第12話 バカは世界のために動く
漸く。
漸く完治させることが出来た!
「スッゲーな。マジで感謝感激雨霰だ!!」
【卯木乃羽 巧】さん。
何の事故かまでは聞いていないから知らないけど、その事故が原因で手足を失ってしまった人。
仁さんの従兄弟で、この人を助けようとした時に、仁さんたち『卯木乃羽家』と今の関係が始まった。
俺は誰かを、皆を助けるために力を使う。
そして、卯木乃羽家の皆が、特に当主である仁さんが率先してその他の事を負担する。
そんな関係が正式にスタートして半年。
今思えば、スタートの切っ掛けとなったのは巧さん。そんな巧さんも無事に今日で治療完了。何だかんだで結構な時間が必要だったな~。
ここ半年。
巧さん以外にも色んな人と関わってきた。
困っていたはずの人が、困り事がなくなって幸せそうにしているのはとても嬉しい。
そんな中でも葵さんと春くんの二人の事は本当に、本当に嬉しくて、言葉に出来ないくらいだ。
二人は幸せそうに普通に暮らしながらも、仁さんと同じく俺に協力してくれている。
戸籍上は性別が反対なんだけど無事に結婚もできて、なんと現在妊娠中だと言う事をついこの前に聞いたときは手を叩いて喜んだ。
そんな二人と仁さん。それに奥様や榊さんや遠野さん、花斗夏さん。時々お爺さん。卯木乃羽家総出の協力で色んな人を助けてこれた。
身体が不自由な人。
治療が見込めない病の人。
現代の科学的な力では解決できない悩みを抱える人。
1つ区切りが出来たように感じた今。
これまでの事を懐かしいように感じていると肩を叩かれ、我に返る。
嬉しそうに微笑む仁さんがそこにいて、従兄弟である巧さんの完治に喜んでいる?だよね?
何よりです!
「そろそろ帰りますよ。」
「はい!」
感謝感激雨霰と騒いでいる巧さんの状態は正直目を向けられないから、仁さんの後を素早く付いていく。視線から外したいし、何より俺がここにいればそれだけ、巧さんに辛い時間を与えることになってしまう。
ベッドにくくりつけられた状態で目隠し、更に耳栓。感覚で最後に治療された腕が元通りになった事がわかって騒いでいるけれど、音がなければガタガタと必死にベッドで身をよじり、大口を開けている姿は、まるで助けを求めている様に見える。
全部俺の正体を隠すためのもので、大変申し訳なく思っています。
仁さんの従兄弟であるし、悪い人ではない。らしい。だけど、仁さんとしては僕の事を知らせないそうで、俺に不都合があるわけではないので頷いたのが葵さんの一件から数日後だった。
だから、初めての治療のときと同じ様に毎回巧さんを縛り付け、眼を隠し、耳栓をした上で治療をすることになった。
巧さんは仁さんから聞き出せば良いはずだけれど、それはしていないみたいだ。毎回縛り付ける役をしている榊さんの話では「義理には義理を」とか、「恩義に少しでも報いる」とか、話しているらしい。
仁さんも協力しているだけだから俺の正体は知らないと話しているらしい。
そんなこんなで巧さんとの接点は今回で無事無くなる。
今後の巧さんは、事故が起きる前の元気な姿で生活していくと思うと嬉しく、頬が緩む。
ところで、そろそろバカな俺でも気が付いた疑問点を聞いても良いだろうか?
「仁さん。何故他の人たちの時みたいに俺が変装するんじゃなくて、巧さんを縛り付けるんですか?」
「ん?・・・・・・反省のため。ですねかね?」
答える前の間と、疑問系なのが気になる点ではある。それに何について反省させているのかもわからないけど、そっとしておこう。
仁さんはいつもと変わらず微笑んでいる。柔らかくて、優しいはずのそれが、今は・・・・・なんでだろう?黒く、恐ろしいものに見えてしまう!
「反省のためですよ?」
「わ、わかりました!」
そっとしておこう!
◇◆◇◆◇◆◇◆
取り敢えず帰宅。
最早帰り慣れ、居心地も最良の卯木乃羽家。
葵さんの一件が終われば俺は用済みだろうと思っていて、「このお屋敷ともさよならか~」なんて、寂しく思っていたのだけど、あれよあれよと言う間に個々が我が家へと変わっていった。
特に誰かに「ここに住め」とは言われなかったけど、誰も彼もが俺がこの屋敷に住んでいるのは当たり前だと言う感じで、俺から「出ていくべき?」と聞くのは勇気が足りませんでした。
ヒーローとして『勇気が足りない』とか、どうなんだ?
