第64話「打ち砕けトラウマ!吹き飛ばせ毒親!!」



 快利に聞いてはいたけど本当に居るなんて……転移中に聞いた話だともう死んでいたと思っていた。憎まれっ子世にはばかるなんて現実では実感したくなかった。


「か、快利ぃ……」


「大丈夫、姉さんは俺の背中に隠れててね?」


 なんて逞しく成長したんだ私の未来の旦那様。でも目の前の男を恐る恐る見ると手がタコのようになっていて、恐怖感の方がはるかに大きい。これが自分の血縁上の父親、加藤だった。見ると身なりも薄汚れていて、まるで浮浪者だ。


「やっぱりお前かぁ!! 秋山のガキぃ!!」


「喋るな。あと臭いんだよオッサン近寄るな、まだ生きてたのかよ」


「クソガキが、ま~た女ばっか連れやがって……え、絵梨花!! 絵梨花じゃないか!? 父さんだぞ!!」


 その一言で怖くて震えた。気持ち悪い、キモチワルイ。ここから逃げたいとガタガタ震えてきてダメだと思った時に体が少しだけ楽になる。


「大丈夫だよエリ姉さん、回復魔法かけたよ、少しは落ち着いた?」


「あっ、ああ。ごめん、快利」


 快利は私の頭を優しく撫でた後に奴から遮るようにしてくれて本当に頼もしくて震えも動悸も少しだけ落ち着いた。


「おっ、お前!! 俺の娘だぞ!! その手を――――ヒッ!!」


 しかし加藤が口を開く前にモニカが短刀を、セリカがロングソード、最後に尊が腕だけを魔族の状態に変化させて鋭い爪を向けて包囲していた。


「女の敵」

「汚らわしい」

「喋るな下郎が」


「なっ、なんなんだよ!! このメス共、くっ、来るなぁ!! 全員化け物か」


「全員が女の子だろ? 少し普通と違うだけで……差別はよくないぞオッサン」


 それはそれでどうなのかとツッコミを入れたいが未だに口が上手く動かない。私の心は恐怖と焦燥感で震えていた。そんな私へ後ろ手に出された快利の手を握ると一息付くと安心した私は加藤の前に出た。





 エリ姉さんが奴の前に出たけど大丈夫だろうか、顔色は決していいとは言えず立っているのもやっとな風に見える。さらにステータスを確認してもトラウマが復活していた。


「エリ姉さん。先に向こうに――――「大丈夫、だから……快利、私だって……言いたい事が有るんだ。はぁ、はぁ……もう逃げたくない」


「絵梨花!! 父さんの話を聞いてくれ、済まなかった。俺はもう一度家族を!!」


 そして空気を読まないで叫ぶ加藤喜好ゴミクズに思わず手が出そうになったけど我慢した俺はえらい。でも一応は神刀を取り出し準備はした。


「ヒッ……くっ……怖い、けど、変わらなきゃ私が……っ!!」


 エリ姉さんの恐怖が繋いだ手の震えから伝わった。だから少しだけ強く握ると俺の方を見る。


「こんな秋山のガキに無理やり!! 父さんと一緒に夕子を、お母さんと由梨花を説得してくれ」


 こっちの世界でまだ一週間しか生活してないからか反省もクソも無かったようだ。しかも図々しくも未だに家族に戻れるという幻想を抱いてるのも健在だった。


「やっぱり姉さん、俺が」


「大丈夫……快利、手だけはしっかり握ってて、お願い」


 それだけ言うと囲んでいた三人も離れて俺とエリ姉さんは改めてタコ腕男を正面に見てエリ姉さんは口を開いた。


「もう、二度と会いたくなかった……」


「悪かった。俺が悪かったんだ。許してくれぇ」


「じゃあ、私たちや母さんの前に二度と現れないで、それなら元の世界に戻してあげるように頼んであげる」


「そ、それは、絵梨花。頼むからもう一度考えてくれ俺は反省したんだ。この間は邪魔されたけど今度こそは!!」


 どこまでも非常識で最低な言い分に辟易する。それでも俺が糾弾するのは違う気がした、ここはエリ姉さんが向き合う場面で俺は付き合うだけだ。


「母さんは、今は幸せなの……殴ったり、罵倒したりしない、優しい旦那様がもういるの!! 昇一父さんは、あんたと違って……私達とも向きあってくれてる!!」


「秋山昇一!! あの調子に乗った最低な野郎が父親だとぉ!! 有り得ない!!」


 確かに俺を見捨てて仕事に逃げたりとか酷い親だったけど、親父は親父で色々と有った事を知ってしまったし、セリカとモニカの件では世話になった。だから手打ちと考えているし、少なくとも目の前の虐待DV男よりかは百倍マシだ。


