第21話「元勇者絶体絶命!?俺は悪く無いから修羅場から逃げたいんですけどダメ?」



 俺たちは結局その後もエリ姉さん対策を話したりスマホで連絡先を交換したり、ちょうどいい時間になるまでババ抜きしたりして時間を潰して結局、四時間目の前の休み時間にワームホールで男子トイレに飛んだら、ルリに怒られたから転移場所を今度から別の場所にするように言われた。ちょっと待って、ルリのやつこれからも俺を利用する気なの?


「いや、でもさ……俺、この高校の教室とか分からないから……」


「あ~、もうっ!! だって私もカイの事イジメるか家に直帰するかしかしてなかったから詳しい場所とか知らないのよ」


「はぁ……開き直ったのは良いけど本人前にしてそんな事よくも堂々と言えるな……ほんとルリさぁ……ん?」


 そんな事を話しながら廊下から教室に入ると教室がシンと静まった。どうしたんだ?教室中の視線が凄い集まっている。まさかと思って俺は机を見るが菊の花は無い。俺が注目されるのはそれくらいだったからな。


「あ、カイ、マズった……教室に別々に入るの忘れてた……」


「そうだった……お、おい、どうすんだよ、自称陽キャ!! この状況!!」


「だって、カイがいきなり男子トイレなんかに連れ込むのが悪いんでしょ! さすがに想定外だったのよ!!」


 その瞬間一気に教室がざわついた……てか、そうだよ。俺が看病してた設定で行くんじゃないか、そう思って俺が途中まで言ったら足を踏んずけられた。ルリが小声で今更言っても言い訳にしか聞こえないと耳打ちしてきたのでそれに従うしかない。そして追加でこれは教師や姉さんへの言い訳であって、クラスに二人で一緒に教室に入ったのは、どの道マズイらしい。席に着いて小声で俺たちは話を続けた。


「こうなったら魔法かスキルで――「やめなさいっ!! 取り合えず……堂々とするしか無いわ、案外どうにかなるもんよ」


「へ~、なんかルリって、すっかり逞しくなったよなぁ……」


「ふふっ、あんたがそれ言うの? 元勇者さま?」


 ニコっと笑いながら軽くイスを蹴って来るから言い返そうとしたらチャイムが鳴って教師が入ってくる。そして前を向くと俺の前の席は空いていた。そうか、あの男子生徒二人はもう……。そんな事を思いながら教室を見回すと他にも席が二つ、合計三つも教室の席は空いている。しかもこの時間までは俺とルリも居なかった。教室もこんなに欠席者が居たから、そうか、もしかしたらこう言うのも原因でざわついていたのかも知れないな。


「そんな訳ねえだろ? どう見ても風美の最後の発言だからな? 今の教室の状態がこうなの、分かってるか?」


「え? ルリの?」


 なんて俺が考察してそれをルリに話していたら弁当を持って普通に混ざった金田が全否定しやがった。現実逃避くらいさせてくれたって良いじゃないか。そしてこの流れだと金田がクラスの代表で俺らに声をかけて来たのが分かる。周囲を感知スキルで探る必要すらないくらいにクラス中が注目しているのは気配で分かる。


「わ、私の発言って何よ?」


「いや、男子トイレにいきなり連れ込まれたって……」


 あぁ……確かに言ってますねぇ……でもそれはゲートの入り口がこの校舎のの奥の使用禁止の個室に繋がっていて、そこに転移したからであって、そこの個室にルリの部屋からワームホールを使ってルリを二人で高校にコッソリと入った……あっれ~?意外と間違って無いぞ?しかも魔術関係だからこんな事は他の人には言えないぞ、あれ?詰んだ?


「お、おいルリ、これはかなりマズイ状況だぞ!! 俺は冤罪だっ!!」


「私も分かってるわよ、あ~どうしよ、何してんのよ私、どうせならもっといい場所で、これじゃどっかのお笑い芸人と変わらないじゃない!!」


「いや、今は場所とかそう言う話じゃなく――「はっ? 大事な話でしょっ!? 私はカイの部屋で……って何言わせんのよっ!! カイのヘンタイ!!」


 問答無用でビンタが右頬に入る。うん、これでめでたく両頬コンプだ。俺は悪くないのに……それにさっきまで頼もしいと思っていたルリが一気にユリ姉さん並みにポンコツ化して行くなんて、コイツもやっぱニワカ陽キャだったんだな。


