第8話 バカはバカでも使える馬鹿③
ん、ん~。・・・・・起きた。
朝だよぉ~。
・・・・・・・は?
「おはよぉ。」
「・・・・・おはようございます。
えっと、何故部屋にいるんですか?遠野さんは。」
「警護だから。」
「・・・・・・・・すみませんが、明日からは俺が起きるまで外で待っているか、部屋に入る前に起こしてください。お願いします。」
「警護なのに?」
・・・・・・?
「警護なのに・・・・。」
警護って言い訳に使う言葉だったっけ?
そもそもこの人、自分の性別わかってる?
「仕方ない。・・・・仁さんが呼んどる。たぶん朝ごはんもそんとき一緒に食べるやろうから、身支度できたら行こ。」
「わかりました。」
ん?何だろうか?しかめ面で何か言いたげ?
「・・・・あんなぁ、善吉さま。ウチがこんだけ砕けて喋ってんのに、善吉さまが敬語って可笑しゅうない?」
「え~っと、半分クセ?みたいなものなんですよね。」
「ん~。ほなしゃぁない、のかな?んでも喋れるんやったら喋ってな?」
正直出来るかどうか・・・・あまり自信はないな。
「ほな、行こかぁ。」
先ずはトイレや歯磨き、顔を洗う為に案内してもらう。忘れずにマイ歯ブラシを持って・・・・準備完了。
着替えた方がいいのか?わからずに遠野さんに訊く。ちょっと甚平を脱ぎたくない自分がいる。着心地最高!
今の現在地は、屋敷の奥の方らしく、この辺りはプライベートゾーンになっている。
屋敷に訪ねてくる来客者とそのまま会うのはダメらしいが、そもそも来客者はここまでは入ってこない。そして、俺は基本的にこのプライベートゾーンからは出ない方がいいらしい。つまり、そのままでもオッケー。らしい。
そんな訳でそのままの甚平姿で朝食の場へ。
そこには卯木乃羽さん。だけではなく柔らかく優しく微笑む女性と、何だかイライラ?しているのか、落ち着きがなさそうな若い女の子。その3人が待っていた。
卯木乃羽さん以外の人が居るって、全然予想してなかった。
予想してなかったから、ちょっと躊躇ったらその隙に遠野さんはペコリと軽く頭を下げ、あっと言う間に離れて行ってしまった。
「おはようございます。」
「ん?あぁ。おはようございます。善吉くん。よく眠れましたか?」
読んでいた新聞から顔を上げ、挨拶を返してくれる卯木乃羽さんに返事を返す。
「はい。お陰様で。」
ちょっとしたトラブルはあったけど・・・・。
「「おはようございます。」」
二人揃って挨拶をしてくれ、その二人にも挨拶を返す。
「さて、二人と善吉くんは、初めまして、になりますね。
こっちは、私の妻の【
卯木乃羽さんが右手を差し向けた先には、微笑んでいる女の人。
奥さんも凄く若く見えるのに、雰囲気は凄く落ち着いている。大人の
ピシリと着物を着こなしていて、たぶん結構な長さになる髪の毛を後ろで纏め、えっと、かんざし?だったけ?それで髪の毛を止めている。
丸見えのうなじから今まで感じた事のない程の色気を感じてしまい、慌てて視線を動かす。
すごく不思議なんだけど、この夫婦はいったいおいくつなんでしょう?
「そして、こっちが娘の【
逆の手を差し向けた先には、イライラしてそうなラフな格好をした女の子。何を朝からそんなにイライラしているのか・・・・勘違いかもしれないけど。
落ち着きのない様子で、卯木乃羽さん夫婦の雰囲気は微塵も感じない。けど、お母様とお父様の美人美形を確りと受け継いでいるその容姿は当然ながら美人であり、何処と無く可愛らしさもあって、怖いくらいに綺麗な人である・・・・・。って、
「娘!?」
いや、本当にこの夫婦いくつなの!?娘さんどんなに若く見ても高校生にはなってるよね!?
「葵は今年から大学生なんです。年もそれほど離れていませんから、仲良くしてあげてください。」
今年から、大学生!?
今は3月・・・・ってことは18歳!?
いや、本当に訊きたい、卯木乃羽さん夫婦はおいくつ!?
「さて、食事も冷めてしまいますし、話は後にして、いただきましょう。」
ウズウズする。
すごく年齢を訊きたい・・・。どう見ても20代中盤か後半くらい・・・・・どんなに老けて見ようとしても30歳くらい・・・・。
でも、娘さんの年齢を考えると・・・・若くても30代後半にはなっているはず・・・・。よ、妖怪なのかな?
