第25話「ボスラッシュ?でもこっちは実質二周目だから対策済みですけど?」



 由梨花への襲撃の翌日も朝から姉二人が起こしに来て抱きしめられたりして途中からもう天国状態だった我らが勇者だったが、それでも朝食は作る。朝食を摂り終わると絵梨花と一緒に登校しつつ路地で、ワームホールを開いて瑠理香の家の庭先に転移すると二人で瑠理香と合流すると最後にいつもの場所に三人で転移した。


「だからカイ!! 男子トイレはダメだって言ったじゃない!! 三人は狭い~」


「そうだぞ快利、あと不衛生だ。清潔感の有る広い多目的トイレにするべきだ!!」


「悪かったよルリ、あと姉さん、うちの高校にそんなものは無いっ!!」


 こうなるとやはり広い転移場所が必要だなと快利も考えて何とか揉みくちゃの状態から脱出しているとバランスを崩した瑠理香を支えて、更に明らかに抱き着いてきた姉まで支えるとニヤニヤしたいのを何とか断ち切りトイレを出た。ここで絵梨花と別れ二人で教室に入る。昨日の今日なので気にされないと思ったが意外と視線が集まる。なので二人で今後の事を小声で話していく。


「カイ、取り合えず昼も絵梨花先輩と合流よね?」


「ああ、リスクを減らす。それと一時間目が終わったら休み時間の間にユリ姉さんを大学に送ってくる。あとルリの放課後の予定は?」


「あっ、うん。そのぉ……プライベートで、その話すのは難しくて……」


 そう、ここで問題となるのは瑠理香の放課後だった。この鈍感元勇者は気付いていないが目の前の彼女は自室にポスターを張って崇めているアイドル本人だ。なので放課後には仕事がちゃんとある。そもそもプライベートとか言い出しちゃってる時点でコイツ気付かないの?とか思っても言ってはいけない。


「それ、何とかならないのか? 放課後や土日とか、かなりタイトなスケジュールだよな? いくら俺でもすぐに行くのも限界は有るし、ルリの事は必ず守るけど周りの被害が……ってルリ?」


「えへへ、私を必ず……そんなに私が……。うん、でも今週は本当にゴメン……」


 そして、この若干微ヤンデレが入っているポンコツアイドルは、このように定期的にトリップ状態に入るから困りものだ。鈍感勇者とポンコツアイドルの組み合わせは意外と相性が良かったのだ。結果的に少しいぶかしみながらも最終的には強く言えないのは快利の潤滑油精神と言う仕様なので仕方ない。これが勇者モードなら瑠理香を徹底的に調べて正体を知るまで行くのだが、今の快利は鈍感モードなのだ。


「それも事情込みだろ? もういいさ、それと……」


 それだけ言うと二人の会話を遮るようにチャイムが鳴りそこで会話が中断されてしまった。そのまま1時間目を終えると快利はトイレから転移し、もう一人の姉、由梨花を家に迎えに行くと大学のサークルの溜まり場付近のトイレに飛ぶ。


「サンキュ!! 快利!! この指輪を付けて『助けて』って心の中で思えばすぐに伝わるのね?」


「うん。スマホと違ってこれなら姉さんが身に付けてるから聖なる防壁に一緒に守られる。姉さんにはアンカー付いてるから大丈夫だけど……やっぱり心配だからさ」


 アイテム『絆の指輪』効果は今言った通りのもので心の中で念じれば同じ物を持つ者に思念が届く。快利は作っておいたチェーンを付けて胸からネックレスにして下げていた。向こうの世界では戦闘中に腕ごと吹き飛ばされる事も多かったので一番最後まで守る頭部付近にセーフティアイテムは装備するのが基本でパーティーメンバーも含めこの手のアイテムは首から下げる事が多かった。


「ん、ありがと。快利、あと今更なんだけどさ、昨日はありがと」


「うん、大丈夫だよ。姉さんの事は俺が守るから!! じゃ、戻るね!! あとユリ姉さんも講義頑張って!!」


 そしてすぐにワームホールで学校のトイレに戻る。そのまま何事も無く昼には絵梨花がやって来て三人となぜか金田が混じって来て飯を食べる事になる。コイツ、イジメ側だったくせに俺の親友ポジを狙っているのか!?とか意外と心では冷静なツッコミをしている快利だった。そして放課後に校門の車の前まで瑠理香を送ると絵梨花の部活が終わるまで良さげな転移ポイントを探すのだった……。