「あ、あの~風美さんと秋山ってどう言う関係なの? えっと、下僕なんじゃ?」


「それに何か凄い仲良いし、昨日割と険悪だったしさ、それにもっと前は……ね?」


 そんな事をしていたらルリや陽キャグループと割と仲良くしている別グループの女子二人が俺たち二人に声をかけて来た。今度は女子代表とか言っている。さらに金田まで追い打ちをかけて来た。


「それそれ、しかも今日はカイとルリってお互いあだ名呼び、あとお前らお互いの事詳し過ぎないか? 風美なんか昨日もそうだったけどさ。どうなん?」


「いや、それは……」


「その話は私にも聞かせてもらおうかっ!! 快利っ!!」


 教室のドアを吹き飛ばさん勢いで開け放ち廊下に腕を組んで仁王立ちしていたのは予想通りエリ姉さんだった。あれは相当お怒りでいらっしゃる。


「エリ姉さん……アハハ、今度こそ詰んだな」


「ちょっと、どうすんのよカイ?」


「今朝はいきなりどこかに走り出したかと思ったら行方不明、朝から休み時間の間は学校中を探していたからな学内に居ない事は把握済みだぞ!!」


 しまったぁ……ルリと色々やってたら姉さんに余計な時間を与えてしまった。ついつい盛り上がって時間を見たら三時間目に突入してたから、このままもう一戦やってから行こうなんて言ってしまった俺の行動を過去改変したい……でも今日は制限回数で出来ないけど。


「カイと久しぶりに二人きりだったから楽しみ過ぎたぁ……」


「俺も迂闊だった。でもルリがあそこでもう一回戦なんて言うから……」


「なっ、なにっ!? 久しぶりに二人きりでお楽しみ、更にもう一回戦だと……風美とそこまで深い仲だったとは、中学時代から危険視はしていたが、まさか、ここまでとは……」


 ルリの家でババ抜きをもう一回戦したくらいで姉さんは何を驚いているんだろう。てか風美って、まさかルリの事知ってたのか姉さんって……初耳なんだけど。


「え? 姉さんってルリの事知ってたの?」


「当たり前だ、お前の中学時代の交友関係は在学中から常にリアルタイムで調べていたからなっ!! お姉ちゃんチェックはどんな隙も見逃さない!!」


 そんな宣言されてもそれはそれでちょっと……ま、エリ姉さんて何だかんだで俺の事を色々と見守ってたり、受験の時は勉強も教えてくれてたし、だからここに入学出来たからね。とか呑気に考えていたらルリの方がピクッと反応し出した。


「えっ? 私の事を知ってた……? それにカイの事調べてた? じゃあ何で、何でカイが中学の時に辛かった時に助けてあげなかったんですかっ!?」


「そっ、それは……快利には私を乗り越え強くなってもらおうと思っていたからな、あの程度のプレッシャーなら簡単に跳ね除けてもらおうと言う姉心だ。つまり将来を見越しての判断だ」(そう、私との将来のな……)


「は? そんな事のために? カイは毎日、本当に辛そうにしてたんですよ!? それなのに私の事まで気遣ってくれて放課後とか一緒に居てくれたんですよ!!」


 確かにあの時は辛かったからなぁ……ルリと仲良くなってからは割と愚痴を聞いてもらったんだよな。でも今思えばあのエリ姉さんの教育も折れない心も上手い事役に立ったしな異世界で、だからそこまでは……。


「獅子は我が子を千尋の谷に落とす。私も辛かったが全ては快利のためだった。それにこれは『家族』の話だ。他人は黙っていてもらおうかっ!! さあ、快利何をしていたか話すんだっ!?」


「ふぅ、なるほど、そりゃカイだって私と一緒に居たがるはずですよね? 知ってます? 私達が私の部屋で仲良くトランプしてた時はいつもお義姉さん達の愚痴だったんですよ~?」


「えっ!? ちょっ、ルリ!? 今その話は火に油を注ぐから――「カイは黙ってて!! 今はお義姉さんと話してるんだから!!」


 はい、と頷く事しか出来なかった。何かルリの眼力凄かったし、目力とかオーラとか凄みがあって俺の勇者装備時に近い感じだ。なんか目覚めたっ!!みたいな感じがして委縮してしまった。