「あっ、あんたみたいな親よりは何百倍もまともな人よ!! 仕事だってキチンとしたサラリーマンだし、怪しい日雇いの探偵とは違う!!」


「違う!! 俺は新聞記者だ!!」


 親父もコンサルティングとか中々に怪しい職業だとは思うけど、そんな事を考えていると加藤が大声をあげて姉さんを恫喝したが今度は怯まずに言い返していた。いつもの俺の知ってる強いエリ姉さんだ。


「何が記者よ、実際はスキャンダルを追うだけのハイエナじゃない!! 人の悪口と噂話なんかを広める最低な仕事よっ!!」


「なっ、崇高な記者の仕事を、父さんの目指している仕事を!! 絵梨花ぁ!! お前は父親として躾けてやる!!」


 奴のタコ腕がニュルンと伸びてエリ姉さんに迫るから、俺は思わず神刀でちょん切った。そして神刀で切ったせいで奴の腕が人間のものに戻ってしまった。


 ポトリ――――つまり腕が切れたまま再生された。切れ味が良過ぎてつい両腕を斬っていた。


「えっ!? ギャアアアアアアアアア」


「ゴメン、エリ姉さん。つい斬っちゃった」


 目の前で血を流す人間を見たらさすがにびっくりしたのか数歩後ずさりしているエリ姉さんが気の毒なので仕方なく装備を聖剣に変更し医療魔術で治療する。


「ほれ、腕も治してやったんだし俺の姉さんから離れろよクズ」


「お前ぇ、目上の人間にぃ――――ヒッ」


 目上の人間だらかといって無条件に敬うのは限界あんだよと思いながら聖剣を突き付け、姉さんから遠ざけると遂に姉さんが大爆発した。


「由梨姉ぇの分も言いたい事は全部言う!! いつもいつも作ってくれたご飯を目の前で不味いって言われて捨てられる身になった事あるの!? 小学生にお世話してもらっておいて!! 私だってタバコ買ってこいとか言って殴って!! 反抗したら殴る、何がなくても殴る!! あんたは最低なのよ加藤喜好!!」


「そっ、それは……だから俺は――――」


「やり直すやり直すってバカみたいに同じ事ばかり。快利に聞いたよ、刑務所の中で説教されたんだって? 昔からそう……儲け話があるって騙されて母さんのお金使いこんで、すぐに誰かの影響を受ける情けない人間、それがあんたよ!!」


 エリ姉さんの剣幕にひどく動揺する加藤は、また大声をあげて恫喝を繰り返す。昔から大声をあげて最後は暴力が奴の常套手段だと俺はユリ姉さんから聞いていた。だけど今のエリ姉さんなら、いつもの強いエリ姉さんならもう負けないはずだ。


「うぅ、お前、父親に向かって――――」


「父親ですって!? 一度でも母さんや私達に何かしてくれた? 私とユリ姉ぇの給食費奪い取って飲みに行ったのも一度や二度じゃない!! 最後はお決まりの大声出して暴力、今ならはっきり言えるわ、あんたなんて父親でも何でもない!!」


 そう言って目を逸らさずに叫んだ。トラウマにも屈せずにエリ姉さんは眼前の父親だった人間に向き合った。


「加藤喜好、もう今日限り父親なんて名乗らないで!! 私には秋山快利って言う最高の弟とユリ姉ぇと母さんと……秋山昇一さんって言うお父さんが居るのよ」


「また、また秋山昇一!! 秋山、秋山、秋山っ!! いつも俺の邪魔をして妻と娘を奪いやがって許さねえ!!」


 逆上して手が出ていたが心配はしていない。聖なる防壁何でもガードが有るからと見ていたら意外にもスキルが反応しなくて焦ったが、エリ姉さんは相手の勢いを逆に利用して一本背負いをきれいに決めていた。


「はぁっ!! もう、二度と!! 私と、私の家族の前に、現れるなぁ!!」


 地面に叩きつけられて呻く男はゲホゲホと咽ながらも今は怒りと畏怖とをい交ぜにしたような表情で姉さんを見上げていた。


「はいはい、姉さんお疲れ様。あとは俺に任せてね?」


「でも、快利……」


「エリ姉さんはこれ以上はダメだよ、残りは俺がやるからさ。これ以上は手を汚しちゃダメだよ?」


 そう言ってエリ姉さんを強引に抱きしめるようにして後ろのモニカとビルトリィーに任せたら、珍しく顔が真っ赤になっていた。よく自分から抱き着いて来るくせにどうしたんだろうか?


