番外編「元勇者による解説」その3(ここまでのおさらいと簡単な流れ)
※ 本編の時間軸のどこかの夢の中の話です。ほぼ会話形式のみで進みます。本編中の補足やメタ的な会話などが入ります。本編45話までのネタバレが大量に有るので本編を見てからの方が楽しめる内容になってます。
そして、この場を借りて読者の皆様に感謝を申し上げます。今回で45話まで執筆出来ましたのも皆様の応援やアドバイスのお陰でございます。いよいよ次回からは第四部開始となりますので是非、これからも本作の応援をよろしくお願いします。
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「三部まで物語をやってると人間関係とか状況とか色々と謎じゃね? そんな事を考えてここまでの流れをざっと振り返るコーナー!!」
『お相手は私、ガイド音声と元勇者です。そして素敵なゲストもお呼びしてます』
「ゲストは俺の巨乳の姉二人です!! どうぞ~!!」
「その紹介の仕方はやめろ快利!! いずれはお前の物になるワガママボディだが今はまだ早い!!」
「さすがエリ姉さん!! 夢の中だとトラウマとか無視して性欲の塊になってるぜ」
「この後は私にはハードル高い……え~っと秋山由梨花です。長女です……む、胸のサイズは登場人物中で一番大きいです……快利!! なんでこんなの読まないといけないのよっ!!」
メモ用紙を破り捨てていきなりキレるユリ姉さん。ちなみに二人の恰好はサービスのために水着仕様となっている。
「ユリ姉さんの胸はいつも癒してくれる俺専用です!! 誰にも渡さねえ!!」
「そんなクッション感覚で人の胸の所有権宣言しないで!!」
「快利!! 私はいつでも大丈夫だ!! 秋山絵梨花、常にお前に抱かれる覚悟は出来ているからな!!」
「こんな事言ってるけど、現実ではエリ姉さんの方はトラウマが発症して男を見るだけで俺を盾にしないといけないし、逆にユリ姉さんの方が今んとこ日常生活はまともなんだよね~」
「私だって男は怖いわよ……そもそも今だって」
「俺だけはセーフなんでしょ? じゃあ良いじゃん!!」
そう言ってユリ姉さんに抱き着いて離れないで居ると諦めて頭を撫でてくれている。柔らかい、凄い気持ちいい。
『さて、勇者カイリが煩悩を越えもはや性欲の権化になりかかってますので、続けましょう。それにしても以前に瑠理香さんをお呼びした時とだいぶ違いますね』
「う~ん、なんて言うかルリは恋愛の対象なんだけど姉さん達は性欲の対象なんだよね、俺としては、だってエロいもん二人とも!!」
「聞きたく無かった……義弟の最低な発言」
「快利なぜだ!? じゃあなぜ最初の頃に私を抱かなかった!! あれで物語は完結していたんだぞ!!」
「あ~それは戻って来たばかりだからね」
『厳密には勇者が童貞を拗らせていたのと絵梨花様に恩義が有り理性がギリギリで勝利したのです』
「理性だと!! そんなものさっさと捨てて私を襲ってくれればよかったのに!!」
「なっ!? だってエリ姉さんがいつも女の子には優しくて男らしい人間になれって木刀で叩きながら教えてくれたんじゃないか!?」
「絵梨花あんたそんな事してたの……だから快利って小さい頃に打撲痕が……」
「うむ、将来は快利は私の夫にするからな。妻たる私には優しくしてもらうように教育していたんだ。体を鍛えるついでにな!!」
「あのスパルタはエリ姉さんの胸がブルンブルン揺れなければ逃げ出してたから!! 本当に辛かったよ。癒しはエリ姉さんのオッパイだけだったんだ!!」
「何て言うか妹も義弟も酷過ぎる……」
『しかし勇者がこのような精神構造になったのも原因はあります。絵梨花様にのみ依存した理由はご存知ですね?』
「それは……私が瑠美香に騙されて快利に酷い事ばかり言ってたから?」
「あ、まあ……そうかな。さすがに毎日会う度にクズとかアホとか言われたり無視されたりしたらね。エリ姉さんには物理的に酷い事されたけどイジメじゃなくて特訓とか鍛錬て名目だったしさ、あとオッパイ……」
