そんな言葉は義妹メイドに届くはずもなく、お菓子と紅茶で奉仕されてしまった。





 そして数時間後、俺と親父は紅茶でチャプチャプになった状態で慧花の勤め先のクラブ付近に来ていた。大人の社交場、やっぱ異世界の酒場とは違うんだろうな、でも永遠に来れないことが確定しているのだ。母さんに禁止されたし姉さんやルリ、それに義妹たちも嫌がるのだから仕方ない。


「んじゃ、親父それと慧花も行ってらっしゃい」


「ええ、では行きましょうか社長? それともお義父様?」


「ケイちゃんにまでそう言われたら娘が五人か、とんでもないな」


 二人が店に入るのを確認して俺はすぐに転移魔術で家に戻った。しかしそこで待っていたのは五人のメイドだった。


「あのぉ……もう終わったんじゃ?」


「さっきまでは昇一さんにご奉仕だったから、ここからは親子のご奉仕タイムよ~!! 快くん!!」


「そう言うことだ家族サービスしてもらおう快利!!」


「それは日曜日のお父さんがする事であって息子がすることじゃないよね!?」


 メイド母さんは抱き着いて来るしメイド姉さんズも、そしてメイド義妹たちも迫りくる。見る人が見たら完全にハーレムだけど言わせてもらおう、皆、この人たちは家族なんです。だからノーカンなんです。


「で・す・が、義理ですわ!!」


「そうよ義理なら問題無いわ!!」


 セリカもユリ姉さんも本気で待って義理だから問題なんだよ!! メイドハーレムとか夢見た時代が僕にもありました……とか向こうの世界で言った過去の俺よ実際はメイドインフェルノだったぞ。


「や~め~て~!! 柔らかいし良い匂いだけど!! 勘弁して~」


『勇者カイリに提言します。全員を気絶させますか?』


(そう言うのはダメだから。五人とも大事な家族だから!!)


 ガイドが、ま~たすぐに物騒なこと言い出してるし俺も色々と限界を迎えそうだからモニカをチラっと見た。コクリと頷いたのを見て俺は一安心していたら真正面に来たモニカが膝の上に座りやがった。


「あの、モニカさん?」


「え? だって先ほど目線で『今日はもうメイドじゃなくて俺の可愛い妹モードでいいんだぜ? ベイベー?』と言う意味だったのでは?」


 伝わってなんていなかった……これでもモニカとは何度か戦場だって共にしてたしアイコンタクトだって、あれ? そう言えばアイコンタクトじゃなくて勇者コールで脳内会話しかしてなかった気がしてきたぞ。


『その通りです。過去のログでもそのように記録が残っています』


(心で通じて無かったのかよ!! 異世界での絆ぁ!!)


 それから俺は五人に揉みくちゃにされながら鋼の意志で耐え続けた。ユリ姉さんの手料理(失敗作)の処理をした後にはモニカの用意してくれたラタトゥーユを食べ終えると明日は早いからと言う母さんをホテルの部屋に送り届けて解散となった。





「ね? 快くん?」


「なに母さん?」


「今日、何が有ったの? エリちゃんと」


 俺が明日の朝の用意、主にホテルの部屋の冷蔵庫に飲み物や食品を補充してると母さんの少し硬い声が背にかけられた。


「やっぱり分かるの?」


「ふふっ、こんなのでも母親、やって来たからね。あの娘達にはダメな母親だって思われてるでしょうけど」


「それはノーコメントで、今日は異世界に行ったんだ。あの男とエリ姉さんを会わせてしまいました。すいません」


 俺の言葉に母さんも、再び恐怖が蘇ったようで震える声で俺に呟いていた。


「そっか……その、エリちゃんは泣かなかった?」


「エリ姉さんは強かったよ一本背負い決めてた」


 あれは見事だったと言うと母さんはキョトンとした顔になった後に泣き笑いのような顔で俺に頭を下げていた。


「そっか、うん。エリちゃんは強い子ね。ありがとう快くん。あの子達を守ってくれて、本当にありがとう」


「俺じゃないから、エリ姉さんが頑張っただけだよ。だから母さんも吹っ切って欲しいんだ。親父のためにも、後は生まれて来る子のためにも……さ」


 我ながら少しカッコ付け過ぎた感も否めないが、たまには勇者らしく決めるのも悪くはない。


「うん。今日は私の我儘に付き合ってくれてありがとね。皆にメイドを無理強いしたのは私だから」


「そうだったんだ。それとさ親父が絶対に言わないから言っておくけどさ。凄い可愛くて興奮したってさ!! 母さんのメイド服姿!! じゃあね~!!」


 実はあのクソ親父、店の前で俺と慧花相手に盛大に惚気やがったんだ。俺には女の子選び放題とか言いやがって、少し慧花がイラっとしてたし接待されながら気まずい空気でも味わってろとか思いながら俺は家に戻った。