「旧宿直室……昔は使ってたけど今は物置にされている……と、年に二回の掃除意外は滅多に人が入らない、か……ダメだな万が一は起きてはいけないから」


「ダメなのかよ……じゃあ次だな。この詳細不明の教室とかどうだ?」


 快利は今、金田の案内で高校内の空き教室をしらみつぶしに探していた。昼に彼が絡んで来たせいで全然話し合いが進まなかったので、この雰囲気イケメンの陽キャオーラと人脈を逆に利用してやろうと元勇者の渾身の作戦だったが、これが大当たり。男女問わず気軽に声をかけて情報を集めて行く様子は『あれ?コイツが街で情報収集する勇者なんじゃね?』とか勘違いしそうなほどスムーズだった。ちなみに快利は向こうでは鎧を着て歩いてるだけで人が寄って来て情報はすぐに集まっていたから仲間からは突っ立てるだけで良いと言われていた。


「ダメだ。確実に人目に付かないで、かつ校舎内がベスト……」


「なあ、それって風美とか秋山、えっと絵梨花先輩絡みなのか?」


「詳細は一切教えんが、そうだ。三人で密会する場所が必要なんだ」


「そんな堂々と……てかさすがに二人同時はどうかと思うぜ?」


 盛大な勘違いをされているがむしろ勘違いされていてもコイツはそれを言いふらすタイプでは無いだろうし、今コイツが言いふらす程の仲の良い友人は居ないだろう。ヴェイパールの部下と入れ替わっていた男子二人。恐らく始末されて姿だけ奪われている。そしてルリとあの朝二人で話した時に石礼野が目の前で消された事も聞いていたので旧風美軍団は今や二人だ。ちなみに昨日から新風美軍団としてなぜか俺が数えられていたりする。


「お前も知ってるだろ? 三人も失踪してるからな、ルリや姉さんを守るためには必要なんだよ」


「それが分からねえんだよなぁ……ま、俺相手じゃ詳細を話す気は無いか?」


「分かってるじゃないか、よし次、案内せい!!」


「へいへい。分かりましたよ。あっ、君たち、ちょっと良い?」


 うっわ、出たよキランとか効果音が出そうなイケメンスマイルで下級生女子に話しかけやがって、それに比べて俺は……目が合ったら何か下を見たり挙動不審になって最後は目を逸らしやがって。これが格差社会か……こうなったら逆にもう見つめてやろうかと思って見たら顔を真っ赤にして走って行ってしまった。そ、そんなに俺はキモいのか……泣きたい。


「あの反応で気付かないのか……相当だな。風美があんな事を言うはずだ……」


「え? ルリがどうしたんだ?」


「いんや、お前が鈍感過ぎるって話。それより第二社会科準備室とか良さそうだぞ」


 この日は結局良い場所見つからなかったが二日連続で男子トイレはマズイので、明日だけは確実に人が居ない場所を見つけたのでそれで手を打った。その日はエリ姉さんを迎えに行き、二人で家に着くと俺は忘れ物に気付きスーパーに走る事になった。大事な材料を買い忘れていたのと、を終わらせに行くためだ。その後はタイムセールを勝ち抜き家族みんなで夕ご飯を食べて、食後に母さんを除いた三人で話し合いその日はそれ以上何も起きなかった。起きたのは翌日だった。





 今日は由梨花も朝から講義だったので三人で家を出る。そして家を出る前から快利は即応式万能箱どこでもボックスから聖剣を取り出して神力を貯めていた。一歩家から踏み出した時に道のど真ん中にその男はいた。


「おはよう、勇者よ……久しぶりだな、ヴァッサーレイゴ、してんの――――「チャージ完了、『聖なる一撃相手は死ぬ』威力極小!!」


「――――う、ぐあああああああああ!! オノレええええ!!」


 絵梨花は構えようと半歩動き、由梨花はボケーっと前を見ていた。そして快利は、あらかじめ溜めていた聖剣の神力を解放し一振り、白い奔流がまるで光線、ビームのように放たれて目の前の四天王の筆頭だった『狂乱の執行者ヴァッサーレイゴ』は光に包まれ消滅していた。その光景を姉二人は茫然と見ている事しか出来なかった。