「快利、今日帰ったら詳しく話そう。お姉ちゃんは寛容だ……。部屋でお説教だけで許してやろう」


「そうやって厳しくばかりするからカイが辛い思いしてたのに、姉さん達は美人だけど全然優しく無いってのが口癖だったもんね~? カイ?」


「なっ!? 本当なのか? 快利、しかし私はお前の事を思って――――「剣道の新技の実験台に、お弁当作り、それに朝も晩御飯の用意もカイがしてたんですよね? 晩御飯の買い出しは私も手伝った事あったし、他にも色々余罪ありますけど?」


 凄い、あのエリ姉さんを圧倒してる。でも一応補足すると料理以外の家事は母さんがやってくれたし、弁当箱に詰める作業は最近までは母さんがやってた。あと燕返しとかの実験台は最終的に俺の剣術の一部になったし、そこまで悪い事は……。でもルリの言い分に教室はざわざわしている。


「ふっ……確かにな。私は快利に厳し過ぎたかも知れないな。最近は少し反省すべき事もあったと思っている。私の姉とも二人でその事を話していた。だが、それをイジメの主犯に言われても響かんがな!!」


「うっ、それは……」


「理由は分からんが、高校入学時から段々酷くなりここ二ヵ月は相当だったと聞いた。私の耳になぜか快利の状態が入って来なかったが、ユリ姉ぇから快利がイジメの被害に遭っていたと聞いて密かに調べたら出て来たぞ? 色々な余罪が」


 ユリ姉さんが話しちゃったのか……、でも確かに、パシりに罵詈雑言は基本だったな、暴力沙汰だけは無かったけどクラス中からは無視か暴言だったし。あと菊の花さんIN花瓶。しかも相変わらずルリが何でこんな事したか原因は不明と……。


「確かに私は快利に厳しく当たったし、何なら少しだけ酷い指導をしたのかも知れない。だが風美瑠理香、君ほど理不尽に快利を、義弟を扱ってはいない!!」


「いや、エリ姉さんのあれって少しじゃないから、今思えば放課後は毎日、土日は一日中、木刀でぶん殴られたり数学の証明を五〇問ノーミスで終わるまでは寝るの禁止とか普通に虐待なんじゃなかろうか?」


 うん、確かにあれは異世界転移して勇者になったから助かっただけでこの世界ではまず間違いなく虐待だよね?当時は本当に毎日辛かったからな、ルリに言われて色々思い出して来たけどかなり理不尽だった気がして来た。


「扱ってるじゃないですか!! そりゃ私だってカイには酷い事言ったし、今も許してもらってませんけど、そこまで酷い事はしてないし暴力はしてません!!」


「いやいや、ルリはルリで俺の事知り尽くしてるところ有るから結構いやらしい攻めして来たからね? 俺の事ボロクソに言って酷かったからね?」(あの精神攻撃は貴族戦争を思い出すなぁ……エグさが似てた……辛かったなぁ)


 精神的にもう周りが引くくらいに言葉で攻めて来て、パシリで帰って来た時とか俺がルリを見ると、すっげえ歪な笑みと笑い声出してたからね?あれはあれで悪魔か何かかと思う位には俺のトラウマだからな?


「い、いやらしい攻め……風美!! お前わたしの義弟をいったいどんなテクで攻めたんだっ!?」


「エリ姉さ~ん? 帰って来て~!! そう言う意味じゃないから、ルリは精神的に俺を攻めて来ただけで――――「言葉攻めか? そうなのか!? お前そう言うのが好きだったのかっ!?」


「だ、だって、ケーキとか買って戻って来た時の必死な顔のカイって、必ず私の顔を見てくれたし、それが私の癒しって言うかぁ――――「お前の癒しのために駅前まで走らされてた俺の気持ち考えた事有りますか!?」


 えぇ……こっちは必死の形相でもう止めてくれって見てただけなのに、そんな事を思っていたら金田が肩を叩いて「ほんとスマン」って謝った。どうしてだろう許せないけど救われた気分だった。


「とにかく、俺は被害者だから!! それとさっきからクラス中騒いでるけど一応は全員がルリの共犯だからな!? イジメカッコ悪いからっ!!」


「それ言われるとアレなんだが、今のお前は美人な姉とクラスのアイドルとか言う我が校の二大美女に同時に迫られてるようなもんだからな?」


「俺にとっては暴力的だった姉となぜかイジメをしてくる元親友だぞ? いくら二人が美人でもご遠慮願いたい。それにアイドルなら俺にはRUKAさんが……」


 そう言った瞬間言い合いをしていた二人が急に静かになった。え?俺また何か言っちゃいました?そして口を開いたのはルリだった。


「あのっさぁ……カイ、アイドルなんてしょせんは偶像なんだよ? どうせ正体ロクでも無い奴よ!! それよりも近くに目を向けた方がいいと思う」


「それには同意だ。アイドルなど――――「二人揃って何なんだよ……俺のRUKAさんを悪く言うんじゃねえ!! この可愛さと美しさは本物だっ!!」


 そう言って俺はこの間からスマホの待ち受けにしているRUKAさんの写真を出す。これはこの間のシークレットライブでトークコーナーで話している時に撮った動画をスクショしたものだ。ちょうど”俺に”ウインクしたところだ(勝手に思っている)。