「あっ、おかえり快利~。母さん落ち着いた~?」


 戻るとユリ姉さんとモニカがキッチンで仲良く並んで皿洗いをしていた。さっきまでエリ姉さんとセリカはリビングの後片付けをしていたそうだ。今はどっちかが風呂に入ってるらしい。


「じゃあ俺は最後だから部屋戻ってるね」


「別に最後じゃなくても良いから空いたタイミングで入ってね、あとアニメみたいなラッキースケベは起こさないように!! 絵梨花とかが襲いそうだから」


 それに了解とだけ答えると部屋に戻った。そして部屋にはエリ姉さんが待っていた。風呂上りのようで髪が少し濡れているように見える。何で俺の部屋にという疑問の前にエリ姉さんが先に口を開いていた。





「来ちゃった……」


「アッハイ」


 遅かったよユリ姉さん、この痴女……じゃなくてエリ姉さん俺の部屋にスタンバってたよ。


「何か他に感想は無いのか!? 快利!! お姉ちゃんがエッチな恰好をして誘惑全開のスタイルなんだぞ!!」


 そう言えば俺がこっちに戻って来た日にもエリ姉さんはこの恰好で俺を誘惑しようとしてたんだっけ? あの時はエリ姉さんが俺のこと好きだなんて思わなかったから誘惑に抗おうと必死だったな。


「何度も見ると飽きるよね……それにエリ姉さんは最近はエロの安売りしてるから俺でも耐性が付いたよ」


「なっ!? なんだと……どういうことだ!?」


「まずは最近スキンシップが多いから慣れた。後さ、俺がバイト始めた前後から家の中だけ露骨に薄着になったよね? 男性恐怖症まだ治ってなかったはずなのにさ」


 そうなのだ、怪我を俺が無理やり治してからユリ姉さんの方はスカートを頑張って着たりしていた。もちろんミニスカートなんて無理だけど今まではパンツスタイルか黒タイツを常に着けて生活していたユリ姉さんとしては大進歩だ。


「そうしてユリ姉さんが少しづつ頑張ってた夏休み中にエリ姉さん、あのエロ装備いきなり復活させたからね!!」


「私は足よりも背中とお尻の痕が酷かったからな……足はごまかせていたから抵抗なかったんだ」


「あ~、そう言えばその格好、露出度高い癖に姉さんの傷跡は完璧に隠れてたな」


 今にして思えば押し倒された時に少しでも確認しとけば良かった。薄暗いし足やお尻よりもエリ姉さんのオッパイをガン見していたから気付かなかったのだろう。


「そう言うのを頑張って探したからな……傷物の私でも快利を誘惑出来るようにって……あの時から必死だった」


「傷物か……俺は気にしないけどね。てか気にするレベルじゃなかったし」


「快利、前から言っているが私もユリ姉ぇもトラウマ含めて一生ものと覚悟してたんだ。それを……」


 エリ姉さんの顔は真剣そのもので、この話題になる度にお互いの認識に齟齬があったのは理解していた。今まで俺は意図的に気付かない振りをしてたけど、そろそろ止めようと思う。


「ごめん。エリ姉さん達のトラウマが深刻なのは分かるんだけど……今まで変なマウント取るみたいで言いたく無かったんだ。だけど今日は良い機会だし言うよ。姉さん達みたいな人、あっちの世界でかなり見た。しかも二人と比べても明らかに酷い目に遭ってた人達をたくさんね」


 俺が異世界で四年目に起きた大戦、俺が便宜的に『貴族戦争』と呼んでいる『辺境伯及び諸侯連合反乱事変』あの戦いは人間の醜さと同時に尊さを俺に教えてくれた。勇者という存在を考えさせられた戦いだった。


「それは……お前が夏に旅行先で話していた話か?」


「うん……よく分かったね」


「お前があの時と同じ顔をしていたからな、お姉ちゃんはお見通しだ!!」


「そっか、じゃあ正直に言うけど、戦争ってマジで恐いんだよ。人間同士のは本当にね。姉さん達が辛くて苦しかったのは今日のエリ姉さん見て痛いほど分かった。それでも比べちゃうんだよ、向こうで救えなかった人達と」


 初めて異世界転移して戦った『第一次魔族騒乱』通称、『魔王戦争』は魔族を率いた魔王との消耗戦で異世界は危機に瀕していた。それでも魔族と言う共通の敵を倒すために一丸となっていた。俺が転移召喚されたのはこの時だった。


