第14話 桃色からはじまった世界はもう、虹色に輝いてる 2/2
それから
地元から上京してきて、声優・
だけど、素の結花は人と喋るのが苦手だから、学校では「お堅い
それから……『カマガミ』の動画にアップされていたように。
交際相手である俺が、実は古参のファン『恋する死神』だってことも。
「え、声優さんでも、喋るのが苦手とかあるの?」
発言すると同時に、その女子は慌てて自分の口を塞ぐ。
心の声を、つい言葉にしちゃった感じなんだろうな。
そんな彼女の発言に対して、結花は――。
「はいっ! ありますよー? 声優だって、人間ですからっ」
何ひとつ気にした素振りもなく、笑って言った。
「私の場合、声優の仕事のときは、スイッチが入るんですけどね? そうじゃないときは……みんなの知ってるとおりです。緊張して言葉足らずになっちゃったり、表情が硬くなっちゃったり。とにかく……コミュニケーションへたっぴなんです、はい」
「じゃあ、じゃあ! 声優さんのときは、めっちゃコミュ強になるってこと?」
やたらテンション高く手を挙げたのは、見知った女子。
確か、結花が俺にバレンタインチョコを渡すときも、一番盛り上がってたよな。
「えーっと……ちょっと違いますね。ラジオとかでトークするときも、めちゃくちゃ緊張してます。ただ、学校とは違って、喋りすぎちゃう系のコミュニケーション下手というか。めっちゃ喋って、話がまとまんなくって、なに言ってんだ? ……ってツッコまれちゃう。そんな感じが、和泉ゆうなです」
「え。じゃあ、
……おいおい。なんだよ、その質問?
恋バナ感覚で聞いてないか、女子?
だけど、当の結花ときたら。
ふにゃあっと――横頬をゆるゆるにして、普通に答えはじめた。
「えー? ゆ、
「結花、結花。お願いやめて。本当に、お願いだから」
なるほど。これが公開処刑ってやつか。
『カマガミ』の動画とはまた違うベクトルで、攻撃力が高すぎる。
「なぁ、佐方。俺も聞いていい?」
公開のろけト――クで死にかけてる俺に対して。
今度は、クラスの男子が尋ねてきた。
「綿苗さんが、ソシャゲのキャラを演じてる声優で。佐方はキャラ? 声優? の昔からのファンなんだよな? で、二人が付き合いだしたのが……先月から。佐方っていつから、綿苗さんが推しの声優だって知ってたんだ?」
……ごもっともで、核心を突いた質問だった。
『カマガミ』がスキャンダルとして暴いたのは、俺と結花の関係の、ごく一部にしかすぎないからな。
そんな疑問が出てくるのは、当然だと思うし……それに答えるためには、もうひとつの大きな真実を明かすしかない。
そう。
綿苗結花が、ずっと前から――佐方
そんな重大な局面に立たされた俺たちを前に。
「……あんたさぁ。それ聞いて、どーする気よ? あれっしょ。自分も有名人と付き合いたいから、佐方からテクを奪おう的な」
「ば……っ! ちげーよ!! 俺にはもう、ユリ子がいるんだから!」
「ぎゃああああ!?
――ドッと。
教室中から笑いが巻き起こった。
女子たちなんか、「おめでとー!」とか言いながら、楽しげに拍手なんかしてるし。
まさか、ここまで計画どおり……ってことはないよな? さすがの二原さんでも。
もしも、この流れはすべて予測済みだったとか言われたら、俺は今度から二原さんを『全知全能のギャル』って呼ぶよ。
……だけど。
この流れが、偶然だったとしても、計画どおりだったとしても。
今の一連のやり取りを見て、心から安心できたんだ。
――――この2年A組は、きっと俺たちを受け入れてくれるって。
「結花が、推しの声優――和泉ゆうなちゃんだって知ったのは、始業式の日で。今まで隠してたけど……俺たちが付き合いだしたのは、その日からだったんだ」
「ええええええええええええ!?」
とんでもない音量で声を上げる、クラスメートたち。
ちらっと横を見ると、結花は気恥ずかしそうに笑ってる。
そして結花は――俺に負けじといった感じで、言った。
「それからね? 今まで隠してたけど……私は遊くんの、彼女ってレベルじゃなくって。実は――遊くんの許嫁なの!!」
「ええええええええええええ!?」
「これも今まで隠してたけど、婚約した日から同棲もしてたんだ」
「ええええええええええええ!?」
「それからそれから! 遊くんはもう、うちのお父さんに挨拶も済ませてるんだよっ!!」
「情報量が多すぎるって!!」
二人揃って洗いざらいぶちまけてたら、最後には情報過多のクレームが入った。
まぁ、気持ちは分かるよ。
俺も逆の立場だったら、「何がなんだか分からない」ってなる程度には、意味不明な話だからな。主にうちの親父のせいで。
