第17話 【解禁】特撮系ギャルが抱えてたものを、打ち明けるらしい 1/2

 ――ま、うちもそろそろ……『秘密』にしてんの、きつくなっちゃってたしね。



 いつもはめちゃくちゃ陽キャな振る舞いをしてるか、特撮語りをしてるかの二択な二原にはらさんが放った、珍しい弱音。


 それを受けて、俺・結花ゆうか・二原さん・マサの四人は。

 結花の巫女体験が終わった後、近所のファストフード店に来ていた。



「そっかぁ。ゆうくんがなんかしたんじゃなくって。中三のときのことを思い出して、ももちゃんが辛くなっちゃったってことだったんだね」



 結花は眼鏡をテーブルに置いて、ポニーテールに結っていた髪をほどいた。


 ふぁさっと長い黒髪がストレートに流れ落ちて、家結花に早変わり。


 そんな結花の隣で、二原さんは俯いたまま、手も使わずにストローを咥えてシェーキを飲んでいる。



「遊くん、ごめんね……おっぱい関係と勘違いしてワーッてしちゃいました……しゅん」


「大丈夫だよ、分かってくれたんなら」


「……おっぱい。綿苗わたなえさんの口から、おっぱい」



 そんな場の空気を、TNT爆弾でぶっ壊すような勢いで。

 マサが阿呆なことを口走りだした。



「……あくまでも、シチュエーションとしての話だぜ? ゲームとかアニメのキャラでよ、真面目でお堅そうな性格をした……そうだな、眼鏡っ子にしようか。そんな真面目系眼鏡っ子が、顔を真っ赤にして『おっぱい』って言ったら……どうだ遊一ゆういち?」


