第18話 【解禁】特撮系ギャルが抱えてたものを、打ち明けるらしい 2/2

『けっ。やっぱ二原にはらちゃん、あの淫魔と繋がってたんじゃん』



 ファストフード店で解散して、結花ゆうかと二人で家に帰ってきてから。

 俺はリビングのソファに寝転がって、ボーッとRINEを打っていた。


 RINEの相手は、愛すべき愚妹の那由なゆ



『繋がってるっていうと語弊があるだろ。高校になってからは、来夢らいむとやり取りしてなかったって言ってたから』


『でも、これまでずっと、あの淫魔の命令を忠実に守ってたんでしょ? だったらやっぱ、あたしが最初に推理したの、当たってたってことだし」


 確かに那由は、二原さんと仲良くなる前――二原さんは来夢の手先だとか、陽キャなギャルが俺に近づくのは裏があるだとか、そんなことを言ってたっけな。


 だけど…………。



『お前の推理が一部当たってたのは、認めるけどさ。二原さんが裏で来夢と繋がって、何か悪意を持った行動をしてたとか、お前だって思ってないだろ?』


『……そりゃ、まぁ。あたしだって二原ちゃん好きだし、今さら裏があるとか疑ってないけど。でも、もやっとはするっしょ。あー、うざ……全部、野々花ののはな来夢の仕業だし』


ゆうくーんっ! うにゃー!!」



 ――そんなRINEのやり取りをしていた、俺に向かって。

 結花が思いきりよく、のし掛かってきた。


 その拍子に手が滑って、スマホをカーペットの上に落としてしまう。



「結花、一体どうしたの――って、何その格好!?」



 結花に視線を向けたところで、俺はびっくりして声を上げてしまった。


 だって結花……バスタオルを身体に巻いてるだけで、服とか着てないんだもの。



 すべすべの肌をした肩。綺麗な鎖骨。ほっそりとした腕。

 それに、バスタオルから零れている、胸の上のあたり。



 ……いくらなんでも目に毒すぎて、おかしくなりそう。



「と、取りあえず服を着よっか、結花?」


「やだ」


「なんで!? 即答で断る意味が分かんないんだけど!?」


「やーでーすー。だってこれから、わ、私は……遊くんと、一緒にお風呂に入るんだもんねーだっ! ほら、遊くんも服、ぬーいでっ!!」


「ぎゃあああ!? なんで服を脱がそうとすんの!? やめて、やめて!!」



 俺のTシャツをまくり上げようとする結花に、俺は身をよじって反抗した。

 それが気に入らないのか、結花はぷくーっと頬を膨らませて、駄々っ子みたいに騒ぐ。



「やーだー、遊くんも脱がなきゃ、やーだー! 二人で裸の付き合いするのー! お風呂に入って、二人でぺったりすーるーのー!!」


「えっと。自分が何を言ってんのか、分かってる結花?」


「……駄目なの?」


「駄目です」


「……じゃあ、えっちなことなら、してくれる?」


「馬鹿なの!?」



 正気の沙汰とは思えない発言を連発する結花。


 俺は全力で身をよじって結花の下から抜け出すと……取りあえず結花をソファに座らせて、その隣に腰掛けた。


 バスタオル一枚を巻きつけたまま、結花は俺のことを上目遣いに睨んでる。



「……ぶー。くれーむだよ、こんなの……うったえちゃうもんねーだ!!」


「裁判官もびっくりだよ、こんな珍事件……一応確認するけど。結花は、ひょっとして……痴女に目覚めたの?」


「目覚めてないよ!? ばーかばーか、遊くんのウルトラばーか! 私だって恥ずかしいに決まってるじゃんよ!! 恥ずかしいし、はしたないって思ってるけど……ちょびっと不安だから、頑張ったんだもん」



 不安?

 その言葉を聞いて、俺は……ようやく結花の行動に、合点がいった。



 ――――『秘密』を伝える場に、来夢本人を……同席させてほしい。



 そんな二原さんの言葉に、笑顔で「うん! 遊くんを信じてるから大丈夫!」なんて、即答した結花だけど。


 そうだよな……そんなの、結花からすれば、いい気はしないよな。



「ごめんね結花。結花が嫌なら、今からでも二原さんに断りの連絡を……」


「違うの! 遊くんのことは信じてるし、来夢さんと会うのだって反対してないし……それで遊くんが、辛かった過去を整理できるんなら、会った方がいいって。本気でそう思ってるんだよ?」



 でもね、と。


 バスタオルしか身に纏っていない格好のまま、結花はギュッと、俺に抱きついてきた。


 過激な格好にドキドキしつつ――俺は結花のことを受け止める。



「……やっぱり、ちょびっとだけ不安だから。遊くんに、甘やかされたかっただけなの。ごめんね……わがままな許嫁で」


「そんなことないって。好きなだけ甘えていいし、わがままだって言ってかまわないよ。それで結花が、いつもみたいに笑顔でいられるんだったら」


「……えへへっ。遊くんは、いつも優しいなぁ。ありがとね、遊くん! 今日も明日も明後日も、ずーっと……だーいすき」



 それから俺と結花は、深夜遅くまで。

 一緒にアニメを観たり、お菓子を食べつつ喋ったり、頭を撫であったりして過ごした。



 そして――翌週の土曜日。


 俺と結花は、二原さんと約束をした駅の改札前に、やってきた。



「よぉ、遊一ゆういち。綿苗さんも」


 駅の改札を出たところに立っていたのは、私服姿のマサだった。



「休みの日だってのに、わざわざ来てくれてありがとうな。マサ」


「別に頼まれたわけじゃねーし、俺が勝手にまぜてもらっただけだから、気にすんな。乗りかかった船ってやつだ」



 ニカッと笑って格好をつけたセリフを吐く悪友に、俺は思わず笑ってしまう。

 そして、次の電車から降りてきた二原さんが――俺たちと合流する。


 腰元をキュッと絞った白いチュニックに、デニムのショートパンツ。

 百合の花みたいな飾りのついたペンダント。


 ああ、前にも見たなこの私服――『花見軍団マンカイジャー』のマンカイリリーが普段着てるやつ。



「それじゃ、来夢が待ってるから……行こっか」



 駅から二分ほど歩いて、俺たち四人はローカルな喫茶店の前に辿り着いた。

 いつぞや、結花と買い物をした後に、一度だけ来たことがあったっけな。



 ――――喫茶『ライムライト』。



 来夢の親が経営してる、こぢんまりとした喫茶店だ。



「それじゃあ、遊くん。いってらっしゃい!」



 ここまで一緒に来てくれた結花だけど、さすがに面識のない来夢と会うのは気が引けるってことで……近くのファミレスで待ってるつもりらしい。



「結花、行ってくるね。少しだけ……待ってて」

「うんっ! 待ってるね、遊くんっ!!」



 笑顔で挨拶を交わしあってから、俺は結花に背を向けた。


 息苦しくなる感覚を抑えつつ……俺はまっすぐに、喫茶『ライムライト』を見つめる。




 これから俺たち三人は、来夢と会う。


 会って、すべてを明らかにするんだ。



 中三の冬、俺と来夢の間に起きた出来事の――真実を。

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