「でもさぁ……もっと早く知りたかったなぁ。もうすぐ二年生、終わっちゃうし」
後ろの方の席から、ぽつりとそんな声が聞こえた。
それに呼応するように、他のみんなも思い思いの言葉を口にしはじめる。
「分かるー。早く知ってたら、二人のことめっちゃ応援したのにぃ」
「そうそう。最初の頃の綿苗さんって、あんまり話し掛けられたくないのかなーって感じだったから……もっと早く仲良くなりたかったよー」
「ってかさ。『カマガミ』って奴、マジでありえなくない? 許せないんだけど」
「所詮ただの盗撮野郎だろ。綿苗さん、マジで気にすんなよ。変な奴に絡まれたら、俺ら空手部がぶっ飛ばすから!」
「ってかさ、ぶっちゃけるけど……俺も『アリステ』ユーザーなんだぜ! 佐方と
「は!? マジかよ、混ざればよかったのに! 俺はらんむ様推しだけど、お前は?」
「でるちゃん」
――――中学生の頃の、黒い記憶に取り憑かれて。
俺も結花も、他人と親しくなることを怖がって、随分と遠回りしてしまったけど。
俺には変わらず、マサがいた。
結花には、二原さんという親友ができた。
そんな灯りがともっていくうちに――黒い霧は、とっくの昔に晴れて。
俺たちの世界には、笑顔の虹が架かっていたんだって。
ようやく分かった。
だから、俺と結花は――心からの思いを、みんなに伝えたんだ。
「みんな、ありがとう。隠し事ばっかで、ちゃんと心を開けてなくって……ごめん。だけど、今話したことは全部、本当だから。どうかこれからも――よろしくお願いします」
「本当のこと話したら、嫌われるんじゃないかって、勝手に思い込んでた。ばかだったなぁ。みんな、こんなに優しいのにね? ありがとう。これからも仲良くしてくれたら……嬉しいですっ」
◆
――俺と結花の婚約や、結花の声優活動のことを、すべてカミングアウトした結果。
俺は休憩時間のたびに、男子たちに取り囲まれて、「どこまで進んでんだ!?」なんてキラキラした目で聞かれまくった。
そして結花はというと……「声優のときの綿苗さん、可愛すぎない!?」とか、「どんなキャラ演じてるの?」とか、女子たちから矢継ぎ早に話し掛けられていた。
すべてを打ち明けたことで、クラスメートとの距離感は変わったけれど。
中学のときと違って、その関係は――決して悪いものじゃなかった。
「おーい、二原さん!」
そして、長い一日が終わって――放課後。
俺と結花は、やたら早く教室を後にした二原さんを追い掛けて、下駄箱のところまでやってきた。
「今日はありがとな、二原さん。話しやすい空気を作ってくれて、助かったよ」
俺がそう声を掛けると、二原さんはピタッと足を止めた。
「……あははっ。そんなたいそうなこと、してないって。うちはただ、軽口叩いただけ」
こちらに背を向けたまま、二原さんはそう言うと。
振り返って、少し寂しそうに笑った。
「
「――そんなわけ、ないじゃんよ!」
言うが早いか。
結花は俺のそばから駆け出すと――後ろから二原さんを、ギュッと抱き締めた。
ポニーテールに結った髪が、ふわっと揺れる。
「辛いときも、悲しいときも。
「……結ちゃん」
二原さんが、結花の方を振り返る。
そんな二原さんに、にっこりと笑い掛けてから。
結花は――そのほっぺたを、むにーっと引っ張った。
「ひゃ!? ひゃにしゅんにょ、ゆーしゃん!?」
「うっさい、ばぁか。私の大好きな桃ちゃんを、要らないとか言った悪い桃ちゃんは……こうだもんねっ! うにょーん!!」
そうやって、ひとしきり二原さんにお仕置きをしてから。
結花はパッと手を離して、言ったんだ。
「……必要なくなることなんか、一生ないよ。大好きな桃ちゃんと、ずっと仲良しじゃなきゃ、絶対やだ。ごめんね、欲張りで? だけど、それくらい桃ちゃんは大切な――私の、一番の親友なんだもん」
「…………あははっ。そーだね。うちってば、闇落ちキャラみたいになってたね?」
結花のまっすぐな愛を受けて、二原さんは照れくさそうに頬を掻いた。
「さーてっと。うちもそろそろ、特撮ガチ勢だって打ち明けよっかねぇ。だって結ちゃんが、うちのことを見守ってくれてるわけっしょ? じゃあ、うちも勇気を出して……みんなと向き合わないと、じゃんね?」
そして二原さんは、潤んだ瞳のまま。
ぐっと親指を立てて、花が咲くように笑ったんだ。
「ありがとね、結ちゃん。ずっとずっと、大好きだかんね? うちの――一番の親友」
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