エピローグ 【超絶朗報】俺の嫁になった結花、いつまでも可愛いしかない。

#1-1 あれから……

「うおおおおおおおおおおお! らんむ様あああああああああああ!!」



 隣にいるマサが唐突に絶叫したせいで、俺の耳はキーンッてなった。


 いくらライブ中とはいえ、限度があるだろ……あとで普通に訴えるからな、お前。



「ねぇねぇ、佐方さかたぁ! らんむちゃん、やばい可愛くない!?」



 そんなマサに当てられたのか、今度は反対サイドの二原にはらさんが、俺の肩に抱きついてガクガク揺さぶってきた。


 むにゅむにゅっと、ニットのセーター越しに伝わってくる、魔性の感触。

 二原さん……高校生の時点で凄かったけど、そこからさらに成長しすぎでは?



 …………って、違う違う!



「くっつくのはNGだって、二原さん。結婚式も近いわけだし、結花ゆうかの誤解を招くような行動は慎みたいんだって」


 二原さんを引き剥がしつつ、そんなことを耳打ちしてると。


 東京ドームのステージに立っている――紫ノ宮しのみやらんむは。


 紫色の豪奢な衣装を翻して、高らかに宣言した。



「みんな! まだまだ私は、高みを目指すから。これからも……覚悟を決めて、ついてきてちょうだい!!」



          ◆



「……あ。ゆうくんっ! ゆ、う、く、んーっ!!」



 ライブ終了後。二原さんとマサと一緒に、待ち合わせの個室居酒屋に到着すると。

 個室の中で待ってた結花が、間髪いれずに――抱きついてきた。


 結花お気に入りのイヤーマフが、俺の頬にもふっと触れる。



「遊くんと離れ離れになって、寂しかった……でも、またこうして逢えたっ! 私と遊くんって、やっぱり赤い糸で結ばれてるんだね!!」


「なに言ってんの!? ライブの間、一般席と関係者席で分かれてただけでしょ! 普通に家から一緒に来たし!!」


「……てへっ☆」



 てへっ、じゃないよ。高校生の頃からやること変わんないね、結花?



「はああああああ……大学生バカップルのいちゃいちゃ……いいですねぇぇぇ……」

「ひぃっ!?」



 結花の後ろから、怨念の籠もったような声を出したのは――鉢川はちかわさん。日本酒入り。



「くるみん、ひがまない、ひがまない。ゆうなちゃんと『弟』くんのバカップルっぷりは、今にはじまったことじゃないでしょーが」



 そんな鉢川さんと楽しげに酒盛りしている、掘田ほったさん。


 掘田さん……何年経ってもベビーフェイスなもんだから、飲酒してると違法にしか見えないな。言うと怒られそうだから、絶対言わないけど。



「ちょっとぉ。久留実くるみさんも掘田さんも、バカップルって言わないでくださいよぉ」


「どう見てもバカップルでしょーが。世界に誇れるレベルの」


「ちーがーいーまーすー。カップルじゃなくって……夫婦ですもんっ! もう籍だって入れましたし!! 結婚式間近ですし!! ……ふへへっ。夫婦なんです、夫婦ー。ふへー」


