第36話 【超絶朗報】俺の許嫁、ホワイトクリスマスの夢を叶える 2/2

「ふわぁ……クリスマス、楽しかったなぁ」



 那由なゆ勇海いさみが寝落ちしたあと。


 俺と結花ゆうかはいつもどおり、並べて敷いたそれぞれの布団に入って、雑談を交わしてた。



「結花。今日は色々ありがとう……那由のことも、この手編みの手袋も」

「えへへー。喜んでくれて、嬉しいな」



 枕元に置いてある手袋に触れると――その温かさを思い出す。


 那由を捜しながら感じてた不安や焦りを、温かく包み込んでくれた、その手袋。


 まるで結花がずっと手を握ってくれてるような……そんな安心感が、あったんだ。



「……あれ? どうかした、ゆうくん?」

「……あ。いや……」



 少し眠くなってきたのもあるのか、ぼんやりしていたら――泣きじゃくる那由を優しく抱いてた結花の姿が、まぶたの裏に浮かんできて。


 なぜだか……涙が出そうになる。



「家族の前では、泣いてもいいし、甘えてもいいんだって――言ったじゃんよ」



 そんな俺の心を読んだかのように。

 俺の隣に寝転がったまま、結花は穏やかに微笑んだ。


 その笑顔が、なんだか懐かしくて――心が切なくなって。


 俺は素直な思いを……口にした。



「結花、えっと……変なお願いで悪いんだけど。今日だけでいいから――結花の胸の中で、眠らせてくれないかな?」


「……ん、もちろんだよ。おいで?」



 慈愛に満ちた顔の結花は、ゆっくり両手を広げた。


 俺は恥ずかしさも忘れて、吸い込まれるように結花に抱きすくめられると……グッと身体を丸めた。



 ――――温かくて、柔らかい。

 それになんだか――甘い匂いがする。



「遊くんは、いつも頑張り屋さんだね」



 耳元で囁きながら、結花が俺の頭をよしよしと撫でる。


 結花に触れられるたびに、胸の奥から何かが込み上げてきて。


 気付いたら頬を……一筋の涙が伝っていた。



「大丈夫だよ……私は、ずーっと、そばにいるからね……」



 ありがとう結花――そばにいてくれて。


 子どもに還ったような気持ちで、そんな温かさに身を委ねているうちに……。



 俺はいつの間にか――眠ってしまった。



          ◆



 翌朝。十二月二十六日。



 俺が目を覚ましたときには、もう布団の中に結花の姿はなくって。

 起き上がって窓辺に近づくと、結花がベランダではしゃいでるのを見つけた。


 俺は机の下に置いておいた茶色い袋を手に取ると、ベランダに出る。



「あ、おはよう遊くん! ねぇ見て見て、雪! 雪だよー!!」



 ちっちゃい子どもみたいに騒いでる結花。


 言われるままに顔を上げたら――はらはらと真っ白な粉雪が、冬空に舞っていた。



「はぁ~……ほら見て、息も真っ白! 昨日より寒いもんねー。雪も降るよねー」


「嬉しそうだけど……寒くない、結花?」


「うんっ! 寒いなー。誰か、凍っちゃいそうな結花を、暖めてくれな――ふぇ!?」



 言い終わる前に、俺は茶色い袋を開けると――もふもふの耳当てを、結花につけた。


 それから、結花にもらった手編みの手袋をはめて、言い放つ。



「プレゼント交換――一番盛り上がりそうなタイミングを狙ったんだけど。どうだろ?」


「あ、あうー! あぅー……」



 完全に言語能力をなくした結花が、俺の胸をぽかぽか叩いてくる。


 かと思ったら、結花はそのまま――ギュッと抱きついてきて。



「……メリー、ホワイトアフタークリスマス、だねっ!!」


「何それ? アフタークリスマスとか言い出したら、もうなんでもありじゃ――」


「いーの! 今日は素敵な、ホワイトアフタークリスマス! そう思った方が、絶対楽しいじゃんよ!!」


「強引だな……でもまぁ、なんかその方が、結花らしくていいかもね」



 勢いを増した粉雪が、アフタークリスマスの景色を白く染めていく。


 そんな幻想的な光景に目を奪われていると。


 ぐいっと結花が――不敵な笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んできた。


 真っ赤に染まった頬。艶やかなピンク色の唇。



「観覧車のとき……おあずけしてたもの、なーんだ?」


「…………え? マジで言ってる?」


「もっちろん! だって、ホワイトクリスマスに大好きな人とキスするのが、私の小さな夢なんだもん」


「今日はクリスマスじゃないけど?」


「誤差の範囲内だもんねーだっ! ホワイトクリスマスも、ホワイトアフタークリスマスも!!」



 なんか必死に説得してくる結花を見てたら……なんだか笑えてきた。


 そんな俺を見て、結花も「えへへっ」と、はにかむように笑う。



「まぁ……昨日の夜は、俺がお願いを聞いてもらったしな」


「……私に抱っこされて寝てる遊くんも、可愛かったよ?」


「からかうんなら、やめちゃうけど?」


「はーい、ごめんなさーい。もう言いませーん」



 そんな普段どおりの、何気ないやり取りを交わしてから。


 結花の肩にそっと手を置いて。




 俺は結花と――優しく唇を重ね合わせた。

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