ウズウズとしながらも、お箸は確りと動いていて、とっても美味しい。
気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!気になる。美味しい!
気が付けはお皿は空で、結構な大盛りに思ったご飯も一粒残すことなく食べ終わっていた。
口はまだまだ食べたい。もっと美味しいものを!っと望んではいるけれど、お腹が限界。
少し躊躇いながら箸を置いてお茶を一口。
あぁ、美味しい・・・・・・。
「さて、少し話をしましょうか。
真姫那、葵、君達にも・・・いや、私たち家族に関係する話です。一緒に聞いていってください。」
『話をする』と言った卯木乃羽さん・・・・って全員【卯木乃羽】さんなのか・・・・。
名前で呼ばないとダメかな?
あ、でも、真姫那さんは『奥さん』。葵さんは『娘さん』でもいいのかも?
まぁ、それは後で考えればいいか・・・・・覚えててくださいね?俺の頭さん。
卯木乃羽さんの言葉に立ち上がろうとした奥さんと娘さん二人はもう一度座り直した。奥さんは不思議そうに、娘さんは明らかに渋々といった様子で、嫌がっているのがわかる感じで。
「先に言っておくと、善吉くんが私たち家族が悩んでいた事を解決出来る力を持っています。」
「「?」」
『力』とは【変幻自在】を含む俺が持ってる『チート』の事だと思う。俺はバカなり何となく察することが出来たけど、奥さんと娘さん、二人は不思議そうに首をかしげている。
娘さんは不機嫌もプラスされているけど。
「真姫那、私は葵の判断、決定に任せようと思っている。・・・君はどうだろう。葵に任せる事が出来るかい?」
「・・・・そう、ですね。
今までいくら話し合っても、いくら調べても、手術をするしか解決出来ないと、わかりました。
ですが、本当にそれで解決できるのか・・・。手術をしたところで『不完全』でしょう?「ママ!!」・・・葵。貴女は私が産んだ子です。お腹を痛め、産んだ子です。
貴女には、どうしても。どうしても、幸せになってほしい。・・・でもね、葵。手術をしたところで、本当に変わる事は無いのですよ?それで、本当に幸せになれますか?幸せになってくれますか?」
「そんなの・・・・わかんないよ。でも、今のままじゃ・・・・」
「・・・・。仁。狡い言い方でしょうけど、私はこの子が変わる事に賛成も反対も出来ません。賛成に対する反論も、反対に対する反論も、どちらも私の正直な気持ちです。この子を大切に思う、気持ちです。
ですから、判断は仁、貴方と葵に任せます。」
「そうですか。」
悲し気に微笑む奥様と困った様に微笑む卯木乃羽さん。娘さんは涙をいっぱいに溜め、溢さない為だろう。唇を必死に噛んでいる。
・・・・・ねぇ?俺、居ていいの?
落ち着かない・・・・。すごく居心地が悪い・・・・思わず場の雰囲気で正座してしまった足が、痺れてきたのも落ち着かない理由の1つだけど・・・・。
あの、俺、離れた方が・・・?
「さて、本題はここからです。」
勇気を出して動こうとした俺を、卯木乃羽さんが変に明るめの声音で声を出し、俺へと視線を向けてくる。
「仁。もしかして善吉さんはお医者様なんですか?」
いやいやいやいやいやいや。絶対違います。
見ればわかりますよ?顔を見れば。ほら?バカそうでしょ?そんな人がお医者様な訳ないじゃないですかぁ~。実際バカですし。
「『医者』とは別次元の人だよ。」
え?何それ?誰の話?俺の話してなかったっけ?
急にスゴい人の話を始めたね?
どう言うことですか?
「どう言うこと?」
おぉ。娘さんとシンクロ。
そんだよね?そう思うよね?
「まぁ、百聞は一見にしかず。
善吉くん。この石を、この宝石と同じにしてくれませんか?」
何処に隠していたのか、見た目本当にただの石ころと、綺麗な断面がいくつもある宝石を取り出した。
両方の大きさはほぼ同じくらい?親指の爪くらいかな?
宝石はキラキラと色んな角度で、光を反射していて、とても綺麗な形をしている。
一方石ころは、何処からどう見てもただの石ころで、普通に道端に転がっていそうなものだ。ただ、石ころとしては小さめ。
「何言ってるのパパ?」
心なしか声が低い。冷たい感じ?
「はぁ。いきなりふざけるとか意味わかんない。」
・・・・ん?何か、低い、冷たい・・・だけのはずなんだけど?何か声に違和感が・・・?