「私の価値は本当にそれだけだったんな!? お姉ちゃん色んな意味で吹っ切れそうだぞっ!!」
「ま、ユリ姉さんには本当に理不尽にイジメられたってイメージだったからさ。話を聞いたら納得もしたけど……小さい頃は本当に……」
「私が悪いんだけどね、言い訳させてもらうと快利と会う前に私達姉妹は小学校で散々、火傷の事で言われてさ、その頃から絵梨花に守ってもらったんだけど言われたのが片親とか傷物とか散々言われてさ」
「ああ。悔しかったんだ。親のせいで散々好き放題言われて……だから私は強くなろうと決めた。母さんとユリ姉ぇを守ろうとな、でも中学生になって離れた一年間でユリ姉ぇがそこまで騙されたなんてな」
「本当にそれはゴメン。今思えば絵梨花抜きで友達が出来たのが嬉しくて、だから瑠美香と取り巻きに『酷い義弟だ』とか『連れ子』とか散々煽られて全部鵜呑みにしてた……バカだった。なんで私は快利を信じてあげられなかったんだろう。本当にごめん快利」
「ユリ姉さんも俺と同じ陰キャてか陰の者だったからね? それに騙されやすいのは例のイベサー事件のでよ~く分かったし、だから思ったんだよ……」
「え? なにを?」
「ユリ姉さんは俺が絶対に守ってあげなきゃダメな人だって……後は異世界で、より酷い光景を何度も見て来たからユリ姉さんをやり直させようって思ったんだ」
「私は快利が異世界に行ったから助かったんだ……そうじゃなきゃ今頃は身も心もボロボロになってたんだね……」
「ユリ姉さんさ……改めて言うけど例え陰キャで弱いままでも絶対に俺はユリ姉さん助けに行ってたと思うから」
「それさ今だから聞くんだけど快利。何で助けてくれたの? あんたが優しい子なのは良く分かったつもり、また新しい女の子二人抱え込む位にはお人好しでさ、でも私を何で助けてくれたの? お世辞にも私はいい姉じゃなかったと思うんだ」
「初めてだったから…………俺の記憶の中で生まれて初めて他人が作ってくれたご飯……それがユリ姉さんのカレーだったんだ」
「え? だって離婚前は……前のお母さんが居たでしょ?」
「俺さ、小学校の時には家事無理やりやらされてて、親父がたまに手伝ってくれるだけで、自分で料理作れるまではレトルトとかカップ麺メインで、それで料理を必死に覚えたんだ」
「なっ……そう、だったのか」
「うん。俺を生んだクソ女は料理は作らないで間男と俺の弟をせっせと作ってたからさ……ハハハ……」
「そう、快利……あんたも大変な目に遭ってたのね」
「まあね、とにかくあの時食べた甘口でじゃがいもが小さいカレーは俺が初めて食べた家庭の味だから……」
「悪かったわね、皮むきが下手で……また作ってあげるからね」
「なんかズルいな……ユリ姉ぇ……」
「何よ絵梨花」
「だって私は胸でユリ姉ぇは快利を嫌っていたのに今は餌付けして仲良しになれたじゃないか!! 私だって快利とイチャイチャしたい!!」
「いや、エリ姉さんは基本オッパイだけど異世界で生き残れたのは間違いなくエリ姉さんのおかげだよ? 向こうの異世界で生み出した技の何個かは姉さんとの鍛錬と言う名の虐待から発想を得たものだしね」
「やっぱりそんなのじゃないか!! 私だってほのぼのとした思い出が欲しい!!」
「でもエリ姉さんって基本的に勉強もスパルタだったし、木刀で叩かれたし、ユリ姉さんが言葉での暴力ならエリ姉さんはガチの暴力だからなぁ……」
「私はお前を強い人間に、パンツの匂いを嗅いで喜ぶような軟弱な人間から矯正するために厳しくしただけだったのに……」
「それなんだけど、俺、そもそも姉さんたちのパンツを手揉みで洗ってたけど匂いは嗅いで無いから。良い匂いがしたってのは姉さん達を頑張って褒めようとしただけだから、最近は抱き着く度に良い匂いするけどさ」
「まあ、何となくは分かってたわよ……」
「なっ!? そうだったのか!? 私は快利のためにワンサイズ小さいシャツや勝負下着を二人きりの時は着てたんだぞ!!」
「やっぱりそうだったんだ!! 帰って来て次の日辺りにすっごい誘惑されてる気配はしてたんだよ!!」
「そこまで分かっててなぜ襲わないんだ!!」