「お前、真剣な顔でなに言ってんの?」


「萌えるだろ? そんなの……ギャップ萌えしちまうじゃねぇか……っ!!」


「マサ、マサ。そろそろハンバーガーで殴るぞ?」


「っていうか、セクハラ! これ、私へのセクハラじゃんよ!! 遊くん、許嫁がセクハラ被害に遭ってますよー!! おまわりさーん、ここですよー!!」


「ちょっ!? 綿苗さん、落ち着いて! 俺が悪かったから!! そんな大きな声を出されたら、他の客に通報されちまうって!」


「もぉ! 私にえっちなことを言っていいのは、遊くんだけなんだからねっ! 倉井くらいくんは禁止!!」


「遊一はいいのかよ!? 許嫁ってすげーな!?」



 結花がマサを指差しながら、わーわー大騒ぎしてる。

 マサはマサで、目を見開いてわーわー大騒ぎしてる。


 そんな空気に当てられたんだろう……二原さんはぷっと噴き出した。



「あはははっ! もー、みんなして何やってんのさ。そんなんされたら、一人で落ちてるうちが、馬鹿みたいっしょ」



 そうしてひとしきり、ケラケラと笑ってから。

 二原さんは滲んだ涙を指先で拭って――いつもどおりの笑顔に戻った。



「マジでごめん。ちょーっと、うち的に思うところがあったかんさ……なんか、らしくないモード入っちゃった」

「……桃ちゃん」



 照れ隠しに舌を出す二原さんをじっと見つめながら。

 結花はふいに、彼女の茶色く染まった髪に、手を置いた。


 そして――よしよしと。


 子どもを落ち着かせるときみたいに、優しく二原さんの頭を撫でる結花。



ゆうちゃん……なんか、はずい」


「えへへっ、いいじゃんよー。桃ちゃんのこと、なでなでしたくなっちゃったんだもん」



 それからしばらく、結花に撫でられるがままになった後。

 ちょこんと席に座り直した結花に笑い掛けてから――二原さんは穏やかな口調で、俺に尋ねてきた。



佐方さかたはさ。中三の冬に告って、来夢らいむにフラれて。その後に……なんで来夢が噂を広めたんだろって。それが引っ掛かってるってことで……いーの?」



 ――なんで来夢が、噂を広めたのか。


 改めて人から言われると、喉の奥に手を突っ込まれでもしたように、息苦しくなる。


 だけど……グッと堪えて。



「ああ。知ってるんなら、教えてくれ。二原さん」

「おい、遊一。なんでそんな、古傷を抉るようなこと、わざわざすんだよ?」



 俺と二原さんの会話に、マサが少し早口で割って入ってくる。

 いつもヘラヘラしているマサにしては珍しい、本気の表情。



「いいじゃねぇかよ。お前にはもう、綿苗さんっていう相手がいるんだろ? これ以上苦しまないように、お前……ずっとそういう話は避けてきたじゃねーか。今さら来夢のことなんか、掘り返さなくたって……いいだろ」


「マサ。ありがとな、心配してくれて」



 そんな悪友の肩に、俺はポンッと手を置く。



「マサも知ってのとおり、あのときから俺は――三次元女子との恋愛を避けてきた」


「……だけど、今のお前には綿苗さんがいる」


「ああ。確かに俺は、結花と婚約して、一緒に暮らしてる。結花はいつも笑顔で、いつも一生懸命で――確かに楽しい毎日を過ごせてはいるよ」



 いったん言葉を句切って、呼吸を整えて。

 それから俺は……すべてを吐き出すように、言った。



「だけど、心のどこかで、また傷ついたらどうしようって……そんな風に、三次元女子との恋愛にビビってる自分も、まだいるんだ。そんなんじゃ許嫁として、失格だろ? だから俺は――自分の過去とちゃんと向き合わなきゃいけないって思うんだ。これから結花と、前に進んでいくために」


「……ふ……ふぇ……ふへ……ふー……」



 なんか結花が、口を噤んだまま、ぷるぷる震えはじめた。


 我慢してるんだろうけど、変な声が漏れてるから。全然、ふへふへしそうな気持ち、我慢しきれてないから。



「――ん、佐方の気持ちは分かったよ。あんときの真実を知って、過去を終わりにしたいって……そーいうことっしょ? さっきも言ったけど、うちも『秘密』抱えてんの、さすがにしんどくなってたから……そろそろ頃合いなのかもね」


「……ふへぃ……ふっ……ふー……」



 結花、結花。

 お願いだから、もう「ふへー」ってして? めっちゃ気が散るから。



「ところで、二原さん。さっきから気になってたんだけど……『秘密』って、一体なんのことなの?」


「それを話すには一個だけ、お願いしないといけないことがあんだよね――結ちゃんに」


「…………ふへー!? わ、私?」



 びっくりと同時に、溜め込んでた「ふへー」を吐き出す結花。

 そんな結花を見て、二原さんはちょっとだけリラックスしたように笑う。



「私にお願いって、どういうこと桃ちゃん?」


「うちってさ……こんな感じだけど。約束とか義理は、ちゃんと守るタイプなわけよ」


「それは知ってるよ! 桃ちゃんはとっても優しくて、とっても他人思いな、素敵な子だもん。けど、それと私にどんな関係が――」


「約束がある以上さ、うちから勝手に『秘密』を暴露ってのは、さすがに違うと思うわけ。そーいう話をするんなら、『秘密』をお願いしてきた本人から……きちんと伝えてもらわなきゃって」


「……『秘密』をお願いしてきた、本人?」



 持って回った言い方をする二原さんに、俺は首を傾げる。


 そんな俺をちらっと見てから、二原さんは言った。



「そ。あのときのことで、うちは来夢から――『秘密』にしてほしいって頼まれてることが、あるんだ」



 ――――来夢が、二原さんに頼んでいた『秘密』?



 その言葉を聞いて、俺は背中がぞくぞくっとするのを感じた。

 そんな俺の手を、結花が心配そうにギュッと握ってくる。


 そして二原さんは……結花に向かって、深々と頭を下げた。



「だからうちは、佐方の許嫁の結ちゃんに――先にお願いしとかないと、いけないんだよ。『秘密』を伝える場に、来夢本人を……同席させてほしいって」

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