とは、思うものの、やっぱり優しくて、良い人たちから離れるのは辛いことで、それを自分から切り出すのは・・・・・って感じで、今までのズルズル。
今となっては卯木乃羽家の皆さんが俺のヒーロー活動を助けてくれているので、今さら「出ていけと」と言われても困る状態になってしまった。
「さて、今日は「頼もう~~~~~~~~!!!!!」・・・・・はぁ~。厄介事。ですね。」
頭を抱えてしまった仁さんを首をかしげながら見る。『説明して』の感情を込めて見詰めれば、普通に俺の感情を読み取ってくれて、話し始めてくれる。
「昔馴染みの『バカ』がやって来たようです。」
バカ?バカ・・・・・・呼ばれた?
「ジ~~ン!!!」
「はいはいはい。っと」
何と普段の丁寧な口調や、柔らかい雰囲気までが崩れている。ありありと『仕方ない』感じを全てで表現しながら立ち上がり、居間から出ていく。
「あぁ。善吉くんはここで待っててください。すぐに戻ります。」
ひょっこりと上半身だけ襖の影から戻ってきた仁さんに声をかけられ、持ち上げかけた腰をもう一度下ろす。
「了解です」
なんだか行動が少し若くなっている気が・・・・・渋々って感じではあったけど、あれは照れ隠しで、本当は『友達が来た!』的な感じで嬉しいんじゃないだろうか?
そんな疑問も遠くから徐々に近付いてくる声に消えた。
『和気あいあい』。
その表現が良く合う雰囲気を2つの声から感じる。
大きくなってくる声に少し緊張をしながら待つ。色んな人と出逢って、色んな人と繋がりが持てたけど、未だに初対面の場は緊張する。
「全く!1人で何楽しそうなことしてるかな!?君は!」
「別に隠していた訳でも楽しんでいる訳でもありません。と、何度言えば良いんですか。」
やたらハイテンションな人の声。女の人っぽい。
女の人の声は、仁さんに対して文句を言っていて、それを嗜める仁さんの声には呆れた感じが強く出ている。
仲の良い二人組の会話を聞いて、何故だろう?緊張が増した。
「噂の人、発見!!」
ズビシ!っなんて音が聞こえてきそうな感じで指を指し、仁王立ち。
女性にしては背が高く、目鼻立ちがハッキリした美人さん。表情からは元気があり余っているのが伝わってきる。
腰にも届きそうな長く、黒い艶のある髪の毛を揺らして、スルリ、フワリと俺の側にやって来て、腰を下ろした。
急激な接近で、しかも距離がやたらと近い!
驚きと戸惑いから、少しでも離れるべく体を反対側に傾ける。
「やあ、やあ、初めましてだね!私は【
何処へ!?
「少しは落ち着きを身に付けたんじゃなかったのですか?全くもって変わってないように見受けられますが?」
「十二分に、いや、二十分に落ち着きを身に付けたとも!ジンには分からないのかい?やれやれ、困ったものだ。歳はとりたくはないものだね!」
良く動く口。
あまりおしゃべりが得意ではない俺にはちょっと刺激が・・・・・・。
「ほぉ。そんな冗談を言うのはこの口ですかねぇ?」
ムギュっと捕まれた口をタコのようにすぼめて呻く黒塚さん。
そのやり取りは本当に気さくで、遠慮のないもの。
少し、羨ましく思う。
俺にも友達と言える人は居た。
今はもう何の連絡もとっていない。
携帯電話を持つことが経済的に無理だと判断した時に、一通り連絡はしたけれど、返事が返ってきたのは2人だけ。
その内容も「了解」と言うそっけないものだった。
学生時代からバカとして有名で、そんな俺と仲良くしようと言う人は居なかった。
クラスメイトとしての最低限の付き合いしかなくて、連絡先を交換したのも事務的な感じだったのを覚えている。
「ついでに聞いとくよ」的な感じで。
1人勝手に気落ちする俺には気が付かない2人。残念に思いながらもホッと胸を撫で下ろして、何時も通りを意識して心を落ち着かせていく。
「はぁ。まぁ、いいでしょう。奏。さっさと要件を済ませましょう。貴方も私も、そして善吉くんもあまり『暇』とは言い難いですし。」
「おぉ!そうそう!そうだよ!善ちゃん!!」
ぜ、善ちゃん??