「あ~、あれってやっぱり思った以上に危険な状態だったのね……快利なんてガッツリ揉んでたし、絵梨花は押し倒してたし」
「正直に言うと理性が持ちそうに有りませんでした……魔法を使わなきゃエリ姉さん気絶させられなかったし」
「そう言えば、あの気絶させる魔法を私に度々使っていたらしいな。記憶が曖昧だから覚えていないのだが」
「うん。でもエリ姉さんに色々と魔法使い過ぎてまさかの魔法耐性出来ちゃったんだよね……それとエリ姉さんって最初から魅了って謎のスキル持ちなんだよ?」
「魅了? つまり誰かを虜にしていると? ならばなぜ快利は私にイチコロじゃないんだ!!」
「微魅了って言って普段の生活でちょっと得するみたいなステータスなんだよ……ちなみに俺はステータス異常系は全部無効出来るから勇者の基本ですから」
「やっぱりチートなのね快利って、あ、それと快利さ、ちょ~っとお願いが有るんだけど良い?」
「エリ姉さんに声、なんか嫌なトーンだけど一応聞くよ? なにさ」
「実はこの間、良さげなブランド物のバッグがあってさ……複製とか出来ない?」
「出来るけど……バレたら色々マズいんだけどなぁ、仕方ないなぁ……上手くごまかしてね? これ立派な模造ってか違法コピーみたいなもんだし、後で教えてね?」
「ありがと!! 助かるぅ~!!」
「てか姉さんてイベサー辞めた後はオタサーに入ってたよね? 紅井さんとかと一緒に入ったとこ、そこじゃ必要無いんじゃないの?」
「まあ、そうなんだけど実はイベサーで教えてもらった事も少しは役に立ってるのよ。私、お洒落とか高校時代は全然知らなかったから、そう言うのも教えてもらってね? もちろんブランド物とかも買い漁ったりとかはマズいんだけど、少し見栄を張ったりTPOが大事な時には一つか二つは持っておいた方がいいのよ」
「そ~いうものなのか……良く分かんない」
「ああ、ユリ姉ぇ、私にもサッパリだ……そもそも私の場合この間まで背中にあった傷をなるべく隠せる服を選んでいたからなファッションなんて」
「じゃあ今度行きましょ? あ、快利は荷物持ちね? ついでにモニカとセリカの服も買ってあげたらどう?」
「あ~そうだった……あの二人の事もあったんだ……」
『そうですね、向こうの世界から帰還する際にも止めに来た二人でしたからね。異世界が嫌になって逃げだした原因の一つがあの二人。勇者は異世界で自分の力を振るうのが嫌になり、その結果に偶然ラーニングした因果律操作魔法を使いこちらに戻ったのですからね』
◇
「そうだったな……偶然にも普通の高校生だった俺が異世界転移させられて七年間も必死に戦い続けたんだ……大変だったなぁ」
「なんか今まで聞き辛かったんだけど、快利、向こうで何があったの? 思った以上に精神が擦り切れてそうな感じなのは分かるんだけど」
「私だけ聞いてフェアでは無いしユリ姉ぇにも話してもいいか? 快利」
「まあ、その、隠していても仕方ないしね……俺は向こうの世界で平和を守ってたんだ。勇者として、王国のためにね」
「その言い方じゃ正義の味方ってわけじゃないのね?」
「いや、正義の味方だよ……そして国を脅かす敵の全てを滅ぼした英雄だよ」
「え? いや……どう言う事?」
「ユり姉ぇ……戦争で活躍してヒーローになる人間はどうして英雄足り得るか分かる? 凄い剣豪や歴史的に有名な戦国大名が有名なのはどうして?」
「いや、それは……凄い事をしたから?」
「凄いんだろうね……だって、国を統一したり守るために他人の命を奪ってでもそれを成し遂げた人間ばかりなんだから、もちろん歴史的見地から見たりとか色々有るだろうし、当時の人間にも色々と動機はあったんだろうけどね」
「それは……じゃあ快利、あんた……」
「うん。俺は何人も魔族、人間と肌の色くらいしか変わらない者も、向こうの世界では野生の危険動物扱いのモンスターも、それと反乱を起こした貴族もみんな正義の名の下に粛清したよ……今も、彼らの悲鳴と怒号は俺の耳から離れない……」
「そう……だったの。あんたが何かを耐えようとしていたり、突然泣き出したりしたのは全部その時の?」