「ツッコむとこが違うね結花!? 勝手にふへふへしないの!」


「あははは! やっぱゆうちゃんと佐方は、いつまでも変わんないねぇ。ね、倉井くらい?」


「ったく、いつまでも見せつけやがってよ……あ、店員さん。ナマひとつで!」



 そんな感じの、昔と変わらないテンションで。

 紫ノ宮らんむ、初の東京ドーム単独ライブの打ち上げは――遅くまで続いた。



          ◆



 親父のどうかしてる計画で、俺と結花が初めて出逢ったのが、高二の春。


 それから、かれこれ……四年近く経つんだな。



 ――高校卒業後、俺と結花は同じ大学に進学した。


 その頃に親父の海外赴任が終わり、親父と那由なゆが実家に帰ってくることになったので……俺たち二人は、実家から二駅ほど離れたアパートに引っ越した。



 そして気付けば、俺も結花も二十歳になって。

 この三月が終わると――なんと、大学三年生。


 時の流れってのは、びっくりするくらい早いもんだな。本当に。



「たっだいまー!」



 単独ライブの打ち上げが終わって、俺と結花はアパートに帰ってきた。

 プチ酔っ払いな結花は、そのまま布団にダイブすると、ふにゃっとした顔になる。



「ふへへぇ……やっぱり我が家は、落ち着くなぁ~」



 結花の枕元には、ピンク色のイルカが据えられたスノードーム。

 高二の修学旅行のとき、俺が沖縄で買ったそれを、結花は今でも大切に飾っている。


 ちなみに、俺の枕元には――。

 アリスアイドル・ゆうなちゃんの、手乗りぬいぐるみが置いてあったりする。


 何年経っても、ゆうなちゃんの可愛さときたら、色褪せることを知らない。

 本当に……俺にとって永遠のアイドルだよ。ゆうなちゃんは。



「ぎゅうー。アンド、はむっ」

「ひっ!?」



 手乗りゆうなちゃんを眺めていたら、急に後ろから結花に抱き締められて……首筋のあたりを、甘噛みされた。

 俺は身悶えしながら、結花の太ももをパシパシする。



「もぉ……首筋はやめてって、いつも言ってんのに」


「ふへへ~。遊くんの弱点をいじめて、ごめんなさい~。でもぉ……ビクッてする遊くんが、可愛すぎるんだもんっ」


「仕返しするよ?」


「……シャワー浴びた後なら、いーけど?」



 そう言われると、なんも言い返せねぇ。ずるいだろ、結花。



「それは、後で考えるとしてぇ……ゆうなはね? 私や遊くんや、愛してくれたみんなの心に――これからもずっと、いるんだよ。ずーっとね」



 俺の背中に寄っ掛かったまま、結花は俺の耳元で、優しく囁いた。

 その声は――紛れもない、ゆうなちゃんの声。


 だからこそ俺は、本心から笑って言えたんだ。



「ああ。ゆうなちゃんは、いつまでも俺の心の中にいる。だから、これからも……一緒に笑って、生きていくんだ」



 ――昨年の十二月。


 五周年の節目の日に、『ラブアイドルドリーム! アリスステージ☆』は、サービス終了となった。



 その時期は正直、俺もマサも、喪失感で死ぬんじゃないかって感じだった。


 俺の人生の一部といっても過言じゃない『アリステ』に、もう二度とログインできないなんて、考えるだけで苦しかった。



 だけど……結花が言うように。


 ゆうなちゃんは、いつまでも心の中にいるんだって分かったから。

 今はもう、落ち込んではいない。



 形あるものはすべて、いつか終わりを迎えるけど。

 ――楽しかった想い出は、永遠に消えないから。



「それにしても、今日のらんむ先輩ってば、すごかったよね! 東京ドーム単独ライブで、あの堂々としたパフォーマンスだよ!? さすがは歌姫、紫ノ宮らんむっ!」


 むにゅむにゅと俺に頬ずりしながら、結花は嬉しそうに言う。



「あ。そういえば掘田さん、今度バラエティ番組に出るらしいよ。あの有名な『奢る! カワカマス御殿!!』だって。多才だよねぇ、掘田さんって!!」


「掘田さんのそれは、結花たちのせいで磨かれた芸だと思うけど……」



 ――――『アリステ』が終了しても、それぞれの声優活動は続いていく。


 それは当然、かつて『ゆらゆら★革命 with ゆー』だった三人も。



 ――紫ノ宮らんむは。



 三年前あたりからTVアニメで、主役級のキャラを多く演じるようになった。


 そんな中、彼女が歌ったアニメ主題歌が、SNSで大バズり。それ以来、紫ノ宮らんむはソロアーティストとしても、活動するようになった。


 演技の才能があって、歌姫と称されるほどの歌唱力も持つ。


 まさに天才声優として、名声を得るようになった紫ノ宮らんむは――ついに今日、東京ドームでソロライブをするまでに至ったんだ。



 ――掘田でるは。



 アニメやゲームで名前を見掛ける機会も増えたけど、それ以上にネットラジオでの活躍がめざましかった。


 そしてますます、トークの腕に磨きが掛かった結果……最近はなんか、お笑い芸人の番組にもゲストで呼ばれ出してる。


 何割かは結花たちのせいだけど、幸か不幸か……マルチタレントになりつつある、掘田でるだった。



 ――そして、和泉いずみゆうなは。



 正直に言うと……他の二人ほど、大きな活躍と呼べるものはない。


 TVアニメにはちょこちょこ出ているけど。主役やメインヒロインじゃなく、ヒロインの友達ポジションに留まってたり。

 数話限りのゲストキャラとして呼ばれがちだったり。


 大役を務めるような機会には、恵まれてないと言わざるをえない。


 ……とはいえ、別に『カマガミ』の件で干されたとか、そういうことではなく。

 アニメにも、ネットラジオにも、他の仕事にも、コンスタントに呼ばれてはいる。


 まぁ、そんな感じで……活躍は地味なものだけど。

 変わらず声優を続けているのが、和泉ゆうなで。


 ファンはみんな、和泉ゆうなが活動するたびに、こう言うんだ。



 ――――ゆうなちゃんに元気をもらえたから、今日も笑顔で頑張るよ……って。

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