第10話 バカはバカなりに頑張る②
終わってみれば結果は呆気ないほどに成功。安心したのもあって、その場にヘタリ込んでしまって、一歩も動けない状況になってしまった。
大変ご迷惑をお掛けしました。
皆笑って許してくれて、榊さんと遠野さんボディーガードコンビ。そして、花斗夏さんにの3人が介抱してくれた。
そんなこんながあった場で、俺の状態に目を向ける余裕が無かった人が2名。
実験が成功したと言うことは、当然ながら本番がある。その本番に挑むのは話の流れから卯木乃羽さんの娘さんの葵さんと言うことは、バカな俺でも予想できる。
皆さんに介抱されながら見えた葵さんは、緊張感を持った顔をしていて、纏っていた空気が固い感じを受けた。
でも、それと同時に込み上げてくる嬉しさを我慢している様な感じもして、頬を赤くしながら
そんな葵さんは、これから迎える本番に向けての準備中。特に準備する『物』は無いはずなので、たぶん心の準備的な感じだと思う。
そしてもう一人。
卯木乃羽さんのお父さんであり、葵さんのお祖父さん。お祖父さんなのに「ワシの子」と言う変わった人。
【
この人が大問題を起こした。いや、別に俺的には問題ないのだけど・・・・・。卯木乃羽さんは激怒してしまった。
あの穏和で家族以外には丁寧な口調が崩れなかった人が声を荒げる様は、端から見ていてもとてつもなく怖かった。
実際にお祖父さんがやってしまったのはお願いだけ。実行してしまったのはそのお願いをされた俺。
卯木乃羽さんが言うには、卯木乃羽さんは娘である葵さんが本番を前に緊張しているのを確認。この本番はとても重要なことだからと葵さんの事が気掛かりになり、普段ならば注意するような事も出来ていなかったらしい。
仕事上の失敗もあって「珍しい」と榊さんと遠野さんが驚いて言葉を漏らしていた。
そんな卯木乃羽さんは俺に対しては頭を下げ、謝罪する姿に申し訳ない想いがいっぱいで、俺も一緒になって頭を下げた。
あまり深く考える事が出来ずに、お祖父さんからのお願いである『若返り』をやってしまった。
もちろんお祖父さんがお願いしたことも卯木乃羽さん的には悪かったのだろうけど、実際に実行してしまった俺に責任があると思う。
でも、卯木乃羽さんが言うにはお祖父さんは「口先ではどう足掻いても勝てない人」であり、お願いを口にした事であの手この手で「誰もが最終的には願いを叶えてしまう」様に言いくるめるそうだ。
だから全面的に「このクソジジイが悪い」と断言していた。
そんな事があった実験の翌日から更に1週間が過ぎた。
その間はお屋敷のプライベートゾーンでだらだらと過ごしていた。
ヒーロー活動をやりたかったけど、準備が整うまではダメだと許されず、『これからは忙しくなる』と口を揃えて言われてしまい、『今のうちに休むように』これまた口を揃えて言われてしまったので、俺とは違って頭のいい人たちの言うことだからと、言われた通りにだらだらと過ごした。
久しぶりにテレビを見て、パソコンで遊んで、遠野さんとテレビゲームしたりもした。
本当に久しぶりに遊んでいたので、1週間と言う時間はあっと言う間に過ぎていった。
そして、葵さんの準備が整ったことを知らされ、案内された先はいつも卯木乃羽さんたちとご飯を食べたり、話したりする部屋。居間?かな?たぶん。
そこでは卯木乃羽さんと奥様。榊さんに俺の傍にいつもいる遠野さん。俺のお世話もしてくれる花斗夏さん。
そして、葵さん。
と、もう一人女の子?
お祖父さんは居なかった。
どうやら「元に戻す」と言う卯木乃羽さんをのらりくらりと避けてとうとう帰ってしまったらしい。
まぁ、それは良いとして、もう一人は初めて見る人だ。
「善吉くん。来てくれて有難うございます。
先ずは紹介しておきます、こちらは新しく家族となった【
「よろしくお願いします。」
「あ、えっと。はい、よろしくお願いします。」
慌てて頭を下げて返事を返す。
新しい家族?
どう言うことだろうか??
「さて、今まで詳しい事情をお話しすることなく居たこと。私たち卯木乃羽家一堂謝罪いたします。申し訳ありませんでした。」
皆さん息ピッタリの綺麗なお辞儀に感心もするけれど、それ以上に居心地の方が悪くなる。
俺なんかよりも色々と凄い人たちで、それに加えて優しい人たち。
そんな人たちから頭を下げられるなんて初めての経験で、そわそわする。そして、いきなり頭を下げた一同に「えっ?」ってな感じで俺と同じ様にそわそわしているのが春野さん。同士を見付けたようでホッとする。
「善吉くんにお願いしたいのは・・・・流石にもうわかっているとは思いますが、葵の性別を変えて欲しいのです。
そして、もう1つ。
この春野の性別も変えて欲しいと思っています。」
え?二人とも??
葵さんはまぁ、わかってました。
そこに加えて春野さんも?どう言うことでしょう?