「そして次にモニカと出会った邪神事件、正式名称『邪神キュレイア討伐事件』って言うのがあってね」


「キュレイア? 待て快利、それってモニカの元の名前じゃ?」


「ああ。モニカは孤児で攫われた子の一人で平民だから苗字なんて無かった。前の呼ばれ方は「ボウナー村孤児院のモニカ」だったらしい。で、邪神が自分の名前を姓として与えたってわけ」


「自分を攫った奴の名前を名乗らされていたの?」


「平たく言うとそんな感じ、裏の意味としては自らの名を与える事で神の使徒として能力を無理やり上げていたらしい」


 これはモニカに聞いた話で、他にも神の名を与えることで都合のいい教育や認識を与えられる制約があったらしい。これに抗っていたのはモニカの兄の第一のアルヴだけで、あいつが今際の際にモニカを託せた理由もそういうことだったのだろうと俺は思っている。


「なるほど、確かにモニカの境遇は辛いだろうが……」


「ごめん、確かにモニカも辛い人生だったんだけど、ここからが本番。貴族戦争、これは俺が向こうの世界に行って初めての、そして唯一の人間同士の戦争だった」


「そこでお前は人を……」


「うん。今まで話した二つの戦争で国も疲弊したんだけど実は貴族連中は割と私腹を肥やしててさ余裕だったんだよ。だから王様が金出せ食料出せって辺境伯やら諸侯やらに言ったのが始まりさ」


 慧花、当時は転生前だからケニーだが、王子たちにも相談も無しで、いきなり議場で言い出したらしい。今にして思えば王はこの時に決めていたのかも知れない。

 あの人も覚悟をしていたのだろう。そしてその覚悟を促したのが俺の存在だったなんてこの時は思いもしなかった。


「なるほど、それで貴族が一斉に蜂起して戦争に?」


「いいえ。違いますわ絵梨花お姉様。ある貴族が反乱を起こすように主導し、王位を簒奪しようとしたのです」


 俺の部屋に風呂上がりなのかタオルを頭に巻いて入って来たのはセリカだった。いつもの縦ロールは殆ど見えず今はただの金髪になっている。


「セリカ……そうだな。お前に許可取らなきゃいけない話だったな。悪い」


「いいえ構いませんわ。だってカイリ、いいえ勇者カイリ。あなたは事件の当事者なのですから」


 当事者とは言い得て妙だ。確かに俺はあの戦いでも中心にいた。いや、そのように誘導されていたのに気付かなかった。


「どう言う意味だセリカ? 快利がその戦いを終結に導いたのだろう?」


「ええ、その通り勇者として戦いを終わらせ――――「違うっ!! あの戦いを終わらせたのはカーマインの旦那だっ!! お前の親父さんだろっ!!」


 そうだ。何も知らずに俺はあの人や王の手の平の上で踊らされていただけだった。貴族戦争の終結時に全てを知らされた悲劇の英雄。それが俺の配役だった。


「それは違いますわカイリ。カーマイン・ヴィ・ジュディット=カルスターヴは、私の父は事件の首謀者として英雄カイリ=アキヤマに処刑されたのですから」


「なっ……それは、快利、どう言う意味だ?」


「そのままの意味さ。戦争の最後、俺は魔法の師匠で剣を教えてくれた人を、あの世界での生き方を教えてくれた恩人を…………この手で殺めたんだ」


 文字通り正義のために俺はあの世界での恩人を謀反人として処刑して勇者に続いて英雄という肩書を手に入れた。

 その際にカーマイン侯から託されたのが『鑑定』スキルなどの侯爵家の人間のみに伝承されていたスキルを受け継ぎ、さらに最強のスキルの兆しにも繋がる成長も有った。


「あの戦争は血生臭く、悲しい連鎖の続く戦いでした……秋山絵梨花さん、あなたに聞く覚悟はありますか? 私と勇者の歪な関係を聞く覚悟が……」


「快利とセリカが良いのなら聞かせてくれないか。瑠理香の時も旅行の時も救われるだけで蚊帳の外はもう嫌なんだ。頼む」


「さすがは勇者の姉、ならばお話します仕組まれた戦争の全てを」


 俺の目の前でタオルを取るとまだ少し湿った髪が広がる。縦ロールじゃなくてストレートは久しぶりに見た。

 前に見たのは旅先で水浴びさせた時に俺が見張りについた時だ。あれから三年か、旦那、セリカは立派になりましたよ。柄にもなく俺は故人に心の中で呟いていた。

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