「まぁまぁ。さっきも言ったでしょう?『百聞は一見にしかず』。」
娘さんを宥めてから、俺を見てくる卯木乃羽さん。その目に「やってくれ」と言われてるんだと、思い、実行。
渡された宝石をテーブルに置き、石ころは手の上。宝石を見つつ【変幻自在】を石ころに使う。別に握る必要は無い。
たぶんこれって奥様と娘さんに力を見せるためのものだから逆に石を握るのは良くないだろうな。
卯木乃羽さんと話した通り、俺はダイヤモンドへと変えるとき、詳しくダイヤモンドの事を知らなかった。ただ変えようと思っただけだ。
ただ思っただけで変えることが出来た。
俺は『詳しく知っている』事が【変幻自在】などの力を使うのに必要な条件だと勝手に思い込んでいた。何故かはわからないけど、そういうものだと思っていた。
だけど、変えようと思うだけで、願うだけで【変幻自在】はちゃんと使えるし、【治癒】はイメージするだけでどんな怪我も治せる。今から考えれば【察知】だってそうだ。
本当に【チート】な力だと思う。
だから、今回も俺はただ、願えばいいだけだ。
赤い宝石だからルビー。かな?・・・・他に赤い宝石なんて知らないし。ルビーでいいや。
『目の前にあるルビーと同じ形に変えたい』と、昨日卯木乃羽さんが言っていた様に願う様にイメージ。【変幻自在】を使う事を意識すれば、石ころは形を変えていく。
形が変わり終わったら『ルビーに変えたい』と、同じく願う様にイメージして、【変幻自在】を使う。
物が小さいからなのか、すぐ完成。たぶん1分かかったかな?ってくらい。
カップ麺よりも早く出来る宝石ってどうなってんの?本当に【チート】だな。
「出来ました。」
「「・・・・・・」」
「ありがとうございます。」
俺が【変幻自在】で作り変えた元石ころのルビーを手渡す。続いて見本用のルビーを渡す。
「あぁ。それは善吉くんが貰ってください。今の協力に対す報酬です。それとも、現金の方が良いですかね?」
「え?いやいや。要りません。お返しします。」
人助けで報酬は貰わないって前に話したはずなのに・・・・。
「いえ、今回はちゃんとした仕事です。だって、今ので誰か助けましたか?」
ん?・・・・・いや、まぁ、そう言われると・・・・。
「今のは私から善吉くんへの『依頼』であり、依頼には『報酬』は付き物です。その報酬を先に提示していなかった不手際は有りますが、だからと言って報酬がないはずがありません。その報酬は君が貰うべきものです。」
は、反論できない。
な、何か反論・・・・。
「ちょっとちょっとちょっと!え?何?どう言うこと!?」
「手品・・・・ではないんですよね?もし、手品だとしたら今ここで見せた意味がわかりませんが・・・・」
「手品ではありませんよ。これが善吉くんの力であり、その力は正しく『超常の力』。善吉くんの力は葵、君に完璧な選択肢を用意する事が出来ると私は確信しています。」
「え?いや、石を宝石に変えるのが?」
「違います。分かりやすくするためにさっきの方法でお願いしましたが、善吉くんの力を正しく言うと、『変化させる力』です。それも完全完璧に、ね。」
ん~。バカな俺には話についていけない。事情説明をお願いしたい。
「『変化させる力』。それが本当なら、この子の願いが・・・・。」
「えぇ。叶います。真姫那が懸念していた事は一切起こりません。」
「・・・・・。正直信じがたいですが・・・。もし、これが本当なら、これ以上嬉しいことはありませんね。」
「実際に善吉くんにお願いする前には、一応実験をしてもらおうとは考えていますが、私の予想では実験など必要ない、と思うくらいに彼の力は完璧です。彼自身も素晴らしい人間で、信用できますしね。」
おっと。話についていけなくてボーッとしてたら、唐突に誉められた?何故?ただのバカなんですが・・・・?
「あ、あの、昨日お願いしてたのって・・・」
「えぇ。届いていますよ。・・・・今からやってくれますか?」
兎に角色々と居心地が悪くてこの場を離れたかった。
だから、珍しく働いた頭が出した逃げ道が昨日の実験を行うことだった。
実験をしかも動物を実験に使うのに、その実験を逃げ道に使ってしまう自分の浅はかさと薄情さ。それに気分を悪くしつつ目的の場所へと案内された。卯木乃羽さんに。
そして更に後ろには奥様と娘さん。
うん。全く意味がありませんでした。
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