 ちなみに普通に撮影してはバレるのでスマホには光魔法で光学迷彩を施し部分的結界魔法で音を防ぎながら、浮遊魔法を使い空中で撮影させていた。だって俺、コーレスと踊るので忙しかったし。


「カイ……あんた、いつの間に、そもそも撮影禁止じゃ……それにこのアングルどう見ても三六〇度、どうやって撮影したのよ」


「ああ、撮影禁止なのは分かっていたけど……RUKAさんの映像を残さなくてはいけない使命感に駆られてな、スマホのバッテリーが無くなるまで動画を撮影したんだ。そしてその動画からこの待ち受けを作ったんだ……。あぁ、やっぱり可愛い、さすが俺のRUKAさん天使過ぎる。これは絶対に俺にウインクしてくれたに違いない。美しい……ってどうしたんだ? ルリ?」


「ま、実際そうなんだけどさ。それを直で言われると……ゴニョゴニョ」


 どうしてルリが照れているのだろうか?最後の方は何かをゴニョゴニョ言ってるようだったけど、何が実際なのかも分からない。そう言えば中学の時もこんな事が割とあったな……。


「快利見せるんだ……くっ、やはりお前の外付けHDD3TBを占領してる女じゃないかっ!? そうかコイツがRUKAか……ん? この女……」


「エリ姉さん、あれにはパスワードが掛かって……何でも無い、あと今度から勝手に人のPCの履歴や隠しフォルダを含めて見ないで下さい」


 そうだった。大人の本やDVDとBDは見つかったけどPC内は安全圏だと勝手に勘違いしていたけど、家に安全な場所なんて無かったんだ。あのエリ姉さんから逃れられる訳なんて無かったんだ……即応式万能箱どこでもボックスの中に隠しておこう。それが一番だな。


「カイ、そんな3TBも何を……動画は全部BDとか買ってるんでしょ?」


「ああ、お小遣いとお年玉は全部お布施してるからな。家のパソコンの画像はファンや有志、更には裏サイトなどで俺がデビューから二年間で集めたものがメイン。地下アイドル時代が二ヵ月だけ有ってさ、その時はまだ撮影会もあったから。その時代の画像も俺がサイトにアップしていたものさ。あの頃は良かった。よく年齢を偽って夜に青少年育成条例に引っかからないようにビクビクして通ったものさ……」


「たまに土日の夜に我が家の夕ご飯が作り置きになっていた理由が今判明した……お姉ちゃんは色んな意味で驚いたぞ」


 そう話していたら金田も気になったのか横から待ち受けを見て来た。話すとどうやら歌番組などで一年前から活躍するようになったので、それで知ったらしい。なんだニワカか……フッと笑うと渋い顔をされた。


「ま、俺ら古参は三人を見たらすぐ分かる……それぞれの推し、俺ならRUKAさんを見たら一発だぜ!! 現にこの間、偶然お会いした時は完全にオフの恰好なのに分かったからなっ!!」


「ふ~ん……一目見て一発、ねえ? へ~」


 何でだろう、絶対零度の視線を浴びたのは例のパンツ騒動以来だ。しかも現在関係修復中の元親友からだ。俺は悪く無いのに……。一体どうすれば良いんだ、このままじゃシスコン二股野郎扱いになってしまう。え?妥当?いやいや俺は被害者ですからね?だが俺の窮地を救ったのは二人の美少女でも金田でも、ましてや第三者でも無く等しく皆の味方の時間だった。そう、昼休みが終わったのだ。


「あ、お昼食べ損ねた……」


 ちなみに五時間目が終わると俺とルリは猛烈な勢いで弁当を食べる羽目になった。二人で一心不乱に弁当を食べる光景は他人からは二人揃って早食いに慣れているようだったと言われた。そりゃ俺は戦場でゆっくり飯を食うなんて無かったけどルリもこんな早食い出来るなんて思わなかった。ルリの謎がまた一つ増えた瞬間だった。

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