「か、快利……今の何だったの?」


「あぁ、物理特化で魔法魔術無効のクッソ厄介なラスボス前の敵、あの当時使えなかった最強スキル当てたらどうなるかな~って思って使ってみました♪」


「いや……その、脅威は去った……のか?」


「うん。あ、いけない!! ご近所さん家の壁吹き飛ばしちゃったな、修復魔術っと……じゃ、ルリ迎えに行くから二人とも手を繋いで~」


 その後、瑠理香の家に着くと由梨花を大学まで送り、再び瑠理香の家に戻り三人で高校まで跳んだ。そして着いた先は……。


「よしっと、ちょっと埃っぽいけど大丈夫? 二人とも」


「ああ、取り合えずお姉ちゃんとしては朝からの一連の状況をだな……」


 まだ軽く混乱している絵梨花には後で説明すると言いながら辺りを見回すと、やはりここには誰も居なかった。少し薄暗かったが下見をした時と同じで静かだった。


「その前にカイ、ここどこ?」


「ああ、ここプールの女子更衣し――「最っ低ぇ……」


 なぜか瑠理香に軽蔑の眼差しを向けられて少しゾクッとした快利だったが彼はエムなどでは無い。ではなぜか?それは一瞬だけその鋭い目つきに見惚れてしまったからで、彼女の正体を知る者からすれば快利のリアクションは当然だったりする。


「はっ!? 聞いてくれルリ、うちの高校は今、水泳部は男子だけ、つまりここには誰も来ないんだ」


「ああ、そう言えば昨年度から女子の水泳部が居なくて生徒会が困っていたな」


「でも、今はプールの授業は無いけど……去年ここで着替えたりしたんだし……」


 そんな事言われたらスク水姿を想像するのは男子の性だろう、それは勇者であった快利も変わらない。スタイル抜群な絵梨花とスレンダーながらも意外と出るとこは出ている瑠理香、想像するなと言う方が無理な話だ。


「ふぅ、堪能した。ちゃんとした場所が見つかるまではここで、行こう二人とも」


「うん? 何か怪しいけど仕方ないね男子トイレよりはマシ……なのかな?」


「ああ、贅沢は言っていられんな、現に今朝も四天王らしき敵に襲われたばかりだ」


「えっ!? 今朝って……なるほど、それで由梨花さんの顔色が悪かったんですか……でも倒したって!?」


 その事も後で話し合う事にして三人は急いで昇降口まで戻りその日を過ごした。瑠理香は放課後は仕事、絵梨花は部活、そして快利は探索、そんな事を二日連続でしていたら目立っていた快利は現在、生徒指導室に居た。


「何をしていたか正直に話しなさい!! 秋山!!」


「「「「そうだそうだ!!」」」」


 なぜか五人もの教師に囲まれていた。その内の一人が先ほどから快利を詰問していたが目の前の勇者は耳をほじってふぅ~っと息を吹きかけて耳垢を飛ばして言った。


「え? 結界なんか張ってせっせとこの部屋を外から隔絶させようとさせてる小物がいたから誘いに乗っただけだぞ?」


「なっ!? 何をわけの分からない事を……」


「あのさぁ……いい加減にしろよ? ちょっと待て、即応式万能箱どこでもボックス。あったあった、魔族大辞典……えっとお前は『ガーマタップ』え~予言や予知かぁ……あとは転移能力、ほうほう」


「わ、ワレらノコトをなぜキサマが……復活前ニモお前トハ会ったコトナド」


 魔族大辞典――――それは七年前に魔王を倒した時に戦利品として魔王城を勇者の使命として探索火事場泥棒した時に見つけたもので、この辞典と複数の指輪を使用し魔王は四天王やそれに連なる魔族を支配し、使役していたので俺がそれを回収し保管していた。この辞典が凄いのは魔王以外のほとんどの魔族の居場所や特徴がすぐに分かる事だ。


