☆一緒に笑お?☆

 披露宴会場を中座して、メイクルームに移動したら。


 着席した私のところに、式場のスタッフさんが、入れ替わり立ち替わりやってきて。


 あっという間に――私がお願いしてたとおりに、お色直しをしてくれました。



 小さい頃から憧れてた、純白のウェディングドレスから。

 お花をあしらった、とっても可愛いピンクのカラードレスへ。



 ゼラニウムは、『君ありて幸福』――赤いお花が、一番好きなんだけどね?

 お色直しは、どんなドレスにしよっかなーって考えたとき。


 やっぱりそれは……ピンクだったんだ。



 私、和泉いずみゆうなにとって、かけがえのない存在。

 アリスアイドル――ゆうな。


 そのイメージカラーのピンクよりも、この晴れの日にふさわしい色なんて……あるわけないんだから。



「……ゆうな、ありがとう。あなたに出逢えたから、私はガラスの部屋を飛び出して、和泉ゆうなになれたよ。『恋する死神』さんに、ゆうくんに、たくさんのみんなに――出逢うことができたよ。大好きだよ、ゆうな? ずっと、ずっと…………」



 独りでそんなことを言ってたら、なんか泣きそうになってきちゃった。


 いけない、いけない。せっかくのメイクが、台無しになっちゃう。

 私はグッと涙を堪えながら、ゆっくりと席を立ちました。


 そして振り返ると、テーブルの上に置かれている――電報と、フェルトで作った桜の花のリース。



結花ゆうかちゃんのこれからの人生が、ずっと変わらず、幸せであることを願ってます』



 ……咲良さくらちゃん。


 専門学校を卒業して、働きはじめたばっかりの咲良ちゃんは、残念ながら仕事で参列してもらえなかったけど。

 咲良ちゃんの気持ちは、ちゃんと受け取ったよ。ありがとう。


 遠く離れてても、咲良ちゃんの幸せを――願い続けてるからね?



「……って、また泣きそうになってるじゃんよ! もぉ、私ってばぁ……」


「――それでは新婦様。入場の時間になりますので、ご移動の方をお願いいたします」


「ふぁっ!? は、はいっ!!」



 スタッフさんに声を掛けられたところで、気を取り直して。


 ――――ニコッと。

 思いっきり笑って……涙なんて全部、吹っ飛ばしてやりました。


 遊くんの笑顔が、遊くんとの楽しいしかない毎日が――。


 ――辛かった過去や、弱虫だった私の心を、吹き飛ばしてくれたように。



「さーて、遊くん……今から行くから、待っててね?」



 声優としては、地味な活躍しかできてないけど。

 仲の良い友達以外には、相変わらずコミュニケーション下手っぴなところもあるけど。


 そういうのも全部、引っくるめて――私は綿苗わたなえ結花ゆうかだから。




 こんな私だけど、これからもどうぞよろしくね?


 大好きな、遊くん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る