「うん。ま、フラッシュバックみたいなもんさ」
「あんたの方が、よっぽどトラウマ抱えてんじゃないの!! それを私達の方まで、本当にお人好し過ぎでしょ、快利……あんたって子は!!」
「大丈夫、だって俺は勇者だったから……無敵で誰にも頼らずたった一人で全部を解決する最強の……勇者、なんだよ」
「それは……だけど、そんなの……快利が」
『それこそが勇者としての有るべき姿ですね。こうして勇者カイリは現実世界に戻り姉達を救い、そして大事な友人で大好きなアイドルである少女も救い、さらには因縁の有る魔王との戦いにも勝利したのです』
◇
「そうそう、色々あったね……エリ姉さんをスキルの被害者にしないようにしてたら押し倒されたり、RUKAのダブルブッキングを解決したり、イベサーで罠にハメられたユリ姉さんを助けたり。この間、わずか数日の出来事!!」
「私はその後の瑠美香に襲われた方が怖かったわよ。いきなり大学に四天王が来るとか聞いてないわよ!!」
「良いでしょ? 助けたんだし……こっちはその前にルリとエリ姉さんの修羅場に……さらに前にはルリが自殺した未来を見せられたんだから」
『こちらの世界に戻っての初の因果律操作魔法でしたね。累計では二回目の行使になりました』
「そうだった。事情は大体の事は瑠理香から聞いたが、まさか未来を変えて壊していたなんてな……とんでもないな」
「てかさ、快利。あんた瑠理香の事好きでしょ?」
「うん。そりゃ好きだよ親友だから……」
「嘘をつくな嘘を!! さすがにお姉ちゃん達にはお見通しだぞ、一人だけ好感度をが高過ぎるだろ!!」
「いやぁ、意識し出したのは中三だったんだけどさ……てか七年前のイジメられてた時ですら好きだったし、正直イジメられてたのもルリとの接点持ちたいってのがどこかであったんだよね……情けない話だけど」
「「えっ……」」
「うん。RUKA好きなのも有るけどルリの事は好き……だったんだと思うんだ。たださ、実を言うとRUKAと混同とかハッキリさせるってのは半分はウソなんだ」
「嘘? じゃあ今は違うと言う事なのか?」
「う~ん……違うと言うか分からないんだ。俺の気持ちは異世界に行くまでは確かにルリの事が好きだったんだけど七年も経って、それが本当に好きだったか分からないんだ。てか異世界で五つの戦争を経験して高校生の頃の俺は殆ど消えた。今の俺にとってルリへの片思いは高校時代の甘酸っぱい思い出みたいな感じなんだよ」
「そうなのか……つまりRUKAの事はそれほど?」
「いや、魔王に勝てたのはエリ姉さんの技とルリの、いやRUKAの歌に助けられたから命の恩人だから大事な人だよ。それとは別にルリも……ただ気持ちがリセットされてるんだよね……だからルリに気持ちを正直に言う事が出来ないんだ。好きかどうか分からないけど、たぶん好きだから付き合ってはさすがに無いでしょ?」
「なるほどな……だがそこまで大事に考えてる時点で特別な人間なんだろ?」
「そんなの当たり前だよ。それはエリ姉さんとユリ姉さんも同じだから。そもそも異世界の時は強制だったけど、この世界の勇者の加護を与えた人って基本的に俺の好きな人にしか与えてないからね?」
「そ、それって私も、好きって……こと?」
「うん。ただルリと同じで異世界で衝撃的な事が多過ぎて本当に好きかが分からないんだ二人の事も……だから時間が欲しいんだ」
『それを確かめる意味でも今回の旅行は成功だったのでは無いでしょうか?』
「うん。確かにルリには時々凄くドキッとさせられたし、ユリ姉さんはエロかったし柔らかかった。エリ姉さんも女の子っぽくて、さっきまでは守ってあげたかったんだけどなぁ~今はただの肉食系だし……」
「まず本人目の前にしてエロいとか言わないでよ……」
「それと私をオチ要員のように扱うな!!」
「ま、優柔不断だとは自分でも思ってるんだ。実際、この夢空間では割と本音で二人と話せたし……じゃ、明日も早いし今日はこれくらいで……あと、二人に言っておくけど今日この場での話は起きたら全部忘れてるからね?」
「むしろそれを聞いていたからここまで好き勝手に話したんだ」