「てっめぇ……俺の娘をぉ……」


「今の話とか聞いてました? もう、お前は親じゃないんだよ。だから今度こそ終わりにしてやるよ。お前は姉さん達のこと、夕子母さんの件も含めて必要無い存在なんだよ。だから、もう終わりだ」


 そして俺は神刀を取り出し奴の腹を串刺しにした。


「ぐあっ……ああっ、痛ぇ、痛ぇよぉ、止めてくれぇ~」


「この前も言ったけど、姉さん達や母さんに同じ事してたから、じゃあ今度こそ終わりだ。全身がタコみたいになっちまえ!!」


 神刀の本来の使い方で奴の全ての法則を書き換える。そして完成したのはタコ人間だった。昔の火星人のイメージのあれだ。


「なっ!? お、お前なんて事を!! 戻せ!! 戻せぇ!!」


「離れろよ、ヌメヌメして気持ち悪いんだよ」


 ドンと押すと本当に体が粘膜に覆われていて気持ち悪い感触がした。その光景に思わず離れる女子一同。


「さすがに私もこちらの世界に転生してからはヌメヌメしたものには忌避感が有るぞ元勇者よ」


「元四天王から恐れられるとは、やるじゃん。じゃあ最後に、あんたに唯一感謝する事が有るとすれば、エリ姉さんとユリ姉さんをこの世に生み出してくれた事、それだけだ。二人は俺の大事な姉さん達だから」


 俺は聖剣を取り出しバットのように振りかぶる。なら後はやる事は一つだけだ。


「な、何をっ!?」


「じゃあな、由梨花姉さんと絵梨花姉さんは俺が、夕子母さんは俺の親父が……お前から奪い取って幸せにするから!! この星で死ぬまで永遠に懺悔してろっ!!」


 金属バットならカキーンと音がしたであろう見事なスイング(自称)で奴は地平線の彼方へと飛んで行った。


「ホームラン!! ってね……じゃあ、コバルトを半分くらい持ち帰って親父に見てもらいますか、モニカ、行きと同じで行こう。百合賀と後から付いて来てくれ」


 俺の方はセリカとそしてエリ姉さんを抱えてこの世界とおさらばする。たぶん今度こそ永遠に訪れる事は無いだろう。この時は本当にそう思っていた。





 元の世界に戻ると実は一時間も経っていない事に驚きながら呆けていると百合賀に会長が抱き着いていた。


「はいはい百合アピールご苦労様っと……」


「アピールではない!! 純愛だ!!」


「そうよそうよ!!」


 生徒会組をからかうとエリ姉さん達と家に帰る。帰り道では三人とコバルトについてスマホで調べたり親父に、どうやって説明するかなどを話したりして気付けば家の前に着いていた。


「たっだいま~」


 おかえりとユリ姉さんがお出迎えしてくれた後ろから付いて来たのが慧花と母さんだった。当たり前のように慧花が居るのはもう疑問を持つのは止めたよ俺。


「慧花、なんか昼間も会ったよな? 何なら一昨日も会ったし」


「それだけ君に会いたかったんだ。それに先程の魔力の高まりの件もね?」


「快くん、おかえりなさい。実は少し困った事があって私だけ帰って来たの~」


 一先ず俺達はいつものようにリビングで話す事になった。まずは慧花の用件から答えてコバルトを討滅した事を話すと慧花は少し驚いた表情をすると、お見事と言って帰り支度を始めていた。


「え? もう帰るのか?」


「ふふっ、引き留めてくれるのは嬉しいけど今日は出勤日だからね。だから奥様と交渉していたんだ」


「母さんと? どう言うことだ?」


「快くん、この間のケイちゃんとの条件とか憶えてる?」


 その条件とは例の週刊誌の連中を追い詰める際、二度と逆らう事が出来ないようにするため関係の無い人間にも恐怖を与えるという汚れ仕事を慧花に頼んだ際に彼女が出した条件のことだ。


