第16話 一番星に、那由他の愛を届けよう 2/2
もうすぐ日が変わりそうな時刻になったところで。
続いて、俺と
「ねぇ、
そして、二人で並んで、布団の上に座ったまま。
寝間着用のワンピースを着た結花は、静かに囁いた。
「なんかね。こんな大ごとになってるのに、変かもだけど……私、自分が幸せ者なんだなぁって、そんな風に思ったんだ」
「別に変ではないけど。なんで、そう思ったの?」
「んーとね。『カマガミ』さんの件で、いっぱい迷惑掛けちゃったのに……家族も、事務所の人たちも、学校のみんなも。責めるどころか、いっぱい応援してくれたり、支えてくれたりしたじゃんよ? それがね、なんだか――涙が出ちゃうくらい温かくて。幸せだなぁって……そう思ったの」
体育座りの姿勢のまま、俺の肩にこつんと、もたれ掛かってくる結花。
そんな結花の頭をぽんぽんと撫でながら――俺は静かに告げた。
「それはきっと、結花が結んできたものだよ」
「……結んできたもの?」
結花は小首を傾げてるけど。
俺は迷うことなく、言葉を続ける。
だって、誰よりも愛しい許嫁に――この想いを伝えたいから。
「辛いことも悲しいことも、たくさんあったはずなのに。結花はいつだって、みんなの幸せを願ってきただろ? そんな結花の想いが伝わって、みんなも結花と同じくらい、笑顔になれたんだ。結花はそうやって、人と人を、笑顔と笑顔を――結んできた。だからだよ、みんなが温かいのは」
「…………笑顔と笑顔を、結んできた、って」
結花はちょっとだけ、頬を赤く染めると。
もじもじしながら、上目遣いにこちらを見てきた。
「私、そんなにすごい人間じゃないよ?」
「結花は十分、すごい子だって」
「私よりもっと可愛い子、いっぱいいるし」
「見たことないけど? 結花より可愛い子なんて」
「……ぐぬぬ。で、でも! 私より明るい子だったら、山ほどいるでしょっ!?」
「明るいとか暗いとか、どっちでもいいよ。そんなことより、結花が好きだもの」
「……うにゅうう。じゃ、じゃあ! 私よりおっぱい大きい子がいたら、どーする!?」
「結花を抱き締める。抱き締めて、キスする」
「ひぃぃぃぃ……甘い言葉責めで、殺されちゃうよぉぉぉ……!!」
頭を抱えて、なんか悶絶しはじめた結花。
小動物みたいで、やたらと可愛い。
そうやって、じたばたしてる結花を見ていたら……ピコンッ♪ って。
結花のスマホから、RINEの通知音が鳴り響いた。
「わっ!? 誰だろう……
呟きながら、結花は布団の上を這って、枕元に置いたスマホを手に取る。
そして、じっと画面を見てから――「えへへっ」と、はにかむような笑いを浮かべた。
「さすが遊くんだなぁ……さっき言ってくれたこと、なんだか分かった気がする。私、少しずつでも――みんなに笑顔を届けることが、できてたんだね?」
そう言いながら結花は、RINEのトーク画面を見せてくれた。
相手の名前は――『
咲良さんとは、直接の面識こそないけど、結花から話に聞いたことがある。
中学時代、結花への嫌がらせがはじまった時期から疎遠になり……それっきりになってしまっていた、結花の友達。
だけど少し前に――結花が勇気を出して、電話をかけて。
過去のわだかまりを解消したんだよな。
そんな咲良さんから、送られてきたRINEは――――。
『結花ちゃん。動画を観て、びっくりしちゃった! 声優やってたんだね。昔から声、可愛かったもんね。すっごく応援してるよ!! だから……一人で悩まないでね? 今度は絶対に、逃げないから。いつまでも、結花ちゃんの味方だから』
結花は過去を乗り越えて、自分と咲良さんの心を、再び結びつけた。
咲良さんに、笑顔の花を咲かせた。
そして今度は――その咲良さんが、結花のことを応援してくれている。
これこそが、
「よしっ! いいこと考えたっ!!」
RINEの文面を見ながら、物思いに耽っていたら。
結花が何かを決心したように、声を上げた。
その瞳は、なんだか大きな星みたいな――キラキラした光を孕んでいる。
「えっと……考えたって、何を? なんか、そういうテンションのときの結花って、良い考えより、とんでもアイディアを思いついてるときの方が多い気がするんだけど?」
「そんなことないでーす。できるだけ、みんなに迷惑を掛けずに。遊くんのことも、家族のことも、学校のことも、声優のお仕事のことも、ぜーんぶ大事にできる――そんな方法を、思いついただけだもんねーだっ!」
何その、欲張りハッピーセット。
余計に嫌な予感しかしなくなったんだけど。
けれど結花は、そんな俺の心配をよそに……
「あ。もしもし、ゆうなです! 久留実さん、お願いしたいことがありますっ!!」
開口一番、そんな風にテンション高く言うと。
結花は――やっぱりとんでもないことを、口にした。
「久留実さん。明日の生配信――私に出演させてください!!」
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