第7話 【でるラジ】『ゆらゆら★革命』、先輩の番組でも暴れすぎ問題 1/2

「……何それ? 来夢らいむがそんなこと言ってきたん?」


 なんの気なしに、先日の神社での一件を話したんだけど。

 隣に座ってる二原にはらさんが、思った以上に顔をしかめてしまった。



「なーんか……変な感じ。どーいうつもりなんだろ、来夢……」



 ちなみに、俺と二原さんがいるのは――マサの部屋。


 一月にも、『アリラジ特番』を聴くために集まったんだけど。

 今日も今日とて、決して見逃せない重要なミッションがあるので……こうしてマサの部屋で待機してるってわけだ。


 床が散らかりまくってるのが気になるけど、大事の前には些末なことだもんな。寛大な心で我慢しよう。



「ねー、倉井くらい。どう思う、来夢の話?」

「あん? あー、そうだな……」


 TV画面でサブスクの操作をしつつ、マサはだるそうな感じで答える。



「まぁ来夢って、昔からいたずら仕掛けたりとか、読めない言動を取ったりとかしてたしな。いつもどおりっちゃ、いつもどおりじゃねーか?」


「そーは言うけどさぁ。ファンと交際するのは良くないとか……なんでそんなん、いきなりゆうちゃんに言うわけ? この間『ライムライト』で会ったときしか、結ちゃんと面識ないのにさぁ」


「あー……言われてみりゃ、ほぼ面識がないのか。その上――遊一ゆういちの現在の許嫁と、昔の思い人って関係なんだもんな。もっと違う話になるよな、普通は」


「……ん? 許嫁とか思い人とか、関係なくないか?」


「分かんねぇのか、遊一……分かんねぇんだろうな、遊一! 幸せボケしちまった、お前にはなぁ!!」



 よく分かんないタイミングで、テンションをぶち上げたマサ。

 そして自分の太ももを叩くと、大声で言った。



「許嫁VS昔の女……そりゃあもちろん、キャットファイトだろ! 血で血を洗う、場外乱闘がはじまるんだよ普通はなぁ!!」


 はじまんねーよ、普通は。

 お前の脳内の治安、死ぬほど悪いな。



「……やっぱ来夢ってさ。『空気』みたいなとこ、あるよね」


 隣でわーわー騒いでるマサを、完全にスルーして。

 二原さんは独り言ちるように、そんなことを口にした。


 いまいちピンとこない二原さんの言葉に――俺は首を傾げる。



「来夢が、空気って……むしろ逆じゃない? 誰とでも気さくに話せるし、どのグループと一緒にいても溶け込んでるし、どう見てもコミュニケーション強者でしょ。空気みたいって言うのは、俺みたいなタイプのことだと思うけど……」


「あー、違う違う! 存在感が薄い的な意味じゃなくって……ふわふわ掴みどころがない系の、『空気』な存在ってこと。どこにいても違和感ないし、どこにいても馴染んでるけどさ――来夢自身が何考えてるとか、あんま分かんなくない?」



 ……ああ。


 そういう意味だったら、二原さんの言うことも理解できる。


 確かに中学の頃、俺は来夢とよく話してたし、みんなで集まって遊んだりすることも多かった。

 そのどんなときも、来夢はニコニコしながら、場に馴染んでいたっけ。



 ――――だけど。



 二原さんは陽キャなギャルみたいな雰囲気なのに、実は特撮ガチ勢で、めちゃくちゃ友達思いな性格なんだとか。


 マサは馬鹿なことばっかり言うし、変なテンションになりがちだけど、意外に男気があるんだよなとか。


 そんな感じの、深いところまでは――俺は野々花ののはな来夢を知らない。



「……確かに、二原さんが言うとおりかもな。今まで気にしてなかったけど、来夢の本音なんて、聞いたことないかもしれない」


「……そだね。うちも来夢と、それなりに話してたけどさ……本音を話してくれたなーって思ったんは、一回だけだよ。佐方さかたをフッた後、これからどう佐方と接したらいいんだろって相談してきた――あのときだけ」



 俺たちは誰も、来夢の本音を知らない。


 そう考えると、むしろ――『恋する死神』のファンレターを前にした、あの普段と違った来夢こそが。


 もしかしたら一番……本当の来夢に、近かったりするのかもしれない。



「ったく、これから大事な時間だっつーのに、しけた顔してんじゃねーっての!」



 バシンッと、割と大きめの音が響き渡ったのと同時に……背中がヒリヒリと痛み出す。


 俺は背中をさすりつつ、急に攻撃してきやがった相手を睨む。



「痛いだろーが、マサ」

「知らねーよ。お前も二原も、何しにうちに来たんだよ? 放送開始前に、しんみりした空気にしてんじゃねぇよ」

「……そーだね。ごめん、倉井っ!」



 二原さんはパシンッと両手を合わせると、すぐにテンションを切り替えた。

 一方のマサは、やたらと格好を付けて、キザっぽい笑みを浮かべてやがる。



「フラれた女のことより、今の許嫁のことを語れよ。遊一」


「……なに名言っぽいこと言ってんの? 名言ってのは、名言にしようとした瞬間に失格だぜ?」


「やめろよ、お前!? 人のセリフを弄るのは反則だろ!!」



 痛いところをツッコまれたからか、マサが声を荒らげている。


 こんなやり取りも――なんだかいつもどおりで、安心するな。



「しかしよ……綿苗わたなえさんって、すげぇよな。聞いててなんか、スカッとしたぜ」


「来夢の意見の方が一理あるって思う人も、少なくないだろうけどな」


「まぁな。ただ、俺としてはよ……声優だって人間じゃねーかって、思うんだよな。好きな人がいたり、付き合ってたりしたから、なんだってんだよ? 俺たちファンはいつだって、死ぬほどたくさんの幸せをもらってんだぜ? それこそ、誰かと付き合ってた程度じゃあ――チャラにできないくらい」



 それに……と。


 マサは少し照れくさそうに、俺から目を逸らすと。


 咳払いをしてから、言ったんだ。



「誰か好きな人がいたとしても。ファンの前では一生懸命で、ファンのことを大事に思ってくれてるんなら――十分、神対応だろ」

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