第6話 初詣に行くとき、一番ご利益がある振る舞い方を教えてくれ 2/2

「じゃーんっ! どうだろゆうくん? 似合ってるかな?」



 玄関先で待ってる俺のところに、小走りでやってきたのは、着物姿になった結花ゆうか


 表情や喋り方はいつもの家結花なんだけど、こういう和装の格好は新鮮で――思わずドキッとしてしまう。



「似合ってますかー、ちらっ。反応がないなー、ちらちらっ。どっちかな~~?」


「圧を掛けないの、圧を……よく似合ってるよ、結花」


「ふへへへー。ありがとう、遊くんっ!」


「……ひぃぃぃ……狼くんに、騙されないでね結花ぁぁぁ……」



 天真爛漫って感じではしゃぐ結花の後ろで、お義母かあさんがガクガク震えてる。


 そんなお義母さんを「失礼だから、一回下がろっか母さん?」と、勇海いさみがなだめる。


 俺、こんなに勇海が常識的な反応してるの、初めて見たかもしれない……。



「お母さん、着付けしてくれてありがとうねっ! それじゃあお母さん、勇海。初詣、行ってきまーす!!」



 元気いっぱい挨拶をしてから、結花は俺の手を引いて、地元の道を歩き出す。


 都会に比べて建物が多くなくて、緑の多い町並み。

 木々の隙間から降り注ぐ陽光が、なんだか心地良い。


 穏やかな空気を感じながら、俺は結花に連れられて、神社に辿り着いた。


 正月にTVでよく見る、参拝客で溢れかえってるような、大規模なところじゃない。

 本当に近所の人だけが来ている感じの、地元のこぢんまりとした神社。



「ちっちゃい頃からね。お正月はいつも、ここにお参りに来てたんだ」



 そう言って笑う結花は、着物を着ているせいか、いつもより大人びて見える。


 手を繋いだまま、二人で石段をのぼっていく。


 通りすがる参拝客の数は、決して多くないけど。

 なんだかみんな、ニコニコと――幸せそうに笑ってる。



「ねぇ、遊くん! おみくじ引こっ!!」


 結花に促されて、順番におみくじを引く俺たち。


 そして結花の「いっせーので!」を合図に、同時におみくじを開いた。



「やったー、大吉だー!!」


 結花がガッツポーズをしながら声を上げる。

 その無邪気すぎる結花の姿に、俺は思わず笑ってしまう。



「遊くんのおみくじは……あ、末吉だっ」


「まぁ微妙だけど、凶じゃないだけマシかな」


「微妙じゃないよ。これからどんどん、幸せになっていくってことじゃんよ」



 末吉のおみくじを片手に苦笑していたら、結花が優しく微笑んで。

 そっと俺の手を握って、言った。



「末吉って、あんまり良くないって思われるけどね? 実は、これから未来が開けていくっていう、良い意味があるんだって! 末広がりの、末吉!!」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど。さすがに縁談の項目とか、縁起が悪すぎて……」



 ◇縁談『思わぬ躓きあり。心を強く持て』



 ――思わぬ躓きって。


 許嫁の実家に来た日に引いたおみくじとしては、最悪すぎる。


 こんなのもう、凶と変わんなくない?



「大丈夫だよ、遊くん! 私の縁談のところ、見て!!」


 げんなりしてる俺に向かって、結花はずずいっと、おみくじを突き出してきた。



 ◇縁談『貫けば叶う。走り続けよ』



「ね? 遊くんのおみくじと、私のおみくじを足したら――もう良縁でしかないじゃんよ! 躓くことはあるかもだけど、私が遊くんへの愛を貫けば――絶対に叶う! だから遊くんも、信じ続けていーよって!!」


 めちゃくちゃ自己解釈を交えて力説する結花に、俺は思わず噴き出してしまう。



「そもそも、おみくじを足し合わせるのって、ありなの?」


「いいんだもん。だって私と遊くんは、二人で一人だもん」


「神様もびっくりな論理だね」


「うん。だって私は、神様もびっくりするくらい――遊くんのことが大好きだからっ!」



 そんなやり取りをして、俺と結花は笑いあってから。

 賽銭箱の前に移動して、小銭を入れて――二拝二拍手。


 両手を合わせたまま、俺は目を瞑り、そっと心の中で祈る。



 ――どうかこんな毎日が、ずっと続きますようにって。



 そんな俺のそばで、結花が小声で祈っているのが、聞こえてきた。



「今年も、来年も、再来年も――ずっと遊くんと、笑顔で一緒にいられますように……」



 ふっと俺が目を開けて、顔を上げる。


 すると結花も、ほとんど同じタイミングで顔を上げて――俺の手を取った。



「えへへっ。それじゃあ最後は……一緒にねっ?」




 そうして。


 俺と結花は手を繋いだまま、最後の一拝をした。



 末吉のおみくじは、正直ちょっと微妙だったけど。


 結花と一緒なら、なんとかなりそうな気がするから……まぁいっか。

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