第10話 ギャルと二人で出掛けたところ、許嫁がとんでもない行動に…… 2/2

「ねぇねぇ、佐方さかたぁ! これとかどーよ、『DXハナサカバズーカ』!!」


二原にはらさんが欲しいだけでしょ、それ!」


「違うっての! 『DXハナサカバズーカ』なら、うちはもう持ってるし!!」



 ショッピングモールに来て、俺は二原さんと一緒に、結花ゆうかへのプレゼントを探してるんだけど。

 おもちゃ屋を見つけた二原さんが、我慢できずに立ち寄っちゃって……今に至る。


 ――――ブルブルッ♪


 RINEメッセージを受信して、スマホが振動した。



『結花ちゃんは、なんにも知らないけどー……おもちゃ屋さんに長くいるのは、良くないかも! むーの波動を感じるよっ!!』



 …………なんだよ、むーの波動って。


 振り返ると、少し離れた棚のあたりに、変装もどきをした結花が立っていた。

 なんか頬を膨らませて、「むー」って顔してる。そういう意味か、むーの波動。



「ほら、二原さん。ここには多分、結花の欲しいものとかないし……どっちかといえば、俺たちが二人ではしゃいでる構図に見えるだろうから。次の店に行こう?」


「あ、おっけぃ! 特撮成分を補給したかんね――ここからは、強化フォーム桃乃様でお届けするねぇ!!」



 機嫌良さげにそう言うと、二原さんは俺の手を軽く握って、歩き出した。



「んじゃ、そーねぇ……さっき見掛けたアクセショップとか、どーよ?」

「あ、うん、見てみよ――」

「よっし! それじゃあ、張り切っていこー!!」



 そうして、二原さんに手を引かれながら歩いている間にも、結花からRINEが何度も送られてくる。


『私、なんも知らないけどね!? 人との距離感って、大事だと思うんだよね!!』



          ◆



 その先の俺たちは――まさにカオスだった。


 たとえば、アクセサリーショップ。



「ちょい待って、佐方! これ、めっちゃ可愛くねっ!?」


 俺を呼び止めるために、当たり前のように腕を絡めてくる二原さん。



「二原さん、距離が近い! 距離が近いから!!」

「えー、そう? とりま、ネックレス見てよね。ほれ、こんな感じっ!」



 ネックレスを胸元に当てて、身につけたときのイメージを伝えようとしてくれてるんだろうけど。

 それだとどうしても……俺の視線が胸に向いちゃうから、やめてほしい。



「うにゃあ! むね……むにゃあ!!」



 店内の少し離れたところから、猫みたいな結花の叫び声が聞こえてくる。


 結花の胸の恨みは恐ろしいからな……俺は強引に、二原さんを連れて店を後にした。




 たとえば、洋服店。


「これとかぜーったい、ゆうちゃん着たら似合うっしょ! あ、でも、こっちも似合いそうだなぁ……ねぇねぇ、佐方。どっちがいいと思う?」


「え!? ど、どうだろ? ファッションセンスとか皆無だから、服だけ見てもいまいちピンとこな――」


「おっけぃ! んじゃ、任せて!!」



 言うが早いか、二原さんは目当ての品を持って、試着室に入っていった。

 しばらくして、カーテンが開く。


 二原さんが身に纏っているのは、白いブラウスだった。

 ただし――尋常じゃなくパツパツの。



「ぶっ!? 何とんでもない格好してんの!?」

「いや、思ったより胸がきつくってさぁ……早く脱がないと、ボタン取れちゃいそう」



 その言葉どおり、二原さんの胸に突き上げられたブラウスのボタンは、完全に悲鳴を上げている状態だった。


 しかも、二原さんの身体に密着してる生地からは……なんか黒いブラジャー的なものが、透けてるし。



「……ごほん。ごほんごほんっ! ごほごほごほん!! ごほごほごっ!!」



 店内の少し離れたところから、やたらリズミカルな咳払いが聞こえてくる。


 結花の胸の恨みは恐ろしいからな……俺は強引に、二原さんを試着室に押し戻した。




 そして極めつきは――ランジェリーショップ。


「……って、なんでランジェリーショップなの!? 分かったぞ! 二原さんは、実は悪の組織のスパイで、俺を社会的に殺そうとしてるんだな!?」


「違うってーの。佐方のことが大好きな結ちゃんだかんね……佐方の好きな下着とか買ったら、喜ぶかもじゃんよ? じゃんじゃんよ♪」



 ノリノリにそう言って、二原さんは俺の背中を押して――ランジェリーショップに入店させようとする。


 やめろぉ!? 死にたくない! 死にたくなぁぁぁい!!



「――だ、だめぇぇぇぇ!!」



 ランジェリーショップの前で、不審すぎるけど、じたばたと抵抗していたら。

 サングラスとニット帽の不審者が、勢いよく駆け寄ってきた。


 そして――サングラスを外して、ニット帽を脱ぐと。

 結花がむーっとした顔のまま……俺のことを抱き締めてきた。



「サプライズは中止ー! ももちゃんといちゃいちゃしたら、だめーっ!! ゆうくんは私と一緒に買い物して、私といちゃいちゃすればいーの! もぉぉぉ……遊くんのばーか!!」



          ◆



 二月十二日、土曜日。


 十四日のバレンタインデー&結花の誕生日を前にして、サプライズでプレゼントを用意しようと画策した俺は。


 最終的になぜか――結花と二人で、ショッピングモールを歩いていた。



「あのさ、結花……いい加減、離れよっか?」



 二原さんが帰ってから、もう三十分くらいは経つと思うんだけど。

 結花はというと、俺の腕にギューッと抱きついたまま、離れようとしない。



「へっ! 桃ちゃんとは、あーんなにくっついてたのに? 私とは、もう離れちゃうんですかー? 何が違うんですかねぇー、胸囲の格差ですかねぇー」


「やっぱり恨んでたか……だから、さっきの状況はね? ギャル特有の距離感のバグり方が生んだもので、決して俺が好きでやったことじゃないんだってば」



 拗ね拗ねモードに入ってる結花に、俺は懇々と説明する。

 だけど結花は、たいそう不満げに唇を尖らせて。



「へぇぇぇぇ……じゃあ、質問ですっ。遊くんは、ほんのちょびーっとでも、桃ちゃんの胸に不埒な感情を持たなかったんですかー? 神に誓えるんですかー?」


「…………誓え、ます」


「今の間! ぜーったい嘘じゃんよ!! 遊くんのばーか! おっぱい星人!!」



 そうやって、駄々っ子みたいに騒いでから。


 結花はちょっとだけ背伸びをして――俺の耳元に顔を寄せると。


 囁くように、言ったんだ。



「……もうすぐ、誕生日だから。成長すると思うし。だから……えっと。遊くん好みの大きさになるまで――ちょっとだけ、待っててね?」




 ……ずるいでしょ。サプライズで、そんな可愛い攻撃しかけてくるの。


 まったく、結花ってば。



 そもそも、今のままだって――結花が誰より魅力的だと、思ってるってのに。

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