「えっと、まず親父や風美社長とかをクラブ「ダイアモンド」の常連に戻ってもらう事、そして自分が出勤している時は必ずテーブルに着く事だったっけ?」


「そう、そして今日は接待にカイリのお父様たちが店に来るんだけどね、同伴出勤もお願いしたのさ。その方が私のお給料にも反映されるからね?」


 なるほど、聞いた事が有る。ホステスやキャバ嬢とかと店外デートしてからお店に入ってそのまま指名までしてもらうとか言うアレだ。慧花って本物のホステスなんだなと、感心していると後ろの母さんがポツリと呟いた。


「浮気よね?」


「え?」


「お店に行くのはケイちゃんが居るから許可したけど一緒にご飯食べたりデートしてからお店に行くのはダメだと思うの……これ、浮気よね、快くん?」


 怖い、母さんが一番怖い。数ヵ月前までは思いもしなかったけど母さんってもしかして若干、重かったんじゃ? なんて思ったりしていると目が据わってて俺を見てる。思わず視線だけ動かしてユリ姉さんを見た。


(何とかして快利)


 続いて助けを求めるようにエリ姉さんを見る。


(頑張れ快利、お前ならできる)


 実の娘がどうにも出来ないのを俺に任せるのは間違いだと思うんだけど、この状況どうすればいいんだよ。


「こんな感じでね、この様子だから快利に説得してもらいたいんだよ。私としても仕事とプライベートは別だからね。もちろん私が好きなのは君さ快利」


「はいはい。でもホステスってのも大変なんだな、好きでもない客とデートするんだろ?」


「ふふっ、確かにね。だけど食費は浮くしボーナスは付く、あと私はアフターは全て断ってるんだ。これもママの方針でね、だから危険は無いのさ」


 そして困ったら洗脳と魅惑の魔法が有ると付け加えたのだが、それがまずかった。


「まさか、今までも昇兄ぃにも!?」


「母さん!? 落ち着いて!!」


「そこで奥様、どうです? ここに秋山社長を呼んでもらって皆で時間まで過ごす。そして店の近くまで快利に送ってもらい同伴出勤のように偽装してもらうんです」


 なるほど……なんて騙されないぞ、別に家で慧花と過ごす理由なんて無いからね。転移魔術で送るとこだけで後はデートしましたと嘘つけばいい。そうだよね母さん。


「ケイちゃんは同伴デートはしなきゃいけない。それまでは皆で居れば浮気じゃない。そうね、今日は昇一さんも呼んで皆でご飯にしましょう!!」


「「「「「えええええええええ!!!」」」」」


「さすがは奥様、素晴らしいご決断ですわ」


 俺が何かを言う前に母さんは素早く手配を済ませると俺に親父を迎えに行くように言う。さすがにまだ親父の仕事が終わるまで数時間、俺はパーティー用の料理を用意するためにスーパーへと走った。





「親父、そろそろ時間だ」


「ああ、来たのか……なあ快利、夕子はどうだった?」


 俺は転移魔術を使い、親父のホテルの部屋に来たけど直前まで仕事をしていたのか親父は背広のままだった。そもそも接待はこれからだし背広なのは当たり前なのか?


「それは着いてからのお楽しみだ。それと母さんが何か準備有るからって、少し雑談して来いって言われた」


「ふっ、もしかしたら夕子にも気を遣わせたのかもな」


 そう言ってため息をついた親父と俺は久しぶりに二人だけで話をする事になった。バイトの事、異世界での事、そしてこの後の予定についても色々と話す。


「接待だけでも面倒なのに、まさか家族サービスも重なるなんて……しかもホステス付きとか、なあ快利、俺は前世で何かしたんだろうか?」


「前世は知らねえけど今生では一人息子を育児放棄したよな?」


 これは永遠に言ってやるつもりだ。俺がどれだけ苦労したか、例え親父に事情があって姉さん達に関わっている事でルリの両親が原因だったとしても許さない。


「悪かった。本当に悪かったから、反省してるから、な?」


「それじゃ、今度セリカとモニカに小遣いでも奮発してやってくれ。まだ二人とも遠慮してるからさ」


 ま、こうやって定期的に嫌味を言うくらいの関係性が俺達にはちょうどいい。今さら仲の良い親子は無理だけど俺らなりの親子関係になれば良い。内心で苦笑しながら俺達は時間になったから転移した。


「おかえりなさいませ、旦那様」


「「「「「おかえりなさいませ~」」」」」


「「えっ?」」


 なんか皆メイド服なんですけど、これはいったい何がどうして、こうなった?

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