第5話 【悲報】俺の許嫁の秘密が、学校で…… 1/2

 ――――『カマガミ』による、暴露動画がアップされた。


『60Pプロダクション』で話をした、数日後の夜のことだった。



 動画がアップされたのは、俺も結花ゆうかも分かっていた。

 内容を確認する気には、とてもなれなかったけど。


 そして、アップされてから数時間後。

 MeTube運営側によって、動画は削除された。


 おそらく六条ろくじょう社長が、事前に手を回してくれていたんだろう。削除までのスピードは、驚くほど速かった。



 とはいえ。


 短時間だとしても、暴露動画がインターネット上に投下されたことに変わりはない。


 拡散がゼロってことは、まずありえないだろう。



 こうして、和泉いずみゆうなと『恋する死神』の関係性は――不特定多数に知られるところとなった。



          ◆



「うーにゃーあー……」


 そして現在。


 我が家の結花さんは絶賛、布団の中に籠もっていた。


 制服に着替え終わった俺は、そばに座ったまま、その様子をじっと見ている。



「えっと結花……遅刻するよ?」

「知ってるけどぉ……気が重いんだもん……うえーん、重いよー。助けてー」



 駄々っ子かな?


 まぁ、気持ちは分かるんだけどさ。なんたって、『カマガミ』に暴露動画をアップされた翌日なわけだし。


 俺だって、気落ちしてないって言ったら、嘘になる。



 ……もういっかな。今日くらい、休んじゃっても。



「よし、結花。それじゃあ今日は、二人で休もうか? 別に何か、学校行事があるわけでもな――」

「いえ――私は、行くわ」



 バッと布団がめくられる。


 そして、仰向けに寝転んだまま、顔だけ突き出してきたのは――綿苗わたなえ結花。学校仕様。



 …………学校仕様!?



 そう。


 いつの間にか、うちの許嫁は――眼鏡&ポニーテールという、学校仕様になっていた。



「学校に行く。行きたい」


「怖い怖い!? さっきまで登校渋ってたのに、学校結花になったら行く気満々とか……もはや別人格じゃん!! ジキル結花とハイド結花なの!?」


「違います。だって私、布団に入ったときからずっと、この格好だったもの」


「だとしたら、ただの支離滅裂な人ってことになるね……」



 俺の返答を聞いた結花は、アゴを引いて上目遣いになる。

 眼鏡のおかげでつり目っぽく見える、大きな瞳。


 そして結花は、小さな声で言った。



「休みたい気持ちはあるけど、行きたい気持ちもあるんです」


「どういうこと?」


「確かに、動画のことでちょっと落ち込んでるから、休みたいなぁとも思うけど。今日の放課後はもともと、クラスのお友達とカフェに行く約束をしてたので。だから……楽しみだなぁ、行きたいなぁとも思うんです」



 ああ、なるほど。


 ここ最近になって、ようやくクラスメートと打ち解けてきた結花だからな。


 そういう約束を大事にしたいって気持ちは、まぁ理解できる。



「……それはそれとして。結花、なんでさっきから、微妙に敬語なの? また何かのシチュエーションコント?」


「べ、別にわざとじゃない! 眼鏡を掛けてると、おうちのときの喋り方と、前までの癖が……うにゃーって混ざって、こうなっちゃうんですっ!」



 そういえば、クラスでも最近は、こんな感じだっけな。


 ――かつての学校結花は、地味で目立たない、寡黙なタイプの女子だった。


 家では今も昔も、無邪気で甘えんぼうだけど。



 そして……学校と家の結花がひとつに!!


 そんな感じで新たに誕生したのが、この――ハイブリッド結花なんだ。



「……なんでじーっと、見つめてるんですか? 恥ずかしいです、ゆうくん」


「いや。融合すると強さが倍増するって理論、マンガとかで見るじゃない? なるほど、要素を掛け合わせたら確かに強くなるんだなぁと、しみじみ思って」


「なんの話!? 学校に遅刻しますよ!?」



 待って。学校に遅刻するとしたら、それは結花のせいだよ?


 なんて、脳内で抗議していると。

 結花が上体を起こして――俺と向かい合う体勢になった。


 布団に籠もってはいたけど、本当に仕度は、ほぼ済ませていたらしい。

 ベストをまだ着てないくらいで、ワイシャツとスカートには既に着替えて――。



「……? 遊くん、どうして目を逸らすんですか?」

「いや、どうしてというか……」



 布団の中で散々、ごそごそしてたせいだと思うんだけどさ。


 結花のスカート……とんでもなく捲れちゃってるんだよね。


 目の毒なくらい露わになってる、程よい肉付きの太もも。

 あと、ワイシャツのボタンも、なんか知らないけど外れてて。


 そのせいで綺麗なくびれも、水色のブラジャーも、小ぶりだけど形の良い胸も……すべてが曝け出されてるわけだよ。



 ね? とてもじゃないけど、直視できないじゃん?


 もしも直視なんかしたら……俺の身体が、人前に出られない状態になる。絶対に。



「あ、ひょっとして。見つめられたら恥ずかしいって、さっき言っちゃったから? うー、だったらごめんなさい……やっぱり寂しい。こっち見てください」


「いや、そうじゃない。そうじゃないし、見たいけど、見たらまずいっていうか……」


「えいっ」



 痺れを切らしたらしい結花が、俺の頬に手を添えて。

 ぐいっと強制的に、自分の方へと向き直らせた。


 視界に飛び込んできたのは、はだけたワイシャツと、際どいところまで捲れたスカートを身に纏った――上目遣いの眼鏡な結花。



「私から目を逸らしちゃ、だめなんですからね……遊くん」



 ハイブリッド結花から放たれる、とんでもない殺し文句。


 俺の脳内で、何かしらが焼き切れるのを感じた。



 ……OK、分かったよ。俺の負けだよ。


 学校より大事なものが、ここにあるってことなんだな。


 ということで、俺はお言葉に甘えて、結花のことをじっくり見――。



「ん? ……あ、あれ? 私ってばボタン留めてな……うにゃ、スカートが!?」



 そんな最悪のタイミングで。

 結花は自分の格好に気が付いたらしく、バッとうずくまった。


 顔を真っ赤に染めて、上目遣いに俺を見てくる結花。

 やっちまった……という遺憾の意を込めて、結花を見ている俺。



「……遊くんのえっち。でも、そんなに見たいんなら……」


 そして結花は。


 おもむろに上体を起こすと――両手を頭の後ろで組み、くいっと腰を捻った。


 ワイシャツがさらにはだけて、お腹が覗く。さらには、健康的な腋も露わになる。


 そして、捲れたスカートから覗く太ももを擦り合わせながら。

 結花は、得意げにウインクをして――言ったんだ。




「え、えい! セクシーポーズで……悩殺ですっ!」

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