#2-2 君ありて幸福
俺たちは最高の結婚式を挙げることができた。
でも、結婚式が終わっても、一息吐くような暇さえなく。
俺たちはバタバタと――結婚披露宴へと進んでいった。
「…………はぁ」
「おい、
高砂席に座ったまま、ボーッとしていたら……いつの間にか目の前に立ってたスーツ姿のマサから、注意を受けた。
「そうは言うけどな、マサ……結婚式と披露宴って、驚くほど体力消耗するんだぞ? 歓談の時間に、ちょっとは休憩しておかないと、持たないって」
披露宴は、新郎新婦入場からはじまって――主賓の祝辞、乾杯の挨拶、ウェディングケーキ入刀と、順調に進んできた。
ちなみに祝辞は、新郎新婦まとめて、
乾杯の挨拶を頼んだのは、今をときめく人気声優――
そして現在――結花はお色直しのために中座しており。
しばしのご歓談の時間、ってわけだ。
「さーかーたっ! 結婚おめでっとー!! もー、めっちゃ嬉しいんですけどー!!」
「ちょっ……
マサをぐいっと押しのけて、やってきたのは陽キャなギャル改め……パリピJDの二原
……っていうか、なんなのそのドレス? 海外セレブも裸足で逃げ出しそうなくらい、胸元開いちゃってない?
「ねぇ、
「物騒だな……そもそもモスキート音出せないでしょ、二原さんは」
「二原の言うとおりだぜ、遊一。男らしく……いや、かつて『アリステ』を愛した民らしく! 大切な人の手は永遠に、離すんじゃねぇぞ!!」
「いいこと言ってる風で、なに言ってんだお前は」
そんな感じで、俺と二原さんとマサが。
高砂席のところで、わちゃわちゃしていたら……。
「あははっ! 相変わらずだね、桃乃も
「わたしに言わせりゃ、『ゆら革』やってた頃のあんたとゆうなちゃんも、こんな感じの空気だったわよ。らんむ」
妖艶なドレスに身を包んだ野々花来夢、童顔すぎてドレスに着られてる感じになってる
「掘田さん。今日は仕事ではないので、らんむじゃないです。ちゃんと――来夢って呼んでください?」
「はいはい、りょーかい。ただ、その理屈で言うなら、わたしも掘田じゃないからね?」
「……
「誰が
「小粋なジョークですって」
ムキになって声を上げる掘田さん……もとい関矢さんと、おどけた感じで関矢さんを弄る来夢。ここに結花が加われば、完璧な『ゆら革』のノリが帰ってくるんだろうな。
だけど、しばらく見ない間に……来夢の奴。
やたら明るく笑うように、なったんだな。
「なんだ。ここだけまるで、事務所の中みたいだな。見知った顔ばかりで安心するよ。なぁ、
「そうですね。親族席には
言いながら鉢川さんは……くいっと、手にしたグラスの中身を飲み干した。
「あー……鉢川さん。そろそろ駄目だと思ったら、自分で外に出てくださいね? 披露宴中に酔って暴れ出したら、目も当てられないんで……」
「酔って暴れないわよ、大人なんだから!! これは水! アルコール度数ゼロパーセントの、れっきとした水だから!! 迷惑掛けないように、今日は断酒してるの!!」
「こないだの打ち上げもヤバかったっすもんね、
「誰が藍流ちゃんさんだ! こちとら年上なんだから、もうちょっと敬え!!」
「そうよ、桃乃。尊敬を込めて、でる美先輩と呼べばいいわ」
「よーし、来夢! 久しぶりにキレちゃったからね! 屋上に来なさいよ!!」
こいつら、人の結婚式で何してんだ……って感じだけど。
この懐かしくて温かい繋がりがあったから、今の俺と結花が、あるんだもんな。
本当にありがとう、みんな。
そして俺は、ふっと……高砂席に飾られた、赤いゼラニウムの花を見た。
結花が一番好きな花だっていう赤いゼラニウムは、式場スタッフの皆さんの計らいで、この会場の花飾りに使われている。もちろん――ウェディングブーケにも。
…………いつか結花が、こんなことを言ってたっけな。
昔の結花は、白いゼラニウム。
『私はあなたの愛を信じない』って、そう思いながら生きていた。
だけど――黄色いゼラニウム。
いくつもの『予期せぬ出逢い』が、結花を変えていって。
そして、ピンクのゼラニウム。
『決意』を胸に、結花は弱い自分を……越えることができたんだ。
哀しいことも、傷つくことも、たくさんある。
『私はあなたの愛を信じない』って、泣きたくなる夜もあるけれど。
誰かの笑顔と出逢って。一緒に前へと踏み出したら。
いつかその花は、赤く染まって――。
――――『君ありて幸福』。
幸せの花に、なれるんだ。
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