「葵は・・・・実は男の子でして・・・・・ですが、産まれてきた性別と、心の性別が一致していません。
『性同一性障害』。と言います。」
「・・・・・・えぅ?お、男の子!?」
マジですか!?
いや、どう見ても女の子、女の人ですよ!?
もう一回見てみます。
・・・・・・・・・・・・やっぱ女の人ですよ?とても綺麗で男らしさなんて皆無なんですけど??
「そして、同じ様にこの春野も『性同一性障害』で、身体的な性別は女性ですが、心は男性の子です。」
うん。
春野さんが女の人なのは見ればわかる。それに、心は男の子と言われても別に違和感はない。だって格好がもうそんな感じで「あ、そうなんですね」って感じで納得できる。
女性にしては珍しく男の子みたいな短髪で、服装も男の子らしい服装。ボーイッシュ?と言えば良いんだっけ?
顔付きも何処と無く男っぽい感じ。ただしやっぱり女の人っぽさもあって中性的?な感じ。でもやっぱ女の人ですよ。大変可愛らしいと思う。特に例え隠そうとしても隠せないだろうオムネが凄い。
「えーっと。わかりました。・・・・取り敢えず一人ずつで、どちらが先でしょう?」
「あ、俺が先で頼むわ」
軽く手を挙げながら声を上げたのは春野さん。少し低めではあるけれど可愛らしい声と男っぽさはあるけれど可愛らしい姿からはちょっと想像しづらい口調だった。
「春野。大丈夫?どんな感じかわかってないでしょ?」
「そうだけど、やっぱこう言う緊張した場面は男が先に行かね~とさ。」
何気無く言う姿は格好いいけど・・・・・可愛い。可愛らしい声だから余計にそう思うのかもしれないけどさ。
先ずは今はまだ男じゃないよね?って言うツッコミは失礼だよね。体は女の子でも心は男の子なんだし。
「了解です。そしたら、こっちに来て下さい。俺の両手に軽くでいいので触れていてください。」
片手でも問題なく出来るけれど、対象が大きい場合は両手の方が早く出来る。つい数日前にわかったことだ。
協力してくれたり、助言してくれた遠野さんに感謝です。
一応確認のために卯木乃羽さんにアイコンタクト。黙って頷くのに俺も頷き返して意思確認オッケー。
なんかちょっと今のカッコいい!
「じゃあ、始めます。」
「スゥー。ハァー。・・・・よろしく。」
大きく息をして、頷く春野さんにも頷き返してから【変幻自在】を使う。
イメージはやっぱり願う形で、『春野さんの体を男性に変えたい』だ。
俺が軽く前に差し出していた手、その上に軽く触れる様に置いていた春野さんの手が光始め、その光はゆっくりと腕、肩、胸、首、頭、腹、足と広がっていって、最後には頭の先から足先まで体全体が光る。
そこからは光で何も見えない。
眩しい訳ではなくて、白く塗りつぶされたような感じで全く春野さんの体を見ることが出来ない。
特に不安がある訳じゃないから別に見えなくていいんだけれど。
少しずつ光が薄くなっていって、春野さん、いや、春野くんの姿が見え始めた。
当然ながら変わっていない服装と同じく変わらなかった背丈が始めにわかる。これは一男さんを若くしてしまった時の光景と変わらないものだった。
そうして全体がはっきりと見えるようになった姿はやや中性的な感じはするけれど、さっきまでとは違って間違いなく男性だった。どことは言わない。
「おーーー!!すっげぇ!?あのデカイ脂肪の塊だった胸が!無くなった!!!」
俺はなにも言ってませんからね!?
え?なにその仕草?何か揉もうとしてませんか?何かは言わないけれど!
「ほ、本当に変わった・・・・。」
「いやはや。わかってはいました、が・・・実際に目の当たりにすると驚きを隠せませんね。」
卯木乃羽さん親子が感想?を言っている傍で奥様はそれはそれは嬉しそうに笑っていて、さらにその傍で控えるように立っていたボディーガードコンビの遠野さんと榊さん。そして、使用人の花斗夏さんはたぶん驚いている顔で春野くんをじっと見つめている。
卯木乃羽さんファミリーもそうだけど、ここの人たちってあまり表情を崩さないんだよね。どうでもいい感じの事はすぐに表情に出すけど・・・。
ただ、一緒に過ごさせてもらっている内に少しだけど感情が分かるようになってきた。間違うこともまだ多いから、まだまだ付き合いが足りないとは思うけど、きっとこれからも一緒に居れると思っている。勝手ながら・・・・だけど。
「じゃあ、次は葵さんですね。」
未だに胸の少し前の空間でお手々を動かしながら喜んでいる春野くんはさておいて。
いよいよ一番最初に俺が解決しようとしていた困り事。葵さんの性別変換を行い、卯木乃羽さん一家をハッピーにしたいと思います!
「よ、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。」
よろしくお願いしますね。
俺にしてみれば大した苦労とは言えない労力だけど、その結果は凄いことだと言うことはわかる。実感はないけど・・・・。
これからやる俺にとって大した事のない苦労がもたらすモノは葵さんにとっては人生を左右する程の一大事。
バカにだってそれくらいわかる。
だから。
大した事のないことでも春野さんの時と同じ様に精一杯頑張る。
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