「そんで昨日それを俺の優秀なガイドが思い出して即応式万能箱どこでもボックスの中で常時監視してる訳さ……」


『お褒め頂き恐縮です勇者カイリ、これからもどうぞご活用下さい』


「ナ、ナンダトではキサマ……マサカ、マサカぁ!!」


 焦ったのか、ガーマタップは震えながら本性を現しさらに他の四人も魔族へと姿を変えている。全員が奴の部下のようだ。


「ああ、高校の奴らは何人かは隠形してるみたいだけど街中にいたお前らのお仲間は、昨日の夕飯のタイムセール帰りに全滅させといたぞ? まさかまだ気付いて無かったのか?」


「マサカ我らをワザト見逃して――――「当たり前だろ、お前ら一体一体は俺にとってはそこまでの強さじゃない。だけど向こうの世界でも感覚的にはゲーム序盤のボスクラスは有るからな、そんなのが街中に居たんじゃ危険だろ?」


 万が一にもルリやユリ姉さん辺りが偶然出会ってしまったら大変だ。そもそも魔王や四天王だけで復活などあり得ない。復活しているのなら魔王軍全部と俺は考えていた。だから高校の微かな魔力も見て見ぬ振りをしていた。


「オノレ!! ならば直接!! シンデモラウ!!」


「止めとけ……だって……」


「ぐあああああ!! 体ガアアアア!!」


 聖なる防壁何でもガードが発動するんだぞ?てか、今の俺の戦力計算出来てないのか?報連相がなってないなぁ魔王軍!!俺は王様に常に報連相をキチンとしていた。だってしないと第二王子ホモが部屋に居座ったからな。残りの周りの四体は中級以下の雑魚魔族だったからグロウ・ブレイズで燃やし尽くした。そして優々と生徒指導室を出るとそこには男性教諭が合計五人倒れていた。


「お優しい、てっきり消してると思ったら生かしていたのか……ま、見つけたんだから仕方ないか……ウワ~先生がタオレテイルゾ~!!」


 取り合えず棒読みで叫んでおいた。その後、エリ姉さんが職員室に迎えに来てくれるまで本当に監視下におかれてしまった。





 そしてその日の夕食後、母さんが居ない間に二人には改めて今朝の事や放課後の事を話していた。ちなみにルリにはスマホに連絡していたらタイミング良くRUKAさんから連絡が来て焦ったが、どうやら連絡相手を間違えたらしい。

 忙しいアイドルならではの間違えだなと俺がしみじみと言ったら何故か姉さん達から溜め息をつかれ、その後ルリから連絡が有ったので今日の出来事をまとめたメッセージを送って、あとで電話すると約束した。


「それで快利、奈之代が怪しいって……本当か?」


「う~ん、今まで黙ってたんだけど生徒会自体が真っ黒、まず生徒会の内の二人はあれ四天王だぞ? 一人はルリを襲って来たから倒したけど」


「ま、まさか奈之代がっ!?」


 そう言うエリ姉さんをユリ姉さんが落ち着かせて俺の方を見ると先を促した。普段は割とヘタレなのにこう言う時は一番上の貫録を最近出すようになったユリ姉さん。とにかく今はまだ肝心な事を言ってないからそのまま話していく。


「違う、もう一人の副会長の方、黒幕会長には魔力の反応が有るけど内部から出てる感じじゃない、でもあっちの百合賀ゆりがみことあれは真っ黒、そもそもヴェイパールと割とコンビ組んでこっちを妨害してたからな四天王の愛欲の翼ビルトリィーだな……」


「ふ~ん愛欲ね……つまり最後の四天王はエロい奴なの?」


「ま、そうらしいんだけど、実は俺はあんまり奴の事は知らないんだ」


 そう、二番目に戦った四天王・愛欲の翼ビルトリィー。大きな翼を持つハーピィの亜種で強力な魔力と奴の特性で俺と魔法使い二人は一時的に行動が不能になって、その後に能力が解けると戦士と剣士が全裸に自分の武器だけを持って奴を絶命させていた。そこで魔族大辞典を見ると能力は精神支配に幻影、そして特性が……。