「なぁなぁ、聞いとくれ。私は薬を研究しているんだけどね?中々大変なのだよ。予算が~とか、配合が~とか、安定しない~とか、上手く行った!っと思ったら副作用が矢鱈強くて使い物にならなかったりとかさ!でねでね、今研究中の薬がさぁ――――――――――――」
そこから続く怒涛の説明。
全くもってちんぷんかんぷん。
内容が専門的すぎるし、何よりも出てくる単語の意味すらもわからない。
おバカにも優しい説明をお願いしたい!
「ちょっと待ちなさい。その話は関係ないだろう。どうして自分の職業の紹介からそんな専門的な話になるんですか。そんな話貴方と同じ様な専門家しかわからないでしょうが。本題に入りなさい。本題に。」
何時もよりも口数の多い仁さん。どこかウキウキして見える普段とは違う仁さんに違和感を感じつつも、こちらまで何故かウキウキ・・・。
「失敬失敬!では本題!
ズバリ!善ちゃんには貴方の力を使って完璧な薬を作ってほしいんだ!」
・・・?
完璧な薬?
と言うか、仁さん。俺の力の事をこの人は知ってて良いのでしょうか?
「はしょりすぎです。
はぁ。もういいです。私から話します。
まず、善吉くん。先に謝ります。申し訳ありません。
もう既にわかってはいると思いますが、彼女には君の特別な力を教えてあります。
善吉くんに断り無く教えてしまいましたが、私の判断で必要だと思い、先走りました。すみません。」
いや別に良いかな?
仁さんの事は今までの付き合いから『信用できる』と思っている。
頭が悪い俺の『信用できる 』ほど信用できないものはないけれど、仁さんは色々と助けてくれたし、悪い人でもない。むしろ好い人だと思う。
だから例え騙されていたとしても恨むことはない。
だって、現実に助けることが出来た人たちが沢山いたから。
だから、信用できる。
「教えた訳ですから当然彼女には口外禁止を言い含めてありますし、悪事に荷担するような事もさせないよう言及してあります。
尤も、彼女が悪事をするのは少々想像できないので、そのあたりは大丈夫だと思っています。
だから、奏。ブーブー豚の真似をしてないで、もう一度約束してください。『絶対に口外しない』。いいですね?」
「わかってる!絶対に、ぜ~ったいに誰にも言いません! だから、薬を!!!」
「はいはい。
それで、ですね善吉くん。
彼女はこの世界から『病で苦しむ人がいなくなる』のを目的として現在の職に就いています。
ですが、現在の科学をもってしてもそれは難しい。いえ、ハッキリ言うと不可能です。
そこで、善吉くんならば作れるかもしれないと思い、この場を作りました。勿論私の独断ですが、色々と考えた末の事です。
『世界から病で苦しむ人を無くす』。
ヒーローである善吉くんにとっても嬉しい話じゃないでしょうか?」
確かにその通り。
世界から病気で苦しむ人を無くす。
それは凄くヒーローっぽい!
「はい!凄く良いと思います!
でも・・・・俺はどんな薬を作れば?」
「それは奏から――――」
あれ?
珍しく閃いたよ!
昔ゲームが出来ていた時の記憶。
記憶力の無い俺にとってはこれは奇跡!神様も応援してくれている?その結果かな?
【エリクサー】
最高の薬で、キャラクターを完全に回復するアイテム。どんな状態異常だって治してしまう伝説の薬。
それが欲しい!!!
「はいはい!どんな薬かってのは――――!?」
「えぇ!?」
何故に!?
『欲しい』と望んだ。
望んだときに掴むように動かした右手。
そこにほんのりと光が現れて、手には何かツルツルとした触感が――――。
「び、ビン?」
「ビックリした~。」
「ぜ、善吉くん?一体何を・・・」
わ、わかりません!!
見た目はただの試験管。コルク?で栓をされた青黒い液体入りの試験管。
正直見た目は気持ち悪い。
これを飲もうと言う気は起きない、かな~。
だけど、これはきっと―――――。
「【エリクサー】。だと、思います。」
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