「そ~言う事、素面じゃ話せないわよ……じゃ、快利、たぶんカレーは作ってあげると思うから楽しみにしてなさい」
「うん、あとエリ姉さんも今は俺の方が強いから鍛錬付き合ってあげるよ?」
「ああ、その時が来たら頼む、それと起きたらまた迷惑をかけると思う……なるべく早く立ち直るから……見捨てないで……欲しい」
「そんなの当たり前、大丈夫、元勇者にお任せあれ、エリ姉さんも立ち直らせるし、ユリ姉さんのカレーも食う!!」
そうして俺と姉さん達は夢の接続を切った。この事は俺の脳内の奥深くに封印され、覚えているのはただ一人だ。それはいつもの通り俺の脳内に居るガイド音声だった。いつも通り寝ずの番で作業をしてくれているので後は任せて俺も寝る事にした。
『そう、私の役目ですので……それでは……おや? これは……因果律操作でも転移でも無い……しかし、こんな事が?』
また何かこの世界で新たな火種が燻っているのを俺はまた知らない。でもたぶん巻き込まれるそんな予感がした。ヌルゲーなんて無いんだろうなと、そろそろ気付き始めていた。
◇
そこは豪奢な部屋だった。そして窓辺で月を見上げる金髪の美女……に見紛うばかりの美青年だった。解けば腰まで伸びる長髪をポニーテールのように結い上げ、瞳は碧眼、その所作は美しく、まるで生きた芸術品のようですらある。
「それで君は仕方なく帰ってきたのかい? セリーナ殿」
「ああ、残念ながら私は撤退し、あの二人は勇者との戦いに巻き込まれ消息不明だ。勇者も助けようとしたが間に合わず、結果、我は逃げ帰った。それだけだ」
「ハハハ、そうだね。父上は騙されるだろうさ。いや、騙されてくれるだろうね? 父は人間が大好きだ。そして、あの二人の幸せを願うだろう……だが、それでは僕が困るのだよ!!」
彼は男性にしては明らかに高く、女性としては少しだけ低いアルトボイスで強く目の前の真・超魔王に向かって言葉を荒げた。
「さて、何のことやら……」
「カイリなら、たとえ何があってもあの二人を見捨てない!! 自ら死に瀕してでも時空を捻じ曲げて彼女たちを助けるだろうね……それが勇者カイリだ。この国を守っていた私の初恋の愛しい人なのだからね?」
「お前もまた勇者に魅せられた者かグレスタード王国、第三王子、ケーニッヒ・ラ・グレスタード=センジェルト。我に何を望む?」
「私は、いや僕はカイリに会いたい。会って今度こそ結ばれたいんだ!! そのためなら国すら捨てられる!!」
「これはまた情熱的な男だな……しかし国を捨てても時空は越えられない。残念ながら一切の誤情報無しに因果律操作魔法ではあの世界に行けなくなってしまった。カイリは完全に穴を破壊したのだからな」
「だろうね……君たちが言う時空の穴、あれが閉じられた。だけど違う魔法なら、一度カイリが話してくれたんだ。『転生魔法』なる禁忌の魔法があると……君も使えるんだろう?」
「っ!? ある意味で因果律操作魔法より凶悪だぞ……なぜならその魔法は……」
「死んだ瞬間にしか使えないんだろ? だからカイリも絶対に使えないと私に言ったからね……でもその魔法ならカイリの居る場所に『異世界転生』出来るんじゃないのかい?」
「理論的には可能だ。しかし仮に転生出来てもどのような姿で、どの場所に転生するかは不明だ。せいぜい調整が効くのは時空座標と時間だけだ。それに……」
「それだけ分かれば充分。さあ、僕を殺してカイリのところに送ってくれセリーナ殿。報酬は……そうだ!! この国の国土の一部で、なんとかならないかな?」
遥か遠い異世界、その最大の国土を誇るグレスタード王国で己の命を賭けて勇者を追う決意をした王子の葬儀が盛大に行われたのはそれから三日後の事だった……そして第三王子の所有する領土は今回の戦いで勇者と肩を並べた英雄、真・超魔王セリーナが治める事となった。彼女は国王に言ったという、これは貸しだと……彼女の大苦戦する領主生活は始まったばかりだった。
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