「どうしたの? その辞典読めないだろうけど少し見せて……ってこれ日本語じゃない!? 読める!?」


「おぉ……これは異世界の図鑑のようなものなのだろう? 快利?」


 親友の関与で少し冷静さを欠いていたエリ姉さんも興味津々で辞典を覗き込んでいる。そして俺が困惑している部分を見つけていた。


「特性は、相手の心を読んで本質を見抜く? 動きが読まれると言う事では無いのか? こんなのに勝てるのかっ!?」


「う~ん、たぶん負けたんだよなぁ……過去の俺」


 そう言うとユリ姉さんが俺の隣に座って頭をわしゃわしゃ撫でて来た。なんか最近これが好きになったみたいだな。


「はは~ん、それで妙に慎重なのね? うりうり~」


「まあね、ユリ姉さんありがと……一応対策は考えてあるから。あとルリに今のも話さないとなぁ……」


「風美……ああ、そう言えば、お前宛ての手紙が届いてたぞ? これだが」


 そう言ってエリ姉さんは一枚の封筒を俺に渡した。宛名が無い……ま、呪いとかそう言う系じゃないみたいだし部屋に戻って開けよう。そこで母さんが戻って来て俺達は解散してそれぞれの部屋に戻った。なのですぐに封筒を開いてみた。


「これって……RUKAさん? 今週のライブチケット……えっ、これって俺が抽選漏れたので一般販売の方も学校で予約出来なかった奴じゃん……今思えば転移する前の心残りの一つだったなぁ……しかも三枚も入ってる……手紙、だ」


くんへ、突然このようなお手紙失礼します。Twilight Diva黄昏色の歌姫のRUKAです。今度会う時と言いましたが最近は忙しくてお会い出来ないので手紙で呼んじゃいました。色々とお話したい事や、また相談にも乗って欲しくて、だから私から呼んじゃおうと思ってチケットを送ってしまいました。もし良ければお友達や、ご家族の方など誘って来てくれると嬉しいです。それでは簡単ですが失礼します親愛なる私の大事なファン、秋山快利くん。

P.S.この間みたいに、もしてね!!』


「あぁ……凄い。直筆の手紙……かぁ。本当に凄い。このライブにも行きたかったし、でも三枚かぁ、なるほど、姉さんたちを誘えって言う神の采配だな!! 問題は二人が来てくれるか……ま、日曜なら姉さん達も学校無いしな。あ、ルリの分……どうしよう」


 その時、妙な気分になって手紙を見直した。チケットが実はもう一枚入ってないかな~? とか思ったのも有るけど、ただ何となく見た。そして少し驚いた後に笑ってしまった。そして再度、穴の開くほど手紙を読んでいた時にルリから通知があった。


「ルリ……ふぅ、そっか後で電話するって言ったんだ……そう、だな……する、か」


「あっ、もしもしカイ? 今日の事なんだけど……どうしたの?」


 電話をかけておきながら無言だった俺を不安に思ったのか心配そうに声をかけて来たから俺は慌てて今日の事を話そうとしたけど、上手くまとまらなくて焦った。


「ああ、いや、今朝は四天王が襲ってきて、転移先は……えっと悪い、ちょっと今嬉しい事、てか驚いた事があって頭混乱してて……」


「ふ~ん、どんな良い事があったの?」


 なんか妙に弾んだ声だけどその声を聞くだけで俺はビクビクしていた。これから言う事に何て言われるか、そして今のルリなら何となく答えも分かっていたから。


「まぁ、予期しない事があって、それに驚いたと言いますか……あの、さ。今度の日曜なんだけどさ。急用が出来ちゃって護衛が少し難しいんだ」


「…………そっか。うん、で、でも呼んだら……来てくれるんでしょ?」


「必ず、何があっても駆けつます……じゃなくて、駆けつけるから!!」


 どこか懇願するような声に俺は震えと同時にすんなり答えようとして思わず敬語が出てしまった。そんな声を出されたら敬語にもなるよ。


「なにそれ~? またパシリに戻りたいのかな~?」


「ちっ、違えよ!! ちょっと間違えただけだろ!! 大丈夫、今度は何があっても、守るから……あと、明日の朝も迎えに行くから、じゃ、じゃあ詳しくは明日」


「えっ!? ちょっと、もう少し話そ――――」


 罪悪感やら緊張感やら他にも色々な感情がごちゃごちゃになって、これ以上話すのが困難になったからここは戦略的撤退だ!!俺はそう考えるとガイド音声にスキルが反応したらすぐ起こすように、強く言うとベッドに入った。目が冴えて全然眠れなかったせいで軽い寝不足だったが、明日はおそらく四天王最後の一人との戦いだ。ボスラッシュの最後の一体。今の俺ならヌルゲーなはず……。

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